表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/101

攻略対象者レオン王子

 漸く舞踏会が始まる事となり、私はカイゼルの腕に手を添えながら一緒に広間に向かった。

 そして広間に続く扉の前に到着するとそこにはすでに国王夫妻とレオン王子が待機していたのである。

 私はすぐに国王夫妻にスカートの裾を摘まんで膝を折り挨拶をすると、その私に対して国王夫妻は笑顔で挨拶を返してくれたのだ。

 するとレオン王子が国王夫妻から離れ私の近くに寄ってきた。


「ねえねえセシリア姉様!僕と一緒に入場して欲しいな~」


 そんな言葉と共にレオン王子が小悪魔的な笑顔を私に向けながら手を握ってきたのである。

 私はそんなレオン王子の計算された笑顔に苦笑いを浮かべながら、さすがに国王夫妻の目の前でどう答えたものかと困っていた。

 しかしそのレオン王子の手をカイゼルがやんわりと掴み私の手から外させたのである。

 そして明らかに目が笑っていないいつもの似非スマイルを浮かべながらレオン王子に話し掛けたのだ。


「レオン・・・いくらセシリアが将来私と結婚してレオンの姉上になるとはいえさすがに馴れ馴れしすぎますよ」

「でも兄上・・・」

「セシリアは私の婚約者なのですからね」

「・・・・」


 カイゼルの言葉にレオン王子は明らかに不満そうな顔で頬を膨らませたのである。

 私はそんな二人を困った表情で見つめていると、私の近くに国王夫妻が近寄ってきたのだ。


「さすがはセシリア嬢だ。レオンまで懐かせるとはな」

「え?」

「ふふ本当にね~。あの子誰にでも愛想よくニコニコと笑顔を振り撒いて構われたがってはいるけど、あの子からここまで特定の方に懐いたのは初めてなのですよ?」

「そうなのですか?」

「ええ。ふふ、セシリア様カイゼル共々レオンの事もよろしくお願いしますね」

「我からも頼むぞ」

「え?あ、は、はい・・・」


 その国王夫妻の笑顔の圧に押され私は引きつり笑いを浮かべながら返事を返したのであった。

 そうしてそのまま国王夫妻と話をしていると、王族以外の出席者が全員広間に入場したと報告を受けいよいよ私達も広間に入る事になったのである。

 まずレオン王子と国王夫妻が先に一緒に入っていき私達は少し遅れて入場した。

 そして檀上まで移動するとまず国王が広間にいるご子息ご令嬢に挨拶をし、次にレオン王子が皆に向かって挨拶をしたのである。


「僕はレオン・ロン・ベイゼルムです。皆よろしくね!」


 レオン王子はそうフレンドリーな喋り方で挨拶をし、そして極め付きにお得意の小悪魔的笑顔を皆に向けたのだ。

 するとご子息ご令嬢共々皆レオン王子の笑顔に魅了され惚けた表情でレオン王子を見つめていたのであった。


(おおやっぱり凄いな~!しかし・・・改めて思ったけどこの人を魅了する笑顔はこの歳から完成されているんだな~)


 私はそう皆に笑顔で手を振っているレオン王子を感心しなが見ていたのだ。

 そうして次にカイゼルと私の番になり、カイゼルと共に皆の前で挨拶をしたのである。

 そしてカイゼルもいつもの似非スマイルを顔に張り付けてニコニコと笑顔を振り撒いていたのだが、さすが王太子であるカイゼルが挨拶した事で明らかにレオン王子に魅了されていたご子息ご令嬢が完全にカイゼルに興味が移ってしまったのだ。

 私はその相変わらずの状況に内心呆れながらも、ふとレオン王子の様子が気になりチラリとレオン王子を盗み見た。

 するとレオン王子は唇を噛みしめ上着の裾をぎゅっと両手で握りしめ悔しさに耐えているようであったのだ。


(あ~ゲームの通り自分よりもカイゼルに皆が行ってしまうのが気に入らないんだろうな~)


