表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/101

初対面

 国王夫妻とカイゼル王子が広間の中を通り抜けている間、私達は皆道を開け頭を下げてじっと待っていた。

 そして国王夫妻とカイゼル王子が数段高い壇上に用意されていた椅子の前に立つと、国王が私達に向かって声を掛けたのである。


「皆の者顔を上げよ」


 凛としたその国王の言葉に私達は一斉に顔を上げ壇上にいる三人を見た。

 まず国王は貫禄のある風貌をしており金髪と碧眼の美丈夫で、その隣に寄り添うように立ち優しい微笑みを浮かべている王妃は淡い桃色の髪に青い瞳の美女。

 そしてその二人の間に笑顔を浮かべながら立っているのが、ゲーム上で見たキャラの面影をそのまま幼くしたカイゼル王子であった。


(・・・やっぱり攻略対象だから子供であってもイケメンだな~。なんかオーラが違うよ。しかしなるほど確かにセシリアが初めてカイゼル王子を見て一目惚れしたと言うのも納得だ。私の家族でイケメンを見慣れていても、あれはさらにレベルの高いイケメンだもんな~。それにあの王子様スマイル・・・至る所にいるご令嬢の目が完全に王子に釘付けだよ。まあ・・・私はあの笑顔が似非スマイルだって知ってるし腹黒だし、それになんと言っても私を将来処刑するかもしれない男だって知ってるからか正直全くときめかないんだよね。・・・あ~思い出した!あの王子、前世で私が死ぬ前に漸く攻略出来た攻略対象だ!!・・・もうあの王子だけ難易度高すぎて途中からときめきよりもただ機械的に黙々と攻略する事だけに集中してたんだよな~)


 その事を思い出し無意識に頬が引き攣ったのである。

 そうして複雑な気持ちのまま国王夫妻とカイゼル王子の挨拶が終わりすぐにカイゼル王子の前に長蛇の列が出来たのだ。

 それは先程私達にもしたように、ご子息ご令嬢が王子と仲良くなろうと挨拶する為出来た列である。

 私はその皆の気迫に若干引きながら乾いた笑みを浮かべつつその行列を眺めていたのだ。

 するとお兄様が私に顔を寄せてきたのである。

 

「セシリア、君は挨拶に行かないの?」

「・・・出来れば行きたくないのですが、やはり駄目ですよね?」

「まあそうだね。一応私達は公爵家の子息令嬢だしこの国の王子に挨拶しないわけにはいかないからね」

「そうですよね・・・でもとりあえずはあの列が落ち着いてからが良いです」

「そうだね」


 私とお兄様はなんとも言えない表情を浮かべながらその列をただ眺めていたのであった。

 そうして漸く列が途切れてきたので私はお兄様と一緒にカイゼル王子の下に挨拶に伺ったのだ。


「カイゼル王子」

「ん?ああやあロベルト貴方も来ていたんですね」

「ええ。今日は私の妹の社交界デビューの日なので付き添いで来たのです。さあセシリアご挨拶を」

「・・・はい。カイゼル王子初めまして、セシリア・デ・ハインツと申します。お会いできてとても光栄です」


 私はそう名乗るとドレスの裾を軽く摘まみ膝を折ってカイゼル王子に会釈した。


「ああ貴女がセシリア嬢ですか。こちらこそお会いできて光栄です。貴女の事はお父上のラインハルト公やロベルトからよく伺っていましたよ。だけど本当に話に聞いていた通り天使のように愛らしく美しい方ですね」

「・・・ありがとうございます」


 カイゼル王子がにっこりと微笑みながら私の容姿を褒めてくれたが、それが口だけで本心からでないのがその似非スマイルから感じ取れ私もそれに習って似非スマイルでお礼を返したのだ。

 するとカイゼル王子はそんな私の似非スマイルに気が付いたのか一瞬目を瞠った。

 しかしすぐに表情を戻し再び似非スマイルの顔を維持して私の話を聞く体勢をとったのだが、私はそんなカイゼル王子にもう一度会釈を返したのである。


「では挨拶も終わりましたので私はこれで失礼致します」

「「え?」」


 カイゼル王子とお兄様の驚く声を敢えて無視し私はすぐに踵を返して王子の下を離れていった。


「え?セシリア嬢?」

「セ、セシリア!?まだお話出来るけど良いのかい?」


 そんな二人の声が後ろから聞こえたがそれでも私は振り返るつもりは全く無かったのである。


(絶対必須事項だったカイゼル王子と挨拶はしたんだし、もうこれ以上カイゼル王子と関わりたくないんですよ!!あとは舞踏会が終わるまでカイゼル王子と接触を避ければ、もう後日カイゼル王子とほぼ会うことも無いだろうし私も会う気は全く無いから確実に婚約は回避出来るはず!!)


