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怪Ⅹ物語  作者: 風風風虱
怪Ⅱ(に)
7/17

深夜にそれは目を覚ます 3

 早朝。

 よれよれの服を着た男が警察署を後にする。

 その男の後ろ姿を2階の窓から見つめる1つの視線があった。


「浜辺警部。いいのかね? あのまま釈放してしまって」


 名を呼ばれ振り返った男の前には警察の制服を着た初老の男がいた。小柴区警察署の署長である。

 

「仕方ないです。というか、あの人は関係ないでしよう」 

「そうなのかね。池からなにかが、(マル)がいを引き込んだなんて支離滅裂な証言をするなんて怪しすぎるだろう。なにか隠しているとしか思えないがね」

「なにかを隠そうとしていたのなら、もっとまともなものを考えます。

それを考えること能力のあることは署長も理解していますよね?」

「まあね。初めて名前を聞いたときには我が耳を疑ったよ」


 署長は肩をすくめた。浜辺はなにも言わずに腕時計に目をやると静かに言った。


「そろそろ捜査会議の時間です」


 浜辺警部と署長が「小柴公園殺人事件捜査本部」と筆で大書された紙が張り出された戸をくぐると、部屋で待機していたい捜査員たちが一斉に起立した。浜辺警部は手で皆に着席するように促し、自席に腰かける。それを合図にホワイトボードの横に立っていた若い捜査員が口を開いた。


「それでは、捜査会議を始めたいと思います」

「今一度経緯と事実関係を説明してくれ。奇妙なヤマだからな、捜査員一同の認識を同じにしておきたい」

「分かりました。

事件の発端は2日前の23時41分の通報です。通報したのは今野こんのかおりさんです。

香さんの友人である和泉いずみ里美さとみさん(23歳)からの和泉さんの友人である加山かやま陽介ようすけさん(26歳)が池に落ちたので助けてほしいという電話が掛かってきたが、途中で通話が切れてしまった。心配なので様子を見てほしい。というものでした。

今野さんの話から小柴公園であると特定し、ただちに最寄りの派出所に連絡。警官二人を現場の確認に向かわせています。

警官の現着げんちゃくは記録によると0時14分です。

現場の捜索を始めてすぐに二人は、和泉さんの携帯電話を発見しています。

電話の落ちていた場所は池から15メートルほど離れた、ここです」


 男はホワイトボードに貼ってある公園の見取り図の赤い×(バッテン)を指さした。


「池の表面を探っても何もありませんでしたが、事件性ありと判断し、レスキュー隊を呼んで、池の捜索を開始しました。

1時57分。レスキュー隊が女性の下腹部の断片を発見します。

ヘソ下から股のところの部位です。両足は大腿部の半分ぐらいのところで切断されていました。切断面の様子は鋭利な刃物ではなく大型動物に噛みちぎられたようとのことです。

DNA鑑定の結果、和泉里美さんのものと判明されました。その後のレスキュー隊の捜索で、更に幾つかの人体の断片が見つかっております。

その中の一つ。

二の腕の一部と思われるものがDNA鑑定で同日池に落ちたと思われる加山陽介さんのものと判明しております」


 そこまで説明すると男は言葉を切った。捜査本部に詰める捜査員の誰一人として声を出すものはなかった。


「まるでジョーズだな。

池に巨大なサメでもいて、落ちた二人を食い散らかしたとでもいうのか?」


 浜辺警部は重苦しい空気を覆そうとややおどけた風に言ったが、捜査本部は逆に余計に重苦しい雰囲気になった。


「うむ、あーー、合理的な解釈をするならば二人は殺害されたのちバラバラにされて池に投棄されたと考えるべきだが……?

坂木(さかき)くん、その辺をどうなのかね?」


 警部はそこまで言うとホワイトボード前の男方へ目を向けた。


「生活反応がありましたから、殺害されてからバラバラにされたということはないと思います。

和泉さんが知人にかけた電話で、加山さんが池に落ちた、といっていますので、その点からもその可能性は低いと思います」

「じゃあ、やはりジョーズの仕業なのか?

問題の池にそんな危険生物はいなかったんだろ?」

「はい。池と言っても住宅地にある公園の池です。

長径30メートル、短径20メートル、深さ10メートル程度の広さでは人を食い散らかせるような生き物が生息できません。

溜め池なので海や近くの河川から迷いこんでくるようなルートもないです」

「全く理解に苦しむ事件だ」


 浜辺警部は吐き出すように呟く。すると隣に陣取っていた署長が身を乗り出してまくし立て始めた。


「だからさ、ボクは彼が手がかりを握っていると思うんだよ、彼がさ!」

「彼というのは(はやし)正吾(しょうご)さんのことですか?」


 警部は少しうんざりしたような表情になった。


「あの人は単に目撃しただけで事件には関与していないということでけっちゃくしています」

「たってさ、彼はなにかが女、つまり、和泉さんを池に引きずりこんだ、なんてデタラメなことを言っているんだよ? 怪しいじゃないか。絶対なにかを隠しているんだよ!」

「先程も言ったと思いますが、隠したければなにも言わなければ良いのです。それなのに彼は見たことを話した。そこになんの作為もないと自分は思います。

加山さんが最初に池に落ちた後、電話で助けを求めていた和泉さんが急に倒れて、池に引きずりこまれた。この証言自体に矛盾は見当たりません」

「では君は、池にジョーズみたいな生き物がいて、二人を池に引きずり込むなんて馬鹿げた話を信じるのかね?

だとしたら、その化け物の正体は一体なんだというのだ? そんな生き物、聞いたこともないぞ」


 たしかにそう、それが一番の問題だ


 浜辺は署長の反論へ返す言葉を持っていなかった。

2022/03/04 初稿

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