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シスラン・ライゼント

 俺はシスラン・ライゼント。ライゼント伯爵家の嫡男としてこの世に生を受けたのだ。

 そして俺の父上はこのベイゼルム王国で入る事が最も難しいと言われている王宮学術研究省に務めていてさらにそこの所長をしている。

 俺はそんな父上をずっと尊敬し憧れていた。

 だから俺も父上と同じ王宮学術研究省に入りたいと自然と思うようになり、その為に難しい本などを読んで必死に勉強をしたのだ。

 すると何故か回りの大人達が俺の事を神童とか呼ぶようになったのである。

 だが俺はそんな風に呼ばれる事など正直どうでもよく、それよりも勉学に没頭する事に集中していた。

 そして分からない事は父上に聞けば何でも答えてくれ、俺はそうして知識をどんどん増やしていったのである。

 一応父上以外の者にも質問はした事はあったが、大概そいつらは俺の質問に全く答える事が出来ない低能な頭をしていたのだ。

 だから俺はそんな奴等と話をするのも時間の無駄だと感じだし、わざわざ関わる事をしなくなったのである。

 しかし俺が4歳になったある日、父上はハインツ公爵家の令嬢に家庭教師として呼ばれ行ってしまったのだ。


(何で公爵令嬢が俺の父上に勉強を教えてもらうんだ!・・・まあでもどうせ令嬢なんてすぐに飽きて止めるはずだろうがな。俺の知ってる令嬢達も・・・最初は俺に勉強を教えて欲しいとか言って近寄ってきたのにすぐに飽きやがって、何故か勉強なんて止めて私と遊びましょうとか言ってきやがったんだ!俺はそんな馬鹿な女達に辟易し冷たく言い放って二度と会わないようにした)


 そんな事を思い出しどうせすぐに父上は家庭教師から解放されるだろうと思っていた。

 だがそんな俺の考えは大いに外れ、むしろ公爵家から帰宅した父上は興奮した面持ちで俺に話してきたのである。


「シスラン!セシリア様は凄かったぞ!!」

「ちちうえ、おちついてください」

「これが落ち着いていられるか!セシリア様はお前と同じように学力が桁外れに凄い方だったんだぞ!」

「え?」

「令嬢という身分でさらにあのお年であの学力・・・将来が凄く楽しみな方だったんだ!だから先手を打って公爵にセシリア様を将来王宮学術研究省に入れて欲しいと希望しておいた」

「・・・ちちうえがわざわざ?」

「ああそれほどの方なんだ」


 その父上の言葉に俺は腹の底から沸き上がるムカムカした気持ちを感じ唇を強く噛んで黙りこんだ。


「・・・ああすまないシスラン。勿論お前が王宮学術研究省に入りたいと思っている事は知っているし、私もお前が入ってくれる事を楽しみにしているよ」

「・・・・」

「本当にすまない、私が言い過ぎた。・・・シスラン、セシリア様にお会いするかい?もしかしたら同じ秀才同士話が合うかもしれないよ?」

「・・・・・ぜったいいやです!」

「そ、そうか・・・セシリア様も何故かお前を連れていくのを嫌がったのだよな・・・」


 そんな事をブツブツと父上は言っていたが、俺はどうやったか知らないが父上に認められたそのセシリアとか言う公爵令嬢の事が気に入らなくなり絶対会いたいとは思わなかったのである。

