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脱出手段

 再び一人になってしまった部屋の中で私は深いため息を吐きベッドの端に腰掛けた。


「本当にこれからどうしよう・・・」


 そう呟きながら頬杖をつきぼーっと飾り棚に飾られている鉱石達を眺めていたのである。


「・・・そもそもこの部屋、あの設定資料集に載ってたお城の間取り図にも記載されて無かったんだよね。だからレオン王子に間取り図を見せられた時に気が付かなかったんだよね・・・はぁ~まさかあの衝撃のヤンデレエンディングと同じ状況に私が陥るとは思っていなかったよ」


 私は前世で見たレオン王子のヤンデレエンディングであるこの部屋をバックに描かれたスチルで、狂気じみた笑顔を浮かべていたレオン王子を思い出していたのだ。

 そしてその後ヒロインであるニーナは、一生ここから出してもらえなかったと言う文字だけが真っ黒な画面に白く書かれていたのである。

 その事を思い出し私は自分の体を抱きしめて身震いをした。


「ま、まさかゲームみたいに一生出してもらえない事なんて・・・無い・・・わよね?」


 そう自分に問い掛けながら先程の妖しくニタリと笑ったレオン王子の顔が頭を過ったのだ。


「・・・よし!やっぱり何としてでも逃げよう!!」


 私はそう力強く宣言しベッドから勢いよく立ち上がると何か脱出手段は無いか部屋の中を調べる事にした。

 まずは飾り棚の後ろに抜け道が無いか動かそうとしたが、しっかりと壁に取り付けられているようでびくとも動かない。

 ならばと今度は壁の向こうに隠し空間的な物があるかもと壁を叩いて回ったが、そんな空間があるような音は聞こえてこなかったのだ。

 そうして私は数時間色々調べてみたが結局特にこれと言って何も発見出来なかったのである。


「・・・お手上げだ」


 私は再びベッドの端に座り大きなため息を吐きながらガックリとうなだれたのだ。


「仕方がない・・・時間は掛かるだろうけどレオン王子を説得するしか方法は無さそうだね」


 そう疲れきった顔を上げ階段を下りてくるレオン王子の足音を聞きながらぎゅっと拳を握ったのである。


















 それからさらに数週間が経った。

 私はあれから何度もレオン王子にここから出してほしいと訴えかけたが全く聞いてもらえず、むしろ私がここに監禁されている姿を見て恍惚の表情でうっとりと眺めている事が多くなったのだ。

 どうやら日が経つにつれ私を完全に手に入れた実感が沸いているようなのである。


「・・・はぁ~やっぱりあの様子だと本当に一生ここから出してもらえなさそう。それに・・・一応約束を守って今までキス以上の事はされていないけど・・・半年後には・・・・・」


 その事を想像し一気に顔から血の気が引いたのだ。


「本格的に貞操の危機だ・・・正直前世でも彼氏なんていた事無かったから、知識はあっても行為自体は未経験なんだよ!!・・・まあカイゼルの婚約者である今の立場上、もしどうにもならずカイゼルと結婚する事になってしまった場合は・・・王太子妃としての務め上、世嗣ぎは必須だろうから覚悟はするしかないと思っているけど・・・うう、出来れば相手は好きになった人が良いな・・・」


 結局もしここを抜け出せてもカイゼルとの結婚が待っている以上私に逃げ道が無い事を実感し、私はなんだか泣きたくなってきたのだった。


「でも!さすがにここに一生閉じ込められるのはいくらなんでも耐えられない!!」


 私はそう叫ぶともう何度目かの部屋の探索を始めたのだ。


「本当に何処か何か無いのかな?せめて私がここにいる事だけでも外に知らせられれば良いんだけど・・・」


 そう呟きながら壁や床に顔を近付けてじっくり調べるがやはり何も見付からなかったのである。


「・・・はぁ~本当にどうしよう」


 私はベッドの上に大の字に寝っ転がり綺麗な作りの天井をぼーっと見つめた。

 するとその時、私の視界に入っていた自分の髪が小さく揺れている事に気が付いたのだ。

 その僅かに揺れている髪をじっと見つめていた私は、ハッとある事に気が付きガバッとベッドから身を起こしたのである。


「何で私今まで気が付かなかったんだろう!!」


 私は慌ててベッドから降りると自分の髪を一本抜き取って上にかざしてみた。


「・・・やっぱり」


 そこには私の指で摘ままれている一本の髪の毛がひらひらと揺れていたのだ。


「そうだよね。ここ地下だから普通に考えたら空気の問題があるよね。でも今まで一度も息苦しいと感じた事無かった・・・って事は何処かに空気を循環させている通気孔があるかも!!」


