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怪Ⅹ物語  作者: 風風風虱
怪Ⅱ(に)
13/17

深夜にそれは目を覚ます 9

 男を跳ね飛ばしたゴミ収集車は急停止した。停車したが、運転手が出てくるわけでもなかった。奇妙な沈黙の後、収集車はゆっくりとバックし始めた。

 甲高いバック時の警報が暗く細い夜道にこだまする。

 ゴミ収集車は地面にボロ切れのように横たわる男の前で止まった。背面のゴミ収集の扉が開くと奥から細長い触手がうねうねとのたくりながら現れる。触手は男を絡みとるとゴミの投入口に放り込む。軋んだ音と共に板が動いてすぐ血まみれの男は収集車の中へと姿を消した。


 グチュリ 


  ズリズリ


 なにかが破裂し、擦り潰される不快な音がゴミ収集車の中から漏れ聞こえてくる。が、それもすぐに聞こえなくなった。


 ゴオオオオ


 収集車は再び走り始める。

 次を獲物を求める野獣のようにタイヤを軋ませ、角を曲がり、夜の闇に溶け込み、ずくに見えなくなった。



 待ち合わせのファミレスで青山を待っていた。時刻は夜の10時を回っていた。当初の約束は8時だったが、なかなか抜けれなくついさっき3度目の遅刻のメールが届いていた。ため息をつきつつも大江は待つことにする。こちらから無理に頼んでいるし、今後の記事の執筆にはどうしても青山からの情報が必要だったからだ。


「24時間営業のファミレスをチョイスしておいて本当によかった」


 大江はつぶやくと、コーヒーを注文した。手もちぶたさ()に大江はノートパソコンを開くと宝船新社の編集長が送ってくれた都市伝説のサイトにアクセスした。


 人喰いゴミ収集車


 なにかネタになるものはないかとサイトを漁っていた時、そんな単語が目に留まった。


『人喰いゴミ収集車

 深夜に街を走るゴミ収集車が、夜な夜な人を轢き殺すという話

 人を轢き殺した後、黒い服を着た清掃員が出てきて死体を収集車に放り込んで去っていくバージョンとゴミ収集車自体が化け物で死体を貪り喰うバージョンの2種類存在する

 前者は、不要な人を削除する行政府の陰謀とするもの。後者は、古いゴミ収集車が付喪神となったとする

 どちらを話すかでその都市伝説を語る人の指向(=潜在的な恐れ)が分かる


* 付喪神 

 古くなった器物が妖怪になったもの

 一説に百年大切にされた道具は神になれるが、百年に満たずに打ち捨てられ、神になり損ねた器物がそれを恨んで妖怪になって人に危害を加えると言う

 つくも神とも九十九神とも書く』


 と、書かれていた。


「人喰いゴミ収集車ねぇ」


 大江は昨日見かけた暴走収集車を思い出した。そして、公園の池からゴミ収集車が現れるのを妄想する。あるいは下水道の暗闇を照らす獰猛な獣の(まなこ)のようなヘッドライトの光だ。

 コン、コンとガラスを叩く音がした。妄想の沼から引き上げられた大江は顔を上げる。窓の外に青山の姿があった。




「悪いな、忙しいところ呼び出して」

「ああ、全くだ」


 青山は倒れこむように椅子に腰かけると言った。目の下の隈が掛け値なしに疲労を物語っていた。


「寝てないのか?」

「ああ、なかなか忙しくてね。寝る暇も飯を食う暇もない」


 スパゲッティを注文すると青山は大江を睨み付けた。

 

「まったく適当なこと書きやがって。なにが下水道にダイオウイカが棲みついている、だよ」

「いや、俺はダイオウイカなんていってないよ。ダイオウイカぐらいの巨大なイカかタコのような不明生物(U M A)がいる可能性を示唆しただけだ。個人的には巨大なタコじゃないかって思っている。タコなら擬態できるから下水道に潜んでいてもなかなか見つからないだろう?」

