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第十五話「涙。また」

お、お待たせしました。

いやぁ……色々と書き直していたら、時間がかかりました。


 俺は懐かしい夢を見ていた。

 それは小学三年の記憶。

 俺は、赤ちゃんの頃から湊と付き合いがあった。というか、母さん同士が仲が良かったため自然にな。


 湊は、昔から物静かで、赤ちゃんの頃はほとんど泣かなかった。

 小学校に上がるまでは、俺が近づけば怖がって離れていく。

 けど、小さい頃の俺は好奇心旺盛で、母さんからも仲良くしてあげなさいと言われていたのもあり、何度も何度も湊に話しかけた。

 その結果、小学校に上がった頃には、大体俺にべったりだった。

 

《ま、待ってよぉ、陽くん!》

《相変わらず湊は走るの遅いな、湊は》

《だ、だって早く走って、もし転んだら……》


 慎重というか、マイナス思考というか。

 積極的な俺に対して、湊は消極的。

 女の子の友達もできず、遊ぶ時も誘われたって逃げるように断っていた。


《転んだら、俺が助けてやるよ》

《ほ、ほんと?》

《おう! どんなに転んだって、俺が必ず、こうやってな!》


 湊の手を握り締め、笑顔で俺はそう言ったのだ。

 我ながらキザな言葉だった。


《えへへ。ありがとう、陽くん》

《当たり前だろ? 俺はお前の幼馴染なんだから》

《……ね、ねえ》

《ん?》

《陽くんは……わ、わたしと一緒にいて、楽しい?》

《なんで、そんなこと聞くんだ?》


 本当に俺は何もわからなかった。どうしてそんなことを湊が聞いてきたのか。


《だって、わたしってドジだし、トロいし、暗いし、地味だし》


 子供ながらよくそこまで自分を卑下できたものだと思った。

 

《皆も、わたしなんかと一緒にいても》

《てい》

《いたっ!?》


 このままでは、どんどん自分を卑下すると思った俺は、頭にチョップを入れた。


《それ以上言うと、嫌いになるぞ。いいのか?》

《だ、だめ! いや! いや! 嫌いにならないでぇ! 陽くん!!》

《じょ、冗談だって湊。ほら、泣くなって。よしよーし》


 マジ泣きだった。

 その後、俺は全力で頭を撫で、慰めたなぁ……。



・・・・



「……すう」


 俺は湊の部屋の前に居た。

 だが、前とは違う。

 今日は、事情を全て知り、本気で湊を元気付け、助けるためにここに立っている。

 薫子さんには、申し訳ないけど、下で待っていてもらっている。

 というか、飯を作ってもらっている。

 

「よし」


 気合いを入れ、俺はドアをノックする。


「湊。俺だ。陽樹だ」


 返事はない。けど、聞こえているはずだ。


「今の精神状態のお前に、これを言うのは酷だっていうのは理解している」


 ガタッと、部屋から物音が響いた。

 おそらく俺が言おうとしていることに察しがついたんだろう。

 

「だけど、俺はお前を救いたい。お前とまた話がしたい。だから」

「ーーーきくん」


 湊の声? 近い。まさかドアの前に?


「陽樹、くん。知っちゃったんだね……竜夜くん、から?」


 弱々しい声だ。

 喋るのもつらそうだ。


「ああ。知った。お前と竜夜のことを……でも、竜夜から教えて貰ったんじゃない」

「……あの子、だね」


 リィリアちゃんのことは覚えてるみたいだな。

 どうやって彼女も知ったのかを説明したいけど、今は。


「確かに、お前は俺のことを騙したのかもしれない。けど、あれは」


 ここから先は、現実味がない内容だ。湊も、竜夜に唆されたから。そして自分の意識の弱さが今の状況を作っていると思い込んでいる。

 この事実を信じてくれるかどうか……可能性としてはかなり低い。

 だけど、俺は言う。

 これが真実なんだと。


「あれは、悪魔のせいだったんだ。湊」

「な、にを、言ってるの?」

  

 予想通りの反応だ。でも、ちゃんと聞いてくれている。


「いいか。俺がこれから言うことは全部真実だ。とんでもない話かもしれないけど。聞いてくれるか?」

「……う、うん」

「この世には、本当に悪魔が居たんだ。そして、その悪魔は竜夜にとりついているんだ」

「竜夜、くんに?」

「竜夜に唆された時、竜夜以外の囁きみたいなものが聞こえなかった?」


 リィリアちゃんやレーニャちゃんから聞いた。

 悪魔は、催眠術をかけるようにとりついた者の声と交互に魔力を込めて囁くと。そうすることで、耳や脳裏に言葉を刻み込ませると。


「そういえば……」


 あったみたいだな。


「本当に信じられないことかもしれないけど。お前は竜夜を通じて、悪魔に暗示のようなものかけられていたんだ。判断が鈍くなるように。マイナスの方向にいくように」

「じゃ、じゃあ私は」

「ああ。悪魔の力で意思を歪められていたんだ」


 話した。湊に起こっていたことを。悪魔が湊の意思を歪めることで、意思を弱め、絶望する方向へと導かれていたことを。

 それを聞いた湊は、しばらく喋らなくなった。

 だが。


「陽、樹くん」

「み、湊!」


 部屋のドアが開いた。薄暗い部屋から髪の毛がボサボサで、目のクマがひどくて、立ってるのも危うい今の湊が。

 

「その、話が本当、だったとしても」


 ふるふると体が震える。

 そして、瞳から涙が。


「それ、でも……! 私は、陽樹くんにひどいことをしたっ。悪魔に唆されたかもしれない。でも……それでも!」

「湊!」


 掠れた声で叫ぶ湊を俺は抱き寄せた。

 細い。元々細かったけど、精神的に疲労して、食事もまともにとれていないせいで、余計に。


「もう、戻れないよ……私、陽樹くんの顔だって見られない! こうやって優しくしてもらう資格だって! 私みたいな馬鹿で、暗くて、自分の気持ちも偽るような女は、陽樹くんの側には!」