 私はレオン王子の様子にその気持ちを察する事は出来たのだが、だからと言って私になにか出来るわけもなく複雑な気持ちのままレオン王子から視線を外したのである。

 そうして私達の挨拶が終わると、恒例のご子息ご令嬢による挨拶の列が私達とレオン王子の前に出来たのだ。

 するとさっきまで不満そうなレオン王子は再びニコニコと笑顔を浮かべながら、その挨拶に来たご子息ご令嬢の挨拶を聞いていたのである。

 私はその様子に内心ホッとしながらも、カイゼルと共に似非スマイルを顔に張り付けながらその挨拶の波を乗り切ったのであった。

 そしてその挨拶の波をくぐり抜けた私はカイゼルに誘われ暫くダンスを踊り、そして小腹が空いてきたのでカイゼルと一緒に料理が並んでいる机にまで移動したのだ。

 さすがに今回主役は社交界デビューしたご子息ご令嬢方やレオン王子なので私は気兼ねなく食べる事が出来るのである。


「わあ!予想はしていましたが、今日の料理はいつも以上に豪勢でどれも美味しそうですね!!」

「料理長達が頑張っていましたからね。それにセシリアに食べて頂きたいと意気込んでもいましたし」

「そ、そうなのですか。では後でお礼に伺う事にします」

「そうして頂くときっと料理長達も喜びますよ」

「それにしても・・・シスランやレイティア様が今回参加されていないのは残念ですね。確かそれぞれ家のご用事があって参加出来ないと落ち込んでいらしたから」

「・・・・・まあ私は全く残念ではありませんですけどね」

「カイゼル・・・シスランとはよく喧嘩されているからまあ分かりますけど、どうしてレイティア様まで良く思われていないのですか?」

「・・・あの2年前の出会いでレイティア嬢はセシリア至上主義になってしまいましたからね。どうも私の味方では無いようなのですよ」

「でもレイティア様はいい子ですよ?だってレイティア様が色々動いて下さったお陰で私、今まで誰からも意地悪されていませんから」

「それについては感謝しているのですけどね・・・」


 そう言ってカイゼルは苦笑いを浮かべたのであった。

 私はそのカイゼルの様子を不思議に思いながらもふとある事に気が付いたのである。


「そう言えば、今日はビクトルはどうされているのですか?いつもは護衛と言って迎えに来て下さるのに、今日は別の方でしたので」

「ああ、今ビクトルの隊は訓練をしに南の地に遠征に行っているのでこの国にいないのですよ」

「そうなのですか。だから最近見掛けなかったのですね・・・ああ、だから数日前に我が家にビクトルが訪ねていらっしゃったのかな?」

「・・・ビクトルが?」

「真剣な表情で『姫の為に鍛えてまいります!』とか突然言われて何の事かと思っていたのですがそう言う事でしたのね」


 私は数日前のビクトルの様子を思い出し合点がいったのだが、その話を聞いたカイゼルが複雑な表情になっていたのだ。


「カイゼルどうかされましたか?」

「いえ、なんでもありません・・・」


 そう言いながらも複雑そうな表情は変わらなかったのであった。

 そんなカイゼルを不思議に見ていたその時、突然後ろからぶつかるように誰かが抱きついてきたのである。


「セシリア姉様!こんな所にいたんだね!!」

「レ、レオン王子!さすがにこの場所で抱きつかれるのは止めて頂けませんか!!」


 私は後ろからぎゅっと抱きついてくるレオン王子を振り返りながら注意した。


(いやいや、さすがに時と場所を考えてくれ!!どう見ても注目が集まっているし、それに・・・カイゼルが無理だから第二王子のレオン王子をゲットしようと狙っている令嬢達の視線が痛いんですよ!!!)


 遠巻きに私達を見ていると令嬢達の鋭い視線がグサグサ刺さり私は頬を引きつらせていのだった。


「べつに僕気にしないよ!だって僕セシリア姉様と一緒にいたいんだもん!」

「こら!レオン離れなさい!!」

「嫌~!だって兄上さっきまでずっとセシリア姉様と踊っていたんだし、ちょっとぐらい僕にも譲ってよ!!」

「私が婚約者のセシリアと一緒にいるのは当然の事なのですよ」

「・・・・・ねえセシリア姉様、僕と一緒にいるの・・・嫌?」


 そうレオン王子は目を潤ませながらじっと私の顔を見つめてきたのだ。

 さすがの私もその表情を見てうっと言葉を詰まらせ固まったのである。


(くっ、いくら計算されたものだと分かってはいても・・・美少年のおねだり顔は卑怯だ!!)


 私はそう思いガックリと肩を落とすと、お腹に回っているレオン王子の手を見てから仕方がないと言った表情でレオン王子に話し掛けた。


「レオン王子、嫌では無いですが離してくれないと本当に嫌になりますよ?」

「・・・う~分かったよ。離してあげる・・・でも一緒にいてね」

「・・・分かりました」

「セシリア、私の弟が申し訳ないですね」

「いえ、お気になさらないでください」


 漸く離れてくれたレオン王子にホッとしながらも、やはり言われた通りレオン王子は一緒にいるつもりでピッタリと私の横に立っていたのだ。


「ねえねえセシリア姉様!もしかして何か食べていたの?」

「これから食べようかと思っていたのです。もしよろしければレオン王子も食べられますか?」

「うん!食べる!!」

「では取り皿にお取りしますので食べたい物言ってくださいね」

「ああセシリア、それなら私がやり・・・」

「セシリア姉様!僕あのハンバーグが食べたい!それにあの黄色いソースが掛かってるの!!」

「あ、はいはい。あれですね」


 カイゼルが私が持っていた取り皿を取ろうと手を伸ばしてきたよりも早く、レオン王子が私の腕を取って食べたい料理を指定してきたので私は苦笑いを浮かべながらもその料理を皿に取ってあげていった。


