16、旅立ち(2)
明日はちょっと更新できるか分かりませんが、十時台の一日一話更新します。是非これからも読んでください。ブクマと感想もください。
「神様からお言葉を貰ったって言えば信じますか?」
その時の彼らの顔には、何言ってんだコイツ、とデカデカと書いてあった。
ちょうどその場に居合わせたアレンとカールを捕まえて、クララは演説をするように語る。
感情が全く見えてこない声と顔だが、きっと彼女にとっては熱血的な雰囲気を出しているつもりなんだろう、と呆れながら。
「いきなり引っ張られるなんて、本当に不敬なんだけどね?」
「俺もこれから出かけるつもりだったのにな。お前に割く時間って結構無いんだぞ?」
不満を漏らす男たち。
ジト目と軽く膨らんだ頬が少女の不満を表しており、とても子供っぽかった。
だが、少女、クララは二人を無視して続ける。
「神様からお告げがあったんです」
「胡散臭い」
「とても信じ難い事象だ。聖国でも、ほんの一握りの人間にしか神は語りかけない」
切り捨てるアレンと、分析するカール。
カールの行動に気を良くしてか、クララは少し、弾むように語った。
「お前も聖国に来い、だそうです」
しかし、二人は顔を曇らせる。
その言葉は二人にとって、都合の悪い言葉だ。
アレンは腕を組み、眉間にシワを寄せた顔で言う。
「お前、アイリスに付いて行きたくて適当言ってるんじゃないだろうな?」
「ああ、それは無理だよ。ボクは領主様の前だと嘘を吐けないからね。契約だから絶対だ」
それを聞くと、アレンは余計に顔をしかめた。
荒唐無稽と切り捨てる事ができるはずの話が、そうではなくなったのだ。
こう言うなら、クララの言葉は紛れもない真実という事。
そして、真実ならば無視できない、とてつもない話である。
「……神というのは、君が常日頃から道具扱いしてこき下ろしている神の事かい?」
「ええ、その神です。いきなりでしたよ」
「……ああ、困ったな」
カールは頭が痛くなった。
アイリスの神聖術を知った時に、クララにはじめ任せようとしていた役割を、彼女にさせようとしたのだ。
クララはあまりにも苛烈すぎたが、アイリスの精神性は普通の少女だったのである。その上で求めた才能があったために、これは来た、と手を叩いて喜んだ。
適した方へ、適した駒を。
だから、彼女を失った時は堪えた。
別にクララが悪い訳ではないのだが、やはり強い駒を奪われたのは困る。
だが、ここでクララを失うのはとても困る。
「……君が居なくなるのは寂しいから、行かないでほしいんだが?」
実は気が狂ったのではないか?
カールはそう思ったが、今さらだった。
元より頭がおかしい娘なのだ。
余計に疲れる。
「そんな事は思ってないでしょうに」
カールは困ったような顔をする。
それにクララは軽く受け流すだけだった。
「ならお前は、聖国に行くのか?」
「うん、行くね。多分だけど、それが一番良い形だ」
「? そうか……」
アレンの問いに、クララは力強く頷いた。
二人には、確かな信頼がある。
説明は足りず、意味も分からないが、それでも意思があると分かっている。
「あの、それで、領主……」
「はあ……そういう事か……」
契約なのだ。
逃げられないし、勝手はできない。
クララは、カールへ許可を求めに来たのだ。
彼女は、変わらない表情でカールを見ているが、どこか緊張しているように思えた。
けれども、答えは決まっていたのだ。
他人の四肢を切り落とし、片目を抉って遊ぶほどの残虐さはあるが、それ以上にモノを考える男だ。
悲しい事に、カールにクララを止められる力はない。
逃げることだけに注力したクララを力ずくで抑えるにはガントンだけでは手が足りない。
そして権力的な力の方だが、やはり足りない。
クララを止めるにはアイリスしかないのだ。他の孤児やカレンでは、きっと見向きもしないだろう。
別に人質として試してもいいが、それではアイリスの心象が悪くなる。