「……湊」


 どんどん自分を卑下していく湊を一度、引き剥がし、俺は。


「てい」

「いたっ!?」


 脳天に軽くチョップを叩き込む。

 

「は、陽樹くん?」


 突然のアクションに湊は、目を丸くしていた。


「懐かしいだろ? ほら、小三の頃にお前が自分のことを卑下するから、俺がこうやって」

「……うん。覚えてる。あの時、私は陽樹くんに嫌いになるって言われて、今みたいに大泣きしたんだよね」


 ああ、そうだ。

 昔から俺は、湊が泣くと頭を撫でてやったり、抱き締めたりもしていた。


「そんで、その時こうも言ったよな。お前が転んだ時は、俺がこうやって」


 ぎゅっと両手で小さな手を握り締める。


「助けてやるって」

「あっ……」

「誰にだって間違いはある。俺だって色々間違ってた。それに、元はと言えば俺がお前の気持ちに気づいてやれなかったのも原因のひとつなわけだし。しかも、お前達が付き合ったことを知って、勝手に関係が壊れた、なんて思ってしまったし」

「そ、そんな。陽樹くんは何も悪くないよ。ひどいことをしたのは、私なんだから」

 

 そう、誰だって間違うことはある。だって、完璧な奴なんていないんだ。

 

「……確かに人は間違ってしまう。けど、やり直せることだってできる。生きてやり直すことが」

「で、でも」

「すぐにってわけにはいかないかもな。高校生の俺が言うとあれだけど。人生はそう甘くはない」


 俺の言葉に同意するかのように湊は俯く。

 

「湊は、どう思ってるんだ?」

 

 真っ直ぐ、目を見詰めて、俺は問い掛ける。

 湊は、視線を外すが、俺の意識に応えるようにゆっくりと前を向いた。


「私は……」

「どうしたいんだ?」


 迷っている。彼女の頭の中で、心の中で、ぐるぐると色んな感情が暴れているのがわかる。

 だが、俺は決して視線を外さない。

 湊の言葉を、意思を聞くまでは。


「……私は」


 ぎゅっと唇を噛み締め。


「私は、また陽くんとお喋りがしたい!」


 静寂を破った。


「一緒に学校に登校したい! 一緒にお弁当を食べたい!! 一緒に遊びたい!!!」


 今まで溜め込んできたものを吐き出すように。感情のままに湊は叫び続ける。近所に響いているかもしれない。

 だが、それでも湊は止まらない。


「一緒に……一緒に笑顔でいたいよ……陽くんと一緒に!!」

「俺もだ」


 再びぎゅっと抱きしめる。

 すると、更に感情が爆発したかのように泣きじゃくる。子供のように、俺にしがみついて。

 しばらく湊は泣き続けた。その間、階段のほうを見ると薫子さんが立っていて、貰い泣きしていた。

 

(あれ? さっきまでリィリアちゃんが居たはずだけど) 


 約束通り一緒に来てくれていたリィリアちゃんがいつの間にか姿を消していた。

 もしかして、こっちは俺に任せて、竜夜の。悪魔の捜索に行ったのかな?


「……ぐす」

「落ち着いたか?」

「うん……ご、ごめんね。服が」


 いっぱい泣いて、落ち着いた湊は、俺の服の現状を見て謝ってくる。


「あはは。涙と鼻水でびっしょりだな」

「……ねえ、陽くん」

「ん?」


 まだ何か言うことがあるのか? よし。今日の俺はどんな話だって聞く準備ができてる。

 どん! とくるんだ湊。


「こんな私だけど……」


 そこまで言って、言葉が詰まる。やっぱり体調が悪い時にいっぱい喋らせたせいで、声が枯れたのか?

 心配していると、静かに笑みを浮かべながら目を閉じる。


「湊?」

「また、幼馴染として仲良くしてくれる?」


 なんだそんなことか。


「もちろんだ。そんなの当たり前だろ?」

「えへへ。ありがとう、陽くん」

「ところで、湊。いつの間にか陽くんって呼んでるぞ」

「あわわっ!? つ、つい」

「いや、懐かしいなぁ。いつから呼ばれなくなったんだっけか?」

「えっとーーーあっ」


 調子を取り戻したところで、ぐう~と腹の虫が激しく鳴いた。


「よし! 薫子さんが食べやすくて栄養のある料理を作ってくれてるから、食べに行こう!」

「う、うん」


 と、湊を立ち上がらせようとするが。


「わわっ!?」

「おっと」


 さすがにふらつくか。

 だったら。


「よっと!」

「ひゃっ!?」


 久し振りに湊を背負ったな。最後に背負ったのは小五だったか?

 やっぱりあの頃とは全然違うな。

 体つきがしっかり女として成長している。


「あ、ありがとう陽く……陽樹くん」

「別に陽くんでもいいんだぞ?」

「ちょっと、恥ずかしい……」


 うん。元に戻ってきてる。よかった……本当に。


「……もう間違わない。これからはもっと素直に」

「ん? なにか言ったか?」

「ううん。何でもないよ、陽くん」


 何か言ってたような気がしたけど……まあ、何はともあれ、湊を救うことができた。

 リィリアちゃん。俺、やったよ!

 さあ、後は……元を叩くだけだ。

とまあ、こんな感じの展開になりましたが……ど、どうですかね?

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[良い点] 全然ありです!!
[気になる点] でも、お古じゃん、中古女はヒロインではないよね?
[良い点] inじゃねぇの?
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