第十二話「それでも」
「あっ、おい!」
「えっと、君は確か、バスケ部の」
今日は、昂がテストでひどい点数をとってしまったので、居残ることになってしまった。
いつ終わるかわからないから、先に帰っててくれと言われてるので、一人で帰ろうとした時だった。
よく竜夜と一緒にいたバスケ部の一人が話しかけてきたのだ。
「なあ、お前さ。竜夜のこと何か知らないか?」
やっぱりそのことか。
「今日、湊の家の前で会ったけど」
そういえば、学校にはちゃんと通ったのかな? 教室を確認したけど居なかった。
クラスメイトに聞いても、今日も見かけないと言われる。
「何か言ってなかった?」
と、角刈りの部員が問いかけてくる。
「野暮用とかって言ってたけど、それ以外は何も」
「そうか……湊ちゃんもまだ登校してないんだろ?」
「まあ、うん」
「あの二人、大丈夫なのか?」
湊の方は、少し持ち直した、のかもしれない。でも、竜夜のほうは……。
「ともかく、何かわかったら教えてくれ! あいつはバスケ部の期待の星なんだ!」
と言われても、連絡しても返事は一切返ってこない。
あの時、もっと話を聞いておくべきだったな……。
昔は、かなりやんちゃで、俺によく突っかかってきたけど、いつからあんな風に変わってしまったんだ。
やっぱり、俺が湊の気持ちに気づかないことに苛立ち、それが積み重なって。
「ん? あれは」
今日は借りたDVDを返すために、いつもとは逆の道を歩いていた。すると、偶然にも竜夜の姿を発見。
だが、そこに居たのは竜夜だけじゃなかった。
明らかに柄の悪い男達と一緒に居たのだ。
「あいつ……」
まさか学校をサボってやばいことを。
気になった俺は、移動する竜夜達を尾行することにした。少なくとも、何をしているかだけでもわかれば。
俺に何ができるかはわからない。
それに竜夜は、明らかに俺を敵視している。湊の家で会った時は、特に何も反応がなかったけど。
気のせいでなければ、静かにだが、敵意のようなものを感じたんだ。でも、その敵意は何か違和感のようなものがあって……。
「商店街に入ったか」
このまま気づかれないように。
「陽樹お兄ちゃん?」
「ふお!? り、リィリアちゃん?」
今頃はいつものところで待っているはずなのに。どうしてこんなところに?
しまった。竜夜は!?
「いない……ご、ごめん。ちょっと待ってて!」
少し視線を外しただけなのに、竜夜と男達の姿がなかった。俺は、確認をするためさっきまで竜夜達が居た場所へ移動し、辺りを見渡す。
「……見失ったか」
あの一瞬でどこに。この辺りは店が多いけど。それとも俺の尾行に気づいて、どこかの路地に?
「ごめんなさい。なんだか邪魔をしたみたいで」
俺の反応にリィリアちゃんは、しょんぼりとしてしまう。
「い、いいんだよ。リィリアちゃんは悪くないから。それよりも、どうしてここに?」
「移動の途中でお兄ちゃんを見かけたから、待ってるよりは誘った方が早いかなって」
なるほど。道路の方を見ると、いつも乗っている車が停まっているのが確認できる。
「それで、何をしてたの? かくれんぼってわけじゃないよね?」
「……実は」
・・・・
「よう。お前が俺に会いたいって奴か?」
「ああ。で? 本当なんだろうな。俺が欲しがってる情報があるってのは」
「ああ。もちろんだ」
もう誰も使っていないような古びた倉庫。
そこには、一般的に不良と呼ばれる者達が集まっている。そんな場所に竜夜は立っていた。
「さっさと寄越せ」
「おいおい。ただで寄越せってのか?」
「……ほらよ」
帽子を深々と被った男に、竜夜は黄土色の封筒を渡す。
その中身を確認した帽子の男は、一枚の写真を渡した。
「こいつが?」
「ああ。そうだ」
「こんな子、この辺りに居たか?」
竜夜は、写真を見詰め眉を顰める。
「二次元の画像をプリントアウトしただけじゃないのか?」
そう思った竜夜だったが、もう一度確認したところ。どこかで見たことがあるような気がしてきた。
「そんなことはない。俺は、真実しか教えないからな」
「それも本当か。怪しいところだな……」
とはいえ、自分なりに探してみたが成果はなかった。
だからこそ、こんな怪しい奴に頼ることになってしまったのだ。
「それで? その子が、本当にあんたが思っている通りのことをしていた場合……どうするんだ?」
その問いに、竜夜はにやりと笑みを浮かべる。
「当然報いを受けてもらう。俺の大事なものを傷つけたんだからな!」
突然の豹変っぷりに帽子の男は愉快に笑いだす。
「ハッハッハッ! いい表情じゃねぇか。今のお前は悪魔に見えるぞ!」
「そうかもな。昔から頭で囁くんだよ……欲しいものがあるなら何をしても奪えってな」
「なんだ? 悪魔にとりつかれてるのか?」
「冗談。悪魔なんて、この世に居るわけないだろ? それよりももっと詳しい情報をくれ」
「あいよ」
その後、写真をポケットにしまい、払った分だけもっと詳しい情報を聞き出す竜夜であった。
・・・・
「なるほど。だから隠れていたんだね」
「うん。あいつ、本当に危ないことをしてないだろうなって」
リィリアちゃんと出会った俺は、車に乗ってそのまま会話をしていた。竜夜のことは気になるけど、今はどうしようもない。
「お兄ちゃんは、やっぱり心配? その人ってお兄ちゃんにひどいことを言った人だよね?」
「まあ、そうだけど」
だとしても、やっぱり気になってしまう。
色々と変わってしまったけど、それでもあいつと過ごした日々はまだ記憶に残ってるし、忘れようにも忘れられない。
「今やってることが本当に間違ったことなら……止めてやりたい」
「お兄ちゃんは、本当に底無しに優しいね。お人好しすぎるよ」
「あはは……」
確かに、あんなことが遭ったのに、二人のことを心配してるんだもんな。
「でも、そんなお兄ちゃんだからこそわたしは好きになった」
「へ? あ、うん。いやー、ははは」
不意討ちだぁ……! リィリアちゃんってそういうことさらりと言うんだもんな。
気持ちを知ってるから、余計にドキドキするんだが。
「ねえ、お兄ちゃん」
「な、なんだい?」
まさかまだ俺をドキドキさせることを。
「真実を、知る勇気はある?」
「真実?」
いつも以上に真剣な表情に、俺はごくりと喉を鳴らした。




