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アルフェルド・ラ・モルバラド

 私は砂漠の中のオアシスに作られたモルバラド帝国と言う大国の国王と正妃である王妃の間に生まれた。

 だが私の母上は元々正妃では無かったのだ。

 何故なら私の父上である国王にはハーレムと言う後宮を持っていて母上はそこに住んでいた側室の一人であった。

 しかし母上以外の側室が生んだ子供は何故か全員女の子ばかりだった事で、初めて男の子を生んだ母上が正妃となり王妃となったのである。

 その為、生まれた時から私は皇太子としての立場が決められていたのであった。

 一応先に言っておくが私と姉妹達との仲は良い関係を築けている。そして姉妹達の母親とも上手く付き合っているのだ。

 そうして沢山の女性達に囲まれながら育った私は、女性の扱いも自然と覚えどんな笑顔を向ければ女性が私に好意を抱いてくれるのかも分かるようになったのである。

 そして父上とハーレムの女性達の関係を見続けていた私は、早く自分用のハーレムを持ちたいとも思うようになったのだ。

 私はすぐにその事を父上に相談すると、私が成人する時までに完成するように私用のハーレムが付いた別邸を用意してくれると約束してくれたのである。

 さらに父上は私の為に選りすぐりの女性も用意してくれると言われたのだが私はそれを断ったのだ。

 どうせならハーレムに入れる女性は自分で見付けたいと思ったからである。

 そんな私の気持ちを父上は快諾してくれ、さっそく私は様々な女性に声を掛けて自分のハーレムに入れたいと思う女性を探す事にしたのだ。

 そうして粗方国の女性達に声を掛けて何人かリストに入れたのだが、どうせならもっと違う国の女性達とも会ってみたいと思うようになったのである。

 そこで私は以前からずっと手紙のやり取りをしていた同盟国のカイゼル王子の事を思い出し、そのカイゼルの国の女性達に興味が湧いたのだ。

 私はすぐに父上に頼みカイゼルの国へ訪問する事が決まった。

 そして事前にカイゼルにも手紙で知らせを出しておくと、沢山の献上品を持参し船で三日ほど掛けてベイゼルム王国に到着したのである。

 そうして私はベイゼルム王国の国王と謁見する事になった。

 国から連れてきた家来に献上品を運ばせて謁見の間に入った私は、壇上にいる国王の下に向かいながら目の端でこの国の女性達を確認していく。


(・・・やはり私の国の女性とはまた違った美しさを持った女性達がいるな。ふっ、これはこの滞在期間かなり楽しみだ)


 そう思い心の中でほくそ笑んだのである。

 そして国王の下までたどり着くとすぐに、王妃と多分カイゼルと思われる男子の隣に座るその婚約者だと思われる少女もチェックしたのだった。


(ほ~さすが王妃なだけあってその美貌は群を抜いている。正直王妃でなければリストに入れていたほどだ。しかし・・・あのカイゼルの婚約者だと思われる少女もなかなか素晴らしい容姿をしているな。ここからでも分かるほどにキラキラと輝く銀髪と美しい紫の瞳が印象的で思わず目を奪われる。まあ・・・カイゼルの婚約者ではあるがあの子は確実に私のハーレムの上位リスト候補だな)


 私はそう心の中で思いながらも皇子としての役割を果たすべく国王に挨拶をしニッコリといつもの笑顔を浮かべたのだ。

 すると至る所で参列していた女性達が色めき立ったのである。

 私はその女性達の方に流し目を送りパチリとウインクを送ると何人かの女性達がそのまま赤い顔で卒倒してしまった。


(よしよし、この国でも女性が好む笑顔や仕草は共通のようだな)


 そう運ばれて行く女性達を見ながらそう確信したのであった。

 そうしてなんとか場が落ち着くと私は献上品の目録が書かれた書簡を手渡し、それから献上品の中から一枚の光沢のある真珠色の布を取り出したのだ。

 そしてそれを王妃に見せるように広げてあげた。


「こちら私の国で作っていますシルクなのですが、是非ともこちらをお美しい王妃様の衣装に使って頂きたいと思いお持ちしました。きっと今よりもさらにお美しくなられる事間違い無いです」

