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変わらぬ日々、変わりゆく日々

 大広間に罪人としてダーギルが連れてこられた。

 そのダーギルは手に枷を嵌められ、両サイドには長い槍を持った兵士が立っている。

 しかしそんな状況なのに、ダーギルの表情は何故か落ち着いていた。

 私とカイゼルは少し離れた場所で椅子に座り、処断の時を見届けることに。

 壇上に立つアルフェルド皇子は、両膝をついて座らされたダーギルをじっと見つめる。

 しばし二人は無言でお互いを見続け、ゆっくりとアルフェルド皇子は口を開いた。

「牢屋の生活はどうだ?」

「ふっ、思ったほど悪くなかったぜ。狭いがちゃんと寝る場所はあるし、食事もきちんと出されるからさ」

「そうか」

「さあさあ長々と話をするつもりはないから、とっとと終わらせてくれ。どうせもう結果は決まっているんだろう?」

「……確かお前の命と引き換えに、部下達の命は助けて欲しいんだったな」

「ああそうだ。そもそも俺がやりだしたことで、あいつらは俺についてきてくれただけだからな。全責任は俺にある。ロキも……俺を思っての行動だったんだ。許されることではないかもしれないが、その罪も俺が背負う。だからせめて命だけは助けて欲しい」

「……」

 ダーギルの真剣な言葉にアルフェルドはじっと黙る。

 私は不安な気持ちで二人を見ていた。

「セシリア、きっと大丈夫ですよ」

「カイゼル……」

 カイゼルは小声で私に話しかけ、安心させるように微笑む。

「そうですね。アルフェルド皇子を信じます」

 頷き返し黙って行く末を見守ることにした。

「ダーギル・ニア・モルバラド。お前に処罰を言い渡す」

 アルフェルド皇子の声が大広間に響き渡る。ダーギルは覚悟を決めた顔で言葉を待っていた。

「ダーギル、お前には辺境にある労働施設で国のために働いてもらう」

「…………は?」

「もちろん監視付きだが、寝食は保証しよう。仕事自体も肉体労働がメインだが、過労で倒れるような場所では無いから安心しろ。まあその施設から外に出ることは出来ないが、それは仕方ないと思って諦めてくれ」

「いや、ちょちょちょっと待てよ!」

「なんだ?」

「俺は処刑じゃないのか!?」

「ああそうだ」

 当たり前のように言うアルフェルド皇子にダーギルはぽかんとした表情をするが、すぐに困惑した様子で声をあらげる。

「いやいやおかしいだろう! 俺は宮殿を奪って皇に怪我を負わした大罪人だぞ? 普通に考えて死刑だろう!」

「ほ~そんなに死刑が望みなのか?」

「そんなの望んでるわけないだろう! そういうことじゃなくて……」

「なら何も問題ないな。ちなみにこれはすでに決定事項で、皇である父上にも了承は得ている。お前の部下達も、一緒の場所ではないが各地にある労働施設で働いてもらうことになっているからな。もちろんロキもだ。まあただし一番キツイ作業に就いてもらうことにはなるが」

