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Berry'sCafe様に掲載させて頂いていた作品の再掲載作品になります。

なろう様に掲載するに際して加筆をかなり加えていく予定です。

宜しくお願いします。

…彼だ。


彼氏のマンションに向かう道の途中でその姿を見た。


そう前を歩く、見たことのあるダウンジャケット姿に彼の体から漂う魔力…。間違いない、私の彼氏だ。


しかし私の彼氏の横を歩く女は誰だ?彼と女の2人の距離感が異常に近い。眩暈がする、まさか…まさか…。


「勇樹!」


彼、鴻田 勇樹(こうだゆうき)がぎょっとしたように振り向いた。


勇樹の魔質が激しく動いている。動揺したりキョドるくらいなら、自分のマンションに連れ込もうとするな!私に見られる危険性を考えなかったのか!?


勇樹の横に立っていた女はスッ…と勇樹の後ろに隠れた。そして何とも言えない目で私を見ている。


その女は私を嘲笑っていた。ああ…これは確定かっ!?


怒りや悔しさで体がぶるぶると震える。視界が歪む…私、泣いている。


「り…莉奈…。」


何を思ったのか、馬鹿の勇樹は私に近づこうとした。この期に及んで言い訳か?それとも別れ話か?


ああ、あんたもか…。あんたも私の親のように捨てるのか…。


「いら…いらないなら、捨てるつもりならはっきり言ってよ!お前なんかいらないって!」


勇樹はびっくりした後、顔を歪めた。泣きそうな顔をしている。


あんたが泣くの?何それ…。


私は泣きながら勇樹の前から逃げ出した。そう…逃げ出した。結局、私は後ろめたいのだ。逃げることしか出来ない。最低の彼女だった。


後ろから勇樹が追いかけてくる魔力は感じない……。


くそーーっ!人生で初めて出来た彼氏に浮気された女は私です〜!


そう…心の何処かでは、やっぱりな…と思っていた。いつかは帰らなくてはならない。こちらの世界が居心地が良くて、このままずっと…なんて甘く考えていた私のせいだ。


私が周りにいる全ての人を欺いて騙していた罰だ。


「もう…やめよう。」


私は全速力で自分の住むマンションに駆け込んだ。実は勇樹のマンションとは歩いて2分程の距離だ。益々勇樹の馬鹿さ加減に腹が立つ。こんな距離で浮気相手を連れて歩いてたら、私に目撃されるじゃない!


……あーーっ!もしかしてもしかして、ワザと見つかって私から別れを切り出して欲しかったとか?あり得る…あーーーっやだぁそれもやだなぁ…。


そんな近い距離で別々に住んでるなら同棲すればいいのに〜と、勇樹のお母さんに何度も言われていたのを思い出した。こうなって見れば同棲してなくて良かった。逃げ込める場所が浮気現場なんてどこに逃げりゃいいのよ。


「ひぃ……ん…ぐすっ…。はだみずがどまらがい…。」


玄関で靴を脱いで、後ろを振り返る。


あいつ…やっぱり追いかけてもきやがらない……ふんっ!


こんな別れ珍しくもない、よくあることだ。勇樹とは高校生の頃からの付き合いだ、もう9年になる。高校生の恋愛がそのまま大学まで続き、そして社会人になっても続いていただけだ。


ただの腐れ縁のただの恋人同士で、浮気されて別れるだけだ…たったそれだけだ。


だが勇樹のお母さんの聡子さんとは仲良くして貰っている。お母さんから、いつお嫁に来るの?まだなの?と、会う度に聞かれていたけれど…ごめんね、聡子さん。お嫁には行けなくなりました。


「こんな生活…いつか破綻するの分かってたのにな…。」


私はこの世界の住人ではない。約10年前にこちらの世界に逃げてきた。


逃げてきた…というには語弊があるかもしれないが、別に犯罪者だとか誰かに追われて…という訳ではない。自発的にこちらの世界にやって来たのだ。


要はただの家出だった。


私はあちらの世界では稀有な存在だった。膨大な潜在魔力量を保持し使えない魔術は無いと言われ…世界で数人しかいない、攻撃魔法と治療再生魔法が使える、天才魔術師だと言われていた。


生まれた時から膨大な魔力持ちの私は、夜泣きをすれば台風を起こし、悲しいことがあれば大雨や大洪水を引き起こしていた。私の存在に怯えたのか、疎ましく思ったのか、両親は私が4歳の時に国の魔術師団に私を引き渡した。


私は親から『いらない』と言われた子供だったのだ。


その当時はそう思っていた。思い込んでいた。ただ…この世界で10年弱生きてきて分かった。そう…親だって怖かったはずだ。自分の子供なのにすでに高位魔術を扱える赤ん坊。怖くて…相当恐ろしかったに違いない。


