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月明かりの下で・・・

「セシリア様!」

「ん?あらレイティア様、その深緑のドレスよくお似合いですね」

「あ、ありがとうございます。セシリア様も・・・とても素敵ですわ」

「ふふ、ありがとうございます」


 レイティア様がはにかみながらも嬉しそうにしている姿を見てとても可愛らしいと思いながら微笑んでいると、レイティア様がハッとした顔で私の手を掴んできたのだ。


「そうでしたわセシリア様!どうしてあの男性方と次々踊られているのですか!?」

「え?誘われたからですけど?あ、一人私からでしたね」

「え!?」

「それがどうかされましたか?」

「・・・・・ずるいですわ」

「ずるい?・・・もしかしてどなたかと踊りたかったのですか?でしたら私が声を掛けてきますので・・・」

「いいえ!あの男性方がセシリア様と踊られた事がずるいと思ったのです!!」

「???」


 そのレイティア様の言い分に私は目を瞬かせて不満そうな顔をしているレティシア様の顔を見つめた。


「え~と・・・レイティア様は、私と踊りたいのですか?」

「はい!そうですわ!!」

「・・・・・私、女性ですよ?」

「知っていますわ!」

「・・・まあそんなにどうしてもと言われるのでしたら・・・今度人目の無い場所でですが私、頑張って男性パートで踊ってみましょうか?」

「本当ですの!?」

「ええ、まあ見よう見まねなので上手く踊れないと思いますけど・・・」

「構いませんわ!あ、もし宜しければその時男装して頂けるととても嬉しいのですが・・・」

「あら、それぐらい全然構いませんよ」

「ありがとうございます!・・・そうだわ、わたくしだけ抜け駆けはよろしくありませんわね。セシリア様、その時ニーナもご一緒してよろしいでしょうか?」

「それは構わないのですが・・・そもそもニーナが望まれるでしょうか?」

「間違いなく歓喜して喜びますわ!」

「そ、そうですか・・・」


 レイティア様のあまりにもの勢いに私は若干引いていると、踊りを終えたニーナとアルフェルド皇子が一緒に私達の下にやってきたのだ。

 さらにシスラン、ビクトル、レオン王子まで集まり一気に騒がしくなったのである。


「ニーナ!セシリア様が今度わたくし達と踊ってくださるそうですわよ!それも男装でだそうですわ!!」

「本当ですかレイティア様!?」

「ええ、本当ですわ」

「う、嬉しいです!!」


 ニーナは興奮した様子でレイティア様と手を繋ぎ二人で嬉しそうに笑い合っていた。


(・・・そんなに喜ぶ事かな?)


 私はそう不思議に思いながら楽しそうに話している二人を見ていると、そんな私をシスラン達が見てきている事に気が付いたのだ。


「・・・何でしょう?」

「お前、本当に何がしたいんだ?」


 そうシスランが呆れながら言うと他の三人もそれに同意するように頷いたのである。


「ん~何がと言われても、誰ルートに入ったか分からない状態ですので・・・」

「誰ルート?なんだそれは?」

「あ、いえ!こっちの話です!」


 思わず思った事をポロリと溢してしまった私は慌てて怪訝な表情で見てきたシスランに空笑いを浮かべながら誤魔化したのだ。

 するとそんな私にレオン王子がニコニコしながら近付いてきたのである。


「ねえねえセシリア姉様!約束通りニーナと踊ったんだし僕ともう一回踊ろうよ!」

「え?」

「いや、それだったら順番的に俺からだろう!」

「それならこの中で一番位の高い皇太子である私が先だと思うが?」

「姫、是非とも私と踊って頂きたい!」

「あ、皆様ずるいですわ!セシリア様、女性三人であちらの飲食場所でお話しながら食事でも如何ですか?」

「レイティア様それ良いですね!セシリア様、行きましょう?」


 そう口々に言われ何故か一斉に私に詰め寄ってきた。


「え、えっと・・・皆さんちょっと落ち着いて下さい」


 私はそう言いながら両手を前に突き出し困った表情で少しずつ後退していると、そんな私の背中に誰かが当たってしまったのである。


「ご、ごめんなさい・・・」

「私は大丈夫ですよセシリア」


 そう言って私の両肩に手を置き優しく微笑んできたのはカイゼルであったのだ。


(あ、そう言えばカイゼルとは別れてから全然姿見てなかった)


