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帰国

「あ~風が気持ち良いです!!」


 私はそう言いながら甲板の手摺に手を置き吹き込んでくる風を顔に感じていたのだ。


「セシリアあまり身を乗り出すと危ないですよ」

「大丈夫ですよ。でも・・・行く時はほとんど船内にいたのでこんなにゆっくりと甲板から海が見れるのがとても嬉しいです!」


 そう言ってカイゼルに向かって楽しそうに笑ったのである。

 するとそんな私達の下に船員に指示を出していたアルフェルド皇子が近付いてきたのだ。


「すまないセシリア。貴女をずっと船室に閉じ込めていたからだな・・・」

「ああアルフェルド皇子、もう過ぎた事ですのでお気になさらないで下さい!」

「しかし・・・」

「そもそも薬で体が思うように動かせなかったでしたし、どちらにしても甲板に出られませでしたよ」


 私はそう言ってアルフェルド皇子に苦笑いを浮かべたのだが、その私の言葉にカイゼルが怪訝な表情になった。


「・・・薬?」

「ん?カイゼルどうかされたのですか?」

「セシリア・・・薬とは何の事ですか?まさか・・・」

「え?あ!ち、違うんです!え~っと薬と言うのは・・・あ、そうそう!酔い止めの薬、酔い止めの薬の事なんですよ!」

「酔い止めの薬、ですか?」

「そ、そうなんですよ!初めての船旅だったのでちょっと酔ってしまいまして・・・アルフェルド皇子に酔い止めの薬を頂いたのです。でもその酔い止めの薬の影響で暫く寝てしまっていて・・・そうですよね?アルフェルド皇子!」


 作り笑いを顔に張り付かせながらアルフェルド皇子に強く念を押したのである。


(お願い!絶対本当の事言わないで!せっかく収まったのにまた関係が悪化してしまうから!!)


 すると私の思いを察してくれたアルフェルド皇子が苦笑しながら私の話に乗ってくれたのだ。


「ああそうだ。我が国秘伝のよく効く酔い止めの薬をセシリアに飲ませたんだよ」

「あれ凄くよく効きますよね!モルバラド帝国に着いた時にはすっかり良くなっていましたから!本当に助かりました!」

「・・・・・まあ、セシリアがそう言うのであればとりあえず今は信じましょう」


 そう言ってカイゼルは胡乱げな目を私やアルフェルド皇子に向けながらもそれ以上聞かないでいてくれたのだった。

 ちなみに今私達が乗っている船はアルフェルド皇子が用意してくれた船で行き先はベイゼルム王国である。

 しかしその船に何故アルフェルド皇子まで乗っているのかと言うと、さすがに国のトップであるベイゼルム王国の国王本人には直接本当の事情を説明しさらに謝罪をする必要があるからだ。その為お詫びの品がこの船には沢山積まれている。