実の両親には申し訳なかったな~と今でも思う。相当、手を焼いて扱いに困って国にお願いしたのだろうし。


そんな私は当時は親に捨てられた…とこの世を恨み、親を恨み、どす黒い魔術を外に向けて発している…こちらの世界で言うところの『魔王』のような存在だったに違いない。


やがて私は魔術遮断の檻(魔術師団の寮)の中で、魔術師団の先生達から教えを受けて、独りぼっちで新魔術式の開発や魔法薬の開発…などを細々とするだけの日々に落ち着いた。


そう…落ち着いて見せていた。


私はいつかこの檻(魔術師団の寮)から外に出ることを考えていた。ただ外に出るだけでは見つかれば連れ戻されてしまう。完全に見つからない場所へ逃げよう。


どこがいいか…毎日図書館で本を読み漁った。そして見つけた『異世界』だ。


そこなら相当の術者でなければ追いかけては来れない。恐らくこの国の術者では無理だ。では私を捜しにわざわざ高位魔法の『界渡り』が出来る術者に私の捜索を頼むか?


いや…そんな労力とか金をかけてまで私を捜しはしない。暫くは騒ぐだろうが、そのうち諦めるだろう…。


私はそう踏んで、コツコツと『界渡り』の高位魔法を会得するために日々鍛錬と研究に没頭した。そして14歳になった時、ついに『界渡り』魔術を会得した私は異世界に向けて家出を敢行した。


辿り着いた異世界は想像していたのとは全然違った。


魔法の無い世界。電気や電車、飛行機…。全てが今までいた世界とはまるで違っていた。私は時間をかけてこの世界を調べ…そして魔法を使い、子供のいないご夫婦の子供として何食わぬ顔で今年高校生になる、樫尾莉奈(かしおりな)としての生活を始めたのだった。


幸せだった。初めて幸せだと感じることが出来た。優しい偽の両親、楽しい学校生活。そんな高校生の時に鴻田 勇樹にあった。


勇樹は同じクラスの同級生だった。教室の席が隣だったのだ。自然と話すようになった。好きだと言われ人生(異世界を含む)で初めて出来た彼氏だった。


嬉しくて楽しくて、きっとこちらでは幸せになれる!


そう馬鹿みたいな思い込みで生きてきた。現実とやらを見ていなかった。周りを見れば浮気をされた、二股をされていた…独身だと思っていたのに既婚者だった…等々。


高校から大学時代にかけての友人達の話しを聞いてもどこか他人事だった。自分は彼女達とは違う。勇樹は変わらず優しいし、私を愛してくれている。


それもとんだ勘違いの思い込みだったけど…。


……チーーーーン。思いっきり鼻を噛んだ。


「異世界のティッシュペーパーは本当に上質ね。この技術力は持って帰りたいわ。」


ああ…もう帰ること前提で気持ちが切り替わっている。でも帰ったら…死刑かな…。逃げ出してるものね。


どうやら随分泣いていたようだ…少し日が傾きかけている。ベッドの上から降りると、冷蔵庫の中の冷えた麦茶をマグカップに注いだ。カップの中の麦茶から瞬時に湯気が上がる。


私は温めた麦茶を飲みながらゆっくりとリビングのソファに座った。


さて…これからどうしようか。私の生活比重は勇樹>仕事とその他…という感じだったので、これからどうしていいのか分からない。


仕事も辞めようか…。異世界に帰るにしても、ここで10年弱を生活してきた。思い入れがあるものばかりだ。だけど少しずつ身辺整理をしていこう。


私、樫尾 莉奈の記憶は最後に纏めてぼやかして記憶を改ざんするとして…まずは…。


「部屋を片付けよう!」


そう独り言を言ってクローゼットの中を開けた。


「はあ~この旅行楽しかったなあ~。」


アルバムを捲る手が何度も止まる。片付けあるある…だ。写真などを片付けているとついつい思い出にふけってしまい手が止まる。


やばいっまた泣けてきた…チーーーーン!目一杯鼻を噛んだ…さっきからこれの繰り返しだ。


「そうだ、写真の片づけは止めて…。」


思い出の呼び起こされる物品の片付けは危険だと思い、別の物の片付けに移行する。


「あ、これ大学の合格祝いにくれた時計だぁ~。」


また…思い出にふけってしまった。これではいつまで経っても終わらない。そうだ!


私は思い出の品々を金目の物(換金出来る物)と捨てる物に分けることにした。そうだ…勇樹は兎も角としても10年も赤の他人の私を育ててくれたこちらの両親には、少しでもお返ししておきたい。


「質屋と古着屋に行って買い取ってもらおう。」


私はその日から部屋の備品の分別を始めた。



逆異世界転移?のジャンルでいいのか、迷っています^^;

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