表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/293

11、運命の瞬間


 クララを見た。


 誰もが、クララを見た。

 フィリップも、アイリスも、カールも。

 

 そして言うのだ。

 クララは、



「その娘より、私の方が役に立ちます。連れて行くなら私にしませんか?」



 そう、言った。



 ※※※※※※※※



 二択だったのだ。

 クララにとっては、自分の方が大切か、それともなければアイリスの方が大切かの二つだった。

 だが、答えは出ない。

 出るはずがない。

 だから、クララはこれを封印した。

 考えるだけ無駄な話であるからだ。

 考えて考えて、苦しんで苦しんで、その果てになにも無いというのなら、悩むだけ損だからだ。

 

 しかし、この状況がそれを変えた。

 アイリスに危機が降りかかり、自分を犠牲にすれば、もしかすれば助けられるという場面。

 クララはずっと、生存の本能に苦しんでいた。

 それからアイリスを見て、終わらない死への恐怖の中で、初めて救いを得た。

 だから、彼女を大切にした。

 変わらず死は恐ろしいが、少しはマシになった、いやしてくれたのだ。

 そして、その死への恐怖を押し退けて、アイリスを優先できるのか、という問題。

 それは驚くほど、あっさりと答えが出た。






「え?」


「ほう」



 言い合いをしていた両名は、声を漏らす。

 寝耳に水という声はフィリップで、嘆息のような声はカールである。

 少女は、クララは言っているのだ。

 自分が代わりになる、と。



「クラ、ラ……だ、駄目……」



 蚊が鳴くような声で、アイリスは反対する。

 だが、それで止まる訳がない。

 クララは三人をよそに、さらに言った。



「私の方が面白いですよ。字の読み書きや計算もできます。盤上遊びも、少しはできます。夜の相手も、その娘はきっと泣き叫びますが、私はそうではありません。どうです? その娘を取るなら、私で良いのでは?」


「ふぅむ」



 カールは顎に手を当てて考える。

 こうなるのは予想外だった。

 彼の見立てでは、自分が可愛い類の人間だろう、と思っていたのに。

 しかし、このままでは面白くない。

 カールは詰め寄り気味だったフィリップを押し退けて、答えた。



「確かに魅力的だね。でも、私はこの娘がいいんだ。君に代わりはできないね」



 さあどうする、とカールはクララを見た。

 だが、クララの表情は変わらない。

 これまでは小さく顔を変えていたというのに、別人になったかのようだった。

 いや、あまり顔は変わらないのだが、どこかとてもスッキリしたかのような。

 


「どうしても、ダメですか?」


「どうしてもだよ」


「あくまで、貴族様のモノだと?」 


「ああ、そうだ。もう彼女は私のモノだ」



 確認を行う姿が、少し不気味だった。

 迷いが無いというか、何というか。

 しかし、カールは何の心配もないと確信している。

 貴族としての立場があり、クララはそこを理解しているのだ。

 そして、カールは、自分の狙いが見抜かれている事も当然分かっている。

 どう自分を満足させるつもりなのか、楽しみだった。


 だが、フィリップはそれを良しとはしない。

 


「君、待ってくれ!」



 声を上げるフィリップ。

 終始、カールに対してのみに割かれていた意識が、初めてクララの方へ向いた。

 流石に無視はできない。

 彼女が何をするつもりかは分からないが、あまり良くない事が起きると予期したのだ。

 


「彼女は俺の方で守る! 領主様は、こんな小さな子をどうこうする趣味はない! この方はからかって、楽しんでおられるだけだ! だから、」


「申し訳ありません。楽しんでおられるのは本当でしょうが、からかってはいないでしょう」


 

