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レオン・ロン・ベイゼルム

 僕はベイゼルム王国の第二王子としてこの世に生まれた。

 そして第二王子と言う事で上に第一王子であり僕と3歳離れたカイゼル兄上がいる。

 そのカイゼル兄上は文武両道、眉目秀麗で笑顔の素敵な自慢の兄上なのだ。

 だから僕は自然とそんな兄上の真似をして皆にニコニコと笑顔を向けていたら、皆僕を可愛いと言って何でも僕の言う事を聞いて構ってくれるようになったのである。

 僕はそこで自分の笑顔の効果を知ってこれを上手く利用する事を覚えたのだ。

 だけど・・・僕の事を可愛い可愛いと言って構ってくれる人達が、兄上が現れると途端に僕から離れ皆そっちに行ってしまうのが不満で堪らなかった。


(・・・どうして皆僕だけを見てくれないの?)


 そんな気持ちが積み重なり段々皆の言葉が信じられなくなっていった僕は、もう笑顔を向けて自分に都合の良いように利用する事に気持ちを切り替えたのである。

 そんなある日、父上への献上品の中にとても興味の引かれる物があったのだ。

 それはとても綺麗な赤色の石で光が当たるとキラキラと輝いたのである。

 僕は一目でその石を気に入り父上にお願いして譲って貰ったのだ。

 さらに父上にその石を献上した人を呼んでもらい、その人から詳しい話を聞いた僕は鉱石と言う存在を初めて知ったのである。

 それから僕はすっかり鉱石にハマリ自分の笑顔を利用して様々な鉱石を集め始めたのだ。

 そして最初に出会った赤色の鉱石『レッド・ベリル』を加工してもらい、それをネックレスにして終始首に掛けていたのである。

 僕はそのネックレスを時々人に見せ鉱石の話をしようとしたのだが、誰もこの『レッド・ベリル』の事を知らずただ綺麗な宝石ですねとだけ決まって同じ事を言われたのだ。

 その皆の反応に段々見せる気が失せ僕は自分一人だけで楽しむ事にしたのである。

 そうして僕は自分の顔と笑顔を利用して回りを思い通りに動かしつつ心から安心出来るものが鉱石だけとなったある日、兄上に婚約者が決まったと聞かされたのだが僕はそれにもあまり興味を持たなかったのだ。


(・・・まあ兄上は将来父上の跡を継いで国王になるんだし、今から婚約者が出来ても不思議じゃないもんね。それにどうせその婚約者も僕なんかより兄上と婚約出来て喜んでいるんだろうな~)


 僕はそう思うとすぐにその兄上の婚約者の名前を忘れてしまうほどに興味が湧かなかったのである。

 そしてそれから2年の歳月が過ぎ僕は6歳になった為、社交界デビューの日を迎えたのだ。














 僕は先程まで一緒にいた兄上がいなくなっている事に気が付き、キョロキョロと部屋の中を見渡したのである。


「レオン、どうした?」

「父上、兄上はどこに行っちゃったの?」

「ああ、多分婚約者の所にでも行ったのだろう」

「婚約者?今日もしかして来てるの?」

「ああそうだ。カイゼルが出席する舞踏会や式典には基本婚約者はカイゼルに同伴する事が義務付けられているからな」

「そうなんだ・・・僕、兄上とまだお話したいから探してくるね!」


 さすがに初めての舞踏会に少し不安があった僕は、もう何度も経験している兄上と離れている事に落ち着かなくなりとりあえず兄上を探す為部屋を出たのだ。

 そうしてすれ違う何人かの使用人に兄上の行き先を確認すると、漸く目的の部屋に辿り着いたのである。

 そしてそのまま僕は扉を開けると部屋の中で寛いでいた兄上を見つけたのだ。


「あ!兄上ここにいた!!」


 僕はそう言って頬を膨らませながら機嫌が悪いアピールをした。

 そんな僕に兄上は苦笑しながらも謝ってくれ、この部屋に来たのは今日の舞踏会が少し遅れる事を婚約者に話にきたかららしいのだ。


「・・・セシリア?」


 僕は兄上から聞いたどこかで聞いたような名前を不思議そうに呟くと、兄上はそう言えばと言う顔で横にいる令嬢を僕に紹介してくれたのである。

 その兄上の紹介で僕は初めて兄上の婚約者を見たのだ。


(・・・へぇ~アメジストみたいに綺麗な瞳だな~)


