15、旅立ち(1)
クララ視点
ボクが大暴れした日から半年が経った。
領主様の行動の早さには感服だ。
孤児院はあっという間に移動、改築が決まった。
次の日には領主様はシスターと話をつけて、色々条件を交わしあったらしい。
らしい、というのはボクはその話し合いに参加させてもらえなかったのだ。
『子供は黙って寝ていなさい』
シスターにそう言われて、抵抗しようとしたのだけれど、アレンに小突かれたら気絶した。
夜通し起きて待機していたというのに、完全に無駄になった。
思っていたよりも疲れていたみたいだ。疲労、怪我は完璧に治したから気を失うような要素はないはずだったのになんでだろうか? 精神的なアレか?
まあ、それはいい。
これから考える時間は腐るほどあるのだ。
メリット、デメリットはちゃんと探していけばいい。
ああ、そういえば孤児院だ。
最終的に、移動、改築が行われると言ったが、今のものは取り壊して、新しいものを作るという話になったのだ。
場所は下町、本町の境目。どちらの町でも活動ができるように、そこに決まった。
それに、建物も大きくする。
これまでとは違って、動かせる金も、育てられる人数もグッと増えるだろう。
経営は領主様という名目にはなるが、実質的には変わらずシスターが行う事になるのだ。
つまり、これまでとはほとんど変わらない。
変わるのは、待遇と生活の良さくらいだ。
ちゃんと清く正しく生活していたなら、飢える事もない。
領主様の性格と打算を考えれば、きちんと守ってくれるだろう。
そういう訳で、ボクの目的は果たされた。
「お前が暴れたのは、あの娘のためか?」
右を見れば、良い感じに歳をとった男が居る。
四十代半ばほどで、整った身なりは男が裕福である事を証明している。だが何よりも、誰にでも感じ取れる男の余裕が、貴族らしかった。
領主、カール・サドレー様だ。
このお方は、何かと孤児院の様子を見に来てくれる。
孤児院の、というよりは、ボクの、かもしれないが……
それでもまあ、害がある訳ではないし、色々便宜を図ってもらった立場だから何も言えない。
両の目でカール様を見る。
相変わらず余裕を感じる、落ち着いた様子でボクを観察しているようだった。
やりにくいというか、何というか。
全部見透かされそうで、面倒くさい。
「わざわざ口に出さなくても分かっているのでは?」
「いいや? わざわざ言ってみるのも趣だよ。お前は孤児院、というよりアイリスという娘の事を思ってやった。元よりあんな地図を作ったのは、隠れた危険な場所を割り出すためだったのだろう? それにしても愚かとは思うが、何にせよお前は安全を求めていたのだ」
すべて当たっている。
いつも領主様に対して浮かべる営業スマイルもなくなって、真顔で見返してしまった。
それを見て、領主様は上機嫌に言う。
「下町は危ないからな? 私の庇護下に置かせる事で、あの娘が危険に晒される可能性は減った。私が生活も保証しなければならないから、飢え死ぬ心配もない」
「よくお分かりで」
「ああ。あと、理由は一つ、いや二つか?」
眉をひそめてしまうのは仕方がないと思う。
気持ち悪いくらい当てるのだ。
理由があと二つというのも正解だし、内容もきっと察しが付いているのだろう。
「一つは実験だ。あの日、いきなり得たという力を試したのだろう? やや危険ではあったが、あそこにはフィリップが居た。アレなら、お前が死にかければ助ける」