 そしてその後、父上は本格的に公爵令嬢の家庭教師をしだし仕事と両立をして段々俺の勉強を見てもらえなくなり俺はさらに公爵令嬢の事を気に入らなくなったのだ。

 そうして月日が過ぎ、俺は6歳となった為強制的にある社交界デビューをしに王宮主催の舞踏会に嫌々ながら出席したのである。

 するとそこには、同じく社交界デビューを迎えたベイゼルム王国の第一王子であるカイゼル王子がいたのだ。

 その王子は金髪に青い瞳の眉目秀麗な顔立ちと甘い笑顔であっという間に子息令嬢・・・特に令嬢達に囲まれていたのであった。

 しかし俺はその笑顔がどうも胡散臭く感じており、そんな王子の笑顔に気が付かない馬鹿な子息令嬢達を冷めた目で見ていたのである。

 そうして俺は最低限の挨拶をカイゼル王子に済ますと、このつまらない舞踏会からさっさと抜け出し帰ったのであった。

 結局初めて見たカイゼル王子に俺は興味もなく特に関わる事などないと思っていたのだが、思わぬ形で俺に影響が出たのである。

 社交界デビューを果たしたカイゼル王子に父上が帝王学を教える事となってしまったのだ。

 その為益々父上に勉強を教えてもらえる時間が無くなってしまったのだ。

 さらに父上の話ではカイゼル王子は頭が良くやれば出来るやつらしいのだが、どうも勉強をサボる癖があるらしく父上の勉強の時間になると居なくなる事が多いらしい。

 だからカイゼル王子の勉強を教えに行った日の父上は、帰ってきたらとても疲れて機嫌が悪いのであった。

 その話を聞いていた俺はあまりカイゼル王子にいい印象は持てなかったのである。

 そうして一年が過ぎ王宮で恒例の社交界デビューの舞踏会が行われたのだが、俺はそれに参加するつもりなど全くなくその時間は自室で勉強をしていた。

 そして次の日、父上はいつもの通りカイゼル王子に勉強を教える為城に行ったのだ。

 しかし帰ってきた父上はなんだか複雑そうな顔をしていたのである。


「父上、どうかされたんですか?」

「いやそれが・・・カイゼル王子が婚約者を決められたんだが・・・」

「まあ一応王子ですし早めに婚約者を決められるのは普通の事では?」

「そうなのだが・・・お相手がセシリア様なのだ」

「・・・・・へぇ~」


 父上の言葉に俺は無感情に答えたのだが内心は複雑な気持ちで一杯だった。


(セシリアって・・・父上がいまだに家庭教師を続けている公爵令嬢の事だよな。そいつとカイゼル王子が婚約したのか・・・まあ身分的にも問題は無いが、やっぱり所詮ただの貴族の女だったって事か。確か昨日の舞踏会が社交界デビューだったはずだしそこでカイゼル王子に色目でも使って落としたんだろう。ちっ、ムカついていたがそれでも父上の授業を飽きず続けていた事は認めていたんだがな・・・)


 俺はそう思い何故か落胆すると同時にムカムカした気持ちにもなったのである。


「はぁ~セシリア様がカイゼル王子と将来結婚されてしまわれたらもう王宮学術研究省には入って頂けないな・・・」


 そう見るからにガックリと落ち込んでいる父上を俺は黙って見つめていたがその時俺はある決意をしていた。

 そして数日後父上が公爵令嬢の家庭教師をしに家を出ようとしていた所を俺は引き止めたのだ。


「父上!俺も連れていって下さい!」

「シスラン突然どうしたんだ?」

「・・・俺、その公爵令嬢に会ってみたいんだ」

「しかしお前はずっとセシリア様と会いたくないと・・・」

「気が変わったのです。お願いします父上!」

「・・・・・分かった。お前が自分から他人に会いたいと言うのは初めてだからな。よし、時間が無いから先方には事前にお伝い出来ないが連れていこう」

「ありがとうございます父上!」


 俺はそうして父上と共に馬車に乗り込みハインツ公爵邸に向かったのである。

 そしてハインツ公爵邸に到着すると父上は屋敷の者に挨拶をしすぐに公爵令嬢の部屋に向かうとノックの後扉を開けた。


(うわぁ~なんだよこの部屋・・・ピンクや白だらけだはフリルやリボンの飾りで一杯だは・・・確かに女が好きそうな部屋ではあるが・・・って何で俺こんな残念な気持ちになってるんだ?)