「まあ!とても嬉しいわ!!」


 私の言葉といつもの笑顔を王妃に向けると、頬を染めて嬉しそうに喜んだのである。


(やはり直接贈り物をされて喜ばない女性はいないからな)


 その王妃の様子に満足しつつ今度はカイゼルの婚約者にも同じ様に容姿を褒めつつ贈り物をすると伝え、私の手の平に乗るほどの小さな宝石箱の蓋を開けて中の耳飾りを見せながらじっと見つめた。

 しかしそのカイゼルの婚約者は私が思っていた反応を示さなかったのである。

 確かにこの耳飾りを見ながら笑みを浮かべているのだが、どうもその笑みは本心ではないように見えたのだ。


「ありがとうございます。とても素敵なお品ですね」

「出来れば・・・これを着けた貴女を間近で見たいです」


 ならばと思い私はそう言っていつもの笑顔をカイゼルの婚約者に向けたのである。

 だがそれでも他の女性のように頬を染める事なく同じ笑みをうかべ続けていたのだ。


「ごめんなさいアルフェルド皇子。私など間近でお見せ出来ませんのでご遠慮致します」

「そんな謙遜などされなくて良いのですよ」


 まさか断りの言葉を聞くとは思っていなかったのだが、その言葉を聞いてどうも恥ずかしがっているのだと思ったのである。

 なのでダメ押しとばかりにカイゼルの婚約者にウインクを送ってみたのだ。

 しかし今回も思った反応を得る事が出来ずむしろ何故か表情が固まってしまった。

 私はそれを不思議に思いながらも、もしかして分からなかったのかと思いもう一度ウインクを送ってみたのである。

 だがカイゼルの婚約者は私が思っていたのと真逆の胡乱げな表情を私に向けてきたのだ。

 さすがにその予想外の表情を見た私は目を見開き私が見たものが本当の事か疑って思わずじっと見つめたのだった。

 するとそんな私の視線に気が付いたのかすぐに先程の笑顔に表情が戻ったのである。

 しかしさっきまでの胡乱げな表情が頭から離れず、私はずっと戸惑った表情を浮かべていたのだった。












 なんとか謁見を終えると夜に行われる私を歓迎してくれる舞踏会までの時間、私は用意してもらった客間で寛いでいたのだ。

 確かに先程のカイゼルの婚約者の様子は思わず戸惑ってしまう程に困惑したが、今は私を世話してくれる可愛い侍女達に声を掛ける事に気持ちを切り替えたのである。

 そうして皆予想通りの可愛らしい反応を示してくれ、少し落ちていた自信を取り戻す事が出来たのだ。

 するとそんな私の所にカイゼルが訪ねて来たのである。


「やあアルフェルド、よく来てくれましたね。アルフェルドが来るのを私は楽しみにしていましたよ」

「私もカイゼルに会えるのを楽しみにしていたよ」

「どうです?この国は?」

「私の国と違って緑が多く空気が乾燥していないのはいいね。それに海が近いからか交易も盛んで街に活気が溢れているのは素晴らしい」

「ありがとうございます。しかしアルフェルドの国で作られた献上品の品々もどれも素晴らしい物でしたよ。特に私の弟が『砂漠のバラ』とか呼んでいる鉱石を大変気に入っていましたから」

「・・・へぇ~あの『砂漠のバラ』を知っている人がこの国にいたんだね。あれは私の国の特産品だから他国では無い代物なんだよ。それを知っているとはカイゼルの弟君は凄いね」

「ええ鉱石に関しては弟に敵うもの・・・いや、セシリアがいましたね」

「セシリアって・・・確かカイゼルの婚約者の名前だよね?よくカイゼルが手紙で絶賛しているから名前を覚えてしまったよ。そうだ!ついでだからそのセシリアの事を詳しく教えてくれないかな?」

