12 番外編
結婚する前のお話です。
私は元異世界人だ、そしてこの世界に転移してきて…彼氏が出来た。鴻田 勇樹という同い年の男の子だ。顔は…可愛い系で色素が薄目の色白で、ヒョロヒョロとした体形だ。
その鴻田勇樹とは一度別れて…色々あり、今は勇樹のマンションに同棲している。その色々の中には…浮気、勇樹の事故、私の魔法でその怪我の治療…。私達の関係を劇的に変えた出来事がある。
自分の手を見る。魔力の輝きが視える。あの時ほど自分が魔術師で良かった、異世界人で良かったと思ったことはない。
その治療に私の魔力を使った時に、勇樹に私の持っている魔力を渡してしまって勇樹を魔術使いに開眼させてしまったりして焦ったけど…そこも何とか落ち着いた。勇樹がやけに積極的に魔術師になりたい!と前向きなのだ。何であんなに熱心なんだろう?
勇樹に、魔術の勉強辛くない?と聞いたんだけど勇樹は真顔で
「男はいくつになっても中二病だ。」
と名言なのか迷言なのか分からない言葉で返してきた。
そうそう
後で、勇樹が召喚しようとしていた〇メガウエポンって何だろう?と検索してみたら、ゲームに出てくる怪獣?で画像を見てみたけど、ニュルッとした爬虫類系でおまけに凄い大きさだった。私の部屋が潰されるところだった…。召喚を阻止出来て良かった。
さて…そんな私の魔力ですが、勇樹に渡した後の魔力減少はどうやら一時的なものだったみたい。今は前と同じくらいの魔力量に戻っている。
あ~あ…やっと普通の魔術師になれたと思ったのにぃ~また世界一の最強の魔術師になっちゃったよ。
ん?いや待てよ?
魔力量は私には劣るけど、メテオ?とか何とかウェポンとか独創的な魔術を想像して更に具現化して発動が出来る鴻田勇樹24才、もうすぐ25才の方が世界最強じゃない?
俺TUEEEE!とか前、寝ぼけて叫んでいたし…世界最強の座はこの際、勇樹に譲っておこうかな。
でもさ、界渡りは兎も角としても、向こうの世界の実の両親に一度は会っておきたいんだよね。そりゃ怒鳴られたり怯えられたりする可能性の方が高いけど、今幸せなんだ…と報告しておきたい。
でも勝手に異世界に帰ると、また勇樹がヤンデレ発動しちゃうから今度の連休の時に『異世界に行ってみよう!』と旅行計画立ててみようかな?一緒に行ってくれるかな~?
☆ ★ ☆ ★
「異世界に行ってみない?」
莉奈の言葉にポカンとする。今、何て言った?異世界に行ってみない?え?
莉奈は微笑みながら、卓上カレンダーを指差した。
「再来週、三連休でしょう?その辺りどう?」
いやいやいや?ちょっとそこまで~みたいな感じだけど、おい待てよ?異世界って言わなかったっけ?
