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Part3

 

 幾重にも流れる分厚い雲海の為に月明かりがうっすらとしか届かない夜空。だが見渡す限りの街が放つ明かりはあそこだけ昼夜の違いなど存在しないかのような錯覚を引き起こさせる。

 そしてそびえ立つ無数の超高層ビル群はまるで天へと手を届かせんとする巨大な手のようにも見える。


「塔の街、ってのはあれかぁ」


 感嘆した言葉と共にエヴァンは圧倒的な存在感を醸し出すそれらを見上げる。もっとも、あまりそれをのんびりと観察するような暇はない。


 バッッ、前方の地面が抉れて煙が巻き上がる。

 そして左右や、後方も同様に煙を巻き上げる。

 周囲を走る車の何台かの窓が吹き飛び、急停車。それに対応出来ずに後続車が追突。あっという間に大事故に発展する。

 そしてそれらを縫うように複数台ものバイクが向かって来る。いずれも黒く塗られたバイクで消灯状態のまま、乗り手の手にはサブマシンガンが握られ、何の躊躇もなく銃撃を見舞ってくる。

 バババ、とした火花がアスファルトを削り、抉っていく。


「はぁ、──にしても派手な街だなここは」


 ヘルメットを被ったエヴァンが苦笑しながら、背後へ視線を向ける。

 そこへシュン、と弾丸が頬をかすめる。


「エヴァンさん、迂闊に振り向かないで下さい!!」


 赤毛の少年は怒鳴りながらバイクのスロットルを全開。一気に加速して追撃して来るバイクをグングン引き離していく。

 黒を基調にしつつも要所要所を緑色に塗装したバイクはどうやらかなりカスタマイズされた代物らしく相当な速度で風を切って走り抜けていく。


「にしてもアイツらは何なんだよ?」

「組織の下っ端です」

「組織?」

「ええ、詳しい話はもう少し落ち着いた場所で──」


 赤毛の少年はバイクのハンドル横に指を回す。そこには何やら機械が備え付けられていて、少年は親指をそこに押し付けている事から、どうやら指紋認証の為の装置らしい。


『認証確認、第二登録者。サブウェポンを使用します』


 そう音声は出るのと同時に、バラララ、とバイクから何か小さなボールのような物が二つ後ろへ転がっていく。それはコロコロ、としばらく転がるとパン、と弾ける。するとその直後、黒いバイクが続々とその場でスピン、転倒していく。よく見れば、バイクを取り囲むように無数の金属片のようなモノが見える。


「オイオイ。何したんだよ?」

「ああ、巻き菱です」

「マキビシ? 忍者とかっていうのが使うニンポーってヤツか」

「まぁ、そんなモンです。このバイクの持ち主のですよ」


 ここまでそんな隠し玉を使おうとしなかったのは、下手にバラまけば無関係の車両も巻き込んだからだろう。だからこそ自分達以外の車両がいなくなるまで我慢したのだとエヴァンは理解した。そして自分の前にいる少年の肩をポンポンと叩いて言う。


「わーったよ。信じるぜ」

「え?」

「お前を俺は信じる。アルは無事なんだって、アリガトよ」

「あ、……ええ」


 屈託のない笑みを浮かべて金髪のピアスを空けた青年は笑う。

 赤毛の少年は言葉を失う。エヴァンは知る由もない。今の笑顔に彼が自分の尊敬する青年を重ねたのだとは。


 何はともあれ、窮地を脱したエヴァンは空港から塔の街へと、より正確には塔の街の下層部である”スラム”へと入るのだった。




 追跡者を振り切ったバイクは高速を降りたらすぐに下水道へと入る。そこは最初こそ汚水が流れていたが、しばらくすると通路へと変わる。どうやら下水道は偽装らしく、ここは隠し通路らしい。しかも、この通路に入る直前だが、監視カメラらしきモノが幾つも天井に備え付けられており、奥からガシャン、という何かの鍵が外れたような音まで聞こえる。


(こりゃまるで迷路だな)


