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黒髪の騎士

 結局あの後お城から帰ってきたお兄様によって二人は強制的に帰されたのだが、次の日からまるで示し合わせたかのようにカイゼルとシスランが我が家にやってくるようになってしまったのだ。

 そして来たら来たで何故か二人はいがみ合い全く心が休まらなかったのである。


(喧嘩なら他所でやってくれ!!!)


 そう心の中で罵倒しながら何故か仲の悪い二人が目の前で喧嘩するのを呆れながら見ていたのだ。

 そんな事が数日続き私のストレスがどんどん溜まっていたのだが、今日はさらにストレスが溜まっているのである。

 何故なら今私は明日行われる婚約発表会の事前打ち合わせをしに城に来ているからだ。


(最近色々あったからすっかり婚約発表会の事忘れていたよ・・・)


 そううんざりしながら上機嫌のカイゼルと共に明日着るドレスを選んでいた。

 正直私としては着れれば何でも良いのだが、何故かカイゼルが張り切って侍女に指示を出し色とりどりのドレスを着させられたのである。


「ん~セシリアにはこっちの色の方が似合いますかね?いや、あっちの方が似合うかも・・・」


 そう言って1着づつ着させられその度にカイゼルが私の姿をじっくり見て真剣に選んでいたのだ。

 まるで着せ替え人形の気分になりながら長々と着替えさせられ私はすっかり疲れきっていたのである。

 そうして最終的にカイゼルが満足出来るドレスが見つかり漸く私は解放された。

 その後細かい打ち合わせを終えた私は、せっかくだからと言うことでカイゼルがお城の中を案内してくれる事になったのである。


(出来ればもう疲れたから帰りたいんだけど・・・)


 正直そう思ってはいたが楽しそうにしているカイゼルを見るとそんな事言えるはずもなく、私は苦笑いを浮かべながらカイゼルと一緒にお城の中を歩いたのだ。

 しかしゲーム上では一部しか出てこなかったお城の中を見て回っているうちに、私は途中から疲れも吹き飛びウキウキした気持ちでカイゼルの説明を聞きながら歩き回ったのである。


(いや~やっぱりゲームで見るのとリアルで見るのとでは全然違うな~!!あ、あそこはイベントの背景で描かれてた場所だ!!それにあっちに見える庭園もよく立ち絵の背景に出てた所だ!!)


 そう内心興奮しながらキョロキョロと辺りを見回していると、ふと視線を感じ横にいるカイゼルの方を見た。

 するとカイゼルは私の方をじっと見て楽しそうに微笑んでいたのである。


「カイゼル?」

「やはりセシリアは見ていて飽きないですね」

「・・・はい?私など見ても何も面白くないと思われますよ?」

「そんな事ありません。少なくとも私はセシリアと会ってる間はとても楽しいのですよ」

「そ、そうですか・・・・・私何か面白い事してたかしら・・・」


 そう呟き今までの私の行動を思い出すが、全く思い当たる節など無かったのだ。


(ん~もしかしてその時私、自分では分からなかったけど変な顔してたんだろうか?)


 そう考えながら顎に手を添え難しい顔で考え込んだのである。


「ふふ、貴女のそんな所が飽きないのですがね」

「え?」


 私が考えにふけっている時にカイゼルが何か呟いたようなのだが、それがよく聞こえなかった私はカイゼルに聞き返してみた。

 しかしカイゼルはニコニコと微笑んだまま言い直してくれなかったのだ。

 それを不思議に思いながらも私は、まあそこまで重要な事では無いのだろうともう聞き返さなかったのである。

 そうして再びカイゼルと城の中を歩いていたのだが、そんな私達の下に廊下の向こうから早足で近付いてくる黒髪に黒い軍服を着た人物がいたのだ。

 私は段々近付いてくるその人物を一体誰だろうと思いながらじっと見つめ、そしてその顔が視認出来る距離まで来るとピシッと私は固まったのである。


(あ、あれは・・・・・三人目の攻略対象者ビクトル・フェルドラじゃないか!!明らかにゲームより若いけどあの顔は間違いない!!!)



