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Part6

 

「う、うう…………」


 アルが目を覚ますとそこはバーとは明らかに違う場所。知らない空間だった。

 天井には無数のシーリングファンが回っていて、周囲には様々な見た事もないような機器が並べられている。

「一体、」

 眠っていたのがどの位なのか、見回しても時間の分かる物は何もない。

 アルは自分が何故ここにいるのかを思い出そうとし、最後に記憶にある光景を思い出す。



 ◆◆◆



「アルさん、エヴァンさんが心配ですか?」

「え、うん。そうだね」


 それは言葉通りの本音だった。

 アルにとってこの塔の街は見知らぬ場所。レイコやネズミの二人が助けてくれなければ自分やエヴァンだって今頃どうなっていたのか。そう考えると震えが来る。


「はい、コーヒーどうぞ」

「ありがとうネズミ君」


 目の前に差し出されたカップから発するコーヒーの香ばしい香りは鼻孔を刺激する。

「……美味しい」

 口を付けるとほのかな果実の香りがする。

「これオレンジかしら?」

「ええ、そうです。ウチの店のコーヒーのフレーバーはオレンジです。イタチさんがうるさくって困るんですよ。絶対にオレンジがいいって。本当にワガママで子供っぽい人で困るんです。この前だってあの人は────あ、スミマセン」


 ネズミはつい自分の事に夢中になったのを恥じたらしく、髪の毛の色に負けじと顔を赤く染める。


「そっか、ネズミ君はイタチさんの事が大好きなのね」

「……少し違うのかも知れません。僕がここに来るきっかけになったのはイタチさんに命を救われたからなんです」

「命を?」

「はい。僕は元々はこの街の地下、アンダーって呼ばれる場所の出なんですけど、そこは本当に酷い場所でした。

 食うものにも困って、住人同士でケンカなんて当たり前で、時には殺し合いにすらなる。大人も子供も関係なんかなくて、自分以外の全てが敵だった」

「……」

「それでも何だかんだで僕みたいな身寄りのない子供を支援してくれる施設、ていうか学校に入れたんです。でも、」

「でもどうしたの?」

「確かに生きる為に争う必要はないし、寝る場所だってある。勉強だって出来るし、いい場所だったんですけど何かが違うって思ったんです。

 それまでとはあまりにも違う生活にどうしようもない位に違和感を感じちゃって、気が付いたら抜け出して()が見たくなって、それでそこで危ない目にあった所を──」

「そのイタチさんに助けられたのね」

 ネズミはコクリ、と大きく頷く。それから赤毛の少年はイタチとの出会い、そして気が付けばこのバーへ押しかけて、いつの間にかなし崩し的に居候している事を話した。その顔にはうっすらと赤みがかかっていて、本当に嬉しそうに話す様はこの少年が心底からイタチ、という青年を好きなのかをアルに理解させるには充分だった。



「何だかすいません、僕ばっかり話してしまって……」

 そうして話が終わるとネズミは申し訳なさそうに頬を染めている。

「ううん、いいの。だってネズミ君。本当に楽しそうに話すんだもの」

 アルは微笑を浮かべる。それに実際、ネズミは一方的に話すだけではなく、カップにコーヒーを注いだり、カウンターを絞った雑巾で拭いたりしていてそうした様は何となく可愛らしく見えた。

(ああ。レイコさんはこういった所でネズミ君って名付けたのかも)

