天の川の恋 姫野沙織√
去年と一緒でギリギリ七夕投稿です!
また同じ夢を見ている。
僕が見ている夢は誰もが知っている天の川の織姫と彦星の物語。普通ならおとぎ話なら現実味なんてものはないに等しい。だというのになぜか現実味があるのだ。しかも、それだけではなくまるで自分が経験したかのような錯覚に陥っている。それくらい自分でもわかる。だというのに毎年ひたすら同じ夢を繰り返している。六月に入ると、いつもこの夢が毎日流れる。
僕に関係があるかもしれないけど、その可能性は果てしなく低いだろう。
もし、本当ならば僕は幸せだろう。
星天夕彦。
僕の名前はそれなのでよく彦星と呼ばれたりする。だけど、僕が知っている限りだと織姫と呼ばれる人は三人いる。
同学年の織川七姫。後輩の羽織沙姫。そして、隣人で同級生の姫野沙織。
その三人は僕と同じようにあだ名で呼ぶと織姫になる。しかも、三人とも個性的とは言え美少女なので付き合えるだけで幸せだろう。
もし僕が彦星の生まれ変わりで三人のうちの誰かが織姫の生まれ変わりなら、付き合える可能性が高くなる。しかし、輪廻転生を信じている僕でも、流石にそんな都合よく転生できるわけがないと思う。
そんなことを思うと視界が真っ白になる。それに続いているかのように意識も消えてゆく。
♡
目を開けると綺麗で吸い込まれそうな水色の瞳が僕を覗き込んでいた。僕と目が合うと彼女は抱きついてきたのだが……締まってる! 締まってる! 待て待て! さらに力を強めるな!! 意識飛ぶ! ヘタすると死ぬ!
「よかった……よかった……っ!」
安心してくれるのは嬉しいけど、死ぬから!
いくら心の中で思っていても、気づいてくれるわけがないので見事に喉仏を押し潰している白い肌の細腕を叩く。それでようやく僕の現状に気づいてくれたのか解放してくれる。
「ゴホッ! ゲホッ! …………ふぅぅ。本当に死ぬかと思ったよ」
「ごめんなさい」
「別にいいよ。それよりもここは?」
「保健室。階段で倒れていたの」
「えっ……? 全く思い出せないのだけど」
「一時的な記憶欠如だから、すぐに治るって保健室の先生が」
「ふーん。……あっ。本当だ。徐々に思い出してきたよ」
「なら、どうした階段で倒れていたの?」
「まずはこれを見て」
そう言って、朝に机の中に入っていた
【星天夕彦くんへ
あなたに話したいことがあります。放課後午後六時に二年二組で待っています】
という内容が書いてある手紙を渡す。ちなみに時間はすでに過ぎている。だって、壁に掛けてある時計を見ると七時前だったからだ。
「誰にもバレないように図書室で時間を潰していたら時間ギリギリになっていたんだ。だから、慌てて階段を上ると、この様だよ」
「そう。ありがとう。事情はわかったよ。……あの子をどうやって慰めようかしら」
「ん? 『事情はわかったよ』のあと何か言った? モゴモゴ言っていたけど」
「ホントにドジねと……あっ」
「ひでぇ。まぁ、否定できないから仕方ないのだけど」
「ふふふ。さて一応、二年二組の教室を覗きましょ」
「うん。そうだね。そうするよ。ありがとう。気をつけて帰ってね」
「一人で大丈夫?」
「多分」
「そう。わかった。先に帰っておくよ」
姫野さんはそうとだけ言い部屋を出た。
「さて、僕もこの部屋から出よう」
幸いなことに普通に立つことができたので、誰もいないけど一応はお礼を言って部屋を出る。僕の目的地は三階にある。ちなみに保健室と図書室は二階にある。
ということは改めてわかったけど、すぐに足を滑らせたんだね。こりゃあ、ホントに何も言い返せないや。
今回は慎重に一段一段踏みしめながら、上る。二年二組は階段を上ってすぐの場所にあるので、すぐに辿り着いた。前と後ろの扉から中を覗いてみたが、誰もいなかった。そして、鍵もかけられていた。
そりゃあ、そっか。完全下校時刻の六時半は過ぎているし。きっと先生に追い出されたのだろう。果たし状だったら安心だけど、本当にラブレターだったら申し訳ないことをしてしまったね。差出人はわからないけど、謝りたいな。
そう思うと突然、ザザッと雑音が聞こえたかと思うと白黒の映像が流れる。
映像の中では教室で待っていたのはあの織川七姫さんだった。そして、付き合うことになった。でも、すぐに強制労働かと言いたくなるような仕事を強いられて、彼女とは一年に一回しか会うことができなくなった。
映像はそこで終わった。
なぜか妙に現実味がある映像だったね。実際に強いられるかもしれないし。まぁ、そんな仕事といえばどこかの国での傭兵生活とかだろうけど。それはあんまり現実味がないな。それにしても、仕事のせいで恋人同士が一年に一回しか会えなくなるって本当に七夕伝説にそっくりだね。
ていうか、何を有りもしない幻想を抱いているのだろう。織川さんが僕のことを好きなはずがないのに。きっと、織川さんからしても迷惑だろうしね。さて、帰ろう。
僕は焦らずにだからと言ってゆっくりでもない速度で階段を下りる。すると、川の水が流れる音が微かに聞こえてきたが、すぐに消えた。幻聴が聞こえてきた自分に対して焦ってしまったが、すぐに首を横に振り、焦りを誤魔化す。
「ん?」
靴を履き替えて校門の方を見ると人影が一つあった。しかし、不審者というわけではなさそうなので近づいていく。そんな僕の足音に気づいたのか一人の少女が夕陽に照らされて、キラキラと輝いている長い髪をはためかせながら、こちらを見た。
「あれ? 案外早かったのね」
「どうしているの?」
「当たり前でしょ。道をまだ覚えていないのだから」
「いや、胸を張っていうことではないからね」
それに胸を張ったら、ただでさえ大きいのにさらに大きく見えるから非常に目のやり場に困る。けど、ごちそうさまです!