 そう僕はコレクションの一つである鉱石のアメジストを思い浮かべながらじっと兄上の婚約者を見つめた。

 そして兄上に促され僕も名前を名乗ると兄上の婚約者を『セシリア姉様』と呼んであげたのだ。


(まあまず、こう僕に姉様と呼ばれて嫌な顔をする人はいないからね)


 僕はそう心の中で思いながらも『姉様』と呼ばれて戸惑っているとセシリア姉様に、ダメ押しでわざと不安そうな顔を向けてみたのである。

 すると案の定仕方がないと言った顔をしながらもどこか嬉しそうな顔をしたのだ。


(ふふ、簡単簡単!!)


 僕は心の中でほくそ笑みながら最後の仕上げにいつもの笑顔を向けながらセシリア姉様にぎゅっと抱きついた。


(うん!これで落ちない子はいないんだよね!とりあえず兄上の婚約者と仲良くしておけばきっと色々便利そうだ!!)


 そう思いながら僕が今まで同じ事をしてきた侍女達が浮かべた蕩けるような惚けた表情を、このセシリア姉様もしていると確信してその顔を見ると何故か思っていた反応と違っていたのである。

 セシリア姉様は何故か苦笑を浮かべていて全く嬉しそうな顔をしていなかったのだ。

 僕はその顔を見てスッと笑顔が抜けじっとセシリア姉様を見つめた。


「・・・セシリア姉様、僕が抱きついてもなんとも思わないの?」

「あ~ごめんなさい。なんとも思わないです。なのでそろそろ離して頂けませんか?」

「・・・・・変な人」


 まさかそんな反応をしてくる人がいるとは思わなかった僕は、一瞬眉をしかめて思わず思った事をボソッと言ってしまったのだ。


(しまった!僕とした事が!!)


 だがそんな僕の言葉が聞こえていたと思うのに、何故かセシリア姉様は嫌悪感を露にする事なく苦笑を浮かべたまま僕を見ていたのである。


(・・・・・本当に変な人)


 セシリア姉様の予想外の反応に僕は戸惑っていると、セシリア姉様は何かに気が付いてじっと僕の胸元を見てきたのだ。

 そしてそのセシリア姉様の口から想像していなかった言葉が出たのである。


「あれ?・・・それはレッド・ベリルですよね?」

「え?」


 まさかセシリア姉様からこの首に掛けているネックレスの鉱石の名前が出るとは思ってはいなかった僕は、驚きの声をあげながら目を瞠ったのだ。

 さらにセシリア姉様はこの鉱石の別名である『赤いエメラルド』や『緋色のエメラルド』の事まで知っていてそして希少な鉱石であると言ったのである。

 僕は初めてこの鉱石の名前を言い当てた事に驚き、もしかしたら他の鉱石の事も知っているのかと聞いてみるとセシリア姉様は戸惑いながらも肯定してくれたのだ。

 その瞬間、僕は初めて鉱石の事で話が出来る身近な人に出会えて大興奮したのである。

 そして僕はそのままセシリア姉様と鉱石の事でもっと話をしたいと、興奮した面持ちでセシリア姉様に問い掛けようとしたのだがそんな僕を兄上が邪魔してきたのだ。

 兄上は無理矢理僕をセシリア姉様から引き剥がし迎えに来ていた侍女の所まで連れて行かれたのである。

 僕はその事に凄く不満ではあったのだが、確かに舞踏会に参加しないと父上達に迷惑が掛かってしまうと思い渋々ながら父上達の下に戻る事にした。

 しかしその前にセシリア姉様にはどうしても言っておきたい事があり、扉付近でくるりと振り返ってセシリア姉様に言ったのである。


「セシリア姉様・・・また後でね」


 そう言ってにっこりと笑顔を向けたのだ。


(セシリア姉様・・・必ず僕とだけでお話しようね)


