プロローグ
幼馴染をざまぁしたり、幼馴染を甘やかすものが溢れているので、自分なりのオリジナルで投稿なう。
「え? い、今なんて?」
俺は、唖然としていた。
目の前には、俺の二人の幼馴染が腕を組み合っているのだ。
一人は、悪友とも言える男、竜夜。
はっきり言ってイケメンだ。若干ちゃらいところはあるが、イケメンの部類に入る。
バスケ部に所属しており、かなりの腕前で先輩からも期待されている。
そして、もう一人が栗色の長い髪の毛がよく似合うロリ体型だが、胸は大きく腰は細い。抜群のプロポーションの女の子。
名前は湊。
いつでも気兼ねなく話せて、竜夜とも仲がよく、並んで歩くと絵になるとも言われている。
そんな二人から俺に告げられた言葉が、俺を唖然とさせた。
「だからよ。俺と湊な? 付き合うことになったんだよ。な?」
「うん。だから同じ幼馴染として陽樹には言わなくちゃって」
ずっと、ずっと続くと思っていた幼馴染の関係。
それが今終わった。
いや、終わらないか。別に二人が付き合っても……うん。
「そ、そうか。えっと……お、おめでとう」
動揺しつつも祝福の言葉を言った俺に、竜夜が近づいてきてそっと耳元でこう呟いた。
「ざまぁないな、陽樹」
「え?」
「気づいてなかっただろうが、湊はお前のことが好きだったんだぜ?」
は? え? 湊が、俺を?
そう聞いた瞬間、嬉しさが込み上げてきたが、それはすぐに収まった。そう、だって湊は竜夜と。
そっか……だから。
「ま、湊は俺が幸せにしてやるよ。じゃあな」
勝ち誇った表情で去る竜夜。
再び唖然としている俺。
「……」
最後に、湊は別れの言葉を告げずに去っていく。遠退く……二人との距離が。
物理的にも、絆的にも。
「そういえば、今思えば思い当たるところがたくさんあったな」
俺の脳裏に走馬灯のように流れる映像。
それは、湊が俺にアプローチしてきたものだった。毎日のように家まで迎えに来たり。
俺にだけお菓子を作ってきたり。腕を組んできたり。俺が鈍感なばかりに気づいてやれなかった。いや、俺のことが好きだったらそっちから……って、今更か。
本当は期待していたんだ。
湊は誰にも優しかったけど、特に俺には色々と世話を焼いてくれていた。今日だって、湊から一人でこの場所に来てと手紙を貰った時は、告白か!? なんて期待しながら移動していた。
それがどうだ? 目的地に到着したら、そこには湊だけじゃなくて竜夜まで居たんだ。いやな予感がしたけど、案の定だった。
それにしても、あそこまで言うか? 俺だって、二人が付き合うなら祝福したさ。ちょっと悔しいけど。竜夜の奴は若干性格に難があったけど、あそこまでだったとは……幼馴染と言っても、知らないことがたくさんあったんだろうな。実際、湊の好意や二人の関係があそこまで発展していたなんて知らなかったし。
恋愛というのは難しい。人ってこんなにも難しいことを今までやってきたんだな。そりゃあ、恋人ができたら自慢するよな……はあ。
それからの俺は、考え事をしながら歩き続けた。人にぶつかったり、こけそうにもなったけど、俺は歩き続けた。
「あれ?」
気がつくと草木が生い茂る森の中に居た。
いつの間に……やばいどうしよう。
スマホを確認しても圏外だし。なんだか霧まで出てきた。
「とりあえず、霧が晴れるまで動かないようにするか」
こういう時は無理に動かないほうが良い。
霧が少しでも晴れてから動く。
道に迷っているのに、これ以上迷うなんてことがあったら、帰れないかもしれないからな。丁度良いと頃に腰を下ろせる切り株があった。
そこに座り込み、再び空を見上げる。木と霧のせいであまり見えないけど。
(明日からどうしようか……)
俺の脳裏には、先ほどの出来事が繰り返すように再生される。あんなことがあった後だ。学校で会ったら、平常心でいられるかな。
いや、二人はおそらく俺のことなんて気にもせずにイチャつくだろうな。
「寒いな……」
まだ五月だって言うのに、冬並みに寒く感じる。
気のせいかもしれないけど。
体も、心も冷え切っている。
あぁ……なんでこんな時に、あの二人との楽しい記憶が頭に流れてくるんだ。走馬灯、というわけじゃないよな。別に二人との関係が変わったからって、死のうとは思っていない。
ただ、いつの間にか俺達の関係が変わっていたことに気づかず、それを見せ付けられた現実から逃げようとしているだけなんだ。
まるで、暗闇に一人。
どこまでもどこまでも深い闇の底へと落ちていく感覚。や、やばいこのままだと凍え死にそうだ。ちょっと体を動かして……ん? なんだ温かい。
頭を撫でられる感覚。
すごく小さいけど、温かい。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
顔を上げると、そこには小さな女の子が心配そうな表情で俺の頭を撫でていた。
いつの間にか夜になっており、月光に照らされたその姿は思わず見惚れてしまうほど美しかった。
日本人とは思えない白銀の髪の毛に、真紅の瞳。
ふわっとしたスカートと一体となった服についているリボンはまるで蝙蝠のように見える。
「元気ないね。何か、悲しいことでもあった?」
「え? あ、えっと」
突然のことで、俺はうまく返事ができなかった。というか、俺幼女に撫でられている。幼女に元気がないってわかられるほど負のオーラを出していたんだろう。
「元気がないなら、わたしがよしよししてあげる」
もうすでにされているんですが。
そう思った刹那。
顔に柔らかい感触が。小ぶりだけど……こ、これはまさか!?
「よしよし。元気になーれ、元気になーれ」
見知らぬ幼女の胸に俺の顔が!? というか、なんだこの状況は。元気付けてくれるのは嬉しいけど、普通見知らぬ男の頭を撫でたり、自分の胸に抱き寄せるか?
でも、なんだかこれ……温かい…………はっ!?
「ちょ、ちょっと待って!」
このままでは眠ってしまいそうだったが、ハッと我に帰り幼女から離れる。
「どうしたの? あっ、もしかして頭を撫でられるの嫌だった? ご、ごめんなさい」
あぁ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ……!
「君は何も悪くないんだ。むしろ悪いのは俺で」
「お兄ちゃんが? なんで?」
なんでって言われても。
「こほん……えっと、どうして俺なんか励ましてくれたんだ? 嬉しかったけど」
「だって、お兄ちゃんから悲しいオーラが出てたから」
「悲しいオーラ、ね……」
マジでそんなものが出ていたのか、俺。うわ、恥ずかしい……今になって恥ずかしくなってきた。もしかしたら、ここまで来る中で通り過ぎていった人達にも見えていたんだろうか。
「それに、ここに来れたんだったらお兄ちゃんは悪い人じゃないよ」
「どういう、こと?」
「えっとね……あっ」
ん? なんだ、俺の顔をじっと見て。
どんどん近づいて……ちょ、ちょ! 近い! 近過ぎます!? このままではキスの距離に。
「ぺろ」
「ひっ!?」
キスではなかったが、体に電流が走るほどの行為だった。いつの間にか頬を切っていたらしく、固まっていた血の部分をぺろりと舐めたのだ。
「……」
「あ、あの」
どう反応していいかわからず、困惑していると幼女さんは突然にっこりと満面の笑みを浮かべて、手を差し伸べてくる。
「お兄ちゃん」
「は、はい」
「わたしの家に案内してあげる」
……なんで?