 俺は自分の気持ちに戸惑いイライラした気持ちで何故か立ち止まっている公爵令嬢を見たのだ。


(・・・・・確かに見た目は凄く良いのは認める。だが思っていたのとは違うな。父上から勉学が好きな女と聞いていたからもっと知的な顔をしてるかと思ったが・・・どっちかと言えばふわふわとした勉強に全く興味の無い馬鹿な女にしか見えない)


 そう思うとどうしてか俺は心の中で落胆しつつ公爵令嬢にぶっきらぼうに名前を名乗ったのである。

 しかし当の公爵令嬢は何故か呆然とした表情のままじっと俺の顔を見ていたのだ。

 俺はそれを不信に思いながら見ていたら公爵令嬢は慌てて淑女の礼をして名乗ってきた。

 するともうその姿を見て俺はすっかり公爵令嬢に興味が無くなったのである。


(やっぱりお前もただの馬鹿な令嬢って事か)


 そう結論付けると俺は父上に本当にあの女が父上が認めるほどのやつなのか不信感を露に言ったのだ。

 そしてチラリと公爵令嬢を見るとアホ面を浮かべながら俺を見ていたのである。

 俺はその顔を見て呆れ、わざわざ来たのに時間の無駄だったと父上に訴えて帰りたい気持ちを告げようとした。

 しかしその時あの女は俺に向かって燗にさわる事を言ってきたのだ。


「・・・しっかり確認もしないで人の事を見た目だけで馬鹿呼ばわりするのは如何なものかと思いますが?そう言う貴方こそ本当に神童と呼ばれる程凄いのですか?」


 その言葉に俺はカチンときて公爵令嬢を険しい表情で睨み付けたのである。

 だが公爵令嬢はそんな俺に臆することなくさらに俺を馬鹿にする言葉を続けたのだ。

 俺はそれに腹を立てさらに睨み付けながら俺も公爵令嬢に向かって応戦した。

 すると俺達が言い合いをしている間に父上が仲裁に割って入り俺に向かって言ってきたのだ。


「まあまあ二人とも落ち着きなさい。シスラン、そんなにセシリア様の実力を疑うのなら二人でテストを受けてみないか?」


 その父上の言葉に俺は驚いたがすぐにこの公爵令嬢に俺の実力を見せ付けて黙らせるチャンスだと思った。

 そして公爵令嬢も父上の意見に乗ったのだが、あろうことか俺に勝つ気でいるらしく俺よりも優れていると証明出来たら俺に謝れと言ってきたのだ。

 俺はその言葉を聞きそれならばいい機会だから証明出来なければ父上を家庭教師から外すように言ってやった。

 そうすれば父上との時間が増えまた俺に勉強を教えて貰えると思ったのである。

 しかし公爵令嬢は俺の言葉を聞き少し思案すると何か納得した顔をしそして・・・。


「・・・・・ああ、お父様を取られたくないと言う嫉妬ですか」


 とそんな事を言い放ってきたのだ。

 まさか図星を指されるとは思っておらず思わず否定しながら顔を赤くさせてしまった。

 するとそんな俺の顔を見て公爵令嬢は微笑ましそうな眼差しを俺に向けてきたのだ。


「・・・その目を止めろ」


 まるで全てを見透かしているかのようなその目に居たたまれなくなりムッとしながら顔を背けてしまった。


(一体なんなんだこの女は!)


 そう思いながらも暫く公爵令嬢の顔を見る事が出来なかったのである。

 それから公爵令嬢の指示でこの部屋に二つ机と椅子が運ばれ、俺達はそれぞれの席に着いて父上のテストを受けたのだ。

 やはりテスト内容は父上が作った事でなかなか難しい内容にはなっていたが、毎日勉学に励んでいた俺にとっては簡単なものであった。

 そうして俺は余裕にすらすらと問題を解きながらチラリと少し離れた席で同じテストを受けている公爵令嬢を見ると、その表情はとても真剣で先程まで俺と言い合っていた馬鹿女と同一人物には見えなかったのである。

 俺はその真剣な横顔に思わず見入ってしまい暫しペンを動かす手が止まっていた。

 すると父上が咳払いをし俺を見てきたので俺はハッとなって慌ててテストに集中したのである。

 そうして動揺していた気持ちをなんとか切り替え制限時間内に全部の答えを書き終えるとその答案用紙を父上に渡した。


(ちっ、思わぬ事でちょっと時間をロスしたせいでちゃんと見直しが出来なかった・・・だがまあ大丈夫だろう)