「よくお分かりで。やっぱり、戦闘は経験しておきたかったんです」
「だが、見通しが少し甘かったな。無限に近い程度で再生が可能だからと油断した。ガントンやマナといった強者を考えていなかった。いや、居たと予想はしたが何とかなると高をくくったな?」
「お恥ずかしい話です……」
本当に何も言い返せない。
一言一句その通りなのだ。
結界の強度テストも、どの程度の負傷をどれだけ速く癒やせるかの確認もしたかった。
戦闘は恐ろしかったが、好都合だ。
迫り来る刃物が、人間たちが、ボクの命に近付くほどに、ボクの生きたいという意思は強くなる。死を拒絶する想いは現れる。
力を上手く使えていたという興奮に、違う世界が見えた歓喜、一番最初の目的を果たそうという使命感に、生きたいという生存本能がボクの体を動かした。
初めての戦闘への恐れなど、大した事もない。
「で、あと一つは何だ?」
「? 分かっていたんじゃないんですか?」
「さあな? 二つと言えば当たったような顔をした。何か他に理由があると思っていたが、まあ適当に言っただけだ」
どこまで本当なのか分かりやしない。
凄まじい胡散臭さだ。
すまし顔の領主様だが、答えを促しているようだ。
この人は、人と話をする事を楽しんでいるようだが、その相手の立場からすれば遊ばれている感覚だ。
「まあ、暴れて、こうなる事が理由でしたね」
「ん? どういう事だ?」
「アイリスに責任を感じさせないためです。あの娘は、この傷を自分のせいだと思うでしょうし。そうなら、いくら口で私自身が愚かだったと言っても無駄ですしね」
自分のせいで、妹にも等しい者の手足と片眼がなくなった。
まあ何やかんやで一部は治ったのだが、それでも心にはそうとうくるだろう。
けれども、ソイツがその状態で大暴れしたらどうか?
そしてそのお陰で、生活が良くなるなんて奇跡が起きたら?
想像しかできないが、ボクなら馬鹿らしくなる。
ああコイツにとってはこんな傷は大した事はないんだな、と思うだろう。
彼女には健やかにいてほしい。
確かに手足をなくしたし、痛かったが、別にそこまで気にしていない。
気にしていない事をいつまでも引きずらないでほしかった。
ただ、それだけの話だ。
「……なるほどな」
「怒りますか? あの娘のためにあんな事をしたのは」
「いや。あの件で死んだ者は居ないし、お前をこちらに引き込めた事ですべて取り返しが付く事件だった。怒るのなら、あの娘が絡む理由よりも、実験感覚だった事の方が腹立たしいが、まあわざわざ言うほどの事でもない」
領主様は顎に手を当てる。
そして、憂うような、気の毒なものを見るかのような、そんな目でボクを見つめて、しかし、と続ける。
「お前の最後の理由は、無駄に終わったな」
「……そうですね」
頷くしかない。
新しい孤児院の庭で、走り回る子どもたちを見る。
外を広く見回せる席でお話をしていたボクたちだったが、はじめて会話が途切れた。
領主様が何か言おうとしてやめたのか、口を開いたが、すぐに閉じて出された紅茶を飲んだ。
ボクも特に言うことはない。
「まあ、それは良い。この孤児院は、本当に良い人材を産み落としてくれたよ」
「ぼ、私とアイリスは良い買い物でしたか?」
「アレン君も悪くはない。彼には光るものを感じるよ。知らないだろう? 私の所へ訓練に通わせているのは?」
本当に知らないんだけど?
