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Life Ending -人生の終わりの迎え方-  作者: 森野 熊三
第1章 ジャストインタイム
5/7

第4話「PM01:30」


 エントランスに、踏み入れると、20~30人ほどだろうか、

 男女比も同じくらいの生徒が並んでいた。

 

「はーい、並んで並んで~。前回と同じように、引いたカードキーを持って、

 そのカードキーが表示している番号の部屋に向かってね~」

 

 先頭から、多分水田教授だろう、声が聞こえてくる。

 

「さて、俺たちもくじを引きに行きますかね」

「あれ?生島君は、なんで眼鏡を出してるの?」


 並びながら、橙吾はシステムグラスを取り出していた。


「橙吾、もしかして前のアレ(・・)をやるの?」

「なんだ、やっぱり陽葵にバレてたか」

「え、なに、どういうこと?」


 戸惑っている翠に、まぁ見てなって、と言って

 橙吾は、彼の大好きな銀朱(ぎんしゅ)色のシステムグラスを装着した。

 

 SG(システムグラス)の操作方法は、いくつかある。

 例えば、僕がカフェでやっていた手動。

 SGを通して、仮想キーボードなどを空間上に出現させ、

 実際に周辺機器を動かすようにして、操作を行う。


 しかし、今、橙吾は一切手を動かさず、ずっと腕組みをしている。

 橙吾の方法は、手を使っているのではなく、

 目、正しくは視線で操作をしている。

 

「これ、毎回、橙吾の操作を見て思うんだけど、

 どういう原理で動いているのか分からないんだよね」

「確かにあまり使われている操作方法ではないわね。

 この操作方法って、SG(システムグラス)に取り付けられている

 センサーで生島君の視線を感知するっていうものなの」


 流石は、ホンダグラスの娘だ。

 さっきの話じゃないけれど、それだけスラスラと理論が言えるのであれば

 SGに関する講義は取らなくても問題ないように思う。

 

「そう、あれは本当に100人に1人くらいしか使ってない変態操作方法よ」

「翠ちゃんが言うのだから、間違いなだろうね」

「おーい? 聞こえてるの忘れてるんじゃないだろうな?」


 キリッと答える翠に賛同している会話を橙吾に聞かれてたようだ。

 繊細な操作だから、会話を聞かれているとは思わなかった。


「それで? 生島君は一体何をしているのかしら?」

「簡単に言うと、ハッキング♪」

「なっ……バッ…ん!?」

「み、翠ちゃん、悪いけど今大声出したらまずいから……」


 咄嗟に、僕は翠の口を抑えた。今、大声出すと、カフェでの二の舞だ。

 翠も、少しの間、抵抗はしていたけれど、

 本日二回目ということもあって、状況が飲み込めたらしい。

 こくこくと頷いて、ようやく静かにしてくれた。


「でも、ハッキングって違法よ!? 何を考えてるのよ!?」

「ハッキングっていっても、そんな大層なものじゃないらしいよ。

 僕もダメだとは言ったけど、聞かなくてね」

「あぁ、そういえば、昔から生島君はこういう人だったわね……」


 小声でヒソヒソと僕と翠は話を続ける。

 昔から、橙吾は何でもできる人だった。

 電子関連も例外なく、視線操作まで出来るほどだった。

 

 けれども、そのスキルを悪戯とかに使うせいで、あまり評価がよくなかった。

 例えば、いたずらっ子に憧れのマドンナからメールが来たかように見せたり、

 とある先生同士をある密室に閉じ込めたりして、授業をサボったりなど。


 当然、こんな悪事ばかりを続けていたら、LEが短くなってしまう。

 そのように、僕が橙吾に言うと、橙吾はあのお決まり文句を言う。

 

 偶然は続くものじゃなくて、偶然は続けるもの。

 これが、橙吾のLEの短くなることがない、所謂チート技だ。

 

 僕や翠ぐらいの腐れ縁で、ようやく見抜ける。

 先程のケースは、二つとも、恋が成就するように、という気持ちで行なう。

 橙吾はそう言っていた。

 つまり、両方とも、相手に害悪を及ぼそうとして行動するのではなく、

 相手のことを思っての行動として扱うことができる。

 