 そんな事を思うとクスリ、と笑ってしまう。もっとも本人には内緒だが。

 不意に時間が気になって壁に掛けられている時計へと視線を送る。

 カッチ、カッチ、と一定のリズムで時間を刻むその時計はかなりの骨董品アンティークに見える。


「それ、気になりますか?」

「ええ、何だかいいわね」

「柱時計って言うんですって。レイコさんにしては珍しくいい買い物したなぁ、って店の皆で言いましたよ」

「うん、本当にいい物だね」

 静まり返った店内でゆっくりとした時間が流れていく。ジャズの音に鼻孔を刺激するコーヒーの香り。信じられない位に穏やかな気分、だった。


 それが崩れたのは数分後の事。

 ドン、という鈍い音がドア越しに響いた事からだった。

「アルさん、こっちに」

「うん、」

 ネズミの声に従い、カウンターの奥へ移動する。そこには銃を構えたネズミの姿がある。

 さっきまでの朗らかな面持ちは一変。そこにいたのはエヴァンやレジーニ同様の一人の裏家業者・・・・だった。


 ドン、ドン、という音は少しずつ大きく、重くなっていく。

 最初は拳でドンドンと大きくノックしていたのが、今は蹴りつける様な物へ変わっている。

「しつこいな」

「ネズミ君。大丈夫?」

「ええ、この店ですけど見た目よりもかなり頑丈に作られてるので。壁や窓は防弾及びに対爆仕様で、ドアは一発くらいなら戦車の主砲にも耐えられるんです」

「でも、相手は諦めてはいないわ」

「です。万が一だって有り得ます、だからアルさんは────」

 グシャン、という不協和音を立ててドアが店内へと吹き飛ぶ。

 そして店に入り込んだのは身長は優に二メートルを越える黒いトレンチコートをまとった禿頭の大男。

 異常な程にその肌の色は白く、というより青ざめており、まるで死人の様にすら見える。

 ゴツン、という足音は如何にも重量感のあるブーツから発したもの。


「────モクヒョウシニン」


 ボソリとした声でアルを認めたその次の瞬間、大男は猛然とカウンター奥へ向けて走り出す。

「アルさんッッッ──にげ──」

 ネズミがそう言い終わる前に既に相手はその眼前にまで迫っている。

 パン、パンという乾いた銃声が鳴り響いた。



 ◆◆◆



 そこからは記憶が曖昧になっている。

 ガタン、ガタンという色々な物が倒れ崩れる音がし、ガシャアン、という恐らくはグラスや酒瓶の割れる音が響き渡り、バチ、と目の前で火花が見えて────そうして今ここにいる。


「……ここは何処なの?」


 状況を把握しようにもあるのは研究用の機器ばかりで、生活感などまるで感じられない空間。

 分かっているのは自分が拉致された、という事のみ。

 理由は分かっている、間違いなく彼女の恋人であるエヴァンに対する人質。

 周囲を伺うと、人気がまるでないとすぐに分かる。


(誰もいない? なら、逃げる事も?)


 おそるおそる歩き出し、徐々にその歩幅を狭め、早足に。

 そのまま一気に走ろうかとした時だった。

 不意に声がかけられる。


「──それ以上は行くのはオススメ出来ないねぇ」

「!」

 声の方向へ視線を飛ばせば、部屋の奥には白衣をまとった神経質そうな面持ちの男が椅子に座っていた。一体いつからそこにいたかは分からない。そこだけ不自然な程に薄暗く、不気味な雰囲気をかもしている。だがそれよりもまるで蛇がその身をまとわりつかせるかのような相手の粘着質な声にアルの背筋は震えた。

「ううん、正解だよ。ちなみにそのままあと三メートルも歩けばこうなっていたよ。イゴール」

 男の言葉に呼応して姿をみせるのはさっきバーを襲撃してきた禿頭の大男。

 改めてその姿を見たがやはりその真っ青な肌色に、三メートルはあろうその巨躯は常人離れしていいる。


 ゴツゴツ、としたブーツの足音を立てながらイゴール、と呼ばれた大男はアルの前で歩を止めると不意にその手を前に突き出す。


「──!」


 その途端、イゴールの手に火花が生じる。それは静電気などという生易しいモノではなく、大男の手はあっという間に発火。火に包まれていく。

 だがアルが驚いたのはそこではない。イゴール、と呼ばれた大男はそんな状況下にも関わらず平然とした様子で立ち尽くしていた。まるで他人事のように、自覚していないとでも言うかのように。

