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「勇樹…一つ聞いていい?」


勇樹はゆっくりと私の方を見た。勇樹は目を細めて私を見ている。


「あんた魔力が視えてるの?」


勇樹は一瞬目を見開いた、だが直ぐに鋭い目で私を見た。


「莉奈の周りに一番キラキラしたすごい光の…オーラ?みたいなのが見えている。自分の周りにも結構キラキラ見えている。今日会った人もキラキラが強い人と弱い人とか色々いたけど…あれって魔力の輝き?」


ああ…!どうしよう?!私は顔を手で覆った。


「ごめん…私のせいだ。勇樹を治す為に魔力を体に入れたことで副作用が出たんだ…。」


「副作用?」


私は顔を上げて勇樹を改めて視た。勇樹の体全体から上質な高魔力の魔流の流れが視える。


「勇樹は魔術が使えるようになったみたい。」


「魔術が使える?」


勇樹はキョトンとしたままそう呟いた。


ああ、もうっどうしようっ?!勇樹が元気になってくれたのは嬉しい。でも視える目まで使える様になるなんて…。


「本当にごめんっ謝っても許してもらえないと思うけど…魔力が視える目を持ってしまうと一生視えたままだし、魔術が使えるようになる。勇樹を魔術師にするつもりは無かったのに…。」


「それって、俺も瞬間移動が出来たり、ファイヤーボールが打てたり、クエイクが打てたり、メテオを呼べたりするのか?」


ファイヤー?クエ?う…うん?何だかよく分からないけれど…。


「うん?そうだね…魔術が扱えるようになったから魔力暴走が起こらないように一から魔術行使の訓練をしないと。」


「魔術の訓練?!」


はああぁ…どうしよう。異世界人の魔術訓練…勿論、私が責任を持って勇樹に指導しなければいけないけど勇樹に拒否されたらな。本当は勇樹の体を治したらすぐに元の世界に戻るつもりだったけど…。


「やるっ!」


「っへ?」


「魔術修行します!師匠!」


「ししょー?」


勇樹がキラキラした目で突然立ち上がった。立ち上がったーー勇樹が立った!ああっ良かったっ…問題なく立ててるよ…良かった。けど、何故私の手を取るの?顔が近いし…。


「じゃあ早速、莉奈師匠に弟子入りだな!取り敢えず師匠と弟子は同じ釜の飯を食わなきゃな!」


「っへ?」


翌日


勇樹は経過観察をさせて欲しいという病院の先生達を振り切って、強引に退院してきていた。そして何故だか私は勇樹のマンションで勇樹と向かい合って日本茶を飲んでいる。恐る恐る勇樹に聞いてみた。


「実家に帰らないの?」


「母さん達が居るのに魔術の練習出来ないだろ?」


「まあそれはそうだけど…。」


「明日から職場復帰するって本当?」


「本当。仕事しないと生活出来ないだろ?」


「まあそうだけど…。」


先ほど、勇樹はうちの家まで押しかけて来て樫尾のご両親に頭を下げて


「本調子じゃない俺の生活のサポートをお願いしています!お嬢さんを連れて行きます!」


とかぱっと見格好いい台詞に思えるが、実は意味不明な発言である言葉を堂々と言い切り、私の荷物と共に自分のマンションに私を連れて戻って来ていた。


正直困っている。だって私は元カノだし、マホ姉さんが今カノでしょう?何だかその話題を出そうとすると、勇樹からとんでもない魔力圧をかけられるのだ。もうすでに魔力をそれほど自在に操れるなら私のサポートなんていらないんじゃない?


本当に本当に困っている。


師匠師匠と煩いので仕方なく、今週から勇樹の魔術訓練を開始している。私はまずコピー用紙に物理防御障壁の魔術印を描いていった。今週はずっと魔法陣を描いている。まずは基本からだ。


「はい、この魔術印に魔力を流し込んでみて。」


勇樹に描き上げた魔術印入りコピー用紙を渡した。勇樹は受け取ると指先に魔力を集中させている。うんうん、良い感じだ。


そして魔術印に指先を押し当てると勇樹の周りに物理防御障壁が張られる。


「うん、障壁にほつれもないし、魔力も一定に供給されている…良い出来ね。」


勇樹も私と一緒に空中の障壁を視て安堵したのか、大きな息を吐いてから、テーブルの上に置いている麦茶をがぶ飲みしている。


「今ので基本の魔術印は終りね。でもこれは実際に目で視て魔術の発動と魔術の形を確認してもらう為の練習だからね。次からが本番だよ。」


勇樹は先ほど描いて渡した魔術印のコピー用紙をクリアファイルに仕舞っている。クリアファイルの名前は『まてりあ』どういう意味だろう…。


宣言通り勇樹は退院してすぐに職場復帰をしていた。月曜日に会社に行ったら下半身不随の病から治った『奇跡の男』と一躍、時の人になったらしい。


何でも勇樹の手に触れたら病気が治る?という誤情報まで流れていて、頭髪の薄目の人から結構深刻な病の人まで押しかけて来てすごかったらしい。


「薄毛は厳密には病気じゃないしね~。」


「出来ませんとは、辛くて言えないよ~。」


「だったら手ぐらい握らせてあげなよ。」


「そうする…。」


そんな話しをしながら昼食の準備をする。今日は土曜日だ。今週の初め、勇樹に押し切られるようにして勇樹のマンションに引っ越して来たものの、樫尾のご両親の夕食の準備だけは毎食作りに戻っている。


再びこの世界に留まっているので働きに出ようかと考えていたのだが、何故だか勇樹が猛反対をする。いやだからさ、私元カノだし?そもそもここに住んでいるのもおかしいことだし?


