第七話「間違えたんですよ」
どうも、陽樹です。あんなことが遭ってから一週間が過ぎました。まだ昨日のように思う時がありますが、今の俺は元気です。
俺を救ってくれた子が居る。本当に天使のような子で、俺の方が年上のはずなのについついそれを忘れてしまう。
けど、そんな毎日が今では心の拠り所になっている。
あの子に甘えている時は、何も考えずに居られる唯一の時間なのかもしれない。
リィリアちゃん……どうしてあそこまでしてくれるのかは、今でも謎だ。彼女は人間じゃない。実は吸血鬼だったのだ。吸血鬼だから俺の血が気に入った、からなのかな? 例えそうだとしても、俺は彼女と一緒に居るのは嫌いじゃない。
今日も、休みなのだが前からとある約束をしていた。
待ち合わせをしているのだが、約束の時間より三十分早くついてしまった……あっ。
「リィリアちゃん? 先に着いていたんだね」
すでにリィリアちゃんが到着していた。待ち合わせの場所である公園の時計下に。
いつも可愛いが、今日は特別に可愛い。白をベースとしており、スカートのふんわり具合が可愛さと清楚さを感じる。髪型もいつもストレートヘアーなのが、ツインテールになっている。
肩から下げている小さめのバッグには、何が入っているんだろう? 財布と携帯ぐらいかな。
「今日が楽しみで、一時間前に到着しちゃった」
「いち!? えっと」
「あっ、謝らなくていいよ。わたしが勝手に早く到着しただけだなんだから。それにお兄ちゃんの走ってくる姿を見たかったから。なんて」
……危うく撃沈するところだった。なんて可愛く、いい子なんだ。まさか俺がこんな子と。
「さっ、早くデートしようよ。お兄ちゃん」
そう。今日はリィリアちゃんにデートに誘われたのだ。最初は、腑抜けた状態の時に軽く返事をしてしまったが、いざ当日となったら、緊張してどうすればいいか困惑した。
だって、私服とかあんまりいいのを持っていないし、デートも経験がない。そもそも幼馴染の好意にも気づけなかった俺にデートなんてできるのか!? てな。結局にやにやと笑っていた母さんにアドバイスをもらった。
普段通りの俺で行けば大丈夫だと。シンプルにシャツに上着、ジーンズといういつもの休日の格好で来たけど……。
「リィリアちゃん。俺、こんな格好だけど」
「かっこいいよ。お兄ちゃんは何を着てもかっこいいよ」
「う、うん。ありがとう」
まるで俺が言わんとしていることを先読みしての言葉。
が、俺は少しほっとした。
「今日は、わたしがリードするね。はい、手を繋ごうかお兄ちゃん」
本来なら男であり、年上の俺がリードするのだが。こればっかりはしょうがない。今日のところは経験するだけ経験し、次に生かそう。
次も、デートしてくれるかな?
「ふふ。お兄ちゃんの手、おっきいね」
「リィリアちゃんは小さくて可愛い手だね」
この手で、俺は頭を撫でられていたんだよな。撫でられている時は、不思議と大きくて包み込んでくれるような感じがしていたけど、こうして握ると、年相応の小さな手なんだなって実感するよ。
大人びていても、リィリアちゃんはまだ小学生なんだって。
「成長途中なんだよ? 将来はお兄ちゃんより大きくなっちゃうかも」
「それは……」
美人なリィリアか。高身長……モデル体型……いいかも。
しかし、リィリアちゃんはそのままの姿で。いや、深い意味があるわけじゃないんだ。
なんていうか、あまり綺麗になってしまうと俺が近寄りがたくなるっていうか。絶対周りの目が、ね。
「なんて。お兄ちゃんは、小さいわたしの方がいい?」
「え!? いや、その」
まさか心を読まれた!? まさかそんなはずは。でも、彼女は普通じゃない。もしかすると、そういう能力があるのかもしれない。
「あっ、お兄ちゃん。ここ。ここに入ろうよ」
焦っていると、とある場所に到着した。
ゲームセンターだ。
「わたし、ゲーム得意なんだ。友達ともよく遊びに来てるんだよ?」
「へぇ、そうだったんだ。そういえば、部屋でメイドさん達も交えてやったゲームでも負けなしだったもんね」
リィリアちゃんの家に遊びに行くのは甘えるだけではない。ちゃんと遊んでいたのだ。
リィリアちゃんの家には古いゲームから最新のゲームまでなんでも揃っており、意外とメイドさん達もノリノリだったというか、ガチで勝ちにくるので白熱したなぁ。
「よし! じゃあ、今日はリィリアちゃんに勝ち越してみせる!」
「負けないよー!」
「俺だって!」
デートというよりも、普通に遊ぶ感覚だがこれはこれで楽しいからよしとしよう。
・・・・
「……」
湊は、自室で静かに思考していた。
それは今の自分の状況についてだ。
「やっぱり、間違ってるよね」
それは今から二週間ほどまで遡る。
昔から幼馴染である陽樹のことが好きだったが、うまく気持ちを伝えられないし、伝わっていないと感じていた。
ある時をきっかけに湊は、引っ込み思案な性格を改善し、陽樹の世話も焼くようになった。
小さい頃は、本当に迷惑ばかりかけてきた。
その度に、陽樹や竜夜。他の人達に助けてもらってきた。
けど、今の自分は変わった。
そう……変わったはずなんだ。
(……でも)
落ち着かない。どうにも、落ち着かない。湊は、外出のために着替えて、目的もなくただ気持ちを紛らすために歩く。
ただただ歩いて、歩いて、歩き続けた。
「あれ? 陽樹君?」
とある喫茶店前に来たところで、窓際の席に陽樹の姿を見た。思わず身を隠し、観察してしまう。
どうやら一人のようだ。
(でも、陽樹君が一人で喫茶店に来るなんて)
昔から陽樹は、あまりこういう店に行かなかった。どうも落ち着かないらしく、コーヒーも缶コーヒー派だ! と断言するほどだ。
「何してるんだろ……私」
あんなことをしておいて、と。
「そうですね。いったい何をしているんですか? お姉さん」
「え? だ、誰あなた?」
これ以上観察するのはよそうと思った時だった。背後から白銀のツインテールが目をひく少女が話しかけてきた。
リィリアだ。
湊とは初対面なため、もちろん湊は警戒する。
「初めまして。リィリアと言います。あなたは湊さんで間違いないですよね?」
「そうだけど……どうして私の名前を」
普通に話しているだけのはずだ。それなのに、何か悪寒のようなものを感じている湊。
「実はわたし、陽樹お兄ちゃんとデートの最中なんです」
「で、デート!?」
誰かと来ているのかもと思っていたが、まさか……と改めてリィリアを観察する。
(明らかに小学生ぐらい、だよね)
「それで、陽樹お兄ちゃんから色々と聞きましたよ……ええ、色々と」
一歩、また一歩と近づいてくるリィリアに何故か恐怖を覚え、湊は身動きがとれず、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
そして、手が届く距離まで来たところでリィリアは。
「結論から申し上げます。湊さん……あなたは選択を間違えたんですよ」