「…………」

 イゴールはただ無言でその場にいる。その間も火は増々勢いを増していく。

「イゴール。手を引け。用があるまで下がれ」

 白衣の男の冷淡な言葉を受け、イゴールはようやくその手を引く。

 そしてアルに背を向けるとそのまま何事もなかったかのようにブーツの音を鳴らして下がっていく。

「と、いう訳だ。そこから三メートルまで行くと電磁フィールドに接触する。そうなればイゴールのような体験をその身を以て知る事になるのでオススメ出来ないね」

「……貴方は誰なんですか?」

「君は思った以上に冷静だね。てっきりもっと取り乱すかとも思っていたのだが……まぁいい。

 質問には答えねばね、私は【プロフェッサー】と呼ばれるしがない研究者だ」

「…………」

「おやまぁ。そんなに睨む事はないだろう。君に危害は加えるつもりはないのだ。

 それに知人の娘でもあるのだし、ね。」

「あなたなんかと誰が知り合いだというんですか?」

「ふは、これは辛辣だ。だが事実なのだよ。私はかつて【イーデル】に所属していた。つまりは君のお父上とも面識があったのだよ」

「……」

「おや、その表情を見ると君はイーデルがどういった組織だったか把握しているのだね。

 だがそれも当然の帰結というモノか。君が今、何に関わって、何をしているかを知っていればねぇ」

 椅子から腰を上げ、ヒタヒタと近寄るプロフェッサーからアルは得体の知れないモノを感じ取る。それは名状し難い”悪意”。先日、アトランヴィルシティで彼女を攫い、エヴァンをおびき寄せた白いマキニアンの少年。その時に感じた無邪気な悪意とはまた異なる、計算の上に成り立つ悪意をアルは敏感に察知した。


「あなたが誰なのか私には関係ありません。今すぐにここから出して下さい」

「おやおや、これはまた随分と強気だね。言っておくが君はあくまでも【人質】なのだよ。発言に際してはその境遇をキチンと理解した上で言った方がいいと思うのだけどねぇ」

「関係ありません。それに何を考えているかだって興味もないです。ただ、エヴァンをそっとしておいて下さい」

「ふはは、ほうほう。これは本当に興味深いねぇ。情報にはあったが君達は本当に恋愛関係にあるのだねぇ」

「それの何が問題なんですか」

「大いに問題あり、だよアルフォンス・エルメイン。それにこれを笑わずしてどうする?

 エヴァン・ファブレルはマキニアン。人であってそうではない存在だ。それに恋慕など実にくだらん。あれは恋などにうつつを抜かすよりももっと有効に使わねばならない貴重なモノ。

 そんな事すら分からないのかね小娘?」


 プロフェッサーの言葉からはエヴァンに対する見方が明確に分かる。この研究者にとってエヴァンは単なる実験動物、素材でしかないのだ、と。


「エヴァンは実験動物じゃない。あの人は誰よりも優しくて純粋な人です」

「ふはは、どうやら君もまた半端なヒューマニズムに毒された輩かね。どうにも我々の話は平行線を辿りそうだねぇ」

「そうですね。あなたとは分かり合いたくありません」

「……まぁいい。どの道君という撒き餌に彼はかかる。そろそろ始まるようだ」


 プロフェッサーが傍にあるキーボードを操作するとアルの目の前に画面がポップアップ。

 そこに映っているのはどうやら幾つもの船が寄港している港。空撮しているのか画面は旋回している。画面が切り替わり、今度は港の入場ゲートらしきモノが映される。

 そこには突撃銃アサルトライフルで武装したどう見ても普通ではない警備員が十人以上いて物々しい雰囲気を醸している。


 そこへ普通なら決して通る気など起きようもないこのゲートへ向けて一代の車が猛スピードで突っ込んでいく。

 警備員達は制止するつもりもないのか、止まる気配のない車へ躊躇なくその銃口を向けると弾丸の雨を食らわせていく。

 無数の火花が巻き起こり、そうして車はゲートへたどり着く前に爆発。大きな炎を巻き上げる。

 だが、異変はすぐに生じた。

 警備員達が突如、血煙をあげて倒れていく。ゲートの側面から誰かが銃撃を加えている。全身黒一色に染め抜いた誰かが左右二丁拳銃で銃撃をしている。警備員達がそっちへ注意を引かれた所で、今度は反対側から別の人影が一目散に突っ込んでいく。