「異世界って…そんなすぐ行けるの?」
「うん、界渡り自体は難しい魔術なんだけど、発動原理さえ分かれば誰でも使える魔術なの、只ものすごく魔力使うのね、だけど!私と勇樹の2人なら楽々~簡単~だね!」
「そ、そう?」
詳しい魔術の原理は俺には全然だけど、莉奈師匠が出来るっていうんならまあいいか。
「確かに、樫尾のおばさんが赤ちゃん生まれた後じゃ時間ねえもんな。」
そう…莉奈のこっちの両親、樫尾家には新しい家族が増える。もう性別は分かっている、男の子だ。樫尾のお父さんめっちゃ喜んでたな~。
「そうなんだよ、赤ちゃんが生まれたら私がベビーシッター兼家政婦で家のお手伝いをしなきゃいけないしね~。」
莉奈は結局就職せずに、産まれて来る弟の世話と樫尾家の家政婦さんという『仕事』を請け負うことにしたそうだ。ちゃんとお給料も出るらしい。
莉奈は産まれてくる弟との生活を想像しているのか、幸せそうに微笑んでいる。その顔はマジ綺麗だ…。俺は改めて莉奈に惚れ直している。先日、婚約指輪を買って渡した時に莉奈に言われた一言で莉奈に対する想いが一層強くなった。
「前は…勇樹の所から逃げることばかり考えていたけど…今は、少しでも長く一緒に居たい。」
これで落ちない男がいるか?俺正直、泣いたよ。格好悪いけど泣いた。嬉しすぎてもう絶対莉奈を離さないと誓った。
とは言ったものの異世界に行くのはまた別な訳で、俺はものすごく気負っている。気になって気になって何度も、異世界に行くのに何か準備がいるか?と聞いてみたけど、無いね…とすげなく莉奈に返されて、何度も聞く俺が鬱陶しくなったのか、最後には
「当日の持ち物はお菓子は300円まで!水筒とハンカチ持参!」
と、言われてしまった…。
結局何もしないまま界渡りの日になった。因みに界渡りの魔術の展開場所は俺達のマンションの部屋の中だ。
しかしもうちょっとさ、気の乗る場所とかじゃないの?ほら、寂れた礼拝堂とか、寂れた古城とか。そんな所がどこにあるか知らんけど…。
おまけに莉奈の服装はチノパンにカットソーにパーカー、俺は俺でジーンズにカットソーにパーカー…色違いなだけで、ペアルックみたいな服装だ。異世界を訪問するには不適切な装いのような気がする。
「もうちょっと綺麗な恰好の方が良くない?」
「何でよ、三つ揃えで行くの?意味なくない?誰に見せるのよ?」
うっ…確かにスーツ着て行ったって異世界じゃ何着てても、メズラシイフクデスネーと言われて終わりかもしれない。
「…。…。」
わわっ…莉奈の詠唱が始まると既に空間の魔圧が変化している!これが界渡りの術式か…魔法陣も5重?に発動しているし、陣に魔力の吸い込まれているのが凄く早い!これじゃあ力が吸われて、莉奈が言う魔力切れになるのも分かる。
「§…Θ…Σ…。はい!出来たよ、行くよ~。 」
莉奈が手を差し出してきたので、思わず手を取ったらグルっと体が一回転した…気がした。ヤベェ?!フリーフォールとか苦手な…うぷっ…。
「うえっぇぇぇ…。」
「ちょっと…大丈夫?異世界の第一歩が〇ロと一緒なんてぇ…。」
莉奈が俺の背中を擦りながら、背中のリュックサックから水筒を差し出した。
「先ずは魔法で口の中を洗浄出来る?これ麦茶、入ってる。」
莉奈に言われて水魔法を口の中に出して、口の中をうがいした。そう言えばここ、どこなんだろう?森…ってほどではないけど…公園かな?俺が麦茶を飲みながらキョロキョロしていると、莉奈が少し微笑んで木々を見た。
「ここは実家の近くなの。人目につく所に異世界人が行くと捕縛されたりするかもだし?」
俺はびっくりして叫んでしまった。
「ちょ、おい‼何気に怖い事言うなよ?!ええっも…もしかして異世界人って珍しいの?ヤバいじゃん!俺らってUMA?unknown?」
莉奈がシーッと黙るようにジェスチャーをしたので慌てて口を塞いだ。
「この世界で魔法はなるべく使いたくないの。ここの世界の人は魔法を感知出来る人ばかりだから、私が戻ってきたことがバレるのを避けたいの!」
そう言って莉奈と身をかがめながらコソコソと移動をした。何か想像していた異世界デビューじゃねぇよ…。ようこそ!勇者よ!とか、召喚魔法で呼ばれた聖者…とかもっと歓迎されてない?俺ら完全に侵入者じゃねぇか、これ?
そして木々の間を隠れながら移動していた莉奈が
「この家だ…両親と、多分親戚がいるわ。魔質を感じる。」
と、言って立ち止まったので俺も顔を上げると…目の前には家どころかどう見ても城壁しか見えなくて…視線を動かしてずっと先を見ても城壁ばかりで、あまりの規模のでかさに呆けていた。家?え?どう見ても城なんだけど?!ええっ?!