「・・・・・・私の婚約者です」

「それは知っているからそれ以外で」

「私の婚約者です!」


 私が先程見たセシリアの事を詳しく知りたいと思っていたのに、その後頑なにカイゼルはセシリアが婚約者である事だけを連呼するばかりで全く教えてくれなかったのである。

 そうして舞踏会の準備があるからと言って急いでカイゼルは部屋から出ていってしまったのだ。


(なるほど・・・手紙からも伝わってきていたが、やはりカイゼルはあのセシリアにべた惚れのようだ。しかしあのカイゼルがそれほどべた惚れする相手であるセシリアか・・・正直興味が湧いてきた)


 私はそう思いながら誰にも気が付かれないように小さく笑みを浮かべたのである。

 そして私は舞踏会でそのセシリアと直接近くで話をしようと決めて舞踏会に臨んだのだが、ことごとくカイゼルの邪魔が入ってセシリアに近付く事さえ出来なかったのであった。










 舞踏会から数日が経ちセシリアが城に来ないようだったので、私はセシリアを今回は諦める事にし城にいる他の女性達に声を掛けていたのだ。

 そうして今日も人気のない中庭に面した廊下で、ハーレムの候補リストに入れようかと迷っている可愛らしい侍女を口説いていたのである。

 そして私の言葉と笑みですっかり蕩けた表情になった侍女の手を取りその手に口づけを落とした。

 するとその時、何か視線を感じ口づけをしながらその視線を感じた方をチラリと見ると、なんと少し離れた場所からこっちを見ている銀髪の少女がいたのである。

 しかしその少女はすぐさま踵を返し離れて行こうとしたので、私は慌てて侍女の手を離しすぐに少女を追い掛けたのだ。


「待って!確か・・・貴女はセシリアでは?」


 私がそうその背中に向かって声を掛けると、その小さな肩をビクリト震わせながらぎこちなくゆっくりと私の方に振り返ってくれた。

 そしてその少女は私がずっと話をしたかったセシリアだと分かり何故か私はとても嬉しくなったのである。


「ああやはりそうだ。貴女のお美しい銀髪は忘れられなかったからね」


 そう言ってセシリアに近付いていったのだが、そのセシリアは何故か私の後ろの方に視線を向けながら戸惑った表情をしていたのだ。

 そしてその原因がさっきまで私が口説いていた侍女がまだその場にいる事だったようなのだが、セシリアの視線に気が付いたのか侍女は慌てて去って行ったのである。

 私はその後ろ姿をチラリと見たがすぐに興味を無くし目の前のセシリアと二人っきりになれた事を喜んだのだ。

 しかしセシリアの方は去っていった侍女を気にしていたので、もうあの侍女との話は済んだから大丈夫だと教えてあげたのである。

 それよりも今はセシリアと話がしたいと伝え、あの舞踏会の時にカイゼルに邪魔されて話が出来なかったからだと苦笑を浮かべながら言ったのだ。


「・・・・・それでどう言ったお話を私とされたいのですか?私としては家に帰る所なのでこれで失礼させて頂きたいのですが?」

「・・・なるほど、カイゼルが貴女を私に会わせようとしなかった理由がよく分かった。貴女は他の女性とは少し違う方のようだ」


 まさか話がしたいと言っただけなのに明らかに私を拒絶しているかのような態度を取られ、私は驚きつつもこんな女性は初めてだと新鮮な気持ちになったのである。

 そして何かを考え込んでしまったセシリアにそっと近付くとその美しい銀髪を一房手ですくい取ったのだ。

 するとその事に驚いたセシリアは目を見開いて私を見てきたので、私はその滑らかな肌触りの髪の感触を指先で楽しみつつセシリアの顔に自分の顔を近付けてその美しい紫色の瞳を間近で見つめたのである。