 フィリップの言い分を切り捨てるクララ。

 あっさりと否定されたフィリップだが、心の中では自分で間違った事を言っていると分かっていた。

 自分の人生のほとんどには関わる男の事だ。

 知ろうとした経験は数え切れないし、その結果として知っている事も多い。

 その彼が、クララの言葉を聞いて否定できなかった。

 悔しそうに顔を歪めるだけだ。


 それを見ていたカールは己の頬が上に上がるのを感じる。

 見抜かれている事が、面白かった。

 これまでの彼の人生ておいて、ここまで()()()に溢れた人間は見た事がなかった。

 


「もしもここで引けば、間違いなくアイリスはボロにされます。本来とはかけ離れた彼女を、この孤児院に返すつもりでしょうね」


「なっ!」


「その領主様は、人が苦しむ姿が大好きなようですから」



 カールは否定しない。

 実際にそうしようと思っていたのは、彼の心の底だけの事実だった。

 それを見て、フィリップは引っ込むしかない。

 カールの言動はきっとブラフだろう、と当たりを付けたからこその発言だ。

 クララの方が正しいと思ってしまったのなら、価値はない。

 すごすごと引き下がる事を情けなく思いながら、手を強く握りしめた。

 そして、


 

「で、そんな外道な私から、どうやってこのお姫さまを取り返すつもりなんだい?」



 答えが気になる。

 クララがするであろう、カールを満足させる答えが何なのか、とても気になる。

 カールはいったい何を、と期待した。


 クララの深呼吸。

 次の言葉には、きっと答えがあるのだろう。

 カールも、フィリップも、アイリスも待った。

 期待を込めて、疑念を込めて、信頼を込めて。



「貴族様のものだというのなら、売ってください」

 


 

「……ほう」



 売ってくれ。

 なかなかに突飛な発想だ。

 確かに、譲ってくれ、ならカールが頷く訳もない。

 売ってくれ、なら一考の余地は無くはないだろう。

 けれども、それはある程度の立場があればの話である。

 何故かというと、



「下町の孤児院に世話になっている子どもが、人一人を買える金はあるのか?」



 当然の疑問だった。

 ある訳がないのだ、そんな金は。


 この貧しい建物は何だ?

 この貧相な服は何だ?

 この貧困の影響を受けた体は何だ?


 言葉にすればきりがない。

 あり得ない選択肢だ。

 人と人のトレードで払うのは拒否されたばかり。

 なら、それ以外の物を渡すしかないはずだ。

 

 いや、とカールは思考に待ったをかける。

 この流れを聞いていたなら、誰もが辿り着くだろう考えとは違う前提を見つけた。



「まさか、隠し金か?」



 相手は知恵が回る。

 地図を作ったのが誰なのか、カールは最早考えるまでもなくクララと気付いていた。

 彼女はあの地図を作れるだけの判断力と忍耐と知能を持っている。

 なら、金を秘密裏に作れるかもしれない。

 あれだけ探れるのなら、金を作る方法をいくつか思い付いて、実践していてもおかしくはない。

 なら、この場でそれを出せばどうか?

 貴族が奴隷を買う時に使う金は、およそ金貨一枚から。

 下級市民なら、一年は余裕で暮らしていける金。

 カールは、なら設定はその十倍にしよう、と考えた。

 ここまでされれば、まあ良いだろう、と満足いくだろうラインを作っていたのだ。

 

 フィリップも、同じ考えに至る。

 無茶な金額を要求するだろう、と間違いではない思考をしていた。

 そして、無理ならば自分が足りない分を出そう、とも。

 クララがアイリスを大切に思っているのは分かった。

 なら、自分という原因が、最低限でも責任を取らねばならない、と覚悟を決めていた。


 二人の的はずれな考えをよそに、クララは言う。



「ですが、私にはお金がありません。だから、別のもので払う事を許して欲しいのです」


「? ……別のもの、か。君自身が代わりに、というのは無しだと言ったろう?」

  

「まあ、そう仰らず。貴方が喜びそうなものですよ。その結果、私になるだけですから」



 尋ねようとした。

 意味が分からなかったのだ。

 だが、クララの言葉に遮られる事になる。






「お金の代わりに私の、両腕、両脚で勘弁してください」







 ※※※※※※※



 アイリス視点




「君、考え直せ! それは貴族の前では、」


「黙れフィリップ! これは私とこの娘の取引だ」



 クララが何を言っているのか、分からない。

 領主様に捕まった私のために、クララはなんと言った?