※『ビクトル・フェルドラ』


 前髪を後ろに撫で下ろしている髪型をした黒髪に黒い瞳の美丈夫。ゲーム上では32歳。

 伯爵家の三男として生れた為、成人するとすぐに騎士団に入った。

 元々剣の実力があったのだが、騎士団に入りそこで当時騎士団長を務めていた人に鍛え上げられメキメキと力を付けたのである。

 そうしてその騎士団長が引退すると同時に騎士団長に任命され、歴代でもっとも若い騎士団長となった。

 性格は比較的に真面目で部下の面倒見が良くその部下達から慕われている。

 そしてその見た目から多くの女性に言い寄られるが、本人は恋人を作る気はなくその女性達を全く相手にしなかった。

 しかしヒロインの護衛役を任命され行動を共にするようになりそのヒロインの人柄に触れていくうちに次第に惹かれていく。

 だが騎士団長と言う立場とヒロインが護衛対象だと言う思いと、さらに今まで恋をした事が無かった事からなかなか自分の気持ちを認められなかったのである。

 そうして最終的にヒロインとくっつき恋人同士になったのだが、ヒロインが幸せになるのを認めないセシリアが懐に忍ばせていた短剣でヒロインを襲ってきたので、剣を抜いてバッサリとセシリアを斬り捨てた。



 私はそう自分で書いた攻略対象者の説明文を思い出しゾッとしたのである。


(・・・もしかしたらあの腰の剣でいつか私殺されるのかも)


 ビクトルさんの腰で揺れる剣を見てそう思うと私の背中に流れる汗が止まらなかったのだ。

 そうこうしているうちにビクトルさんは私達の目の前で立ち止まり、険しい表情でカイゼルをじっと見つめた。


「カイゼル王子」

「・・・ビクトル、一体そんな険しい表情でどうしたのですか?」

「王子・・・剣術の稽古の時間を大幅に過ぎています」

「・・・ああ、そう言えばそうでしたね。しかし今は明日の婚約発表会の事前打ち合わせがあるのでまだ行けない・・・」

「もうすでに打ち合わせは終わっていると伺っていますが?」

「うっ!」

「団長が額に青筋を立てながら仁王立ちして訓練所で待っています」

「そ、それは・・・だいぶ厳しい状況ですね」

「すぐに向かわれた方が宜しいかと思われますが?」

「た、確かに・・・セシリア、申し訳ありませんがお城の案内はここまでにさせて頂いてよろしいですか?」

「ええ、私は構いませんよ」

「出来ればもう少し貴女と居たかったのですが・・・これ以上あの人を怒らせると稽古が厳しくなるんですよね。仕方がありませんビクトル、セシリアを家までお送りしてあげて下さい」

「・・・私が、ですか?」

「ええ、団長には私から伝えておきますので」

「・・・分かりました」


 ビクトルが渋々ながら頷いているのを見て私は慌てて首を横に振って断りの言葉を言ったのだ。


「いえいえ!私一人でも帰れますから、ビクトルさんのお手を煩わせる事無いです!!」


(と言うか、一緒に居たくないんです!!!出来ればこれ以上関わる攻略対象者を増やしたくないんです!!!)


 そう心の中で叫びながら一人で帰れると必死に訴えたのである。

 しかしカイゼルはそれを認めてくれず、さらに一度引き受けた事だからとビクトルさんも折れてくれなかったのだ。

 結局私はビクトルさんに家まで送られる事が決定し、名残惜しそうな顔で去っていくカイゼルを二人で見送ったのであった。


「では、参りましょう」

「・・・はい、ビクトルさん」

「・・・・・セシリア様、私の事はビクトルと呼び捨てにして下さい」

「では私の事もセシリアと・・・」

「それは出来ません。身分が違いますので」

「私は気にしませんよ?」

「それでも出来ません。セシリア様、貴女はこの国の王太子の婚約者なのですよ?どうぞご自覚下さい」

「・・・・・はい」


 その有無を言わせないビクトルの態度に私は渋々頷き、そうして家に帰る為馬車が用意されている場所に二人で向かったのである。


「・・・・」

「・・・・」


 特に話す話題もなくビクトルからも話し掛けられないので、私達は長い廊下をただただ無言で歩いていたのだ。


(いや~確かにゲーム上でも最初はなかなか話してくれないキャラだったけど・・・リアルで全く会話がなく歩いているだって言うのは凄く気まずい・・・だけどなにか話題って言っても・・・)


 そう思いながらチラリと横を歩くビクトルを見上げ、ふとある事に気が付いた。


(あれ?よくよく考えたら、6歳の私と確か今は21歳のビクトルでは身長差が凄くあるから絶対ビクトルの方が先に歩く事になるのに一緒に並んで歩いている?それも私全然急ぎ足になってないし・・・あ、そうか私に歩調を合わせてくれてるんだ!)