 エヴァンがそう思うのも無理はない。こんなに複雑そうな地下道は見た事がない。何も知らずに入ったら出れないのではと思う。バイクはウネウネと角を曲がりながら少しずつ下へと潜るように降りていき、やがて着いたのは錆びた臭いのする部屋だった。ちなみにその部屋の前にも網膜スキャンが設置されており、エヴァンはため息をつく。


 カスタムされたバイクをその倉庫にしまうと、赤毛の少年は「こちらへ」と言いながら、先を歩く。


「にしてもこんな場所にバイクを置くってどうなんだ?」

 まるでコミックに出て来る秘密基地だなー、と思いながらエヴァンは訊ねる。

 それにあのバイクだが、キーらしきものはついていない。

「そのカスタムバイクは指紋と声紋に網膜を登録しなきゃダメなんです。登録者以外が乗ろうとすると電流が流れます」

 赤毛の少年はヘルメットをロッカーに入れると答える。さっきから思っていたが生真面目な性格らしく、キチンと置く場所を決めているのが見て取れる。


「へー、凝った作りだなぁ。これ一体誰のなんだ? いやさっきお前、持ち主の趣味だって言ってたろ? ちょいと気になっちまってさ」

「何て言えばいいのか、……すっごく・・・・悪い人ですよ」

「へー、そりゃまた面白そうだな」

「え、いやその」

「へっへ、気にすんなって。お前、俺の事知ってるみたいだからカマをかけてみたんだよ。ソイツも裏家業者バックワーカーなのか?」


 エヴァンの表情に悪意は見受けられない。

 赤毛の少年はコクリとかぶりを振る。


「それより早く合流しましょう。あまり待たせると怒らせちゃうから」

「うお、ちょっと待てってオイ」


 赤毛の少年が走り出すのでエヴァンもまた追いかけて走り出す。

 薄暗かった事からエヴァンは気付かなかったが、その倉庫の奥には無数のケースに収納された弾薬や爆薬が置かれていた。


 地下の階段を登っていくと少しずつザワザワとした人の声が聞こえる。そして分厚い扉に赤毛の少年が手をかざすとピ、という電子音がしてゆっくりと扉が開かれる。見た目はともかくも、徹底的に認証装置だらけのこの通路は、特定の個人以外を拒絶する目的なのは間違いない。


「こっちです」


 少年の案内に従って外に出てから気付いたが、今出たのは何処かの店の奥だったらしい。

 そして店の外には眩い光が溢れている。


「ようこそ塔の街、第十区域の繁華街に」


 そう言って少年は店の入口を開ける。


「うっわ、スッゲー……」


 エヴァンはそれだけしか言えなかった。

 外へ出た瞬間、幾色もの光が溢れ出す。ネオンの色彩はまるで七色の虹のように煌めき、まるで今は昼なのでは、とすら思える程に眩い。それに何よりも目の前にあるのは見た事もない喧騒。

 大勢の人が通りをこれでもか、と往来している。観光客らしき様々な肌の色をした外国人らしき集団もいれば恐らくは近隣住民らしき人々もいる。そうしてそうした多種多様な人々に声をかける客引きもまた多種多様。

 そこはまるであのアンダータウンをもっと大規模にしたような、オリエンタルな雰囲気に包まれ、あえて例えるなら都会的な雰囲気を持つアトランヴィルシティとは全く違う世界だった。