アレンってそんな才能あったんだ。
というか、出かけるのが多いなと思っていたけど、そういう事だったのか。
「何で黙ってたんでしょう? 知らされてないんですけど」
「男の子だからね。カッコつけたいのさ」
苦笑いだ。
確かに、カッコつけるのは悪いことではない。
ボクもアイリスにはカッコつけたいと思っている。出来たことはないけれども。
「ああ領主様、ここに居たんですね! ガントンさんがそろそろ時間だと言っていましたよ!」
領主様の金髪とは違う、淡い金色が見えた。
とびきりの、花のような笑顔と、明るい声で語りかける少女。
話にあがっていた、ボクの宝。
アイリスだ。
「ありがとう、アイリス。いつも悪いね」
「いえ。ああ、でも早く行ってあげてください。ガントンさん、本当に疲れてるみたいで。遊んでくださるのは助かるんですが、あんなにしてくれると悪いですし」
「まあまあ、あいつは子どもは好きだからね。好きでやってるなら、君が気を遣う必要はないさ」
楽しそうに、嬉しそうに、領主様と喋るアイリス。
そこには敬意があり、感謝があった。
「これから領主様を見送るけど、クララも行く? 手伝おうか? 立てる?」
アイリスはボクの右手を見た。
肩先からは存在しないが、前に使った結界の義足を転用した義手がある。
これは結構頑張った。
正確に失くした部位を再現してあるのだ。肘、手首や指も動きは完璧。
一月前は上手く動かせなかったが、今は自分の本物の腕のように操れる。
服の袖と手袋で見えないが、その下は透明な結界があるだけだ。
「いや、いいよ。領主様、ではお気をつけて」
「ありがとう。また来るよ」
当たり障りのない言葉を交わした。
領主様は柔和そうな作り笑顔でアイリスに微笑みかけ、優しい貴族様を演じていた。
ちらりとボクの方を見たけれど、特に何かある訳ではない。
憐れみが丸出しの目で見られたが、別にどうでもいい。
そのまま、二人は出て行ってしまった。
部屋にはボク一人だ。
「ふぅぅ……」
アイリスはあの時の事が相当ショックだったらしい。
手足を切り落とされる叫び声と、血塗れで気を失っていたボクの姿は彼女にとって猛毒だったらしい。
あの日の事は何一つ覚えていないそうだ。
覚醒した神聖術の才能はそのままに、その原因というか、きっかけは忘れてしまった。
だが、それは好都合だった。忘れているのなら、それを思い出させる訳にはいかない。
一部は説明しようとしたのだが、すべてボクが止めた。
バレそうな要素は全部潰した。
例えば、手と足は、アイリスが寝ている間に蛇に噛まれて、その毒で神経をやられたという事にした。裾や袖、手袋に靴で隠し、結界で形を作れば、触られなければバレはしない。
他にも一部の人間は、まあ小さい子たちの事だが、領主様の所の魔術師さんに記憶をイジってもらった。
口を閉じていれば、それだけでいい。
きっともう、表に出る事は二度とないだろう。
あの日の事は、アイリスは知らなくていい。
「健やかに……」
それでいいのか、と言われはした。
そんなに体を張ったというのに、苦しい思いをしたのに、頑張ったのにいいのか、と。
でも、別に良かった。
どんな酷い目にあったとしても、何でもだ。
一番大切な事は、ボクが報われる事ではない。
「健やかに、幸せになってほしい……」
前回の領主様の訪問で、領主様から言われた言葉を思い出す。
いわく、『私の所へ、王を通して聖国から要請が来た。お前の所の麒麟児を渡せ、との事だ。誰のことか、言わずとも分かろう?』らしい。
シスターが報告したのか、勝手に勘付いたのかは分からないが、向こうはアイリスの事が欲しいらしい。
アイリスが受けられる恩恵を聞いたが、悪くはない。
きっと幸せに生きられる。
「もう、満足だ……」
アイリスはきっと、己を高め、友に囲まれ、素敵な女性になっていく事だろう。
そこに、こんな化け物が一緒に居ていいとは思わない。
この結末が、最善だったのだ。
『いいや、君はこれでは終わらないよ』
…………?
『君は真理に辿り着く。きっと、君はもっと凄くなる』
誰だ?
『力をあげよう。お別れが済んだら、僕の所に来るといい。断ったりしないよね? だって、君は君が思っているよりずっと利己的なんだから』
意味が分からない
お前は…………
※※※※※※※※
アイリス視点
カール様に呼ばれた。
部屋で少し、話がしたいって。
クララとじゃなくていいんですかって聞いたら、君自身の話だって言われた。
カール様。
この孤児院に目をかけてくださり、色々と裏で補助をしている尊いお方。
この人のおかげで、本当に生活が良くなったのだ。
一日三食安定して食べられるし、弟や妹が増えたし、家も広くなった。
本当に、色々だ。
貴族様は私たちを見下している、ゴミのようにしか考えていない、なんて言われていたけど、あの人を見ると噂でしかないんだと確信した。
詳しい話は知らないけど、私がちょっと気を失った間に、そういうお話があったらしい。
「さ、かけてくれ」
本当に二人だけだった。
孤児院の部屋の一つだ。
部屋の前に、カール様の護衛のガントンさんが居たから、あの人も来ると思ってた。
いつもクララか、ガントンさんかフィリップ様が居たのだ。この部屋は他と比べれば小さいはずなのに、すごく広く感じた。
そういえば、一対一で話すのは初めてかもしれない。
「じゃ、早速本題といこう。君、この国から出なさい」
「はぇ?」
早い。とんでもなく早い。
というか早すぎて話に付いていけない。
まだ二言しか喋っていないのに、話に付いていけないとはどういう事なのか?