 俺はそう自分に言い聞かせ父上の採点が終わるのを余裕の表情で待っていたのだ。

 そして採点を終えた父上が俺達の下に戻って来ると、とても楽しそうな笑顔を浮かべながら俺達を褒めてくれた。

 正直褒められたのが俺だけでなかったのが納得いかなかったが、それでも久しぶりに父上に褒められ俺は嬉しい気持ちでいたのである。

 だがすぐに父上に俺の答案用紙を見せられながら間違いを指摘されてしまい一気に俺の気分は落ちてしまったのだが、どうも間違えた部分は一ヶ所だけだと分かりそれならばどう考えても俺が勝ったと確信し勝ち誇った顔で公爵令嬢に「残念だったな」と言ってやったのだ。

 しかしそんな俺の言葉に公爵令嬢は気にする様子がなく俺はそれを怪訝に思っていると、思わぬ所から否定の言葉を言われたのである。


「・・・シスラン、残念だったのはお前だよ」


 そう父上に言われ戸惑っていると、父上は公爵令嬢の答案用紙を俺に見せながら全問正解だったと教えられたのだ。

 俺はそれを信じられない気持ちで見つめていると、公爵令嬢は俺に向かってニヤリと笑いながら「残念だったですね」と言い返してきたのである。

 その顔にくっと息を詰まらせながら俺は確認する為、すぐに奪うように父上から公爵令嬢の答案用紙を手に取った。

 そして俺は愕然としたのだ。


(か、完璧な答えだ・・・信じられん)


 その気持ちのまま公爵令嬢を見て思わず呟いた。


「信じられない。馬鹿な女だと思っていたやつに俺が劣るなんて・・・」

「世の中にはそんな人沢山いますよ」

「・・・・」


 俺は公爵令嬢の言葉に何も言えなくなったのである。

 さらに公爵令嬢は真剣な表情で今の俺のままでは駄目だと諭し、勉学だけではなくもっと人と付き合うように言ってきた。

 その言葉に俺は今までの考え方を改めなければいけないのではと思うようになったのである。

 するとそんな俺に公爵令嬢は証明出来たから謝れと言ってきたのだ。

 すっかり忘れていた俺は謝罪するのを躊躇ったが、約束は約束だと諦め仕方がなく謝罪の言葉を口にした。

 しかし公爵令嬢は名前を呼ぶのも約束してたと強要され、俺は最終的に渋々セシリアと呼んだのだ。


「はい、良くできました!」


 セシリアはそう言って俺を見ながら嬉しそうに微笑んできたのである。

 その瞬間、俺の心臓は大きく跳ね信じられないほど激しい動悸に襲われたのだ。


(な、なんだこの動悸は!!く、苦しい!!だがセシリアの顔から目が反らせない・・・それにもっとセシリアと一緒にいたいと思ってしまっている俺がいる!一体何なんだ!?・・・・・そうか!俺はいつの間にかセシリアの事・・・好きになっていたのか。だが一体いつから・・・・・ああきっと父上から初めてセシリアの事を聞かされた時に無意識に俺の心に住み着き、そしていつの間にか気になる存在になっていたんだな。だから今日初めて会った時、俺は思っていた人物と違うと思い落胆してしまっていたのか。だがどうやら俺の思っていた通りの人物のようで安心した。しかし・・・この気持ちに気が付いてしまったがまだセシリアに俺の気持ちを知らせられるほど勇気が無い!!)