 僕はそう心の中でニヤリと笑ったのだ。













 再び父上達の部屋に戻った僕は舞踏会に出る為、父上達と広間の入り口まで移動した。

 すると少ししてセシリア姉様が兄上の腕に手を添えながら一緒にやって来たのだ。

 僕はその二人の姿を見た瞬間、心の奥からとても嫌な気持ちが湧いてきたのである。

 その初めての感覚に僕は戸惑うがとりあえず深く考えない事にし、セシリア姉様に会えた喜びのままセシリア姉様に近付いた。


「ねえねえセシリア姉様!僕と一緒に入場して欲しいな~」


 僕はそう言ってセシリア姉様の手を握りいつもの笑顔を向けて僕のかなり本気の願いを通そうとしたのだ。

 だけどやはりセシリア姉様には僕のこの笑顔は効かないようで、困った表情を浮かべたまま何も言ってくれなかったのである。

 するとそんな僕の手を再び兄上が外してきたのである。

 さすがに今度はムッとして兄上を見ると、兄上は笑顔を僕に向けてはいるが全く目が笑っていなかったのだ。


「レオン・・・いくらセシリアが将来私と結婚してレオンの姉上になるとはいえさすがに馴れ馴れしすぎますよ」

「でも兄上・・・」

「セシリアは私の婚約者なのですからね」

「・・・・」


 兄上のその言葉に僕はぎゅっと胸が締め付けられたのである。


(そうだった・・・セシリア姉様は兄上の婚約者だった・・・・・だけど!!)


 僕はセシリア姉様が兄上の婚約者であるのが今更ながら納得いかず不満気な表情で頬を膨らませたのだった。

 そんな事をしている内に入場の時間になり、今回は仕方がないと諦め父上達と共に広間に入場すると、すでに入っていた子息令嬢達に挨拶をしていつものにっこり笑顔を向けたのだ。

 するとそんな僕の笑顔を見て皆惚けた表情になったのでその様子に満足していると、僕の次に挨拶をした兄上の笑顔によってあっという間に僕から兄上に皆興味が移ってしまったのである。

 そのいつもの状況に僕は悔しくなり誰にも気が付かれないように小さく唇を噛みしめ服の裾をぎゅっと握っていたのであった。


(やっぱり皆兄上の方が良いんだ・・・)


 だがその時近くから視線を感じチラリとセシリア姉様の方を見ると、セシリア姉様は僕の事を複雑そうな表情で見ていたのである。


(あ、もしかしてセシリア姉様は僕の事を分かってくれてるの?それにあの兄上の笑顔にも全く興味を示してないし・・・ああ、やっぱりセシリア姉様良いな~)