「……そんな甘い決断していいのか? すぐ他の奴に足元すくわれて全て奪われるぞ?」

「ふっ、奪わせはさせんさ。そもそも奪うことを良しとする風潮自体を変えてみせるからな」

「そんなこと本当に出来ると思っているのか?」

「必ず成し遂げてみせるさ」

 自信満々な笑みを浮かべるアルフェルド皇子を、ダーギルはじっと見つめる。そしてふっと笑った。

「まあせいぜい頑張れよ。だがもし隙を見せるようなら、俺はどこにいても何度だって奪いにくるからな。覚悟しておけよ」

「覚えておこう」

「……もう俺みたいなやつを作るなよ」

「ああわかっている」

 真剣な顔で頷くアルフェルド皇子を見て、ダーギルも頷き返した。

「じゃあな」

 ダーギルはそういって立ち上がりくるりと踵を返し歩き始める。両サイドにいた兵士達は慌ててダーギルを追いかけ左右を固めた。

 しかし少し歩いた所でピタリと立ち止まり、私の方に顔を向けた。

「おい、セシリア」

 突然の呼び掛けに驚いていると、ダーギルはすっきりした顔で笑った。

「お前のこと本当に好きだったんだぞ。それだけは覚えておけよ」

「ダーギル……」

「じゃ元気でいろよ」

 言いたいことだけ言ってダーギルは去っていってしまった。

 私はなんとも言えない気持ちで閉められた扉を見ていると、アルフェルド皇子が私達のもとにやってきた。

「二人共、色々助けてくれてありがとう。これでようやく全て終わったよ」

「アルフェルド皇子、お疲れ様です」

 労いの言葉をかけると、アルフェルド皇子はにっこりと微笑んだ。

「ありがとう。しかしカイゼル、貴方に何も相談せず判決を下してすまなかったな。怪我を負わされた身なのだから憎い気持ちもあっただろうに……」

「いや、私のことは気にしなくていいですよ。そもそも他国の者が、判決に口を出す権利もありませんし」

「そうか……それでこれを見届けてから帰国するんだったな」

「ええ。さすがにいつまでも国に戻らないわけにはいきませんから」

「だがまだ体は万全ではないんだろう?」

「もう自分一人で歩けますし、傷口も塞がっていますから大丈夫です」

 カイゼルはそういって椅子から立ち上がる。私もハラハラしながら立ち上がり、カイゼルの背中に手をそえた。

「ありがとうございます。セシリア」

「お礼なんていいですよ。それよりも本当に無理はしないでくださいね。辛いならいつでも言ってくださっていいですから」

「はい」

 そんなやり取りを見ていたアルフェルド皇子が、複雑そうな表情を浮かべる。

「端から見ればわかるんだけどね」

「「?」」

 私とカイゼルはアルフェルド皇子の言葉に首を捻った。しかしアルフェルド皇子はそれ以上何も言ってくれなかった。

「そういえばアルフェルド、私達と一緒に行かないというのは本当ですか?」

「ああ。私もここでやらなければいけないことが沢山出来たからね。それにそろそろ父上の跡を継ぐ準備もしないといけないし」

「そうですか……寂しくなりますが頑張ってください。手伝えることがあれば、いつでも連絡してくださっていいですからね」

「ありがとう。だがカイゼルも、もう考えなければいけない時期だろう?」

「ええそうですね。お互い頑張りましょう」

「ああ」

 私は会話を聞きながら、きっと素晴らしい王に二人はなれるだろうと思っていた。


 ◆◆◆◆◆


 モルバラド帝国から戻ってきた私達は、久しぶりに会う人達に囲まれていた。

「セシリア姉様! 僕、寂しかったんだよ~!」

「長いこと戻れず、すみませんでした」

 レオン王子が私に抱きつき、頬を膨らませて訴えてくる。

「セシリア様、大変な目に合っていたとお聞きしましたが、大丈夫だったのですか!?」

「レイティア様、ご心配をお掛けいたしました。ですがこのように無事ですよ」

 潤んだ瞳で見てくるレイティア様に、笑顔を向けてガッツポーズをしてみせた。

「本当にお前って、必ずトラブルに巻き込まれるな。……いやセシリアのことだ、今回も自分から飛び込んだんだろう?」

「人をトラブルメーカーみたいに言わないでください! まあ確かに、自ら首を突っ込みはしましたけど……」

 シスランは呆れた眼差しを向けながら、抱きついていたレオン王子を引き剥がしてくれた。

「姫、今後は無茶をしないようお願いいたします。出来れば私の目の届く所にいてくだされば助かるのですが……」

「ビクトルも今回色々動いてくださってありがとうございました。次からはさすがにおとなしく……出来るかは保証できません!」

 私の言葉にビクトルは小さくため息を吐いて、苦笑いを浮かべる。

 このいつもの押し問答にようやく帰ってきたのだと実感しながらも、アルフェルド皇子がいないことが少し寂しいと感じていたのだった。

「さて私は執務がありますので行きますね」

「え? 帰ってきたばかりですのにもうお仕事されるのですか!?」

「予定よりも帰国が遅くなってしまったことで、執務が相当溜まってしまっているのです。しばらく執務室に籠っています。セシリアは疲れているでしょうから休んでくださいね」