おまけに今カノ、マホ姉さんの話題に触れようものなら魔力を放ってピリピリする始末。


この間からこれの繰り返しよ…。


前に会ったマホさんは、勇樹と別れた?ような口ぶりだったが…何せ勇樹の非常事態だったのだ。体が元に戻ったんだ~関係も戻そう!普通はそう思うものじゃないかな…。


トマトサラダのモッツァレラチーズのせと和風キノコパスタを作って、リビングに居る勇樹に声をかけた。


「はい、お昼。」


「ん~ありがと。」


さっきから熱心に何をしているんだろう?と思って勇樹の手元を見たら、回復魔法の魔術印の複写を描いている。本当に真面目だな。


「いやさ~よく考えたらこれに魔力を入れたらすぐ発動するわけだろ?この紙をクリアファイルに持って行っておけば、外回りとかで疲れた時に俺以外の人も触れれば回復出来る訳だろ?」


その発想はなかった。自分以外の人を回復させる。そうか、あちらの世界は魔力が使えない人はいない。自分で疲れたら自分自身に回復魔法を使う。魔術印も自分で描かなくても店で売っている。


「そうだ、勇樹はイメージで魔法を発動出来るかな?」


勇樹はモグモグとサラダを食べながら、ん?と首を傾げている。


「魔術印を描いて発動するのは媒体として紙が必要でしょ?頭の中で…う~ん、イメージで、こんな感じで…どう?」


私は指先に炎を出してみた。ちょうどピストルみたいに勇樹にバーンと言いながら向けてみた。


「イメージで出してみる?」


勇樹はパスタをモグモグ食べながら「メテオ呼んじゃうと地球が…。」とか何かブツブツ呟いていたがパッと手を前に出した。


「出でよ!〇メガウエポン!」


と叫んだ。へ…部屋の中にとんでもない魔圧が感じられる!私は慌てて部屋全体に魔物理防御障壁を三重掛けにした。勇樹の差し出した掌から亜空間が見えて、そちらから何かがこちらに出て来ようとしているのが分かる!その掌の空間の中から大きな爬虫類の目がこちらを覗き込んでギロリと私を睨んだ!


「ぎゃあああ!」


私は腰が抜けた…。


「わあっ?!ゴ…ゴメン?〇メガウエポンはこんな狭い所で呼んじゃいけなかった?」


「しょ…しょ…召喚魔法なんて100万年早いわっ‼おまけにそんな中二病臭い生き物…危険すぎます!」


腰が抜けていて生まれたての小鹿みたいにブルブル震えている今の状態で怒っても迫力はないけれど、勇樹はごめんなさい…としょんぼりしながら亜空間を静かに閉じた。


やだちょっと…勇樹ってとんでもない馬鹿だけど、もしかして魔術の才能がすごいんじゃないかな…。


イメージで魔術を発動するコツを掴んだ勇樹はものすごいスピードで魔術と魔力のコントロールを覚えていった。


そんな勇樹の家に泊まり込みを始めて14日が過ぎた時だった。


朝から洗濯と掃除を済ませ、昼過ぎに食材の買い物に出かけようと勇樹のマンションを出た所で、勇樹の今カノ、マホ姉さんと遭遇した。


「リナさん…。」


私は慌てて頭を下げた。


なんとも間の悪い感じだ。勇樹がマホ姉さんの話を避けているし、今日は平日だしまさかマホ姉さん本人が突撃してくるとは思っていなかったのだ。


「私、ヘルパーの代わりなんです。」


マホ姉さんが何か口を開く前に話し出した。誤解させてはいけない。私は元カノだ。


「勇樹さんはまだ体力的にも介助が必要な時があるので私、一身上の都合により退職していまして、暇なんで…本当にそれだけの理由なんです。」


一気にそう言い切るともう一度、頭を下げた。


そう…本当にお世話しているだけなんです。私もうすぐ異世界に帰りますからあなたの運命の人は必ずあなたの元に帰りますから、だから…。


「ご心配して頂かなくてもすぐ消えますから…。」


「リナさん?それ…。」


「失礼します。」


私は逃げ出した。反対方向へ駆け出すと、路地に逃げ込んで一気に樫尾の自宅の自分の部屋に転移した。


惨めだと思った…自分の手を見る。魔力が流れてはいるが以前の自分の魔力より弱い。きっと勇樹の体の治療をする時に、自分の魔力を移植してしまったのだろう。


私自身の魔力値が下がってしまった。しかしこれは嬉しい誤算だった。もう以前のような高魔力で側にいる人達を魔力あたりにして迷惑をかけることはない。これで私も普通並みの魔術師になれた…はずだ。


だが、新たな問題が出て来てしまった。これでは魔力不足で界渡りが出来ないではないか…。



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