 そう確信しお兄様が私を追い掛けて来るまで歩き続けたのだ。


「・・・セシリア、本当に良かったのかい?カイゼル王子とお話出来る機会なんてそう無いんだよ?」

「ええ、私はあれ以上お話する事が無かったので。それに・・・私があのようにカイゼル王子から去った事で私がライバルにならないと安心されたご令嬢方が頑張ってカイゼル王子に向かう事が出来ましたし・・・」


 私はそう言ってちらりとカイゼル王子の方を見ると、再びカイゼル王子は沢山のご令嬢方に囲まれていたのである。

 どうやら筆頭貴族であり公爵家の令嬢である私がライバルになると勝ち目がないと思っていた他のご令嬢の方々が、全くカイゼル王子に興味を示さなかった私の様子を見て自分達にチャンスがあると思って行動したようなのだ。


(・・・よし!そのままカイゼル王子を囲い続けてくれれば私に近付く事も無いだろう!ご令嬢の皆様頑張って下さい!!)


 満足そうにその様子を見つめる私を見てお兄様は苦笑いを溢した。


「・・・まあ私としてはカイゼル王子を見てセシリアが惹かれないでいてくれた事は嬉しかったけどね」

「私の中で一番はお兄様ですよ。あ、お父様とお母様もでした」

「ふふ、ありがとう。その気持ちがいつまでも変わらないでいてくれると嬉しいんだけどね」


 そうして私達がお互いを見て笑い合っていると、広間に控えていた楽団が音楽を奏でだしたのだ。


「セシリア、私と踊って頂けますか?」

「はい喜んで!」


 お兄様が腰を折って私に手を差し出してきたので、私はにっこりと微笑みながらその手を取るとお兄様が私の腰に手を添えながら広間の中央までエスコートしてくれた。

 そうしてすでに何組かの男女が中央に集まっている中で私はお兄様のリードの下、音楽に合わせてダンスを踊り出したのである。


「セシリア、ダンス上手だね」

「お兄様のリードが上手いからですよ。それに何度か私のダンスの練習にも付き合って下さったじゃないですか」

「だけどあの時よりも格段に上手くなってるよ。セシリアにはダンスの素質があるんだね」

「ふふ、御世辞として受け取っておきますね」


 私はお兄様に微笑みそのまま暫くお兄様とのダンスを楽しんでいた。

 しかし楽しいダンスの時間を過ごしながらも私は目の端にチラチラと見えてくる光景が気になったのである。


(・・・なんか段々近付いてきてるような)


 私がさっきから気になっているのはカイゼル王子がご令嬢とダンスをしている姿なのであるが、どうも少しずつこちらに近付いてきてるように見えるのだ。

 さらにそのカイゼル王子と次に踊ろうとギラついた目で狙っているご令嬢の集団も一緒になって近付いてきてるようなので、その威圧感と言ったら半端ないのである。

 そうして私が呆れ半分でそんなカイゼル王子達を見ていた頃、お兄様も私とは別の方向を見ていたのだがそれはまるで射抜くような鋭い視線であったのだ。

 そしてその視線を受けた何人かのご子息達が私達にダンスをしながら近付こうとしていたのを途中で諦め、静かに離れていってた事に私は気が付いていなかったのである。

 そうこうしているうちに曲が一曲終わりお兄様との楽しいダンスの時間が終わってしまった。

 私はそれを少し寂しいと思っていると、お兄様が私の手を引いてにっこりと微笑んできたのだ。


「セシリア、暫くは私と一緒に踊ってくれるかい?」

「え?ええ勿論良いですとも。私もその方が嬉しいですから」


 お兄様のその申し出に一瞬戸惑ったが、私も他の人と踊りたいとは思っていなかったので喜んで受けたのである。

 そしてすぐに流れてきた曲に合わせて私達は踊り出したのだが、その時凄く残念そうな顔で去っていく数人のご子息と何故か私達の方に手を向けて固まっているカイゼル王子の姿が目に映ったのだ。


(・・・一体なんなんだろう?)