 私はそう思いカイゼルの顔を見上げると、いまだに私の肩に手を置きながら何故かいつもの似非スマイルに変わっている事に気が付いた。


「やあ皆さんお揃いで楽しそうですね」

「カイゼル王子・・・今回は邪魔しないでもらおうか」

「シスラン心外ですね。私は邪魔するつもりはありませんよ・・・『私』は、ね」


 カイゼルはそう言って似非スマイルのままちらりと皆の後方に視線を向けたのである。


「レイティア!こんな所にいたのか!お前にはまだまだ踊って貰いたい方々が沢山いるんだぞ!!」

「お、お父様!?」

「あちらですでにお待ちなのだ。さあ行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってお父様!」


 レイティア様の腕を掴み連れていこうとするダイハリア侯爵。


「おおニーナ様、探していたのですよ」

「司祭様!?」

「あちらで貴女のお話をお聞きしたいと神官達が集まっているのです。是非ともご一緒願いたい」

「え?でも・・・」


 ニコニコと笑顔でニーナを誘う司祭。


「シスラン、せっかくの所すまないがお前に紹介したい王宮学術研究省の者がいるんだ。少し来てくれ」

「父上!?い、今ですか!?」

「ああ、色々忙しい方なのだ」

「し、しかし・・・」


 呼びにきたデミトリア先生に戸惑った表情を向けるシスラン。


「レオン」

「・・・母上?それに父上も!?」

「ふふ、良かったらわたくしと踊ってくれないかしら?」

「え?それだったら父上と・・・」

「我と王妃はさっきまで沢山踊ったからな」

「だからね。わたくし今度はレオンと踊りたいの」

「それだったら兄上でも・・・」

「カイゼルとはもう踊ったわ。ねえレオン・・・母と踊るの嫌かしら?」

「うっ!嫌じゃ無いけど・・・」


 悲しそうな表情をした王妃にレオン王子がたじたじになる。


「団長!!」

「・・・どうした?」

「すみません団長!こんな時に申し訳無いのですが・・・ちょっと警備に関して不備が見付かりまして・・・」

「なんだと!?」

「さすがにここではちょっと・・・あちらで話がしたいのですが・・・」

「お前達だけで決めれない事なのか?」

「はい・・・すみません」

「・・・・」


 何度も申し訳なさそうに頭を下げている部下にビクトルが難しい顔をしていた。


「「「アルフェルド皇子様~!!」」」

「貴女方は・・・」

「急に居なくならないで下さい!」

「まだわたくし、アルフェルド皇子様とお話したいんです!」

「私ともう一度ダンスを踊ってください!」

「いや、すま・・・」

「「「さあアルフェルド皇子様あちらに行きましょう!!」」」

「ああ、そんな無理に引っ張らないで・・・」


 三人のきらびやかに着飾った令嬢達に手を引っ張られ困った表情を浮かべるアルフェルド皇子。

 そんな突然起こったこの状況に私は目を瞬かせながら驚いていると、いつの間にか横にきていたカイゼルに腰を抱かれたのだ。


「さあセシリア、皆さんの邪魔をしてはいけませんしあちらに行きましょう」


 そう言ってカイゼルがにっこりと似非スマイルを浮かべたのである。

 その瞬間、6人が一斉にカイゼルの方を見て明らかにヤられたと言う顔をしたのだ。


(・・・あ、確かに其々の相手は断る事の出来ない相手ばかりだ。でも何でわざわざそんな事を・・・)


 私はそう気が付き戸惑った表情で隣のカイゼルを見ると、カイゼルは私を見てさらに良い笑顔で微笑んできたのである。


「セシリア・・・私の話を聞いてくださる約束でしたよね?」

「うっ・・・確かに・・・そんな約束しましたね」

「では行きましょうか」

「・・・はい。じゃあ皆さん失礼します」


 そんなカイゼルの様子に呆れながらも、私はカイゼルの方を鋭い眼差しで見ている皆にペコリと軽く頭を下げてから苦笑を浮かべつつその場を離れたのだった。















 私はカイゼルに誘われて大広間から中庭に移動したのである。

 しかしその中庭には私達以外に人がおらずただ優しい風で揺れる草木の音だけが聞こえていたのだ。

 さらに雲一つ無い夜空に浮かぶ銀色の月に照らされて中庭に植えられている真っ白なペンタスの花々が美しく輝いていたのである。


「綺麗・・・」


 私はその美しい景色に思わずうっとりと見とれながら呟いていた。

 すると私の腰を抱いたまま横に立っているカイゼルが私の髪を一房すくいそこにキスを落としてきたのだ。


「っ!カイゼル!?」

「セシリアの方がもっと綺麗ですよ」

「な、何を急に言ってるんです!?」


 突然甘く囁いてきたカイゼルに私はドギマギしながら驚いた表情でカイゼルの顔を見た。

 そしてそのカイゼルの表情にさらに私の心臓が大きく跳ねたのである。


(な、何このカイゼルの顔!?まるで蕩けるような甘い微笑みなんだけど!?)


 私はその初めて見たカイゼルの様子に目を見開いて固まってしまったのだ。

 するとカイゼルはそんな私を見てさらに笑みを深くした。


「っ!!」

「ふふ、顔を赤らめているセシリアは可愛らしいですね」

「か、可愛いって・・・そ、それよりも私に話があったんじゃないんですか?」


 カイゼルの言葉にさらに私の顔が熱くなっているのを実感しながらもなんとか話題を変えようとそう尋ねたのだ。


「・・・セシリアとこれからの事を話し合いたいのです」

「これからの事?」

「ええ。私達は婚約して11年が経ちましたよね?それにお互い成人も越えましたし・・・そろそろ結婚の話を進めたいと思っているのです」

「え!?」

「そんなに驚く事ですか?本当は・・・貴女が成人したらすぐに結婚を考えていたのですよ?まあ色々タイミングが合わなくて今日まできてしまいましたが・・・」

「ちょ、ちょっと待って下さい!カイゼル、本当に私と結婚する気でいたのですか!?」


 私は激しく動揺しながらカイゼルの顔を驚いた表情で見つめた。


(た、確かに前シスランに言われてカイゼルと結婚した場合の事も考えた事あったけど・・・その後よくよく考えたらカイゼルの方が私と結婚する気があるとは到底思えなくてあまり深く考えなくなってたんだよね。だからビクトルにもすぐ結婚する気は無いって気楽に答えたんだけど・・・)