 この辺りに、LEの秘密が隠れているかもしれないけれど、

 目に見えることではないから、解明されるのは難しいかもしれない。


「まぁいいわ。今回に限っていうのであれば、私に関係することなんでしょう?」

「多分、そうだろうね。前回と同じような手口だと思う」

「へぇー、後学のために、その手口とやらを教えてもらえる?」


 ……あの目は、「言わなかったら、告げ口する」と言っている。

 どうにも押しが弱い僕は、渋々答えることにした。


「……簡単に言ってしまえば、カードキー情報の交換」

「情報の交換?」

「うん。セキュリティ上、データ改竄などのカードキーへの内部干渉は難しい。

 けれど、外へ情報を出し入れが多い媒体なんだ」

「そうね。部屋に入るためにアウトプットしたり、

 そのカードキーの認証確認をしたりするからよね」

「そう。それを応用して、情報ごと(・・・・)入れ替えるんだ」


 アウトプットしたあるカードキーの情報。

 その情報適合を素早く行なうインプット能力。

 この能力を並行操作して、カード内情報をシャッフルする。

 

 これは、僕みたいに手動で行なうことはできない。

 何故なら、単純に速度が足りない。

 けれど、視線操作はそれが可能だ。

 

 人は眼球をおおよそ毎秒50°まで滑らかに動かすことができる。

 これを応用するとコンマの操作が可能となり、カード情報交換の速度まで達する。

 そう、橙吾は言うが、いまいち僕には分からない理論だ。

 実際に出来ているわけだから、そうなんだと思うしかない。

 

 今、SGを装着していないから、見ることができないけれど、

 橙吾の周りには、手品師(マジシャン)が扱うトランプのように情報が舞っていることだろう。


「でも、それ、悪事に使うことができるわよね?」

「出来なくはないけど、これを使えばLEが短くなるから、

 皆は、やらないっていういたちごっこの完成なんだ」


 このLEが実装されてから、犯罪率が一気に低下したのは事実である。

 犯罪することによって、自分のLEが短くなるのを見て、

 犯罪の重大さが理解ができるようになったからと

 先ほど翠が見せてくれたプリントにもそう書いてあった。


 翠は、釈然としない顔だけれど、一応、納得してくれたみたいだ。

 そうこうしている間に、僕たちの順番が近づいてきた。

「……陽葵、とりあえず、俺よりも先に引いてくれ。

 最後に、俺が引いて、エントランスに残っている誰かと交換する」

「了解。

 ところで、橙吾って本当にLEが短くなってないの?大丈夫?」

「一応、確認するか。……よっと」


 橙吾は、腕をまくって、右手首のバングルを確認した。


「確認を促した僕が言うのもなんだけど、

 人前で臆面なく確認できるのって本当に凄いと思うよ……」

「なんだよ、照れるじゃねぇか。あ、そろそろ陽葵の番だぞ」


 言われてみれば、僕たちの目の前には、くじ箱を持った水田教授が立っていた。


「さぁて、次は、君たちの番ですよー? あれ? なんで橙吾クンは、

 SG(システムグラス)を装着しているのかな~?」

「いやぁ、ちょっと新入生歓迎会で使う手品の練習ですよ~」


 ニヤニヤと悪い顔しながら、笑い合う二人。

 どうやら、水田教授にはお見通しのようだ。


「じゃあ、あんまり意味なさそうですが、陽葵クン引いてもらってもいいかな?」

「あっ、はい。それじゃあ……」

 

 ごそごそと3枚しかないカードキーから適当に1枚引いた。

 翠と橙吾も続き、くじが引き終わった。

 

 僕のカードキーには、403と記されていた。

 

「良かったな、陽葵。また偶然が続いてさ?」

「よくやるわよ、ホント……」


 当然、2人が持っているカードキーにも403と表記されていた。

 僕は、その様子を見て、苦笑いするしかなかった。


「……さぁ、無事にクジが終わりましたね? 無事かどうかはわかりませんがね?

 さあさあ、皆さん、各自、部屋に向かってください。

 それから、前回と同様にお題をお知らせしますねー」


 こちらを一瞥したと思うが、気のせいだということにしよう。

 そう思い込んで、僕らはその視線から逃げるかのように

 タイミングよくやってきたエレベーターに乗り込んだ。



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