 そう不思議そうな顔をした私に対してお兄様はしてやったりといった笑みを浮かべていたのであった。

 そうして何曲かお兄様と一緒に踊りさすがに疲れてきたので、お兄様と共にダンスの輪から抜け出し飲み物が用意されている場所まで移動したのだ。


「はい、セシリア」

「お兄様ありがとうございます。喉が凄く渇いていたんです」


 私はお兄様から手渡されたジュースの入ったグラスを受け取ると、喉を潤すようにその中身を一気に飲み干した。


「美味しい~!」

「さあそろそろお腹も空いてきただろう?あそこの料理も食べてみるかい?」


 お兄様が手で示してくれた方を見ると、そこには長い机の上にずらりと様々な料理が置かれていたのである。


(うわぁ~!どれも美味しそう!!カイゼル王子の事ですっかり緊張してたからあんなに料理が沢山置かれていたのに気が付かなかった!あ、意識したら急に空腹が・・・)


 そう自覚したと同時に私のお腹から小さく空腹を訴える音が鳴り、私は顔を赤らめながらお腹を押さえたのだ。


「ふふ、可愛いセシリアのお腹も食べたいと言ってるし一緒に食べようか」

「・・・はい、お兄様」


 私は恥ずかしさで一杯になりながらもお兄様に連れられて料理が置かれている場所に移動した。

 そしてお兄様が取り皿を取ろうと手を伸ばしたその時、一人のご子息がお兄様に近付いてきたのである。


「ロベルト!」

「ん?ああ貴方か」

「ちょっと向こうで話したい事があるんだが少し良いか?」

「いや、それは・・・」


 多分お兄様と同じぐらいの年のそのご子息に誘われお兄様はちょっと困ったような表情でチラリと私を見てきた。

 私はそのお兄様の様子に安心させるように笑顔を向けたのである。


「お兄様、私の事なら大丈夫ですのでどうぞ行ってきて下さい」

「だが・・・」

「大丈夫ですから」

「・・・すまない。すぐ戻ってくるよ。だからセシリアはその間ここを離れては駄目だよ。変な男にも付いていったら駄目だからね」

「分かってます。ちゃんとここで待ってますから安心して下さい」


 そうして申し訳なさそうに頭を下げてきたご子息と一緒にお兄様は広間の奥に行ってしまったのだ。


(・・・正直心細いけど、いつまでもお兄様に頼ってたら駄目だもんね!とりあえず今はここの料理に集中しよう!!)


 私はそう自分に言い聞かせ、お兄様が取ろうとしていた取り皿を手に持ち美味しそうな料理を皿に乗せていった。

 そうしてある程度皿に乗せた私は、その中の子羊のテリーヌをフォークで一口に切って口の中に入れたのだ。


(う、美味い!!!さすが王宮料理はレベルが違うな~!!・・・うちの料理人が作ってくれる料理も勿論美味しいけど、やはり王族が食べる物を作っている料理人はさらに上を行くんだね!)


 そう口の中で溶けていく旨味に頬を緩ませながら満足そうに食べていると、ふとある事に気が付き料理が乗っている机を見回した。


(・・・あれ?ここの料理全然食べられてないような・・・と言うかこの机の近くにいるのって私だけでは?)


 私はそう思い広間を見渡すと、確かに飲み物のグラスを持って話している人は所々いるのに料理の皿を持っている人が見当たらないのである。


(え?え?皆食べないの?こんな美味しいそうなのに?・・・これじゃ確実に余るよな~うわぁ~勿体無い)


 そもそも前世の私は基本的に食べ物を残すのが嫌いな性格だったのだ。

 どんなにお腹が苦しくなっていても出された物は最後まで食べていた。何故ならせっかく作ってくれた人に申し訳ないと思ってしまうからだ。

 だから前世で飲食店に行った時に、食べれないのに沢山注文して少しだけ食べて残していく他の客を見掛けると凄くムカムカした。

 その事を思い出しこの料理達も結局最後は棄てられてしまうのではと考えるとなんだかやりきれない気持ちになったのだ。

 だけどさすがに私一人では到底こんな量食べきれるわけもなく私は小さなため息と共に思わず呟いたのである。


「せめてタッパでもあれば・・・」

「たっぱ?」

「え!?」


 突然私の呟きに不思議そうに反応した声が後ろから聞こえ、私は驚きの声を上げながら慌てて振り向くとそこには不思議そうな顔で私を見ていた───。


「カ、カイゼル王子!?」


 その予想外の人物に私は驚きの表情のまま固まってしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このたびビーズログ文庫様の方で書籍発売致しました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