「で、さっきから気になってるんだけどさ、あっちち」


 エヴァンはさっき屋台で買ったばかりの焼き鳥を頬張りながら赤毛の少年に訊ねる。


「はい、何でしょうかエヴァンさん」

スラム・・・、とか何とか言ってたけど、ここはスラムなんかじゃないだろ」


 エヴァンの基準からすればここは都会的とは言い難い場所だったが、だがスラム、という表現にはおよそ結びつかない。

 その言葉が指し示すような荒れ果てた場所とは程遠く感じるし、活気がとにかく凄い。


「まぁ、そうですね。この第十区域の繁華街は多分活気という意味では塔の街こと九頭龍でも間違いなく一番です」

「だろぉ、なのに何でココがスラムなんだよ?」

「そうですね。簡単に言えばあの塔の人達からすれば下に住む全員がスラムの住人だって認識なんですよ」

「……そりゃまた、色々ありそうな話だな」


 赤毛の少年の自嘲するような言葉にこの街には深刻な問題があるのだと理解したエヴァンはそれ以上聞くのを止める。

 その代わりにホフホフ、と息を吹きかけ焼き鳥をさましながら頬張って「んまい」と舌鼓を打つ。


「しっかし美味そうな食い物が多いな、本当」


 満足そうな笑みを浮かべるエヴァンの目には、無数の屋台が所狭しと軒を連ねている。

 その中にはこれまでお目にかかった事もない食べ物を扱う屋台も多く、その香りで涎が出そうになるのをこらえるので精一杯だった。


「ここは屋台通りですからね」

「ふうん、で俺たちが向かうの店ってのは遠いのか?」

「いいえ、ここからもう一本通りを過ぎればすぐです」



 そうしてエヴァンは繁華街の裏側へ入る。


「ん、──?」


 するとすぐに違和感を覚える。街の雰囲気が一変した。

 確かに裏通りに入れば怪しげな店が多くなるとかそういうのは分かる。だが、ここの雰囲気はそういったモノではない。

 例えるならば、そう、まるでに足を踏み込んだような剣呑な空気に満ちている。


「オイオイこりゃ何だ。本当に同じ区域とかそういう場所なのなよ? これじゃまるで」

「ええ、ここは間違いなく第十区域。あの繁華街のある僕達の住む区域です」

「マジかよ」


 エヴァンは息を呑む。たった二本路地が違うだけで、通りはさっきまでの煌びやかさなど嘘のように閑散としており、街灯も半分は消えている。周囲のマンションはボロボロで、いくつかの店舗は窓が割られたままだったり、もう潰れたのか看板が外れている。

 時折感じる視線はどれもこちらを窺っているように感じる。明確な敵意こそ感じないが油断すればいつ襲いかかってきても不思議ではない。

 微かに緊張感を抱くエヴァンの様子に気付いたのか、

「大丈夫ですよ。まだこの辺りの住人は警戒心は強いですけどそうそう人を襲ったりしませんから」

 と赤毛の少年は平然とした面持ちで言う。

「何だかまるで他だと襲ったりするのが普通みたく聞こえるな」

「ええ、他の通りだとそういう場所もありますよ」

「そらまた、」

 そもそもそんな危険な場所を、少年が歩いている事自体異常だな、と思いながらエヴァンは暗い通りを歩いていく。


 そうして数分後。


 前方に妙に明るい店が見える。

 と言うより、店の周囲に街灯がやたらとついているらしく、まるでライトアップされているみたいに見える。


「エヴァンさん、あの店が目的地です──え?」


 赤毛の少年の言葉、目的地という単語でエヴァンは走り出していた。数時間振りに、愛する人に会える。そう思ったらいても立ってもいられなかったのだ。


「アル、今行くからなッッ」


 そうしてエヴァンは猪突猛進全力疾走。常人よりも優れた身体能力をこれでもか見せつけるように、一目散に店へと直行。

 目的地まで二十メートル程まで迫った時だった。

 カラララン、という鈴の音と共に店のドアが開く。

 そして、「ぐぎゃああああ」という悲鳴があがり、一人の大男がドアから飛び出す。

「二度とこんな店来るもんか!」

 二メートルはあろうかという大男は、涙目でそう捨て台詞を吐きながら逃げていく。

「二度と来んなボケェ!」

 誰か女性の、威勢のいい声が聞こえる。


(トラブルか何かか?)


