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本編はここまでです

勇樹に魔力を渡してしまい、私の潜在魔力量が下がって『界渡り』を行うほど魔力が豊富ではなくなってしまったのだ。これでは界渡りの成功率が下がってしまう。異世界に帰るのに…命がけになる危険性が出てきた。しかし迷っている暇は無い。


私は部屋の中で術式を展開した。魔術式を展開し始めると、ゴッソリと魔力が奪われていく感覚が分かる。これはマズイ…術が発動する前に魔力切れを起こして倒れてしまいそうだ。


急に目の前に『死』という現実が見えてきた。このままいけば私死ぬのかな?思わず笑いが込み上げる。あんなに死にたくて何度も自殺を図っていた時は自己治癒能力が強すぎて蘇ってばかりだったのに…。


こんな異世界で死んでしまうなんて、眩暈がする。涙が溢れた。ああ…どうしよう、最後の瞬間に勇樹に会いたいだなんて思っちゃうなんて…。


「莉奈っ!」


突然鋭く私を呼ぶ声と共に、勇樹が部屋の中に現れた。わあぁ…転移魔法まで使えるようになったんだ…。意識が遠のく。


「何やってんだ!馬鹿っ!」


勇樹が倒れかけた私を抱え込むと、強引に口づけてきた。勇樹の体から唾液と一緒に高密度の魔力が流し込まれる。温かい…。魔力切れ直前の体に染み渡るように勇樹の魔力が入り込んでくる。


心地良い…。勇樹の舌が私の口内に入り込んでくる。絡み取られるように舌から喉の奥まで吸い取られる。また魔力が流れ込んでくる。体が震える。


どれくらいそうしていただろうか…。いつの間にか唇は離れ、勇樹に抱き締められていた。


「何の術を発動しようとしてたの?」


「…。」


「答えて、莉奈。」


「界渡り…。」


「それ…何?」


ビクリと体が震えた。それだけで勇樹には薄っすらとどんな魔術か分かってしまったようだ。


ゆっくりと体が離され、勇樹の色素の薄い茶色の瞳が私の顔を覗き込む。


「異世界に帰ろうと…した?」


ブワッ…と勇樹の魔力が膨れ上がる。まさに、魔王のような魔圧だ。それに比例して顔もめっちゃ怖い…。顔は勇樹に両手で持ち上げられて固定されて、勇樹に真正面から目を見詰められる。


「俺から逃げようとした?」


あれ?これってよくあるヤンデレさんの名台詞じゃないか?


「俺を捨てて…置いていこうとした?」


ひゃああ?!それってヤンデレ確定の台詞じゃないかぁぁ?!


私はあまりの怖さに歯の根が合わなくなってきた。


ところが勇樹は一瞬で、飛び退くと…頭を深く下げた。所謂(いわゆる)土下座だ。


「お願いします莉奈。俺を一緒に連れて行って下さい。」


……ん?今、何て言った?


勇樹は更に部屋の絨毯に額をこすりつけた。下に~下に~である。


「俺死んでも離れません。俺も連れて行って下さい。」


ヤンデレの名台詞?を連発しながら勇樹は更に言い募る。


「莉奈がこの世界からいなくなったら、俺死んじゃうよ…厳密に言うと体は何とか生きてても心が死んじゃうよ。でもどうしても帰るっていうなら…。俺、異世界まで追いかけるよ…。」


「ぎゃあ!」


完全にヤンデレ化している?!どうしたんだ?!結構ドライな性格だと思っていたけど?


「ヤンデレはやめろっ!どうしたのよ?ええ?」


勇樹は、土下座を止めて正座のまま少し俯いた。


「あの事故の後から…莉奈の秘密っていうか正体が分かって、俺の体が元に戻って魔力が使える様になって…毎日すごく楽しいんだ。莉奈に教わりながら魔術を使って覚えて、家には莉奈が待っててくれて嬉しくて幸せで…それが無くなるなんて絶対嫌だ。死んでも嫌だ。そんなことするならメテオを呼ぶ…。」