「ですがカイゼルの体は……」

 止めようとすると、カイゼルはにっこりと微笑みながら首を横に振る。

「私のことは心配しなくても大丈夫ですよ。では皆さんお先に失礼します」

 そう言ってカイゼルは歩いて行ってしまう。

(いくら毒が抜けたからって、まだ完全に治ったわけじゃないのに……うん、よし!)

 カイゼルの後ろ姿をじっと見つめ小さく頷くと、皆の方を向く。

「ごめんなさい。私ちょっとカイゼルのお手伝いをしてきますね」

「おい、セシリア?」

 シスランの呼び止める声が後ろから聞こえたが、私はカイゼルを追いかけるのを止めなかった。

 そうしてカイゼルに追いついた私は、半ば強引に手伝いを申し出たのだった。








 数日後、国王から呼び出しを受けたため、カイゼルのもとに行く前に執務室にやってきた。

「失礼いたします」

「ああセシリア嬢、来たか」

 執務机で仕事をしていた国王は、持っていたペンを机に置き笑顔で出迎えてくれた。

「私にお話があるとお聞きしましたが、どのようなご用件でしたでしょうか?」

「いやそろそろ婚約破棄の発表をしようと思っていてな。そなたにいつ頃がいいか確認するために来てもらった」

「婚約破棄……」

「ん? どうかしたのか?」

「…………すみません。婚約破棄の件なのですが、しばらく保留にして頂けないでしょうか?」

「それは何故だ?」

「それは……」

 国王の問いかけに私は口ごもる。

(そもそも何で私は保留にして欲しいと思ったんだろう? あんなに望んでいたことだったのに……)

 自分でも分からず戸惑っていると国王が顎を撫でて考え込んだ。

「ふむ、何か理由があるのだな。まあこちらとしては、カイゼルの婚約者でいてもらえる方が助かるから保留で構わない。セシリア嬢の都合がいい時にいつでも言ってくれていいからな」

「私からお願いしたことなのに、申し訳ありません」

「いや、気にしなくていい」

「ありがとうございます」

 そうして私は国王の執務室から退席し、悶々としながらカイゼルのもとに向かった。

「カイゼル、遅くなって申し訳ありません」

「セシリア、今日も来てくださったのですね」

「っ!」

 部屋に入りカイゼルの嬉しそうな笑顔を見て、一瞬胸がつまった。私はそのことに驚き自分の胸を押さえる。

「セシリア、どうかされたのですか? もしかして体調がすぐれないのでは! それでしたら今日の手伝いはいいですから部屋に戻って休んでください!」

 カイゼルが慌てた様子で私に近づいてくるが、その後ろの机には山と積まれた書類の束が置かれていた。

 私はそれを見てハッと気がつく。

(そうか私、カイゼルのお手伝いがしたくて婚約者でいたかったのね。だって婚約者じゃなくなると、執務のお手伝いなんてさせてもらえないから。王太子の婚約者で将来の王妃でもあるからこそ政務関係の書類を見ても問題ないけど、ただの友人だったら大問題になりかねないものね。うん、きっとそうに違いない!)

 そう結論付け、納得するように何度も頷く。カイゼルはそんな私を不思議そうに見てきた。

「セシリア、本当にどうしたのですか?」

「なんでもありませんよ! さあ、今日も頑張って執務をお手伝いいたしますね!」

 戸惑った表情のカイゼルに笑顔を向けると、私は書類の山に向かって歩いていった。何か小さな引っ掛かりを心の奥に押し込んで。





               アルフェルド編Fin

今回で第三部(アルフェルド編)は終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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