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問題発生

 街道から少し離れた場所にある岩山の奥に、ぱっと見では気づくことができない洞窟があった。その洞窟にアルフェルド皇子はなんの躊躇もなく入っていく。私とカイゼルは戸惑いながらもアルフェルド皇子に続いて中に入っていった。

 洞窟の中は松明が所々置かれていたことで思ったほど暗くはない。さらに兵士も数名配置されていた。

 そのまま少し入り組んでいる洞窟を歩いていくと、突然開けた場所に出たのだ。

「っ!」

 私はその光景に目を瞠った。なぜならそこには、傷ついた大勢の兵士が寝かされていたのだ。さらにその兵士達を看病するように侍女達が忙しなく動いている。

「アルフェルド皇子、これは一体……」

「疑問は分かるが、まずはこちらへ」

 困惑の表情を浮かべながら問いかけると、アルフェルド皇子は私の手を取り歩くように促してきた。とりあえずここはアルフェルド皇子についていくことにし、カイゼルと共にさらに奥へ進む。

 すると金糸で彩られた紗幕の前までやってきたのだ。

「ビクトル、すまないがここで待っていてくれ」

「……わかりました」

 アルフェルド皇子の指示にビクトルは少し考えてから頷いた。

そしてアルフェルド皇子は、紗幕を腕で押し広げ中に入っていく。当然手を掴まれている私も一緒にその中へ。

「っ!」

 思わず息を詰まらせる。

 そこには褐色の肌に黒い髪と髭を生やした五十代後半ぐらいの男性が、柔らかそうな布団に横たわっていた。しかし頭や腕、さらには上半身に包帯が巻かれとても痛々しい姿だった。

「父上」

 アルフェルド皇子はそう呼ぶと、傍らに膝をついて顔を覗き込む。その声に男性はゆっくりと瞼を開け赤い瞳を現す。

「アルフェルドか」

 そう呟き身を起こそうとしてきたので、アルフェルド皇子は慌ててその肩に手を置きそれを止める。

「怪我に響きますのでそのまま寝ていてください。……カイゼルにセシリア、こちらに来てもらっていいかな?」

 私達は頷くとアルフェルド皇子の隣に並ぶ。

「父上、ベイゼルム王国のカイゼル王子とセシリア嬢です」

「おお、そなた達か。しかしこのような姿で再び会うことになろうとはな。すまぬな」

「いえお気になさらず。それよりもその怪我は……」

 カイゼルは、気遣いながらクライブ皇の体に視線を向けた。

「情けないことに賊にやられた」

「賊!?」

 カイゼルは目を見開いて驚く。

「詳しいことは後で話すが、王宮が賊の襲撃に合い占拠されてしまった」

「「なっ!!」」

 アルフェルド皇子の話に、私とカイゼルは同時に驚きの声を上げた。

するとクライブ皇は悔しそうに顔を歪め、手を強く握りしめる。

「くっ、やはりこんなところで寝てはおれん! 今すぐ王宮に行き皇妃達を助けねば!くっ」

 そう声を上げると、クライブ皇は再び起き上がろうとした。しかしすぐに包帯の巻かれた胸を押さえ苦痛の表情を浮かべる。

「父上! 動かれては傷口が開きます! 母上達のことは私に任せて、父上は傷を治すことに専念していてください」

「……わかった。アルフェルド頼んだぞ」

「お任せください」

「微力ながら私も協力させていただきます」

「私もです!」

 カイゼルに続き私も身を乗りだして協力を申し出る。

「二人共……ありがとう」

「ふっ、やはりアルフェルドが見初めただけのことはあるな。普通のお嬢様と違うようだ」

「ええ、とても素晴らしい女性です。今口説き落としているところですので、すぐにセシリアとの結婚式を父上や母上にお見せいたしますよ」

 アルフェルド皇子はそう言って私に向かって妖艶な笑みを向けた。

「アルフェルド皇子……」

(いやい、やまるで決定事項のように言わないで。そしてカイゼル……笑みが怖いから!)

 クライブ皇の手前、敢えて口には出さないようにしているが、カイゼルは似非スマイルを浮かべながらも背後から黒いオーラを漂わせていたのだ。

 そんな二人に内心呆れていると、アルフェルド皇子がスッと立ち上がった。

「父上、私達は別の部屋で話をしてきますので、ゆっくり休んでください」

「ああ、わかった」

「では二人共、こちらへ」

 私達は頷くと、クライブ皇に辞する言葉を述べて部屋を出た。そしてビクトルを呼ぶと軽く状況を説明してから、アルフェルド皇子の案内で別の紗幕で仕切られていた部屋に入っていく。