 その事に気が付き、私は申し訳ないと思いながらもその優しさに感動したのである。

 そしてその気持ちのままにっこりと笑いながらビクトルに話し掛けたのだ。


「ビクトル、ありがとうございます」

「・・・一体何がですか?」


 私のその言葉にビクトルは困惑した表情で私を見てきた。


「私の歩調に合わせて歩いて下さっている事です」

「ああその事ですか。それは当然の事をしているだけですのでお礼を言われるほどの事ではありません」

「でも私に合わせて歩くのは、大人の男性からしたらとても歩きにくいですよね?それなのに私が疲れないようにゆっくり歩いて下さっているのだからお礼を言いたくなって当然です!」

「・・・・・そんな事をおっしゃられたご令嬢は貴女が初めてです」

「そうなのですか?」

「少なくとも私が今まで一緒に歩かさせて頂いたご令嬢からは誰も・・・セシリア様、貴女は少し他のご令嬢と違う方のようですね」

「そうかしら?私は普通だと思っているのですが・・・」


 さっきまで私に全く興味の無い目をしていたビクトルの目が、なんだか少し変わったような気がしてきて私は戸惑ったのである。

 だが先程の気まずい雰囲気は無くなり自然と話すことが出来るようになり私は内心ホッとしたのだ。


(良かった。あの状態のまま家までずっとって・・・さすがに関わりたくないと思ったとは言えキツいからな~)


 そう思いながらビクトルと楽しく話を続けていると、廊下の向こうから慌ててこっちに駆けてくる赤い軍服を着た騎士の男性に気が付いた。


「ビクトル隊長!!!」

「ん、どうした?」

「た、大変なんです!!!」


 そう叫びながらその男性は私達の下までやって来ると、肩で荒く息をしながら困った表情でビクトルを見上げたのだ。


(あ~こうやって改めて他の男性と並んでいる姿見るとビクトルってやっぱり背が高いんだな~。まあ確かに設定資料集でも一番背が高いと書かれていたけどさ。・・・それにしても21歳でもう隊長なんだ。本当にビクトルの実力って凄いんだろな~)


 私はそう思いながらも黙ってビクトルとやって来た騎士の会話を聞いていたのである。


「隊長!また例の二人が揉め出したんです!!」

「・・・またか。だが放っておけばそのうち治まるだろう」

「それが・・・今回はさらに酷くなってとうとうお互い決闘だと言い出してしまったんです」

「なんだと!?」

「一応回りにいた俺達が必死に止めたんですが・・・全く聞き入れてもらえなくてそのまま二人は闘技場に向かってしまったんです」

「・・・それはさすがにまずい。あの二人はああ見えて剣の腕はあるからな。決闘などしたらお互い怪我だけでは済まないだろう」

「ど、どうしましょう!?」

「私が行って止めるのが一番良いのだろうが・・・私は今カイゼル王子の命でこのご令嬢を家まで送り届けなければならないのだ」

「でしたら俺が・・・」

「だが私が直接受けた命だからな・・・」


 そう言ってビクトルはチラリと私を見て困った表情をしたのだ。


「隊長!急がないと二人の決闘が始まってしまいます!!」

「くっ!」

「・・・でしたら私がビクトルと一緒に闘技場に行きますよ」

「なっ!しかしあそこはご令嬢が行かれるような場所ではありませんし、ましてや最悪血を見るやもしれないのですよ!!」

「確かに血を見るのは・・・あまり見たく無いですが、私のせいで手遅れになってしまわれるくらいなら、私も一緒に行ってビクトルがそのお二方を止めた後に家まで送って頂ければ問題ないかと思われますよ?」

「た、確かにそうなのですが・・・」

「隊長!本当に時間が!!」

「っ!・・・セシリア様、申し訳ありませんが少し私に付き合って頂きます。しかし・・・急ぎますのでご無礼ご了承下さい!」

「なっ!」


 突然ビクトルは私に手を伸ばすと、その逞しい腕で軽々と私をお姫様だっこしてきたのである。

 私はその突然の事に驚きの声を上げるがすぐに落ちないように慌ててビクトルの首に掴まったのだ。

 そんな私をビクトルは優しく見つめたあと、すぐに真剣な表情になり私を腕に抱いたまま騎士の男性と一緒に廊下を駆け出したのであった。

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