ぎゃああ?!メテオが何かは分からないけど、このユラユラと漂うヤンデレ臭から察するにとんでもない暗黒魔法的な何かだと察せられる。


私がそれでも返事に戸惑っていると、益々ヤンデレ臭の漂う魔力を発しながら


「〇メガウエポンも召喚する…。」


と、じっとりとした目で睨みながらヤンデレさんは呟いた。


「んぎゃあ?!」


あのとんでもなく巨大な爬虫類の目を思い出して怖気が走った。


背中を冷や汗が伝う。このヤンデレ魔術師が暗黒魔法を放出しまくったら…この世界が滅んじまう…。


私はニッコリ微笑みながら


「そうね、帰る時は一緒だね!取り敢えず当分はこっちの世界に居ようかな!」


ヤンデレ勇樹さんはパアッと笑顔になると両手を広げた。


いや、待てよ。何で胸に飛び込まなきゃならんのよ?


「ちょい待ってよ?私、勇樹とは今は幼馴染枠だけど、胸に飛び込む仲じゃないと思うけど?おまけにさっきマホチャンと会ったのよ?」


カチン…と勇樹の笑顔が固まった。


あ、あれ?


固まった笑顔のまま勇樹は


「満穂…福井さんここに来たの?」


と言った。


マホ姉さんはフクイマホさんがフルネームか~ってそういうことじゃねぇぇ~!


「何でまたこっちに来るかなぁ…あんな風に別れといてモトサヤって調子良すぎじゃね?あんだけ無いわって俺言ったよな…これしっかり牽制しとくか?」


ぎゃ…私の耳は地獄耳~ではなく魔法で勇樹のブツブツ小声も聞こえてしまった。もうしっかりとヤンデレの基礎?を築いていらっしゃる鴻田 勇樹さん、24歳。


はっ…そうだ!


「ちょっとっ今仕事中じゃないの?サボってんじゃないの?ほら、戻んなよ。」


私がそう言うと、ハッとしたような勇樹はじっとりとした目で私を見てから


「逃げたら許さねぇ……。」


とヤンデレの名捨て台詞を残して、転移魔法で消えた………こわっ。


これでいいのかな…。良く分からないヤンデレ化した勇樹に阻まれたせいで界渡りが不発に終わってしまった。


取り敢えず


気持ちを切り替えて食材を買いにスーパーに行き、勇樹の家で夕飯の下ごしらえをしてから実家に戻って鍋の準備を始めた。私が鍋の下準備を終える頃に今日はお父さんが先に帰って来た。


「お帰り~。」


「おお、ただいま。」


「お鍋火にかけて材料入れるだけにしておいたから、それとお風呂も洗っておいたからね。お洗濯物はある?」


お父さんは何だかニヨニヨしている。


「莉奈は若奥さんみたいだな…くぅ、もう嫁にやってしまった気分だっ!」


「なっ…!」


た、確かに今の状態は勇樹の嫁みたいな状態になりつつあるけど、元カノだからね?だってはっきりと言われた訳じゃないしね。


そうだよ、はっきりと言われてないじゃない!と、思って勇樹のマンションに帰ったら勇樹は玄関で正座をして三つ指をついて私を待っていた。


恐怖再びである。


「おかえりなさいませ、莉奈。」


「お、おうっ。」


変な返事を返してから私は恐々玄関の中に入った。束縛系の魔術の…気配は無い。勇樹と食べる晩御飯も同じく鍋だ。いちいち材料を変えていては時間もかかるし手間だ。


「今日は鳥つみれのみぞれ鍋だよ。」


「ありがとうございます。」


何だろう、玄関口から早く退け!恐ろしくて近づけないだろう!


「話がある。」


「はあ…。」


「取り敢えずご飯食べよう。」


「はぁ…。」


私はそう言って立ち上がってリビングに行った勇樹の後ろをすり抜けて、キッチンに入ると鍋をリビングの上の卓上コンロの上に置いた。ビールと枝豆、棒棒鶏をおつまみに…勇樹の座ったテーブルの前に置いた。