「そうだな、出発はひと月後でいいだろう。荷物をまとめ、別れを告げてくるといい。馬車で順当にいってニヶ月ほどの距離だが、その間に文字を覚えたり、計算をしたりで学を付けてもらうぞ。なに、大丈夫だ。魔物が襲ってくるかもしれないが、フィリップも付いて行くし、大抵の魔物は相手にならん。ではそういう事だ。準備を、」
「いやいやいや! 待ってください!」
この人、本当に説明する気はあるんだろうか?
真面目な顔でずんずん突き進むみたいに話すから、何が何やら分からない。
もっと順序立てて、分かるようにしてほしい。
「すまないね、ちょっとからかった。君やアレン君はいいね。反応が普通だ。クララ君なら、『行かなくてはならない理由があるのですね? 教えてください』とか冷静に返しそうなのに」
「え、あ、」
「大丈夫大丈夫。今度はちゃんと話すよ」
案外おちゃめな人なのかもしれない。
これまで出会ってきた人の中で、一番大人な人だと思ってたけど、ちょっと子どもみたいだった。
なんというか、クララに似てる気がする。
ボーっとしてて、手が離せなくて、子どもっぽいのに、やる事は大体しっかり考えてやっている。
本当に気が合うから、いつも一緒にいるのかも。
いや、それはいい。
それよりも、思い出せ。
この国を出ろって言ったよね、この人?
「ていうか、国を出ろって……」
「仕方がない事なんだ。神聖術の本場である聖国は、君を取り込みたいらしい」
聖国といえば、神様の加護を与えられた聖地。
神聖術を人々に教え、然るべき人間に、聖職者の資格を与える。
すべての聖職者を管理している国だ。
そんな国が、私を名指しで指名している。
信じられない。
いや、あり得ない。
どこまでいっても、私は聖国にとって、他の国の孤児でしかないはず。
「本当に?」
「本当だとも。分かるだろう? 君のその才能は、唯一無二だ」
才能
確かに、私は神聖術が得意だ。
もう育ての親であるシスターを、超えていると思う。
けど、私はそんなに凄いのだろうか?
実感がないし、自分がそこまで特別とは思えない。
「……実は、私は神聖術の天才に会った事があってね?」
「えっと、ええ、はい」
私の怪訝そうな顔を見て、カール様は語り出した。
なんというか、深い実感がこもっているというか、すごい経験をしたんだろうな、と自然に思った。
確かに、カール様なら色々な体験をしてきた事だろう。
領主として、冒険者や傭兵など、たくさんの戦う人間を見てきたはずだ。
その中には神聖術を使える者も当然居るだろう。
それに、本当に味わい深い顔をしているのだ。
これ以上ないくらいに感情が込められている。
何が言いたいのか分からないけど、カール様の話に耳を傾けた。
「これまで見た神聖術とは一線を画していたよ。一応、私も凄腕の神官を雇っているが、時間をかけて欠損した部位を治せる。それが熟練の神聖術使いだ」
「はあ……」
「ソイツは、一瞬で失くした四肢を再生させた。まあ、自分にしか出来ないらしいがな」
確かに凄い。
欠点はあるようだけど、そんな規格外が出来るからこそ天才と呼ばれているんだろう。
それに、凄腕のラインはそこなのか。
私にも出来るようになるのかな?
「未だにしょっちゅう会うが、あの女はお前を天才だと言っていたぞ。自分など及びもしないと言っていた」
驚くし、不思議だ。
その人には会った事がないはずなのに、なんでそんな事分かるんだろう?