 思わず足を止め、様子を窺おうかとも思ったが、店から敵意のようなモノは感じないのでエヴァンはドラノブを回して店に入った。

 カラララン、という鈴の音が聞こえた瞬間。

「へ、…………ぐわっ」

 ブワッ、とエヴァンの視界が一転。気付けば天井を見上げる形になって、そのまま床に叩き付けられる。

「んー、何アンタ? さっきのアホかと思ってたけど……誰?」

 そう言いながらエヴァンを見下ろすのは一人の淑女。その腰まで届く黒髪はキラキラとした艶があり、顔立ちも整っている。一言で言えば間違いなく美人であり。いわゆる大和撫子とも思える。ただ、その服装はタンクトップにジーンズ、足元に目を移せばゴツそうなブーツという何ともラフ極まる格好であったのだが。


「く、何だよアンタ」


 エヴァンは即座に跳ね起きると、黒髪の淑女と向かい合う。


「ふうん、さっきのまともに受けて平然としてる、か」


 淑女は心底から楽しそうに笑い、何を思ったかパンチを繰り出す。ジャブにもならない遅いパンチだ。エヴァンは簡単に躱して半身になるのだが、その刹那。目の前の淑女は一気に前に踏み込み間合いを詰める。そしてさっきの手を素早く引きつけ反対の手でエヴァンの襟元を掴むや否や驚く程の早さで足を払いのけ、そして投げ落とす。


「う、げっっっっ」


 自重と相手の体重、おまけに受け身を取ろうにも、倒れ込む時に肘と膝までめり込まされ強かに床に激突。エヴァンは悶絶するしかない。


「う~いたそ。うん、反応はいいわね、でも身体能力に頼り過ぎなんじゃないのアンタ?」

「な、何かしやがんだよ」

「やっぱりタフねぇ。で、アンタ誰?」

「そ、それはこっちの……」


 呻きながら相手へ言葉を返そうと試みるも、さっきの投げ技で呼吸が苦しいのか言葉が上手く出ない。

 その時だった。


「エヴァン、大丈夫?」


 奥の方から、彼女の声と足音がした。


「ア、ル──」


 アルとエヴァンを交互に見て黒髪の美人は「あれ、?」と困惑した表情を浮かべる。


「アル。エヴァン…………?」

「レイコさん、その人がエヴァンさんですよ! 僕に写真見せたでしょ!!」


 赤毛の少年の声がする。


「あ────」

 黒髪の美人は口を手で押さえると、エヴァンを見る。

「ゴメンね、つい投げちゃった、テヘ♪」

 と困ったような表情を浮かべて見せた。



 ◆



「すみません、僕の説明が遅くって」


 赤毛の少年が心底から申し訳なさそうな声で謝罪する。


「もういいよ、気にしてないからさ」

「そうそうネズミ君、エヴァン君は気にしてないんだからさぁ」

「いや、アンタは気にしろよレイコさん」


 あれから十数分後。

 店にいるのはエヴァンとアル、そして黒髪の美女ことレイコに赤毛の少年ネズミ。


 店には四人だけしかいない。

 さっきまでは他に店員や客もいたのだが、レイコの「今日はもう閉店だから~」の一言で終了。客はいずれも堅気とは思えないような厳つい連中だったのだが、誰一人文句を言う事もなく、大人しく帰って行く。


(ヴォルフってスッゴくいい奴だったんだなぁ)