 僕から視線を外したセシリア姉様を僕はじっと見つめうっすらと笑ったのであった。

 その後沢山の子息令嬢が僕に挨拶に来たが、もうその人達に興味は全く無くとりあえず対面的に笑顔を浮かべてやり過ごしたのだ。

 ただしつこい令嬢達に囲まれてなかなかセシリア姉様の所に行けなかったので僕は内心イライラしていた。

 さらに兄上がセシリア姉様と沢山踊っていたのも凄くムカムカしたのである。

 そうして二人が踊りの輪から抜けて移動したのを見て、僕はとびっきりの笑顔をとり囲ってきている令嬢達に向けたのだ。


「ごめんね。僕、ちょっと兄上達の所に行きたいから離れてくれる?」


 そう言うと僕の笑顔に魅了されてくれた令嬢達は無言で首を何度も縦に振ってくれたのである。

 僕はもう一度その令嬢達に笑顔を向けてから足早にセシリア姉様の下に向かったのだ。

 そしてまだ僕の事に気が付いていないセシリア姉様の後ろから思いっきりその体に抱きついたのである。


「セシリア姉様!こんな所にいたんだね!!」

「レ、レオン王子!さすがにこの場所で抱きつかれるのは止めて頂けませんか!!」


 激しく動揺しているセシリア姉様を見て楽しいと感じながらも僕はセシリア姉様から離れる気は無かったのだ。

 だからわざと目を潤ませながらセシリア姉様に訴えると、さすがにこれは効いたらしくガックリと肩を落として諦めてくれた。

 しかしセシリア姉様は離してくれないと僕の事を嫌になると言ってきたので、僕はさすがにセシリア姉様を渋々離したのである。

 だけどセシリア姉様から離れる気など全く無かった僕は、ピッタリとセシリア姉様の横に陣取ったのだ。

 さすがの兄上もそんな僕を見て諦めた様子になったのである。

 するとその時、僕はセシリア姉様の手に何も乗っていない皿を持っている事に気が付いた。


「ねえねえセシリア姉様!もしかして何か食べていたの?」

「これから食べようかと思っていたのです。もしよろしければレオン王子も食べられますか?」

「うん!食べる!!」


 僕は邪魔してこようとした兄上よりも早く動きセシリア姉様の腕を引いて食べたい物をどんどん言ったのだ。

 そうして皿一杯に料理が乗るとそれをセシリア姉様が僕に渡してこようとしたので、僕は敢えてそれを受け取らなかった。

 何故なら僕はセシリア姉様に『あ~ん』して食べさせて欲しかったからである。

 その事を言うとセシリア姉様は驚いた声を上げた。


「レオン!さすがにそれは私もまだなので駄目ですよ!」

「そっか・・・兄上はまだなんだ・・・」


 兄上のその言葉を聞いてニヤリと笑い益々セシリア姉様に食べさせてもらいたくなったのである。

 そうして僕は戸惑っているセシリア姉様に強引にお願いしてなんとか食べさせてもらう事に成功したのだ。


(ん~!!今まで食べてきた物の中でセシリア姉様に食べさせて貰った物が一番美味しい!!!)


 そんな幸せを噛みしめながら口の中のハンバーグを飲み込むと、今度はセシリア姉様に食べさせてあげたいと言う欲求が生れた。


「じゃあ次は僕がセシリア姉様に食べさせてあげるね!」

「え?いえ、私は・・・」


 断ろうとしてきたセシリア姉様の手から料理の乗った皿を素早く取ると、その皿の中からさっき僕が食べたハンバーグの残りをフォークに刺しセシリア姉様の口許に差し出したのだ。

 そして困惑しているセシリア姉様の口許に根気よく差し出し続けたら、漸く観念したのかその可愛らしい口を開けて食べてくれたのである。

 するとセシリア姉様の表情がみるみるうちに変化し、両頬に手を添えながら蕩けるような笑顔で幸せそうに食べたのだ。

 そのセシリア姉様の表情を見た瞬間、僕の体を稲妻が走り抜けたような感覚に襲われ僕は惚けた表情でセシリア姉様の顔から目が離せなくなった。


「・・・・・セシリア姉様、可愛い」


 僕はそんなセシリア姉様を見つめたまま思わず呟いてしまったのだ。


(ああセシリア姉様・・・・・欲しい)


 そんな欲求が僕の心を支配しもうセシリア姉様しか目に入らずニコニコと笑いながらさらに次の料理を食べさせようとした。

 しかしセシリア姉様は顔を赤くしながら首を横に振って拒否をしてきたのである。


「ちょ、ちょっと待って下さい!レオン王子!!お願いです!恥ずかしいのでこれ以上は自分で食べます!!」

「む~もっと食べさせたかったのに・・・・・・ああそっか、恥ずかしい場所じゃ無ければ良いんだ。くく、なら僕と二人っきりになれる場所を作れば・・・」


 僕はその考えが凄く良いものに思えたのだ。


(そうだ!ふふふセシリア姉様にピッタリの部屋を作っておいてあげよう)


 そうセシリア姉様の為の部屋を想像し、僕は一人ニヤリと笑ったのであった。

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