遠くから見てたとか?
でも、そんな凄い人が私を……
「で、でも……」
「まだ何かあるのかい? 心配せずとも、君は素晴らしい力を持っている」
「……領主様が言うなら、そうなんだと思います。でも、ここには家族が居ます。それに、クララも……」
そうだ。家族が、クララが心配だ。
私がある日、目を覚ましたら、クララの右手と左足はまともに動かなくなっていたのだ。
毒をもらい、神経がやられた、と言っていた。
何でもないような顔をしていたけれど、何でもないのは本人だけだ。
心配したし、怒った。
さらりと、もう治らない、といわれた時はつい叩いてしまった。
あの娘は、判断基準がめちゃくちゃ過ぎる。
多分だけど、クララは死ぬ事以外は、どんな傷を負ったとしても全部へらへら笑うだけだ。
命に対しては繊細だけど、体に対しては杜撰だ。
目を離すなんてとんでもない。
いつか、本当に取り返しのつかない事が起きてしまいそうな、起きないような。
だから、とても怖い。
置いていくのが、信じられないくらい怖い。
「はあ……君たちはお互いが大好きなんだね……」
「……かもしれませんね」
「でも関係ない。これは命令なんだ。私でもノーとは言えない。君は、行くしかない」
突き放すような言い方だった。
でも、カール様にいつものような笑みはなく、真剣そのものだ。
逃げられないと、暗に言われていた。
「…………」
「ああそれと、君の大切なクララ君からの伝言だ」
え?
「『心配するな。頑張れ』だそうだ」
心配するなって、誰が言ってるのさ。
一番心配なのは誰だと思ってるのさ。
でも、心配ないかもしれないと思った。
きっとクララはこの話を先に聞かされて、私を送り出すために言ったのだ。
自惚れでなく、私たちは心から通じ合っている。
その彼女が、私が居なくなる事を一番嫌がるであろう彼女が、送り出す言葉を言う。
クララはこう言っているのに、私は渋ったのか?
彼女も私が心配だろうに、それを呑み込んで言葉を出した。でも、私はそれが出来なかった。
悔しい。
とにかく、悔しい。
こんな事を思うのは初めてで、自分でもビックリしている。
そして、こんな事があっていいはずがない、とも思っている。
だって、彼女の方が大人だったから。
姉を自負していたのに、負けたと思ってしまったのだ。
「……私は、そこで何をすれば良いんですか?」
「それは君が決める事だ。神聖術は強制的に学ぶ事になるが、これから重ねる経験をどう活かし、何を為すべきかを考える。そうやって沢山悩んで、大人になるんだ」
長い間、私は聖国に居なければならないらしい。
なんとなくだけど、カール様は五年、十年先を見据えたように話している気がした。
大人になる。
つまり、私は今はまだ、何も出来ない子どもだと言っているのだ。
「少しだけ、君の成長を見れないのが残念だよ。でも、忘れないでくれ。私たちは、君が立派な大人になる事を心待ちにしているんだ。君は、愛されている」
育ての親のシスターは、親に捨てられた私を拾い、ここまで育ててくれた。彼女からは多くを教わった。
同じ孤児院のアレンは、兄のような存在だ。いつも私を見守ってくれていたし、皆の姉を目指そうとしたのも、彼のように成りたいと思ったからだ。
妹や弟たちは、私の事を姉のように慕ってくれる。私はあの子たちに見られていると思ったから、苦しい時に頑張ってこれた。
領主様や騎士様、ガントンさんやマナさんは大人だった。半年ほどの付き合いだけど、本当に多くを助けてくれたと心から感謝している。
そして、クララだ。
私にとって、双子の妹のような存在だ。彼女が居ない世界なんて、まったく想像できない。それだけ、彼女は大きな存在だった。
私は、とても愛されていると思う。
そして、皆は私が凄い人になるのを、楽しみに待っていてくれるとも思う。
だから、覚悟は決まった。
「分かりました。私、頑張ります」
こうして、私は自分の道を歩き出した。
長い長い、苦しい道を。