クララとは違い、アイリスは孤児院の面々を愛しているのだ。だから、いつか彼女は帰ってくる。鬼の居ぬ間に、をすれば後々バレる。
この手は効き目が薄い上に悪手だ。
そして、
「正直、覚悟はしていた。私も、シスターカレンも何処にも報告をしていないのに、アイリス君の存在を察知された。クララ。君も呼ばれてもおかしくはなかったんだ」
悲しいかな、気が狂った訳ではない。
クララの力は異常であり、絶大。
神がわざわざ声をかけるほどの凄みは、残念ながらある。
天賦の才だと、これまでにない奇才だと、カールは知っていた。
だから、嘘でも、狂ったのでもないと判断する。
荒唐無稽が、あり得てしまうから。
諦めたように言うカール。
悲しい事に、セーフかと思われていた札が取られたのだ。
クララの能力を認めている分、考えられる損失としてはとても大きい。
項垂れるのは、仕方がない。
「どうせ君も付いて行くというんだろう、アレン? 行ってきなさい」
「……はい」
クララはアレンの方を見た。
ガバッと体ごと、驚きと共に。
「いや、要らないんですけど」
「アホ。お前を一人で行かせられるか。いい加減なお前が一人で生活しようとしてみろ、確実に野垂れ死ぬ」
「そういう訳だ。連れて行け」
うーん、と唸ったクララ。
だが、まあいいか、と軽く切り替えた。
「領主様」
そして、真面目な顔で、カールに頭を下げる。
配下から主への上奏のようで、クララにしてはとても珍しい、殊勝な態度だった。
カールは驚きから少し目を見開くが、すぐにその礼を受け入れる。
「申し訳ありません。所用で、席を外します。少し、行かないと行けない場所ができました」
「そうか」
「許可をください。期待以上の成果と共に帰る事を約束します」
カールは仕方なしに言う。
神からの命令なら、どうしようもない、と。
「許可する。行ってこい。ただし、『今言った言葉を必ず果たせ』。絶対だ」
※※※※※※※※
「シスター」
「クララ、どこに行っていたんですか? 居ないから探しましたよ。今日は……」
カレンは、クララとアレンを見た。
見ただけだった。
だが、それだけで少しは伝わった。
「行ってきます」
「コイツ一人だと心配なんで、俺も行ってきます」
どこに、とは言えなかった。
いつものような眠そうな眼ではなく、やる事ができてランランとしていたのだ。
説明のなさも、何か事情があるのかと汲んだ。
カレンは、かわいい子には旅をさせた方がいいと考える人間だった。
「行ってらっしゃい」
本当に、ただそれだけだった。
※※※※※※※
『君はそれじゃ満足できないよ』
『君は自分が思っている以上に、アイリスの事を愛してるんだ。いや、恋してるんだ』
『ん? 僕が誰かって?』
『分かってて聞くんだから、ホント性格良いよね』
『僕は神さ。いつも、君に力を与えているだろう?』
『……いや、君に声をかけた理由なんて分かりきってるよ』
『君は面白いんだ』
『まさか、この僕をただの高級エネルギータンクとしか思わないなんて、これまでになかった発想だ』
『いや、正解なんだよ』
『残念な事に、君の想像ではエネルギータンクに意思が無いと思っていたみたいだけど、本当はあるんだよね』
『……僕が何万年かけて、今の状態を作り出し、何十万年運営してると思ってるんだい? 常識どころじゃない、本能として僕への敬意は刻まれてるんだ』
『僕の事をただのエネルギータンクとして考えられるのは、君だけだよ。だから、君が史上初、真理に辿り着いた者なんだ』
『だから、興味は尽きない』
『ん? ぞんざいな扱いを怒ってないのか?』
『むしろ嬉しいくらいだね』
『……違う違う、そういう趣味じゃない』
『真理に自力で届いた君という貴重な存在に、どうして怒りを抱くんだ?』
『それに、聖書を読んでないのかい?』
『書いてあったろう? 神は誰にでも笑いかけるって』
『そういう存在だからね』
『それで、本題だ』
『君、僕の手の平の上で踊るつもりはないかい?』