 私は一筋の光を見いだしはやる気持ちを抑えながら慎重に髪の毛の揺れを確認しつつ部屋の中を歩き回った。

 そしてとうとう奥の部屋の天井付近に、パッと見では分かりづらい形の通気孔を発見したのである。


「・・・あの大きさならなんとか入れそう!だとするとあそこまでの足場を組まないと・・・あ~あれとあれを組み合わせれば・・・うん、いけそう!!」


 私は部屋の中に置かれている物を見回すと一人満足そうに大きく頷いたのだ。


「じゃあさっそくやりますか!!」

「・・・あれ?セシリア姉様何処にいるのかな?」

「っ!!」


 腕まくりをし少し物を動かしていた所に突然レオン王子の声が私の耳に聞こえてきたのである。

 その声に私は慌てて袖を戻すとこの脱出計画がバレないように平静を装ってレオン王子の声がした所に戻ったのだ。


「ごめんなさいレオン王子、ちょっと奥のクローゼットの中を確認していた・・・って、どうしてレオン王子が部屋の中にいるのですか!?」


 驚いた事にいつもなら鉄格子の向こうにいるはずのレオン王子が鉄格子を越えて部屋の中にいたのである。

 私は驚きながらも鉄格子の方を見るとやはりしっかりと閉じられていた。

 どうやら見えにくいようになっている扉が付いていたようだ。


「今日の昼食はセシリア姉様と一緒に食べようと思って。それよりも、何かクローゼットの中身に問題があった?」

「い、いいえ!豊富にありすぎて明日は何を着ようか迷っていたのです・・・」

「そうなの?まああそこにあるのは全部セシリア姉様の為に用意した物だから好きなように着て良いからね!あ、もし足りないのあったら遠慮なく言ってよ。すぐに用意してあげるからさ!」

「あ、ありがとうございます。とりあえず今の所十分ですので大丈夫です」

「それなら良いけど・・・そうだ!なんだったら僕が明日セシリア姉様が着る服選んであげるね!!」


 レオン王子は良いことが思い浮かんだかのような顔で奥の部屋にあるクローゼットの所に歩きだそうとした。

 しかしそんなレオン王子の腕を掴み私は慌てて引き留めたのである。


(マズイマズイ!!さっき少しだけ移動させた物もあるからその状態を見て不審がられる可能性が高い!)


 そう私は内心酷く焦りながらなんとか笑顔を作って料理が置かれている机の前に連れていったのだ。


「もう着る服決まりましたので大丈夫ですよ!それよりも料理が冷めてしまいますので一緒に食べましょ?ね?」

「・・・セシリア姉様、可愛い。はぁ~正直今すぐセシリア姉様が食べたい・・・」

「え!?」

「ふふ、怯えたセシリア姉様も可愛い・・・まあでも約束だから我慢するよ。じゃあ食べようか!って、そう言えばここ椅子一個しか無かったんだ」

「あ~じゃあレオン王子は椅子に座ってください。私はお皿を持ってベッドに座って食べますから・・・」

「だったらこの机をベッドまで移動して一緒にベッドに座って食べれば良いよね?」

「え?ですがその机重いですよ?」

「平気平気!」


 レオン王子はそう明るく言って料理の乗った状態の机を軽く持ち上げるとそのままベッドの脇まで移動させたのである。

 その姿を見て改めてレオン王子が男の人だと実感したのであった。

 そうして準備が整うと私達は並んでベッドの端に腰掛け料理を食べ出したのだ。

 さすがに一つのベッドに男女が並んで座って食べているこの状況に無意識に体が強張っていた。

 しかしすぐに美味しい料理の数々に体が解れていったのである。

 そしてレオン王子の要求である食べさせ合いっこもなんとかクリアすると、上機嫌のままレオン王子は出ていったのであった。

 私はなんとか通気孔の事がバレなかった事に胸を撫で下ろしつつ再び奥の部屋に向かったのだ。


(・・・本当は鉄格子の扉から外に出られれば一番簡単だけど、絶対レオン王子が一緒ではそこから逃げ出すのは不可能だろうね。やっぱりここから抜け出すのが確実か・・・)