「ぬかせ! ああ、お前はいいよな、適当なことを面白おかしく書いていれば金になるんだから」

「ならば、プロの見立てっていうのを教えてくれよ。事件の犯人像はつかめているのか?」

「守秘義務がある……と言いたいところだが、ぶっちゃければ話せることが何もないってのが本当のところだ。下水道とかもう何度も調べているがなにも出てこない。服の切れはしも髪の毛一本もな。まったくお手上げさ」


 青山は両手を上げて降参の姿勢を取った。そんな青山を探るような目で見つめる大江は意を決したように口元を引き締めた。


「ここ最近の捜索願い届けを調べてみたんだ」


 腹の探りあいをしても時間の無駄と判断した大江は持っている1枚きりのカードを切ることにした。


「2週間くらい前から異様に増えている。

家を出たっきり行方不明になる人間が後を立たない」

「そりゃ、この町もそれなりに大きいからな。毎日行方不明者の1人、2人でてもおかしくはないよ」

「人数の問題じゃない。ここ最近の数の増加が問題なんだ。2週間前に比べると届け出の数は倍以上になっている。そいつの数にはこの間の大量失踪事件の人数を含めていない状況でだ。これは明らかに異常だとおもわないか?」

「それでダイオウイカの登場か?

いや、タコなのか?」

「茶化すなよ。お前も、いや警察も感じているんじゃないのか? この町になにか得体のしれないものが潜んでいるって」

「ノーコメントだ」

「最近、夜になると町の雰囲気が変わるって話を聞いたことないか?」


 答えを渋る青山に大江は言葉を重ねる。


「生き物には夜行性ってのがいるんだよ」

「夜行性?」


 青山の眉がピクリと動いた。

 

「生き物って大抵夜に行動するだろ?

今回の奴も夜になると行動する習性があるんじゃないかとボクは踏んでいるんだ。

公園の事件は夜に起きている。マンションのだって時間的には夜に起きているんじゃないのか?

夜に町の雰囲気が変わるのはそいつが動き出すからじゃないかと思っている」

「思っているってだけでお前はいいんだろうが……俺たちはそれだけじゃあ動けんのだよ」


 青山は一言つぶやくとそれっきり黙り込んだ。1分ほど気まずい時間が流れた後、ようやく口を開いた。


「まあ、でも、夜行性ってのは面白い考えだな。そもそも俺たちが相手をしているのが謎の生き物って決まったわけじゃないが、とりあえず未知の生き物だと仮定するなら、昼間はどこか目立たないこところでじっと隠れている可能性もないわけじゃない。だから昼間はいくら探しても見つからないっていうのもそれなりに説得力はある」


 突然立ち上がると青山は言った。


「分かった。今から署に戻って、捜索の準備をする」

「おいおい、今からって……。もう日が変わるぞ」

「明日、いや、もう今日か。

なんにしても今日の夜には調べられるようにしたいんだ。

悪いな。

じゃあ、そういうことで!」


 青山は一方的に宣言すると、駆け足で外に飛び出した。


 青山は外に出るとすぐに浜辺警部に電話をかけた。


「ああ、自分です。青山です。

警部、今どこにおられます? ご自宅ですか?

まだ署ですか。そうですか……

いや、実は思いついたことがありましてすぐに相談したいのです。

今から戻るので、少し待っていてもらえないでしょうか?」


ズズズ


 電話に夢中になっている大江のすぐ横のマンホールの蓋が僅かに浮き、横にずれていく。


「えっ? えっと電話で話すのはちょっと……」

 

 青山はそんな異変に気づくことなく話しつづけた。蓋はずるずると横に移動し、やがてマンホールの下から『それ』が姿を現した。




「お待たせしました」


 半分腰を上げたままの青山を見送る大江に声をかけたのはウェイトレスだった。手にはスパゲッティの皿を持っていた。青山が注文した一品だった。


「あ、ああ、ありがとう」


 毒気を抜かれたように大江は椅子に座り直し、置かれたスパゲッティをどうしたものだろうかと、じっと見つめた。


「まあ、残すのもなんだよなぁ」


 ため息をつきながらフォークにスパゲッティを絡めると一口頬張った。


ドガッ!


 大きな音とともに目の前の窓ガラスになにかが激しくぶつかった。驚き窓を見る大江。その視界に飛び込んできたのは……




 それは血まみれなった青山だった。


2022/04/15 初稿

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