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Life Ending -人生の終わりの迎え方-  作者: 森野 熊三
第1章 ジャストインタイム
6/7

第5話「PM01:45」


 チーンと妙に心地よい鐘の音が響いて、僕ら3人を乗せたエレベーターが開き、

 涼しい空気が箱の中に流れ込んできた。

 

 僕らに用意された部屋がある階は他に人がいないのか、閑散としていた。

 

「……これって、橙吾の仕業?」

「さぁ、どうだろうな?」


 橙吾のほくそ笑んでいる様子は、その問いに答えているようなものだった。

 僕と翠は、今日、何度目か分からない苦笑いを浮かべ合った。


「じゃあ、早速、向かいましょう。もうかなり時間、過ぎているみたいだし」


 少し息を吐いて、しんとした廊下に、翠は自分のヒールの足音を響かせる。

 僕らも翠に続いて、LEDで照らされている廊下を進んだ。

 

 明るい廊下を進み、403の部屋の扉の前に着いた。

 一人一人、扉の前にカードキーをカードリーダー部に(かざ)し、

 僕らは部屋へと入室していった。


 部屋に入ると、前回と同様に、ラウンド型の机が中央に位置し、

 その周りには、ハイバックタイプのワークチェアで囲まれている。

 部屋の隅には、コーヒーメーカーと紅茶のパックなども完備してある。


 どうも、先客がいたらしい。

 既に1人、メタリックなSG(システムグラス)をかけた人が席に着いていた。

 その人の手の動きからして……ゲームかな?

 何かしらのソフトを起動しているのだろう。

 気づかないのか、こちらの方を全く見向きもしない。

 以前、一緒の班ではなかった、初めて出会う人だ。

 

 ドアが閉まった音か人の気配で、ようやくその人物もこちらに気づいた。

 黒髪の間から覗く鋭い眼光を放っていた。

 SGを外してより(あらわ)となったその目は、とてもとても___


「ふわぁ……」


 ___とても、眠そうな目だった。

 その目下には、少し青みがかかっているクマが多少あった。

 目尻には、欠伸から誘引された涙が光っていた。

 どうやら先ほどの眼光は、この涙が際立っていたみたいだ。


「誰も来ないから、今日の講義はナシになったのかと思ってたっすよ~」


 あ、女の子なのか。服装もボーイッシュなもので、ショートヘアー。

 外見からは少し分からなかった中性的な顔立ち。

 けれど、声は女の子特有の丸みのある声だった。

 彼女は、むくりと席を立ち上がった。

 思った以上に小柄な彼女は、こちらに手を差し出していた。


「ワタシの名前は、佐藤(さとう) しくろっす。

 今日だけかも知れないけど、よろしくっす~」

「しくろ? どう書くの?」


 僕は、パッとは思いつかなかったので、問いかけてみた。


白黒(しろくろ)と書いて、白黒しくろって読むっすよ~。

 だから、友達からは、普通にシクロとも呼ばれてるし、

 シロちゃん、クロちゃんとも呼ばれてるから自由に呼んで欲しいっす」

「珍しい名前だな~。俺は生島 橙吾。普通に下の名前で呼んでくれ」


 僕たちの3人の中で、一番コミュニケーション能力が高い橙吾が、

 白黒の差し出された手を握る。


「で。あっちの男子が松山 陽葵。そっちの女子は、本田 翠」

「ん、あれ? 本田、翠……? どっかで聞いたことあるような……?」

「もしかして、佐藤さんって、プログラミングされてない……?」

「え、あぁ、そうっすけど……?」

「もしかして、ホンダグラスのプログラマーの佐藤 白黒さん?」

「……あっ!? もしかして、本田(ただし)さんの娘さんっすか!?

 あぁ~、どおりで、聞いたことある苗字だなぁ、と」


 翠はおじさんの名前を出されたから、少しだけ顔を曇らせたが、

 すぐに切り替えたようで、和気藹々(わきあいあい)としている。

 どうやら、二人は名前だけは知っているようだ。


「え、ちょっと待って? ホンダグラスのプログラマーっていうことは、

 ホンダグラスのシステム組んだのって、シクロなの……?」

「あぁ、はい。そうっすよ~」

「さらりと答えてるけど、それすごいことじゃあ……?」

「いやいや、大したことないっすよ~。ただコンバートしただけっすから」


 そこから、つらつらと難しい単語を並べて説明してくれているようだけど、

 まったく持って何を言っているのか解らなかった。


「まぁ、ともあれ、凄いということがよく分かったよ……。

 それにしても、今日のお題ってなんだろう?」

「前回は、何やったの?」


 当然の疑問だ。翠は、前回この講義に参加していない。


「あれ? もしかして、本田……すいません、翠さんでもいいっすか?

本田さんだと正さんと混同しちゃうので……」

「ええ、私も白黒(しくろ)と呼ばせてもらうわ。実は私、今回が初めてなの」


 その言葉に、佐藤さんは、ぱぁっと明るい表情を覗かせる。


「あぁ、もしかして翠さんも? ワタシも、今回が初めてなんすよ~。

 なので、尚更心寂しかったというか……。

 とにかく、おんなじ人が居てよかったす!!」 


 翠の手をとって、ぶんぶんと音が鳴るほど、握手を交わす。


「え、ええ。私も嬉しいわ。で、陽葵、前回はどうだったの?」

「前は、『LEへの印象』だったよ。

 皆で、どういう印象を持っているか言い合うって…感じ…か…な……?」


 僕たちは、廊下から聞こえてくるバタバタという激しい足音が

 大きくなるにつれて、会話を窄めた。

 

 僕たちのいる部屋の前で、その足音は鳴り止んだ。

 暫くして、カードリーダーの読み込む音がして、自動ドアに開く。


 そこに居たのは、SG(システムグラス)を掛けた男子生徒だった。

 彼は、急いでたのか、肩で大きく息をし、膝に手をついている。

 その様子を、僕らは呆然と眺めるしかなかった。


「あー、えーっと大丈b「講義はもう始まっちゃった!?」


 橙吾の心配の声を遮り、食い気味で彼は尋ねた。


「あ~、まだ大丈夫っすよ。あの先生、相当ルーズみたいっすから」

「よ、よかった~、死ぬかと思った~……。まだ死なないけど~……」


 LEが実装されてから、少し流行った冗談を言ったところで、

 ようやく彼は、僕らの注目の的になっていることに気づいたようだ。


「……あ、悪い。お騒がせしました。俺の名前は、大和(おおわ)楓真(かずま)

 今日だけかもしれないけど、よろしくな」


 少し小柄で汗だくな彼、大和 楓真が自己紹介を行なった。


「あ、あぁ、疲れてるのに悪いな。まぁ座れよ。もうすぐ始まるだろうし」

 

 橙吾が優しく、労うように着席を促した。

 大和はそれに応えるように、ふらふらと歩き、椅子に座った。

 彼に続き、僕たちも簡単な自己紹介をしながら、適当な席に座った。


 その時、ちょうど、机の中央にある起動音がしたかと思えば、

 淡い青色を放ったモニタが中央に出現し、

 周りのカーテンが自動的に閉まっていった。


 そこには、水田教授の顔が映っていた。

 

 ようやく、二回目の講義が始まろうとしていた。



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