 そう思いながらじっと通気孔を見つめそして今度こそ腕まくりをして運ぶ事にしたのである。

 そうして私は移動出来る物を引きずりながらもなんとか運び漸く通気孔までの足場が完成したのだ。


「よし!後はあの通気孔を開ける為に何か棒でも・・・あ、これなら丁度良さそう!」


 私はそう言って手頃な棒上の物を手に取り靴を脱いで素足になると慎重に足場を上った。

 そして通気孔前に到着すると、その棒を通気孔の柵の間に差し込みテコの原理を使ってなんとか外す事に成功したのである。


「やったー!!って、あまりゆっくりしていられないんだった!さっきレオン王子が昼食持ってきてくれたばかりだけど、いつまた来るかもしれないから今のうちに逃げないと!!」


 すぐに外した柵と棒を足元に置くとその通気孔の中に入っていったのだ。

 そうして私は明かりもない通気孔の中をほふく前進しながら進んでいったのである。


「ふふ、なんだか前世で見たスパイ映画の主人公になった気分だな~。まさか私がそんな事をするなんて前世の私は想像できなかったよね。と言うかそもそもやってた乙女ゲームに転生するとは思わないか」


 私は暗闇に慣れてきた目で進みながら一人段々とこの状況が面白くなってきたのだ。

 しかし真っ直ぐ平面に進んでいた先が突き当たりに当たると、私は焦って左右を見回すがどちらも道が続いていない。


「え?ここまでなの!?」


 しかしすぐに上から風が吹き込んできている事に気が付いたのだ。

 私は体を反転させて上を見上げるとどうやら通気孔は上へと続いている事が分かったのである。


「・・・そりゃ地下だもんね。上に伸びるよね。仕方がない・・・行くか!」


 そうして私は体勢を移動させ通気孔の壁に背を預ける格好になると素足になった両足の足の裏を反対側の壁に付けた。

 そしてゆっくりと慎重に足と背中を上へ移動させながら少しずつ登っていったのだ。


(・・・これやるの久し振りだ~)


 そう思いながら遠い昔・・・正確には前世の幼い時を思い出していたのである。

 私は前世で幼い頃によく遊びに行った田舎にあったお婆ちゃんの家に壁と壁が極端に狭かった廊下があったのだが、そこで今のように背中と足を使って器用に天井付近までよく登って遊んでいたのだ。

 そしてその遊びをお母さんに見つかると危ないからと凄く怒られた記憶が甦った。

 しかしそれでも懲りずにお母さんの目を盗んでよく遊んでいたのである。

 私はその時の事を思い出し思わずふふっと一人で笑ってしまったのだ。


「だけど・・・まさか公爵令嬢になってまでやる事になるとは思っていなかったよ。はぁ~この情けない姿誰にも見せられないな・・・と言うか絶対これ明日筋肉痛決定だ・・・今まで使っていなかった筋肉をフルに使っている感じだからな・・・・・あの頃は若かった」


 そう私は遠い目をしながらから笑いを溢していたのだった。

 そうこうしているうちになんとか上まで登りきると今度は横に道が伸びていたのでそこを再びほふく前進して進んだ。

 そうしてほふく前進したり上に登ったりを繰り返し漸く通路の先に光が見えてきたのである。


「あ、あれはもしかしなくても外の光!?」


 私は嬉しさを抑えつつさらに速度をあげながらほふく前進で進みその光が射し込む場所に到着したのだ。


「ここにも柵が・・・でももう棒が無い。ええい!私の持てる力を全て使ってでも外してみせる!!」


 そう意気込むと私は柵を両手で掴み力の限り押し出してみた。

 すると予想に反して簡単に柵が外れたのである。


「・・・あんなに意気込んでいた私が恥ずかしい」


 そう呟きながらも私は柵をそっと外に置くとその開いた場所から外に這い出たのだ。


「ああ~!!数週間振りの外だ!!」


 私はそう声を出しながら芝生の上に裸足で立ち両手を上げて外の空気を思いっきり吸い込んだのである。


「ま、まさか・・・セシリア様!?」

「え?」


 驚いた声で私の名前を呼ぶ声に私はそのままの体勢で後ろを振り向いたのであった。

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