 そして当然私とアルフェルド皇子の結婚式は無くなった。

 まあクライブ王とシャロンディア王妃はとても残念そうにしていたが、なんとかアルフェルド皇子が説得して渋々納得してもらったようなのだ。

 だけど別れ際に二人がアルフェルド皇子に向かって「絶対勝つように!」と訳の分からない言葉を贈っていたのであった。

 そうして私はあの露出の高い服から着なれたドレスに戻る事が出来、晴れ晴れとした気持ちで帰りの船に乗っているのである。


「そう言えば・・・シスランは大丈夫なのでしょうか?」

「まだ青い顔でベッドに横になられています」


 ふと呟いた私の言葉に答えるようにビクトルが船内から出てきて私に近付いてきたのだ。


「あ、ビクトル。ごめんなさいね。シスランの事お任せしてしまいまして・・・」

「いえ、姫に頼まれました事ですので喜んでやらせて頂いています」

「でも・・・やはり私も一度様子を見に行った方が良いですよね?」

「・・・それは止められた方が宜しいかと思います」

「どうしてです?」

「・・・シスラン様は弱っている所を貴女にお見せしたく無いのです」

「それはシスランの性格からして分かっていますが・・・でも心配ですし・・・」

「姫・・・同じ男として、好いた女性に弱味を見せたくない気持ちがよく分かりますのでどうぞ今はそっとしてあげて下さい」

「うっ・・・分かりました。でも何かありましたら教えてくださいね」

「畏まりました」


 実はシスランは、私を助ける為に強行軍で無理矢理来た事と慣れない船旅の連続で体の調子を崩してしまったのである。

 私はそんなシスランを心配して看病を申し出たのだが、その当人のシスランにキッパリ断られてしまったのだ。

 そしてシスランはアルフェルド皇子の侍女に看病されるのも嫌がった為、結局ビクトルに看病をお願いする事になったのだった。

 そうして私達は船でそのまま海を渡り再びベイゼルム王国に戻ったのである。














 私達は謁見の間で膝を折り頭を下げて国王がやって来るのを待った。

 すると靴音が謁見の間に響き渡り壇上の玉座の前で止まると衣擦れの音と共に玉座に座る音が聞こえてきたのである。


「・・・顔を上げよ」


 その凛とした国王の声に私はおずおずと顔を上げ玉座に座る国王を見た。

 そして私の左隣にいるカイゼルと私の右隣にいるアルフェルド皇子も同時に顔を上げ、私達の後で同じくビクトルとシスランも顔を上げている気配がしたのである。

 ちなみにここには私達5人と国王以外には他に人はいない。何故なら国王によって人払いがされていたからだ。

 一応事前にカイゼルによって大体の事情は国王に知らされているとは聞かされているが、やはり事が事だけに私は酷く緊張していたのである。


(・・・どうしよう?もし国王が怒っていたら最悪モルバラド帝国と戦争を始めてしまうのでは・・・)


 私はその考えが頭の中でぐるぐると回り不安な面持ちでじっと壇上の国王を見つめていた。

 すると国王は一瞬私の目を見て苦笑を溢しすぐにアルフェルド皇子の方に視線を向けたのだ。


「・・・アルフェルド皇子よ」

「・・・はい」

「カイゼルから大体の話は聞いたが・・・そなたがカイゼルの婚約者であるセシリア嬢を拐ったと言うのは事実か?」

「間違いございません」

「そうか・・・そしてそれによって起こる国同士の問題も全て分かっていた上での行動だったのだな?」

「はい。確かにとても大きな問題になる事は分かっていました。しかしそれでも私はセシリアを諦められなかったのです」

「アルフェルド皇子・・・」


 真剣な表情で国王に話すアルフェルド皇子を私は複雑な表情で見つめた。


「まあ我も男だからな、その気持ちも分からんでもないが・・・さすがに相手が悪かったな。しかしそのような事をした後で自ら再びこの国に戻り説明をしに来た事は評価しよう」

「はい・・・ありがとうございます。そしてご迷惑をお掛けしまして大変申し訳ございませんでした。そのお詫びとなるかは分かりませんが献上品をお持ち致しましたので後でお確かめ下さい」

「うむ。まあ我としてもそなたの国と出来れば事を荒立てたく無いからな。だがしかし・・・セシリア嬢、そなたの気持ちはどうだ?一番怖い思いをしたのはそなたであろう?」


 どうやら戦争と言う最悪の状態にはならないようでホッとしていると、突然国王が私に話を振ってきたのである。

 私はビクッと肩を震わせながらアルフェルド皇子、カイゼル、ビクトル、シスランを順番に見回しそして国王をじっと見つめた。


「私は・・・今回の事出来れば何も無かった事にしたいのです。しかし私が暫く居なくなっていた事はどうにも変えられない事実ですので・・・私がモルバラド帝国を見てみたいと皆に黙って勝手にアルフェルド皇子についていった事にして頂きたいのです」