 カメラ越しでも屈強そうな警備員に対して明らかに華奢そうなその姿。


「レイコさん」

「【防人】。やはり来たか。まぁいい、予定通りだよ」


 二人の襲撃者の姿を認め、プロフェッサーはなおも余裕の笑みを崩さない。

 そうこの研究者にとって見ればこの二人の存在など些事でしかない。彼にとって大事なのはあくまでもこの襲撃者と同行するであろうマキニアンの青年なのだから。



 ◆◆◆



(十分前)


「くそ、完全に待ち構えてるじゃねぇか」


 エヴァンはスコープ越しにこれから向かう港の入場ゲートの光景を目の当たりにして閉口する。あの警備員の装備は安全保障とかいう次元を逸脱しているのは明白。理由は簡単だ、これから来るであろう客の”出迎え”。つまりは自分を含めた三人のである。


「人数はゲートが十人ちょいで、そこから応援部隊がいるはず。クロイヌ、アンタの知る限りじゃ何人いるワケ?」

「この港は俺の管轄外だから断言は出来んが、俺の場合なら四十人から五十人は用意する」

「ちょっとした中隊クラスね。まぁ問題はないけど」


 エヴァンは自分そっちのけで話を詰めているレイコとクロイヌを見て、ため息を漏らす。


「エヴァン君。君はアルちゃんを助けるコトだけに集中なさい。あとのザコはアタシとこの真っ黒クロスケが何とかするから」


 そう、この作戦を立てるに際してレイコとクロイヌはエヴァンを人数に入れていない。

 つまりは最初からたった二人で警備員達をどうにかする予定なのだ。

 マキニアンである自分ならともかくも、強いとは言えど普通の人間である二人がこれをどうにかしようというのはエヴァンにすら正直言って正気の沙汰とは思えない。


「やっぱし俺も参加した方が──」

 言いかけたエヴァンの身体が背中から倒される。

 一体どういった理屈なのかさっぱり分からないがレイコに投げ飛ばされたのだけは間違いない。

「エヴァン君はダメよ。言ってたじゃない【ナノギア】は人間相手には使えない。制限がかかるから、って。万が一の事があればどうするのよ、バカなの?」

「い、いや、万が一の事を言うなら俺よりも──うわっ」

 今度は前へ倒される、地面に激突するすんでの所でレイコは腕を引いたらしく、エヴァンは辛うじて地面へキスするのを免れる。

「言っとくけど人間相手ならアタシの方がエヴァン君よりも得意なの。エヴァン君はメメントだか鵺だとかが専門なんでしょ、それでいいの」

「でも──」

「そこまでだエヴァン・ファブレル。それに心配するな、このレイコは対人戦なら千人相手だろうが朝飯前だ」

「言ってくれるわね。上等じゃないの」

 そこまで言われてはエヴァンの立つ瀬はない。不承不承ながらも役割分担を受け入れる。



 そうして、突入作戦は始まる。

 まずは自動操縦モードになった車を真っ正面から突っ込ませる。

 警備員達は間違いなく車へ向けて銃撃をしかける。そして折を見て仕込んだ爆薬を起動。その爆発で目を釘付けにする。これが第一段階。

「──いいか。まずは俺が連中に仕掛ける。その後でレイコとお前だ。遅れるな」

 そして注意を引いた所でクロイヌが警備員達へ銃撃を始める。当然ながら相手は次いで姿を見せた銃撃者へ反撃を開始、銃撃戦の始まり。ここまでが第二段階。

「行くよ、アタシの後ろにつけてよ」

 そうして今度は反対側から一気に走り込むレイコ、そしてその背後に隠れるエヴァン。レイコの速度はまさしく全速力。相手からの反撃など一切気にもしない、とでも言わんばかりの踏み込み。流石に距離が近付けば、クロイヌに注意を引かれた警備員達の中にもレイコの姿を認める者が出る。

「こっちにもいるぞ──」

 声をあげながらアサルトライフルの銃口を迫る敵へと向ける。普通ならばこの状況を前にすれば危険を察知して横へ飛ぶなり何なりと動くのが常道なのだが──レイコはそのまま更に接近。間合いを潰していく。