 どうですか?

 いや、その前が駄目なモノだ。


 騎士様が領主様を必死で抑えようとする。

 でも、領主様はまるで相手をしようとしない。

 視線の先は、クララにしかいっていない。


 クララを見た。

 真っ直ぐな目で、私を見ている。

 騒ぎ立てる二人の大人でもなく、私だけを。



「…………」



 驚くほど静かだった。

 もともと、クララという女の子は喧しい人間ではないが、それでもいつもと違う気がした。

 クララは今、私だけに集中しているんだ。

 それがこそばゆいような、恐ろしいような。


 あの娘が何かをする時は、大抵が突拍子もなかった。

 パタリと倒れて目を覚まさなかった時。

 辺りを見て回ると言って一日帰って来なかった時。

 

 いきなり、とんでもない事が起きる。

 これからもおそらく、それが起きる。



「どういうつもりだったんだ?」


「いや、好きかと思いまして。目を潰され、四肢を落とされて、痛みに苦しむ顔はお嫌いでしたか?」



 何も、言えなかった。

 私も騎士様も絶句する。

 何かをされるか、自分から口に出しているというのに、一切の怯えがなかった。

 クララの顔には人形のような嘘臭い笑みが張り付き、何を考えているのか分からない。

 でも、領主様は違ったようだ。

 一歩前に出る。

 出て、寒気がするような笑顔で言った。



「面白い」


 

 領主様が言った、面白い、と。

 クララはその時に、ようやく本当に笑った気がした。



「フィリップ。剣を貸せ」


「領主様!?」



 領主様は剣を要求する。

 騎士様は一瞬驚いたような反応をしたけれど、すぐにとてつもない剣幕で領主様を睨んだ。

 領主様の行く手を阻むようにクララの前に立っているから、その顔が真正面から見えた。

 怖い。

 私を見ていた訳じゃないのに、殺される、と思ってしまった。

 優しい人と思っていたから、本当に驚いた。



「いけません。それだけはいけません。お願いしますから、お止めになってください」


「おや、人にものを頼む態度ではないな? 父親として悲しいよ。私は人にお願いをするとき、そんな殺気を向けて脅しあげろと教えたかな?」


「貴方にものを教わった覚えなど何一つとしてない!」


「おっと、そう言えばそうだったな。だが、関係ない。剣を寄越せ」



 クララを守ろうとしてくれているのは分かる。

 でも、領主様は頑なだ。

 憮然とした態度で、変わらず剣を要求する。



「君! 君も馬鹿な事はするな! 分かっただろう? 父上は本当に君の体を壊す気だぞ!」


「はじめから分かっていますよ。この方は、娯楽に飢えていらっしゃる。面白そうなら、何でもするでしょう」


「分かっていない! どんな痛みか、知りもしないだろう!? それに、貴族を相手に体で支払うとはどういう事か分かっていない!」



 大声だったのに、どこか遠くで言っているようだった。

 耳と頭から抜けて、理解する前に消えていく。

 どんどん、恐ろしい事が近づいている気がする。

 それから逃げたいのに、どうしても逃げられないのが分かってしまう。



「君は……!」


「もういい。どけ」



 領主様が騎士様を突き放す。

 これまでにない冷たい声で言った。



「命令だ。『剣を寄越せ』」


「!」 



 すると、騎士様は急に動かなくなる。

 まるで操られているみたいに、不自然な動きで、腰に下げた剣を領主様に差し出した。

 見えない力に縛られているようにしか思えない。

 今も騎士様は、その力を振り払おうと必死の形相を浮かべている。

 でも、それもできないらしい。

 


