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狼獄の街に眠る灰花の夢  作者: kuro
本編2
8/46

007 街の洗礼

 屋敷の門を抜け、道を(くだ)っていくと、湿(しめ)った風と共に、貧民街の入り口が見えてきた。

 崩れかけの壁の向こうに、あばら家のような家屋(かおく)が密集している。

 店も混じっているのか、どこからか看板の鳴る音が耳に届く。


「……ここから先は、どこも怪物の巣窟(そうくつ)です。どうか油断なさらぬよう」


 エフリールは大きく(うなず)き、足を踏み入れた。

 街の中に人の姿はない。気配も感じられない。

 代わりに、()びた鉄のような異臭と、鼻を刺す腐臭(ふしゅう)とが入り混じって出迎える。

 エフリールは顔をしかめながら、悪臭の元を辿(たど)って視線を巡らせる。

 すると街路の先に、胴体のちぎれた無残な死体を発見した。

 時間が経っているのか、肌はかさかさに乾き、血は黒ずんでいる。

 垂れ流した臓物と血の海に、虫が(たか)っていた。

 息を()んでいると、同じような死体があちこちに転がっていることに気が付く。


「街の人間ですね。どれも悪夢から生まれた異形の餌食(えじき)になったのでしょう」


 グレースの言葉を聞きながら、辺りを(なが)める。

 赤子をかばって共倒れをした者、(たる)の中に身を隠そうとしてそのまま殺された者、怪物の力の凄まじさを物語るように、上半身が屋根に飛ばされへばりついている者。

 凄惨(せいさん)な光景だった。怪物という名の避けようのない嵐によって、誰も彼もが引き()かれ、物言わぬ(むくろ)と化している。


「……生きている人はいないの?」


「分かりません。どこかに隠れ(ひそ)んでいる者もいるかもしれませんが、あまり期待はしない方がいいでしょう。仮に生きていたとしても、近付かない方が賢明ですが」


「どうして?」


「この街にまともな人間などいないからです。ですので、出会ったとしても(すき)を見せぬ方がよろしいかと。先の人狼(ウェアウルフ)のように、いきなり姿を変える相手もいますから」


 忠告を耳にしながら、エフリールは高台から目にした街の光景を思い返す。

 規模はかなり広大だった。果たして人が全くいないということが有り得るのだろうか。

 付近の死体のように殺されたか、それとも。


 ――彼らは自ら人間性を放棄(ほうき)し、獣であることを選択したのです。


 あるいは皆、怪物へと成り果てたのか。

 疑問は、泉のように湧いて出る。

 だが答えなど分かるはずもない。

 思考を切り上げ、街路を進んでいく。

 再び、嫌な臭いが鼻をつく。

 今度はむっとするような獣臭(じゅうしゅう)(ただよ)った。

 怪物が家屋の陰からいくつも姿を現す。

 人狼(ウェアウルフ)の他、(いのしし)や馬の異形も混じっている。

 猪は鼻息荒く両目をぎらつかせ、馬は近くの死体の(はらわた)をむさぼり、口元を血に濡らしている。


「おでましですね。……気分は問題ありませんか?」


 怪物の姿を目にし、エフリールの鼓動が跳ね上がる。

 だが二度目ということもあってか、最初ほどの衝撃はない。

 意識もはっきり保っている。大丈夫、とグレースに向けて頷く。


「それは何よりです。では――努々(ゆめゆめ)油断なさらぬよう」


 グレースが手品のように剪刀(せんとう)を出現させる。

 エフリールも改めて自らの体から槍を生み出す。


「〈(パイル)〉」


 白い槍を握り締める。

 こちらの動きに呼応するように、怪物たちが一斉に(うな)りを上げ、襲い掛かってくる。

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