(私・・・前世では姉が一人いたけど弟はいなかったから、なんだか本当に弟が出来たみたいで楽しいな~)


 とりあえず将来毒殺されるかもはこの際置いておいて、今は可愛い弟が出来たみたいな感覚を楽しむ事にしたのだ。

 そうして一通り希望の料理を皿に乗せるとその皿をレオン王子に手渡そうとした。

 しかしその皿を何故かレオン王子はニコニコと笑いながら受け取ってくれなかったのである。


「レオン王子?」

「セシリア姉様、僕にあ~んして食べさせて」

「え!?」

「僕、セシリア姉様に食べさせて貰いたいんだ!」

「レオン!さすがにそれは私もまだなので駄目ですよ!」

「そっか・・・兄上はまだなんだ・・・」


 カイゼルの言葉を聞いて一瞬レオン王子の口角が上りニヤリと笑ったように見えた。

 私はその黒い表情を見て思わず固まっていると、レオン王子はふたたびいつもの小悪魔的笑顔を私に向けて口を大きく開けてきたのである。


「あ~ん!」

「セシリア、無理してやらなくていいですからね!」

「あ~ん!!」

「いや、レオン王子・・・」

「あ~ん!!!」

「・・・はぁ~一回だけですからね。はい、あ~ん」


 レオン王子の根気のある『あ~ん』に私は負け仕方がないと思いながら皿に乗せたハンバーグを一口サイズに切ってレオン王子の口の中に入れてあげた。

 するとすぐにレオン王子は口を閉じてモグモグと食べ始めたのである。

 そしてごくりと飲み込むととても嬉しそうに笑ったのだ。


「うん!凄く美味しい!!」

「それは良かったです。では後は自分で食べられますよね?」

「じゃあ次は僕がセシリア姉様に食べさせてあげるね!」

「え?いえ、私は・・・」


 さすがにそれは出来ないと断ろうとしたのだが、それよりも早く私の持っていた皿を奪われ切ってあった残りのハンバーグをフォークに刺して私に差し出してきたのである。


「はい、セシリア姉様!あ~ん!」

「セシリア!さすがにそれはやらなくていいですからね!むしろ私がやりたいぐらいです!!」

「・・・・」


 カイゼルの訳のわからない言葉はこの際聞こえなかった事として、それよりもレオン王子のワクワクとした表情で目の前に差し出されているハンバーグをどうしたものかと悩んでいた。

 正直先程から匂ってくるハンバーグの美味しそうな匂いに、食べたいと言う欲求が羞恥に勝ろうとしていたのだ。

 そうして私は小さく深呼吸をすると、意を決してそのハンバーグを口に含んだのである。

 その瞬間、口の中に広がる極上の肉汁とソースが相まった美味しさに昇天しそうになったのだ。

 私は両頬に手を添えて至福の表情で口の中のハンバーグを味わったのである。

 そしてごくりと飲み込み満足にホッと息を吐くとふと何か視線を感じレオン王子の方を見た。

 すると何故かレオン王子は惚けた表情でじっと私を見ていたのである。


「レオン王子?」

「・・・・・セシリア姉様、可愛い」

「へっ?」


 レオン王子の言葉に私は戸惑っていると、まるで気に入った玩具を見付けたかのように嬉しそうな笑顔になり、さらに皿に乗った料理を私に食べさせようとしてきたのだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい!レオン王子!!お願いです!恥ずかしいのでこれ以上は自分で食べます!!」

「む~もっと食べさせたかったのに・・・・・・ああそっか、恥ずかしい場所じゃ無ければ良いんだ。くく、なら僕と二人っきりになれる場所を作れば・・・」


 私が恥ずかしさに必死に抵抗すると漸くレオン王子は残念そうにしながらも諦めてくれたのである。

 しかしそのあと何かよく聞こえない独り言をブツブツ言っていたかと思ったら、突然ニヤリと笑いだしたのを見て何故か分からないけど背中に悪寒が走ったのであった。

※次回はレオン王子の心情編予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このたびビーズログ文庫様の方で書籍発売致しました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