 まさかのカイゼルの言葉に私は戸惑ってしまったのだ。


「・・・何を今さら当然の事を聞くのですか?」

「だって・・・私との婚約は他の令嬢用の防波堤だと思っていましたし・・・ニーナもいますから」

「何故ここでニーナの名前が出るのか分かりませんが・・・そもそも貴女との婚約を防波堤代わりだとは思っていませんでしたよ?」

「えええ!?」

「・・・・・はぁ~やはりその様子ですと私の気持ちなど全く分かっていませんね」

「へ?カイゼルの気持ち?」

「セシリア、私の気持ちは・・・」

「きゃぁ!」


 その時突然突風が巻き起こり私は驚きに小さな悲鳴を上げながらはためく髪を押さえて目を瞑ったのである。

 しかしすぐにその突風が落ち着いてきたのを感じた私はゆっくりと瞼を開けそして目の前に広がった光景に息を飲んだ。


「・・・綺麗」


 先程よりもさらに心のこもった感想と感嘆のため息を溢しながらその光景に魅入ったのである。

 何故なら私の目の前でペンタスの花びらが辺り一面に舞い散っていたのだ。

 さらにその真っ白な花びら一枚一枚が月の光で輝いてとても幻想的な光景だった。

 その光景にボーっと見とれているとカイゼルが静かに私に話し掛けてきたのである。


「セシリア・・・目の上に花びらが付いていますよ」

「え?そうなのですか?」


 私はカイゼルの言葉を聞きすぐに目の上を触ろうとしてその手をカイゼルに止められた。


「ああ、下手に触って目に入ったら大変ですよ。私が取りますので目を瞑ってください」

「あ、はい。ではお願いします」


 そう言って私は顔をカイゼルの方に向けながら目を瞑ったのである。


(・・・・・あれ?なんかこの状況・・・昔にもあったような。ああそうそう、あれは確かカイゼルが私の家に来て庭を案内してあげてた時に、今と同じように突風が吹いて飛んでしまったゴミが私の目の上に付いちゃったんだよね。だからその時もカイゼルがそのゴミを取ってくれようと・・・ん?そう言えばあの時突然帰ってきたお兄様が何か変な事を言ってたような・・・)


 私はその時の事を目を瞑りながら思い出していたその時、何か私の唇に柔らかい物が触れたのだ。


(・・・・・・え?何この感触?)


 その今まで感じた事の無い感触に驚いた私は思わず目を開けさらに驚愕に目を見開いた。

 何故なら目の前に目を閉じたカイゼルの端正な顔がドアップであったからだ。


(え?え?何でこんなにカイゼルの顔が近くにあるの?これじゃまるで・・・・・キスされているような・・・・・・キス!?)


 私はそこで漸くカイゼルにキスをされている事に気が付いたのである。


「なっ!?カ、カイゼ・・・んん!!」


 その前世を入れて初めての体験に動転しながらも私は慌ててカイゼルの顔から自分の顔を離したが、すぐにカイゼルが私の頭の後ろに手を添えて再びキスをされてしまった。

 さらにカイゼルは私の腰をガッシリと掴んできているので全く離れる事が出来なかったのだ。

 しかしそれでも私はなんとか力一杯カイゼルの胸を押して漸くカイゼルの拘束から逃れる事が出来たのである。

 私はカイゼルから離れると、信じられないと言った表情で顔を熱くさせながら自分の口を両手で押さえカイゼルを見た。


「カ、カイゼル・・・どうして・・・」

「・・・ここまでしてまだ分かりませんか?」

「・・・・」

「セシリア・・・私は貴女が好きです」

「っ!」

「貴女と初めて出会ってからずっと好きでした」

「う、嘘です・・・そんなはずは・・・」

「嘘ではありません。貴女の事を愛しています」

「っ!!」


 そのカイゼルが私を見つめながら愛しそうに微笑んできたのを見て私の頭の中は大混乱を起こしたのだ。


「セシリア・・・」

「ご・・・ごめんなさい!私、これで失礼します!!!」

「あ!セシリア!!」


 カイゼルが微笑んだまま私に手を伸ばしてきたので、私は思わずそう叫び踵を返して後ろから慌てて呼び止めてくるカイゼルを無視し急いでその場を逃げ出したのである。

 そうして私はそのまま大広間にも戻らずお城の自室に一人戻ったのだ。

 しかし私はその中庭で、私達の様子を離れた所でじっと見つめていた赤い目をした男性の存在に気が付いていなかったのであった。

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