 そう自分の気持ちを自覚した俺は自分の顔が赤くなっている事に気が付きながらも、心配そうに聞いてくるセシリアに気のせいだと言って誤魔化したのである。

 そしてそのままの流れでセシリアに一緒に勉強したいからまた来る約束を渋々ながら取り付ける事が出来たのだ。

 そうして俺は無意識に嬉しそうな顔をしている事に気が付かず、まだ一緒に居たい気持ちを抑えて父上とハインツ公爵邸を後にした。

 すると帰りの馬車で父上が複雑な表情で話し掛けてきたのだ。


「・・・シスラン、お前にはとても大きな障害が待ってるだろうが頑張るんだぞ。私は立場上何も手助けは出来ないが応援はしているからな」

「はぁ・・・」


 父上の言ったその言葉の意味がよく分からず俺は戸惑った返事を返したのだった。

 そうして次の日、さっそく俺はセシリアが好きそうだと思う書物を持ってハインツ公爵邸に一人で訪問したのだ。

 すると本当に俺が来た事に呆れた表情をしたセシリアだったが、俺の持ってきた書物の中身を見て途端に目を輝かせたのである。


(やはり持ってきて良かった。こんな可愛いセシリアを見れたからな!)


 そう上機嫌な気持ちでセシリアを見つめ、そして長椅子に座りさっそく書物を読み始めたセシリアの隣に座って俺も書物を読み始めた。

 そうして隣にいるセシリアを感じながら幸せな気持ちで静かに読書をしていたその時、突然セシリアの部屋の扉が開きそこからカイゼル王子が部屋に入ってきたのだ。

 さらにカイゼル王子は俺に鋭い視線を向けてきたのである。

 俺はその視線を受けムッとしながら同じようにカイゼル王子に鋭い視線を向けてやったのだ。

 するとカイゼル王子は何故俺がここにいるのか聞いてきたから、俺はセシリアと一緒に勉強する為に来たのだと言ってやり逆に何故カイゼル王子がここにいるのかと聞いた。


「貴方がセシリアと勉強?・・・私はセシリアの婚約者です。婚約者に会いに来て何かおかしな事でも?」

「・・・ちっ、そう言えばそうだったな」


 俺は舌打ちをし嫌な顔ですっかり忘れていた事実を思い出したのだ。


(そう言えばセシリアはこのカイゼル王子と婚約したんだったな。そして・・・このカイゼル王子の表情からしてカイゼル王子はセシリアの事が好きなんだろう。ああなるほど、だから俺はセシリアが婚約したと言う話を父上から聞いた時無性に腹が立ってセシリアに会いたくなったんだ。・・・そうか、父上が言っていたのはこの事か!)


 あの帰りの馬車での父上の言葉を思い出し漸く合点がいった。

 そんな事を考えているとカイゼル王子はセシリアを後ろから抱きしめて俺の側から引き剥がしたのである。

 しかし後ろから抱きしめられているセシリアの顔はどう見ても嫌がっているように見え、どうやら相思相愛では無いことに気が付いたのだ。

 その事にホッとしながらも、俺達がお互い名前で呼び合っている事に気が付いたカイゼル王子はセシリアに名前で呼ぶ事を強要してきたのである。

 俺としてはカイゼル王子を名前で呼んで欲しくはなかったが、セシリアは渋々名前で呼んでしまったのだ。

 その事に俺はムッとしながらもセシリアに名前を呼ばれて喜んでいるカイゼル王子の腕が緩んでいる事に気が付き、すかさずセシリアの腕を掴んでカイゼル王子から引き外し俺の後ろに隠した。


「・・・カイゼル王子、俺は貴方とセシリアの婚約は認めない」

「・・・シスランに認めてもらわなくても私は一向に構わないですよ。ただこれは決定事項ですので貴方如きでは覆せませんから。それよりもセシリアを返しなさい」


 そのカイゼル王子の『貴方如き』と言う言葉に身分の差を思い出され、思わず油断していた隙に俺の後ろからセシリアの腕を掴んで連れていこうとしたのだ。

 俺はハッとしすぐにカイゼル王子が掴んでいる反対の腕を掴みセシリアを引き止めると、カイゼル王子を睨み付けたのである。


(身分の差など関係ない!そんなの必ずどうにかしてみせる!!だからカイゼル王子にセシリアを絶対渡すか!!!)


 そう心の中で決意し俺とカイゼル王子はセシリアを掴んだままお互いを睨み合ったのだった。

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