10 勇樹視点
勇樹視点で短めです。
俺の人生は平凡で穏やかなものだと思っていた。高校の時から付き合っていた彼女とも穏やかに過ごしていた。ただ穏やか過ぎるとは思っていた。
そう…俺の綺麗な彼女は何だか不思議な女だった。あいつの実家も知っているし、平均的な普通の家の子だし…何がと聞かれたら、何となく?としか答えられないけど
何となく、そう俺に関心がないんじゃないかと思ってしまったんだ。
そんな俺だから…莉奈のことをそんな風に見ていたから…俺は…。
ハッ…と目が覚めてベッドの上で起きた。暗闇の中で自分の体が薄っすら発光しているのが視える。
魔力…。俺が魔法使い?最初は莉奈が異世界人で魔法使いだって聞いて突然のファンタジーで浮かれまくったけど…これが莉奈が俺に対して一線を画している原因か…と納得した。
トラックに撥ねられてあれほど痛かった体が一瞬で治った。治療魔法…そんなことが出来る異世界人、樫尾莉奈。そりゃ俺になんか感心持てる訳ないよな…。こんなくそみたいな男じゃなぁ…。
莉奈は俺の前で『樫尾莉奈』を演じていたそうだ。
莉奈のことを俺に関心がねぇなんて思ってた男になんて莉奈は心を開くわけねえよ。俺が悪かったんだ。
莉奈は自分の正体を打ち明けた後は、かなり饒舌になった。特に魔法の使い方の説明をしてくれる時には目を輝かせて前のめりだ。これさ魔法に関することだけに饒舌になってるんじゃね?
莉奈は魔法オタだな。一回それを指摘したらすごい睨んできて、「魔法が好きな訳じゃない…。」とか言ってたけど、オタで間違いないだろ?
退院した後、俺に魔力を教えてくれるんだろう?と言って、莉奈を自分のマンションに引き入れた。一緒に生活を初めて莉奈は益々、表情が豊かになってきた。やっぱりさ、自分を偽ってるのが莉奈の心を殺していたんじゃねえか?
莉奈、気付いてるか?お前、前に別れた時より良く笑うし、よく喋るし、可愛いよ?そう…元から綺麗だったけど莉奈は今の方が断然いい。全部が可愛い…そう可愛いんだ。
「勇樹、どうしたの?体の調子悪いの?」
隣の部屋…で寝泊まりしている莉奈が俺が起きたのに気が付いて声をかけてきた。戸口に現れた莉奈も体を薄く発光させている。俺の光より強い輝きだ。夜見るとすげぇな…後光が射してるみてぇ。
俺がまだ魔力の制御が不安定だと、こうやって俺の心配ばかりしてくれる。明らかに付き合っている時より、色々と距離が近い気がする。
「魔力、流そうか?」
「うん、頼む。」
莉奈はそう言って、ベッドの横に立つと俺の肩に手を置いた。この莉奈の魔力が体に入ってくるの気持ちいいんだよな~。ゾクゾクっと来るんだ。まあ夜にあまり刺激を与えられるのも結構辛いけど…。
体の疲れがツルッと抜けて出て行ったみたいな感覚がする。俺にも治療出来るかな~て聞いたら「修行次第。」と言われた。付いて行きます、莉奈師匠!
翌日
出社すると今日も朝から『奇跡の男』に病を治して貰おうと数人が俺のデスクの前で屯っていた。もう薄毛とかEDとか痔主とかは専門外来にいけよ!
朝から、会議用の資料を作って昼からの営業先にアポの電話を入れている時に…巨大な魔力の動きに気が付いた。これは莉奈の魔力だ…。何があった?
スマホの着信がきた。画面を見たら福井満穂の表示だが、今はそれどころじゃないっ。
巨大な魔力が、莉奈の魔力が何かの術をしようとしている?!俺は廊下に走り出るとトイレに駆け込んだ。莉奈っ莉奈…‼
莉奈の居る方へ意識と魔力を向けた。