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旅立ちの日

 今日から私はニーナに同行して聖地巡礼に出発する。

 私は旅支度を整え馬車が待機している城の前の広場までやって来た。

 ちなみに今回は特にお披露目をするわけでも無いので、私の服装は男装ではなく普通に旅用の軽装なドレスを着ていたのだ。


「お待たせ致しました!」


 私はそう言ってすでに集まっている面々に挨拶をしたのだが・・・どうも様子がおかしいのである。

 先に広場にいたニーナがオロオロした様子で何かを見ていたので、私はその視線の先を辿って見てみるとそこにはカイゼル、アルフェルド皇子、シスランの三人が集まって何か揉めていたのであった。


(・・・あの人達、一体何やってるんだろう?)


 私はそう怪訝に思いながらとりあえずニーナの下に近付いて行ったのだ。


「ねえねえニーナ、あれは一体何を揉めているのですか?」

「あ、セシリア様!それが・・・」

「あれは誰が姫達と一緒の馬車に乗るかで揉めているのです」


 そう言ってビクトルが私達に近付いてきたのだが、その表情は呆れていたのである。


「私達と一緒の馬車に乗るかで揉めている?一体どういう事なのですか?」

「・・・本来であれば、ニーナ様とそのパートナーであらせられる姫のお二人だけで聖地巡礼に回られる予定でしたので馬車は一台だけで十分だったのです。しかし今回はさらに三人も増えてしまわれた為馬車が二台になってしまい、そして警護と人数の関係上姫とニーナ様が一緒に乗られる馬車にあちらの三人のうち誰か一人が乗られる事になったのですが・・・誰が乗るかでああしてずっと揉めておられるのですよ」

「・・・はぁ」


 私はビクトルと同じように呆れた表情でいまだに揉めているカイゼル達を見たのだった。


「・・・・・本当は私も姫と同じ馬車に乗りたいのを我慢しているんだぞ・・・」

「え?ビクトル?」

「・・・すみません、戯言ですのでお気になさらないでください」

「う、うん。よく分からないけど分かりました」

「それよりも、そろそろあの方々をなんとかしないといけませんね。もう出発の時刻なのですが・・・これではいつまで経っても出発出来ません」

「あ~うん、そうですね・・・はぁ~じゃあちょっと私が話してきますよ」

「いえ、姫がわざわざそんな事されなくても・・・」

「ん~でも多分身分的に一番言いやすいのは私だと思われるし・・・話し合いで決まらないなら別の方法で決めれば良いと思いましたので」

「別の方法?」

「まあとりあえず行ってきますので、ニーナとビクトルは出発の準備をしておいてください」


 そうして私はその場に二人を残しまだ険しい表情で揉めているカイゼル達の下に向かったのだ。


「ここはセシリアの婚約者である私が乗るべきです!」

「いいや、他国の皇子であるこの私にそこは譲るべきだろう!」

「むしろ王族同士が一緒の馬車に乗ってる方が警護する方も楽だろうし、俺がセシリア達の方に乗れば一番効率が良いと思うが?」


 そんな事を言い合って誰も身を引こうとしない様子に私は額を押さえながら大きなため息を吐いたのである。


「あの・・・ちょっと良いですか?」

「ん?ああセシリア、ちょうど良いところに来てくれましたね。セシリアからもこの二人に言ってください。婚約者の私と一緒の馬車が良いと」

「いいや、私とだよね?」

「俺だよな!」

「・・・正直私はどなたでも良いです」

「「「セシリア!!」」」


 私は目を据わらせながらキッパリとそう言うと、三人は同時に私の名前を叫びながら私に詰め寄ってきたのだ。

 しかし私はそんな三人を冷たい眼差しで見つめ、ちらりと回りで待機している人々を見たのである。


「それよりも早く決めて頂かないと出発出来ません!もう良いですからとりあえずここはじゃんけんで決めてしまってください!!」

「・・・・・じゃんけん?」

「え?もしかしてカイゼルはじゃんけんを知らないのですか?」

「ええ・・・アルフェルドは知っていますか?」

「いや、私も知らないな。シスランはどうだ?」

「・・・俺も知らない。セシリアそれは一体何だ?」


 三人が不思議そうな顔で私の方を見てきたので、私はそんな三人の様子に戸惑ってしまった。


(・・・あれ?もしかしてこの世界にはじゃんけんなんて無いのかな?ん~しまったな・・・日本のゲームの世界だしじゃんけんぐらいあるのが普通だと思ってたよ・・・まあこの際仕方がない、この三人にルールを説明してあげるか)


 私はそう思い困惑している三人に簡単にじゃんけんの説明をしてあげたのである。

 そうして私の説明を受けた三人は戸惑いながらも円になって向かい合った。


「ではいきますよ!最初はグー!じゃんけんポン!」


 その私の掛け声と共に三人は私の教えた通りの指の形を出してくれたのである。


「あ、皆さんそれぞれ違うのであいこですね。では次いきますよ!あいこでしょ!」

「・・・ふふ、これは私の勝ちですね!」

「くっ!」

「ちっ!」

「はい、チョキを出したカイゼルがパーを出したアルフェルド皇子とシスランに勝ちましたね」


 私がそう淡々と言うと、カイゼルはニヤリと笑いながら勝ち誇った顔で二人の方を見た。

 すると負けた二人は悔しそうな顔で酷く落ち込んでしまい、そんな二人を見て私は仕方がないと思いながら別の案を出してあげたのである。


「あ~でしたら、女神像が奉られている祠に到着したごとに順番に入れ替わってみたらどうですか?」


 そう私は呆れながら言うと二人はすぐに元気を取り戻し、もう私が言わなくても二人でじゃんけんをして順番を決めてしまったのだ。


(しかし・・・成人した一国の王子達や伯爵のご子息が真剣な表情でじゃんけんをしている姿って・・・よくよく考えたらシュールだ)