「う、なんだ、こ」

 レイコの躊躇のない動きにむしろ相手が気圧され、引き金を引くのが遅れる。それは時間に換算するならほんの一秒にも満たない時間ではあったが──それで彼女には充分過ぎた。

 レイコは素早く手を相手の腕へ差し込み、外へ捻る。そうして銃口を自分から逸らした状態で更に一歩踏み込むとそのまま肩で体当たり。相手の身体は一瞬浮き上がって失神。あっという間に一人目を倒す。


「ハ、アアアアアアッッッッ」


 レイコはそのまま勢いを止める事なく警備員達の最中へ突っ込む。

 同時にクロイヌもまた銃撃を中断。素早く拳銃をショルダーホルスターにしまうと一気に突進。警備員は銃撃どころではなく、強制的に接近戦に引きずり込まれる。

 エヴァンにとって圧巻だったのは、レイコの近接戦闘技術だ。

 女性にしてはやや背丈のある、とはいってもせいぜい一七〇あるかどうかの彼女は自身より背丈は一回り、横幅ならそれ以上に大きな相手を真っ向にして全く相手にしていない。その手で腕を捻りながら投げる。足で膝頭を踏みつけ、下がった相手の顔へ肘。放たれた蹴りを手刀で受け流し、そのまま前へ進み出て顎先へ掌打。背後から回り込もうとする相手へ振り向きざまに裏拳と共に足を払って転がす。まさに一人だけ戦っている、というより踊りでもしているかのような優雅さえ漂わせる。


「エヴァン君ッッッ」


 レイコの声にエヴァンは反応。今や完全に警備員達の注意はレイコと迫るクロイヌへ向いており、エヴァンに構う余裕などない。

 第三段階、エヴァンの単独での突破。


(後で絶対に会うんだからな、無理だけはするなよレイコさん、クロイヌ)


 全速力で走り抜けるエヴァンと二人の距離はどんどん離れていく。

 目指すべき目的地は先に教えてもらった。

 港に寄港している船舶の中、一隻だけ異様に古びた船。一番奥に停泊されたそれこそがプロフェッサーの研究施設。

 どうやら警備員達は入り口へ急行しているのか、それともわざとなのか、エヴァンは船まで一度も戦闘する事なく目的地へ辿り着く。



 ◆



「ハァ、ハァ」

 船の中は外装とは違い相当に手が加えられているらしい。

 元々は客船だったのか、通路の壁には娯楽室やら展望デッキへの順路案内の表示があったり、大浴場だった場所も見える。

 呼吸を整え、エヴァンは本能の赴くままに歩く。マキニアンの彼にはハッキリと分かる。

 自分が倒すべき相手、メメントの気配が。隠れるつもりもなく動かないその気配を辿って向かった先──そこにいたのは。


「エヴァン──」

「よ、アル。待たせたな」

 恐らくは元々は車などを止めていたであろう駐車スペース。高さにして三階分はあろう吹き抜けになったその広さはちょっとした体育館並みの広さ。そこに愛する女性と、そのすぐ傍にいるプロフェッサーが待ち受けていた。

「ようやく黒幕のお出ましって訳だ」

「ふはは、よく来たねエヴァン・ファブレル君。これでようやく求めるモノが手に入るよ」

「悪いけどそうはいかねぇ。さっさとアンタをぶっ飛ばしてアルと一緒に帰らせてもらうからな」

 エヴァンは躊躇なく前へ進み出る。

 だがプロフェッサーに焦る様子は一切ない。

 それも当然である。彼には”切り札”があるのだから。

 そう、対マキニアン用の切り札が。


「さぁ、出番だ【アルジェント】」

 その声に応じて天井から降り立つのはあの銀色のメメント。

 未だ得体の知れないクロセストをまとった異形にして異様な敵。

「五体満足である必要はない。死なぬ程度に戦闘不能にしろ」

 プロフェッサーの命令を受け、アルジェントは「ウアガアアアアア」と叫びながら動き出す。

 三メートルはあろう巨体で突進してくる。

「最初から本気で行くぜ──」

 対するエヴァンもまたナノギアを起動──本領を発揮して立ち向かうのだった。



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