 思わず自分が働く食堂と比較してし、苦笑する。


「え、っとネズミ」

「はい、何でしょうかエヴァンさん?」

「お前のそれって本名なのか?」

「いいえ違いますよ、これはニックネームでして──」

「──違うわよネズミ君。その名前はアナタのソウルネームよ」

「……だそうです」


 ネズミはアハハ、と笑い、エヴァンも釣られて笑う。


「それにしてもアル、どうしてココにいるんだよ?」

「うん。実はねエヴァンが連れ去られた後で私、怖い人達に追いかけられて、それで危ない所をレイコさんに助けられたのよ」


 その言葉を受けてエヴァンはレイコへ向き直ると、「ありがとうございました」と深々と頭を下げる。


「よしなよ、アタシがもっと早く来れればそもそもアルちゃんには何事もなかったんだからさ」

「それでもありがとう」

「………………」

「レイコさん、私からも言わせて下さい。ありがとうございました」

「…………はぁ、いえいえどう致しまして、どうにも調子狂うわねぇ」


 二人に頭を下げられてレイコも苦笑しながら頭を下げる。


「それでレイコさん。教えてくれないか」

「どうぞ言ってみて」

「どうして俺やアルを助けてくれたんだ? で、組織ってのは何なんだ?」

「…………」

「レイコさん、無理には言わなくてもいいんです。でもアトランヴィルじゃないここで私達がどうして狙われたのかが分からないんです」


 レイコはエヴァンとアルを交互に見る。

 その目には何処か懐かしい物を見るような遠くを見るような光が称えられているようにアルには感じられた。


「そうね、二人がココに来たのは偶然なんかじゃなくて意図的・・・に連れてこられたって言えば見当は付くかしら?」


 その試すような問いかけにエヴァンは考えるが、アルはすぐに理由を察し「あ、」と言葉を漏らす。


「そういうコト。エヴァン君、君はコッチの【組織】に売られたのよ。悪いヤツらの取引材料・・・・としてね」

「材料?」

「そ、代わりにこちらからも色々とソッチに提供されたモノがあるってワケ。で、アルがここにいるのは──」

「私をエヴァンに対する人質・・にする為ですね」

「そう。そういう理由よ」

「それでどうしてレイコさんはそんな話を知ってるんだ」

「エヴァン、」


 アルはエヴァンの表情に言葉を失う。

 静かに怒りを抑えているのが彼女には分かる。レイコもネズミも悪人ではないだろう。だが、組織の取引の話を単なる一般人が知る道理はない。考えられる可能性は一つ、彼女達もまた″裏家業者″だという事。そして下手をすれば敵に近い存在の可能性すら有り得るという事なのだから。


「こわい顔しちゃって、理由は簡単よ。アタシ、組織の幹部にツテがあるのよ」

 レイコはあっさりと言い放ち、そして逆にエヴァンを見据えると、

「言い忘れてたけどアタシは【守り屋】なの。ヤバい連中から狙われる人を悪党から守るのが仕事。つまりはこれは仕事であって伊達や酔狂じゃないってコトよ。

 それにそもそもアナタ達を守って欲しいって依頼したのはその幹部だし、打算はあるにしたって一応は恩人。礼の一つでもくれてやるべきかもねぇ」

「…………」

 エヴァンは顔を俯けてしばし沈黙。そして再度顔を上げると、

「そいつに、……その幹部に会わせてくれ」

 と願い出る。

「いいの? 先に言っとくけどソイツすっごく悪い男よ。悪党も悪党、大悪党よ?」

「そんなの関係ない。ソイツは知らないけどネズミにレイコさんは信じられる。理由なんてそれで充分だ」


 エヴァンの目から″覚悟″を読み取ったレイコは「フフ」と含み笑いをすると席を立つ。


「じゃ、ついてきて。アタシが案内するから」

「レイコさんはここにいてください、僕が……」

「ネズミ君はココにいてアルを守ってあげるの、いいかしら?」


「──はい」

「さ、エヴァン君。ついてきて」


 レイコはまるで戦いにでも赴くかのような気配を放ち、不敵な笑みを浮かべる。元よりエヴァンはとっくに覚悟を決めている。ガタンと席を立ち傍らに座る恋人に「アル、ちょっと行ってくるよ」と告げるとその手を握る。

「うん、待ってるよ」

 アルもまた覚悟を決めたのかレイコに「お願いします」と言う。

「いいわねアンタ達。この件が終わったら美味しいモノを奢るわ」

 レイコはそれ以上口にこそ出さなかったものの、心底から楽しそうに微笑むと歩き出す。

 エヴァンもまたそれに続き歩き出す。


 カラララン、という鈴が鳴り響き、二人は外に出る。

「…………」

 空を見上げれば、心なしか、さっきよりも街を覆う雲が分厚くなっているようにエヴァンには思えた。



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