「お前っどっかの姫様だったのかぁ?!」
「はあっ?そんな訳ないし?うち只の貴族だからっ!」
「只のってお前、貴族なの?ご令嬢様なの?!しらねえぇ!」
つい興奮して草陰で言い合いを初めていたら、槍を持った男が飛び込んで来た。げえええっ!槍っ?!
「誰だっ?!あ……れ?奥様?じゃない…サイシャーナ様?あれ?」
と、莉奈を見て槍を構えた男は何だかキョトンとしている。莉奈は何か魔法を使った。すると…莉奈の髪の色と目の色が変わった!えええっ!莉奈が金髪碧眼にぃ?!
槍を持った男の人の後ろにまた数人の男が現れて、莉奈を見て驚愕しているみたいだ。
「お…奥様?え?あの…もしかして奥様のご親族で…?」
莉奈は俺の手を握ってきた。手が震えている。莉奈の手を握り返すと莉奈は恋人繋ぎをしてきた。莉奈はグッと背筋を伸ばした。
「リナーシェ=トリエンダスと申します。トリエンダス公爵にお取次ぎお願いします。」
「リ…リ、リナ…リナーシェお嬢様?!」
「た、大変だぁ?!」
「本物ですか?!いや、どう見ても本物…お伝えしてきます!」
男の人達大パニックだ。しかし待てよ…俺とんでもないことに気が付いたけど…。
「莉奈…あのおっちゃん達さ、日本語喋ってね?」
「え?」
莉奈はポカンとした顔で俺を見た。
「勇樹、もしかして無意識化で言の葉魔法使ってるんじゃない?え~と直訳すると言の葉綴りという魔法なんだけど要は翻訳魔法なのよ。はぁ~すごいわね、勇樹はイメージで何でも魔術に変換出来るのね~。」
とか、莉奈と喋っていたら門扉の所から、結構な人数の人が走って来るのが見えた。ああすぐ分かるわ。あれ…
「莉奈の親戚勢揃いじゃね?」
「う…うん。」
莉奈の体はガクガク震えている。莉奈の手を握りながら、空いている手で頭を撫でてやった。
やがて目の前に…本当だ、莉奈そっくりのおばちゃんと言っていいのか?分からない年齢の人と父親っぽい人と、どう見ても莉奈の妹だろう、これまたそっくりな女の子と男の人2人が立っていた。うお…莉奈の兄弟美形だな…。
「リ…リナーシェ…。」
先頭に立っている莉奈の母親であろう人が一歩近づこうとした時に莉奈が叫んだ。
「一言だけっ…一言だけ言いに来たの!私…私を…。」
莉奈は泣き出した。俺は莉奈を抱き寄せて代わりに叫んだ。
「莉奈を産んでくれてありがとうございました。俺、莉奈と出会えて最高に幸せです!」
「っ!」
莉奈がびっくりしたような顔で俺を見た後に、莉奈は家族の方を見た。
「私…今、幸せなのっありがとう!」
莉奈はそう叫んだ後、突然走り出した。手を握っている俺もついでに引っ張られた。
「り…莉奈っ!ちょ…まっ…。」
莉奈?!待てっ!落ち着け…お前なら分かるだろう!あの人達はっ…!
「リ…リナーシェ待って!」
「リナーシェ!待ちなさい!」
ああっホラ!お父さん達追いかけて来て…ああっ!お母さん転んだ!
「莉奈!早く戻れっ!」
俺が鋭い声を上げると莉奈は立ち止まり、そして倒れたお母さんに気が付いたみたいだ。
「リ…リナーシェ…。」
倒れてても莉奈に向かって手を差し出しているお母さんに向かって莉奈は駆け出していた。
最初からそうすりゃいいのにさ…。俺は内心ニヤつきながら、ゆっくりと莉奈の後を追った。