 そんな事を今さらながら思っていると、じゃんけんを終えた二人を見ながらカイゼルは不服そうな表情で私に話し掛けてきた。


「せっかく私が勝ったのですが・・・」

「まあまあ、一番に乗れるのですからそれで我慢してください」

「はぁ~分かりました。しかし・・・セシリアはこのじゃんけんと言うものをどこで知ったのですか?私はセシリアから教えて貰うまで全く知りませんでしたし、あのシスランでさえ知らないようでしたので・・・」

「そ、それは・・・あ!そうそう私が小さい頃に読んだ異国の本に書いてあったのです!」

「異国の本?それはどのような?正直このような勝敗の付け方が書かれた本、私も一度読んでみたいです」

「え?あ・・・・・ごめんなさい!その本だいぶ昔に無くしてしまったんです!それに幼い頃だったのでタイトルも覚えていなくて・・・」

「じゃあ、ラインハルト公に聞けば分かりますかね?」

「い、いえ!お父様は知らないです!確か昔屋敷で働いてくれていた誰かから頂いた物でしたので!」

「・・・そうですか。とても残念ですが諦めます。しかしもしタイトル思い出されたら教えてくださいね。探すように手配しますので」

「・・・はい。その時は教えますね」


 私はそう言って困った表情を浮かべながら笑っていたが、内心ではどっと冷や汗をかいていたのである。


(いやいやそんな本無いから!!)


 そうしてじゃんけんの結果、カイゼル→アルフェルド皇子→シスランそしてまたカイゼルと言う風に順番に入れ替わっていくことになったのである。

 漸く決まった事でホッとした私は先に馬車の方に行きますと一言伝えニーナ達のいる方に向かって歩きだした。

 しかしその途中、薄い色の金髪と濃茶色の髪をした明らかに見たことのある二人組を見つけその二人に近付いて行ったのだ。


「あら、テオにダグラスもこの旅の警護役なのですか?」

「あ、セシリア様!」

「はい、俺達自ら志願したんですよ」

「へぇ~・・・あれ?でも二人共確か今は各部隊の隊長にまで昇進したんですよね?そんな二人が一気に王都から離れても大丈夫なのですか?」

「ああそれは大丈夫です。私の信頼できる副隊長に任せてきましたので」

「俺もテオと同じです」

「そうなのですか・・・でも何故わざわざ志願されたのですか?」


 私は素朴な疑問が沸いてそう二人に訪ねると、二人はお互い顔を見合わせてから再び私に向き直った。


「私達の恩人の警護をしたかったからです」

「・・・恩人の警護?一体どなたの事ですか?」

「それは勿論セシリア様です!」

「へっ?私ですか!?」

「はい、セシリア様は俺達の恩人なのです!」

「いえいえ、私は何もしていませんよ!?」

「いいえ、セシリア様は昔私達の険悪な仲を取り持ってくださったじゃないですか!」

「あの時セシリア様に言われた通り、俺達お互いの卵焼きを食べ合ったんです・・・そしたら思いの外美味かったんですよ」


 ダグラスの言葉を聞いて私はビクトルと初めて出会った時に起こった決闘事件の事を思い出したのである。


「・・・ああ~そんな事ありましたね。しかしそれぐらいで恩人と言われましても・・・」

「それだけではありません!その時のセシリア様の助言のお陰で、今年私達二人共結婚する事が出来たのです!!」

「まあ!二人共おめでとうございます!!」

「「ありがとうございます!」」


 テオ、ダグラスは揃って頭を下げてお礼を言ってきた。


「ん~そんなお礼を言われる程の事はしていないのですけどね・・・でもそんな大事な奥様が居られるのにこの旅に同行して良いのですか?暫くは帰って来れないのですよ?」

「・・・実はその奥さんにセシリア様との事を話したら、行くように勧められたのです」

「俺の奥さんにも同じ事言われました」

「そ、そうなのですね・・・」

「ですので、私達が全力で御守り致しますのでどうぞご安心してください!!」


 テオが真剣な表情で胸に手を当てて姿勢を正すと、隣のダグラスも同じように真剣な表情で頷き胸に手を当てたのだ。


「あ、ありがとうございます。ではよろしくお願いしますね」


 そんな二人の様子に私はなんだか居たたまれなくなり、頬を引きつらせた笑顔を向けながらそそくさとその場を後にしたのである。

 そうして出発前からすっかり色々疲れてしまった私は、用意された馬車にさっさと乗り込み出発を待っているとすぐにニーナとカイゼルも乗り込み、そして全員が所定の位置に着いてからビクトルの掛け声で出発する事になったのだ。

 私は動き出した馬車の窓から顔を出し見送りに来てくれたレオン王子やレイティア様、さらにお父様やお兄様達に笑顔で手を振ったのであった。

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