「やはり思っていた通り滑らかで肌触りの良い髪だね。それに近くで見るとその紫色の瞳もとても素敵だ。出来れば・・・貴女をこのまま拐って私の国に連れて帰りたい」


 そんなとっておきの殺し文句をセシリアに向かって囁きながらいつもの妖艶な笑みを浮かべてみた。

 だがそれでもセシリアは私に落ちるどころか逆に眉間に皺を寄せて険しい表情を私に向けてきたのだ。


「・・・ここまでして私に落ちなかった女性は貴女が初めてだ」

「私、そんな簡単に落ちるような安っぽい女じゃ無いです。それに・・・先程別の女性を口説いた場面を見た後にこんな事されても・・・正直全く心動きません。と言うか引きます」

「・・・・」


 まさか私の顔を間近で見ながら引くとまで言われるとは思っていなかった為、私はセシリアを見つめたまま呆然と固まってしまったのである。

 するとその隙にセシリアは私の手から髪の毛を引き抜き、そしてスッと後ろに下がって私との距離を開けてしまったのだ。

 さらにセシリアは私を見ながら目を据わらせ大きなため息を吐いたのである。


「はぁ~だいたい、この国で自分のハーレムに入れる女性を見繕っている事自体私はどうかと思っているんですよ?」

「なっ!ど、どうしてそれを!?」

「どうせ国に連れて帰りたいと言われたのは私だけでは無いんですよね?」

「・・・・」

「それにアルフェルド皇子の国の事も私は大体は知っていますので、アルフェルド皇子の行動が気に入った女性をハーレムに入れる為の事前の下見だと容易に想像がつきました」

「そ、それは・・・」

「まあ、国ごとに考えが違われるのでそれは仕方がないと思われますが・・・私はハッキリ言って沢山の女性を囲う人は女性を軽視しているようで嫌いです!!」

「っ!!」


 生まれて初めてこうもハッキリと嫌いだと私に言ってきた女性はセシリアが初めてだった事で、私は大きなショックを受けたのだ。


(まさか私の事を嫌いになる女性がいるとは・・・いやそれよりもセシリアが言っていた言葉を考えなくては!確かに私は自分のハーレムに入れる為の女性を探す為に色んな女性に声を掛けてきた。しかし皆一様に私の言葉と笑みに嬉しそうにしてくれていた事で私のハーレムに入っても皆喜んでくれるとばかり思っていた。しかし・・・セシリアの言う通り私の行動は女性を軽視しているようなものだ。これではセシリアに嫌いだと言われても仕方がない・・・・・ならばもう多くの女性を囲おうと思わないようにしようか?そして私は私だけのたった一人の妃を見付けようか?)


 そう私は思っているとふと目の前のセシリアが目に入った。


(私の妃・・・もうすでに目の前にいる。そうだ私の妃に相応しいのはセシリアだ。皇子の私に対してこんなにハッキリと嫌いと言える女性はセシリアが初めてなのだから・・・)


 そんな考えが頭に浮かび、私はボーとセシリアを見つめたのだ。


「・・・こんなハッキリと嫌いだと言われた事も貴女が初めてだ」

「気分を害されたのなら申し訳ありません。ですが私の気持ちをハッキリとお伝えしておいた方がアルフェルド皇子の為だと思いましたので。ですのでこれからは私に構わず・・・」

「決めた!私はハーレムなど作らず一人だけを大事にするよ!」

「え?ああ、まあアルフェルド皇子がそう決められたのでしたら私は良いと思います」

「ありがとう、必ず貴女に認められる男になるよ」


 私は真剣な表情でセシリアに向かって宣言したのである。


(今はカイゼルの婚約者かもしれないがそんな事は関係ない!私はセシリアが欲しい!!それに私の父上も言っていた。欲しいものは奪ってでも手に入れろと!だけどまだ今の私では力不足だ。だから国に帰りしっかりとセシリアに認められる男にまで力を付けてから必ずセシリアを拐いに来る!!!)


 そう私は心の中で決心したのであった。

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