「・・・本当にそれで良いのか?」

「はい!私のせいで誰も揉めて欲しくありませんので!!」

「そうか・・・そなたがそのようにしたいのであればそのように致そう。今回の件の真実はここにいる者だけに留め他言無用にするように」


 そう国王が言うと私達は一斉に頭を下げて了承の意を示したのだ。

 そして国王は話は終えたと言う事で立ち上がろうとした所を私は慌てて呼び止めたのである。


「あ、お待ちください!」

「ん?どうしたセシリア嬢?」

「・・・実はお願いしたい事がございます」

「お願い?それは一体何だ?言ってみなさい」

「はい・・・私をカイゼルの婚約者と言う立場から外して頂きたいのです」

「なっ!?セシリア何を言い出すのです!?」


 私の言葉にカイゼルが驚きの声を上げながら私の方を見てきた。

 しかし同時にアルフェルド皇子、ビクトル、シスランから喜びの気配も感じたのだ。

 だけど私はそれを全て無視して神妙な面持ちで国王の顔を見続けたのだ。


「・・・セシリア嬢、何故そのような事を?」

「・・・そもそも今回の事が大事になった原因は私にあります。そのような私がこの国の王太子であるカイゼルの婚約者であるのは相応しいとはとても思えないのです。ですのでどうか・・・」

「ふむ・・・そうか。そこまで気にされているのであれば残念だが・・・」

「父上ちょっとお待ち下さい!」


 国王の言葉を遮るようにカイゼルが大きな声を上げたのである。


「どうしたカイゼル?」

「父上、よく考えて下さい。本来なら同盟破棄そして戦争は回避不可能な状態だったのをセシリアが食い止めてくれたのですよ?」

「ふむ、確かにそうだな」

「そんなセシリアなら将来私の妃としてそして王妃となった時、共にこの国の事を考え支えてくれる素晴らしい女性に間違いなくなられます!ですので私の婚約者に相応しいのはセシリア以外有り得ません!」


 そのカイゼルの力強い言葉に国王は顎に手を当てて考え込んでしまったのだ。


(ちょ、ちょっとカイゼル何を言い出すのよ!せっかく婚約解消してもらえそうだったのに!正直もうこの立場・・・辛いんだよ)


 私は今までの出来事を思い出しうんざりしながら国王の言葉を待った。


「確かに・・・カイゼルの言う通りだな。セシリア嬢、そなたには申し訳ないがこのままカイゼルの婚約者でいてもらおう」

「うっ・・・やはりそうなりますか」


 予想通りの展開に私はガックリとうなだれたのである。

 さらにその時、私の近くから三人の「ちっ」と言う小さな舌打ちが聞こえてきたのであった。
















 国王との謁見を終え私達5人は揃ってお城の廊下を歩いていたのだ。

 すると廊下の先から物凄い勢いでこちらに走ってくる人物がいたのである。


「セシリア様ーーーー!!!」


 その人物は私の名前を叫びながら両手を広げそして私に抱きついてきた。


「レ、レイティア様!?」

「ああセシリア様!ご無事で良かったですわ!!突然お姿が見当たらなくなったとお聞きし、わたくしとてもとても心配しておりましたの!!」


 そうレイティア様は涙目になりながら私の顔を見つめてきたのだ。


「し、心配かけてごめんなさい。ちょっと無性に他国へ出掛けたくなってしまいまして・・・黙って行ってしまったのです」

「それならわたくしも誘って欲しかったですわ・・・わたくしセシリア様とでしたら何処へでも行きますもの!」

「いや、さすがに侯爵令嬢であるレイティア様を連れて行くのは・・・」

「大丈夫です!いざとなれば家出してでもついていきますわ!」

「い、家出って・・・」


 レイティア様の凄い気迫に私は頬をひくつかせながら困惑していたのであった。

 するとその時、廊下の向こうからさらに二人の人物が私達の方に向かって歩いてきている事に気が付いたのだ。


(あれは・・・レオン王子とニーナだ!あ~二人一緒に並んで歩いているし、やっぱりニーナはレオン王子ルートに入ったのは間違い無さそうだね。うん!こうして改めて見るととてもお似合いの二人だな~。よし!全力で二人の仲を応援しよう!!)


 私は二人仲良く歩いてきている姿を見て密かに心の中で誓ったのであった。

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