「狭い所だが座ってくれ」

 アルフェルド皇子に促され、私達は絨毯の上に置かれた大きめのクッションにそれぞれ座り。ビクトルは壁際で背を預けて立つ。

「ではまず、どうしてカイゼルとセシリアはあの場所で襲われていたのだ?」

「それは……」

 そうしてカイゼルがここまでの経緯を説明したのだった。




「……なるほど」

「まさか襲われるとは思わなかったですけどね」

「おそらくセシリアの美しさに目をつけたのだろう」

「そうでしょうね」

 そう言って二人は私を見てきた。

「いやいや、私の美しさって……そのように目をつけられるほどの容姿ではありませんよ。きっと異国の女性だからと言う理由で狙われたのだと思います」

「……セシリアはもう少し、自分のことを自覚された方がいいですよ」

「?」

 カイゼルの言っている意味がわからず小首を傾げる。そんな私を二人はため息をつきながら呆れた目で見ていた。後ろからもビクトルのため息が聞こえる。

(確かにセシリアは美少女設定だったけど、私よりも数倍可愛くて綺麗な人沢山いるよ? いい例がニーナやレイティア様だからさ。そんな言うほどじゃないと思うんだけど……)

三人の様子に戸惑っていると、カイゼルとアルフェルド皇子はお互いを見る。

「不本意だが、早々にカイゼルがセシリアを婚約者にしたのは正解だったな」

「本当にそう思います。私との婚約発表をするまでは、婚約の申し込みが後を絶たなかったとハインツ公からお聞きしましたので。もしあの時動かなければ……いえ、それでも私の婚約者にしていたと思いますよ」

 カイゼルはにっこりと、とても黒い笑みを浮かべたのだった。

正直他の方々からの婚約申し込みの件は初耳だったが、なんとなくここは突っ込んで聞かない方がいいような気がして話を変えることにした。

「そ、それでアルフェルド皇子、そちらの今の状況はどうなっているのでしょう?」

「ん? ああすっかり話がそれてしまったね。ではこちらの状況を話そう」

 本題に戻ったことでカイゼルの表情も戻り内心ホッとしながら、アルフェルド皇子の話を聞くことになった。

「先に帰国した私はすぐに王宮に向かったのだが、その道中で王宮を警護していた者に会い賊の話を聞いた。どうやら私が帰国する少し前に賊の襲撃があったらしい。その警備兵に案内されこの隠れ場所に来たのだが……さきほど見たように多くの者が負傷をしておりさらに父上まで……」

 アルフェルド皇子は辛そうに唇を噛みしめる。

「アルフェルド皇子……」

「ああすまない。そこで父上から詳しい話を聞くことができた。父上の話では、突然大勢の賊が王宮に押し入ってきたそうだ。そして警備を突破し、父上と母上のいる皇の間に踏み込んで来たとか。そして賊の首領によって怪我を負わされた父上を母上が庇い、父上を逃がしてくれたらしい」

「では皇妃様は!」

「それは大丈夫だ。母上はそのまま捕らえられ、父上の後宮に他の側室とその子ども達と共に幽閉された」

「そうなのですか」

 とりあえず生きてはいるようでホッと胸を撫で下ろす。

「ならばすぐに救出に向かいましょう。こちらにはビクトルもいますし、私も戦えますので戦力になるかと」

「いやカイゼル、それは少し待ってくれ」

「どうしてです?」

「実はすでに一度、賊が占拠する王宮に乗り込んだのだが……」

「まだ解放できていないところをみると、何かあったのですね」

「賊の首領……ダーギルに、母上達のいる後宮に火を放つと脅され、手を出せなくなった」

「……人質ですか」

「だから母上達を生かしておいたのだろうな」

「その状況でよくアルフェルドは無事に逃げられましたね」

「まあなんとかな。その場は一旦引くことに決めて撤退したのだが、その際こちら側の兵にも何人かの被害が出てしまった。現在無事だった兵を集めて体勢を立て直そうとしているのだが……」

「人質になっている皇妃達の問題が残っているのですね」

「ああそうだ」

 カイゼルとアルフェルド皇子は難しい顔で黙り込んでしまう。

(もしかしたらカイゼルやアルフェルド皇子、さらにはビクトルも加われば王宮を取り返すことはできるかもしれない。だけど……それは同時に、皇妃達の命が危なくなるってことだよね。無暗に行動できないか。う~ん……一番いいのは、皇妃達を先に助け出すことだろうけどそう簡単にいかないだろうし。せめて内部、それも後宮内からの手助けがあれば…………あ、そうだ!)

 私はある考えが閃き、ポンと両手を叩く。そんな私をカイゼルは不思議そうに見てきたのだが、真剣な表情で言い放った。

「私、後宮に入ります!」

「「「はぁ!?」」」

三人は同時に驚きの声を上げたのだった。

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