「ありがとう。」


「どういたしまして。」


妙な緊張感が魔力に乗せて勇樹から伝わってくる。魔質は高揚と緊張と不安?が視える。


はっ!まさかメテオとやらを呼んだ?のではないか?!思わずびびってどこからメテオの攻撃が来るのか…とキョロキョロと辺りを見た。


「福井満穂さんとの関係は終わりました。」


「‼」


メテオ…ではないけどびっくりしてちょっと飛び上がってしまった。そう言った勇樹を見ると真剣な顔をして私を見ている。


「勝手なことを言っているのは分かっている。昼間も言ったけど、今の莉奈との幸せな時間を壊したくない。このままずっと一緒に居たい。」


嬉しい反面、また困っている自分がいる。ヤンデレ疑惑のある勇樹に話すのは怖いけど言うなら今しかない。


「それは…違うよ。」


勇樹のヤンデレ魔力がブワッと膨れ上がった。こわっ…。


「何が違うんだよ?」


ヤンデレを刺激しないように言葉を慎重に選びながら自分の気持ちを話す。


「私が異世界からこちらに来たことで…本来会うはずない勇樹と出会ったことになるよね?だからね勇樹には本当の伴侶とか恋人とか別にいるんじゃないかと思う。」


「……。」


ああ…無言もまた怖い。メテオ?に備えて何か対抗策をして考えておかないと…。


「だから…フクイさんは違ったのかもしれないけど、きっとどこかに勇樹の運命の相手が…。」


「お前だ。」


「‼」


「莉奈以外有り得ない。考えてもみろ、俺が事故に合って車椅子生活になって…そんな運命の時に伴侶とかに巡り会えると思うか?莉奈は俺の運命を変えた、変えてくれた。莉奈がいなければ…俺、終わってた。毎日腐っててとてもじゃないけど、明るい未来なんてなかったと思う。」


勇樹はテーブルの向こうから手を差し出した。


「俺は莉奈と会う為に存在していた。俺には莉奈が全てだ。」


ここは感動して泣いてしまうところだけど…ヤンデレの真骨頂を見せられて冷や汗が流れる。私もこれは…界渡りをして勇樹を救うことがもしかしたら私の運命だったのかとは思うけど………怖い。今、完全にヤンデレに捕まった瞬間だった。


逃げたら中二病くさい暗黒魔法を全世界に発信してしまうし…。人類滅亡を避ける為だ。


別の意味で私は詰んだ。でもさヤンデレだけどさ…それでも幸せになって欲しい人なんだ。好きな人なんだよ。もう認めよう。私がここに逃げてきたのも運命、高校に入学して勇樹の隣の席に座ったのも運命、一旦別れたのも運命…。


「はい、宜しくお願いします。」


鍋が湯気を出し始めたので、夕食を食べることにした。それから私達は結婚を前提に準備を始めた。両家のご両親に報告し大喜びをされ…その1月後、もう一つおめでたいことが分かった。


「お母さんが妊娠?!」


お父さんから知らせを受けて勇樹と2人金曜日の夜、実家に帰った。お母さんのお腹を視る。


「赤ちゃん!」


勇樹を見ると勇樹も頷いている。お父さんとお母さんは恥ずかしそうに笑って迎えてくれた。


「この年になってね…もう莉奈もいるし~と思ったけどお医者様がまだまだ産めますよ?せっかく授かった命だ、大事にしてあげて。って仰ってね。高齢出産だし…莉奈も、お手伝いしてくれる?」


私は泣いた。樫尾のご両親の本当の子供だ!お父さんに治療魔法を使って、恐らくお父さんの方に何か病気があって子供を授かれなかったんだ!泣き出した私を勇樹は優しく抱き締めてくれる。


「今日から色々と忙しくなるな!奥さんだしおまけにお姉ちゃんだしな!」


後日


勇樹にお父さんの治療をしたことを打ち明けると、ニヤニヤとした後にこう言われた。


「だからさ、これも運命だって。お前が樫尾のお父さんの子供にならなきゃあの人達、子なし家族のままだったんだぜ?」


うん、本当そうだ。私の界渡りにも意味があったんだ。


自分の左手の薬指の指輪を見る。よくある長い付き合いからの結婚だ。


よくある普通の出会い、こちらの世界ではよくあることのようです。



後二話番外編が続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] えっーと、なんで元カレのために主人公がここまでしなきゃならなかったのか...もっと早く帰っちゃえば良かったのに!との感想です。 元カノの満穂さんに「あんな風に別れて~」ってお前が言うな!とツ…
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