「そうだ、一応命じておこう。命令だ。『その娘に私の邪魔をさせるな』」


「くぅぅ……!」


「きゃっ!」



 騎士様は私の首とお腹に腕を回す。

 足は地面から離れる。

 手は自由だけど、クララの方に届くはずもない。

 最後に、首から回していた騎士様の手が私の目を隠した。

 何も、できない。


 

「あとはそうだな……命令だ。『あの扉の者がこちらに来れないようにしろ』」



 そして一瞬、とても寒くなった 

 比喩でもなんでもなく、部屋の気温が下がっただろう。

 扉からのガチッという音が鳴り、騎士様から私でも分かるようなオーラを感じた。




「お前、名前はなんと言ったかと?」


「クララ、です」


「そうか。では、この紙のここへ、お前の血で名を書け」


 

『うっ』というクララの小さなうめき声が聞こえた。

 何が起こっているのか分からない。

 怖い。

 怖い、怖い。



「落ち着いてくれ。指先を少し、切っただけだ」


「え?」


 

 騎士様の優しい声だ。

 でも、今は少し疲れているみたいで、溜息と一緒に出てきたみたいな声だった。

 私を落ち着かせようとしている。

 目を塞ぐのは分からないけど、多分、私のためを思ってだ。



「き、騎士様、な、何が起こるんですか?」


「おっと、それは私から説明しよう」



 領主様が私の疑問に答えた。

 クララはどうなっているか分からない。

 


「これは契約だ。私たち貴族は約束事をする時、この『契約』の魔術が込められた紙に自身の血で自身の名を書き、魔力を込める。すると、その約束は絶対遵守される」



 領主様の声が不思議と響いた。

 なんというか、とても静かだった。

 そういえば昔クララが、『嵐の前の静けさ』なんて言っていた気がする。



「絶対、ですか?」


「ああ、そうだ。そこのフィリップを見ろ。アレも、『母と自分の生活を保証する代わりに、自分は私に従う』という契約の結果だ。私の命令には逆らえない」



 クララの声がする。

 少し安心できるけど、不安も大きい。

 だって、



「まあ、この場合で言うなら、対価の話だ。その娘が自由であり、お前の捧げた物が私の手中にある限り、お前が対価を取り戻せる事はない。どれだけ高名な神聖術使いだとしても、傷が治ることは決してない」



 ああ、もう取り返しがつかないから。


 

「それと、四肢だけでは少し足りない。ついでに片眼も貰おうか。そうだな……左目だ。左目を貰うぞ?」


「どうぞ。どうせこちらは、否を言える立場ではありません」


 

 負の感情というものを何処かに失くしたようだ。

 クララの言葉には、不安も恐怖も怒りも、何もない。

 本当に、いつも通りのクララだった。



「クララ、だったか。お前の名前は覚えておこう。お前が私の所に自力で来れるようになったなら、私は快くお前の傷を治してやる」


「それはそれは、わざわざありがとうございます」



 そして、



「では……」



 ブシュ

 グチャ

 ビチャビチャ


 嫌な音が鳴った。

 耳を塞ぎたくなるような、とてつもない音。

 


「ぎゃあああああああああああ!!!」



 叫び声だ。

 誰のものか、考えるまでもない。

 

 私は暴れた。

 手足をバタつかせて、騎士様の手を振りほどいて、クララの元へ行きたい。

 なのに、固い。

 どうしても逃げられない。

 止められない。



「う、あう……。うぇぇ……」


「どうした? まだ右腕を落としただけだぞ?」



 涙が溢れた。

 クララの聞いたこともないような声に、ただただ怯えた。

 そして、余計に自覚してしまう。

 この事態は、私が引き起こしたんだ、と。



「あ、があああああああ!!」


「これで両手」



 扉から鳴る音が大きくなる。

 ずっとシスターが開けろ、開けろと叩き続けていたが、クララの叫び声を聞いた途端に声色が変わった。

 声がもっと怖くなった。

 凄みと焦りが出たように思える。



「そうだ、そう言えば言ってなかった。これはあくまで契約の中での支払いだ。だから、痛みはあり、血が流れてもこの傷が原因で死ぬことはないから安心、と聞いておらんか」


「うええぇぇん! あああぁぁあ!」



 泣き声だった。

 弱々しいなんてものではない。

 クララが泣いている所なんて、知らない。

 


「どうした? もう終わりか? なら、娘は私が貰っていくぞ?」


「だ、ダメぇ……ぼ、ボクが、た、助け、る……まだ、お、終わって、な、ないぃ……」


「化けの皮が剥がれたな。その情けない姿、見ている分にはとても面白いぞ」



 騎士様が『すまない』と言い続けている。

 抱き締めている私が痛いくらいに力を入れて、それで余計に抜けられなかった。

 でも、騎士様からの痛みよりも、クララの叫び声の方がずっと痛かった。



「いいあああぁ! うううああああ!」



 血の匂いがすごい。

 鼻が曲がりそうなくらいに、気持ち悪い。

 とてつもない惨劇が広がっているだろうに、領主様が変わらないのが恐ろしい。

 見てもいない私がこんなに怖いのに、領主様はこんなのが面白いと言っていた事が信じられなかった。


 そして、次の音はすぐだ。

 これまで三度聞いた肉を断つ音は、四度目でも慣れない。

 どれだけ叫んでも、騎士様は拘束を緩ませてくれない。



「う、えあ……」



 それから、チョロチョロという音が聞こえた。

 広がっているであろう血の中に、新しい液体が注がれる音。 

 もう涙が止まらなかった。

 死なないでほしいと願い続けた。

 ごめんなさいと心で謝り続けた。



「最後は、目だ」


「あえ?」



 本当に、本当に長い時間だった。


 そこで初めて、目に光が飛び込んできた。

 まだ、少し視界がボヤケて分からない。

 ああいや、あまりの事に少し呆然としていただけかもしれない。

 何も見たくなかっただけかもしれない。


 騎士様と領主様の二人が私の後ろの扉から出て行って、前の扉からシスターとアレンの声が聞こえた。

 後ろでは、領主様が『面白いものを見た』と言って、騎士様は悔しそうに手を握り、ギリギリと歯を食いしばる。

 前からは、アレンが『退いて!』と言って、何かで扉を壊す音が聞こえた。

 扉を壊すはずなのに、氷を砕くような音も聞こえる。

 そして、



「あ、ああ……」



 血塗れで、



「ああぁあ、ああ……」



 倒れた、



「うわああああぁぁぁああ!!」



 クララが居た。



 駆け寄る。

 でも、あんまり焦りすぎて、倒れてしまった。

 そのまま地面を這うみたいに、息も忘れてクララに駆け寄った。

 

 酷い状態だった。

 血で汚れてない所が無いくらいで、それでも幸いこれ以上血は流れているようには思えない。

 血の出どころのはずである、腕と脚、目があった場所。

 傷が塞がっていないのに、血が出ていない。

 手足も、片目もないけど、まだ生きていた。

 とにかく、このままでいるなんて選択肢は浮かばなかった。



「治って、治って、治って!」



 半乱狂になって神聖術を使った。

 傷を治す神聖術『回復(ヒール)』。

 元々の効果は火傷や切り傷、擦り傷を治すくらいのものだけど、私はまだ拙く、本当に小さな傷しか治せない。

 でも、私にはこれしかできない。

     

  

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ……」  



 涙で前が見えなかった。

 

 ごめんなさい

 私のせいで、こんな事になってごめんなさい

 私が地図を見せなければ、取らなければ、こんな事にはならなかった

 ごめんなさい、ごめんなさい

 私のせいなのに、クララを傷付かせてごめんさい

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい




「助けてください、神様……」



 














「…………!」



 光が溢れた。

 ただ、凄い力を与えられた。

 暴れるような力を、ただクララの為だけに使った。

 

 そして、聞こえた気がしたのだ。

 『ようやく見つけた』と。




 ※※※※※※※※



 光を、見た



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