「ねぇ」
「ん? どうした?」
「手、握っていい?」
「いいよ。迷子になられたら困るしね。はい」
手を差し出すと恐る恐るという感じで掴まれた。
そんなに僕が怖いのかな? でも、別に何もしてないよね? それに強面でもないし。
「さぁ、行こうか」
「うん」
彼女が頷いたのを確認してから歩み始めた。
「…………」
「…………」
校門からすでに10分は経ったが、どちらも呼吸しかしていない。でも、話すことがないから仕方ないと思う。すると、彼女は突然立ち止まった。何事かと思い彼女の方を見ると僕を通り越して道路を見ていた。
何か面白いものでもあるのか? ……あっ。
「猫一家」
彼女の視線の先には僕が言った通りの集団がいた。どうやら茶トラようだ。
「可愛い」
横からボソッと聞こえる。確かに可愛いな。
「ん?」
突然、スゴイ音が聞こえてきたのでそちらを向くと明らかに制限速度を超えている車がやって来ていた。その後にびっくりした猫一家は慌てて逃げていく。一番小さな一匹を除いて。
「っ!?」
手を離して、ついつい飛び出す。しかし、それよりも早く彼女が飛び出そうとしていた。さすがに女子に無茶させるわけにはいかないので、彼女を後ろに引っ張り、僕が前に出る。
なんとか間に合うかな? まぁ、でも油断はできない。
子猫との距離が数センチほどになったところで、前に飛ぶ。なんとか子猫を抱きかかえることに成功した。あとは運に任せるしかないね。それにしても世界が遅く感じるね。これはもしかしてダメかも?
そう思ったのも束の間、車が背後を通り過ぎたかと思うと背後から急ブレーキ特有の甲高い音が聞こえてきた。その音に驚き、抱いていた猫が走り去っていった。転がったので、立ち上がりその先を見ると家族が待っていた。親猫っぽい猫がお礼でも言っているかのようにジッとこちらを見ている。その姿に少し癒されていると慌てて逃げ出した。
お礼を言われているようって自意識過剰みたいだね。
「ふぅ。なんとかっ! ……なった」
「お前死にたいのかっ!!」
少し顔をしかめていると車の運転手が吠えてきた。
「どうしていきなり飛び出した? 理由を聞こうか?」
車の運転手のおじさんが聞いてきたので、素直に猫がいたことを伝える。すると、おじさんは目を丸くする。
「猫なんかのためにあんなことしたのか?」
「……はい」
なんかという単語に少しイラっとしたが、なんとか抑え込めた。
「どうせ猫なんかを殺しても器物破損だ。俺に殺人をさせないでくれ」
あぁ、この人は猫を……いや、動物たちを物としか思ってないようだね。もう、話す価値もないや。
「すみません。以後気をつけます」
僕の謝罪の言葉を聞くとおじさんは満足げに車を運転しだした。もちろん、制限速度を大幅に超えている。
はぁ。疲れた。それにしても痛い。
軽く右足首を回すとふくらはぎの部分と足首が痛かった。
どうやら挫いたし、つったようだね。家に帰ったら手当てしないと。恐らく手遅れになっているだろうけど。
家に帰ったあとのことを考えていると、彼女を強く引き倒してしまったことを思い出した。
立てているかな?
不安になり彼女を引き倒した場所を見たが、いなかった。いないということは立てたと勝手に解釈する。そして、どこかに歩けたと勝手に解釈する。そして、僕を置いて逃げたと勝手に最低な解釈をする。
あまりの自分勝手さに笑うと突然、体に予想だにしていなかった衝撃がきた。あまりの衝撃に地面に倒れてしまう。衝撃がきた方を見ると金色の髪がキラキラと輝いているのが目に入った。
そんな彼女──姫野沙織を見ると突然、何一つ前触れなく抱きしめられた。大きな胸の谷間に顔を埋めれているから、いつもなら至福に感じる。でも、今はそんなことよりも痛めている足の上に乗られているから痛みの地獄でしかない。でも、彼女に怪我をしていることがバレたくないので我慢する。我慢して、至福に浸っている演技をする。
「よかった。……よかった。……無事で本当に……っ!」
「ん?」
顔は見えない。実物を見たわけでもない。でも、彼女が泣いていることが声でわかった。このまま彼女を放置しておくわけにはいかないので、手を伸ばしてなんとなく感覚で頭をポンと叩く。運がいいことに頭を触ることができた。
脳裏に白黒の映像が映し出される。その中で僕らしか人物が、誰かわからない人物の頭を軽くポンポンと叩いていた。だから、僕もそれをマネする。
「……っ!? ……彦…………星?」
姫野さんが突然、あだ名で呼んでくる。でも、彼女が言うとどういうわけかあだ名に聞こえない。ずっと、そう呼ばれてきたかのような錯覚に陥る。それが本当に錯覚かもわからなくなってくる。
すると、彼女の胸から解放された。そのおかげで錯覚が消えた。
「帰ろうか」
「大丈夫なの?」
「うん。大丈夫。それにしても、随分と泣いていたけど、どうして?」
「君も失くすかと思ったから」
「君も? ということは一度誰か大切な人を亡くしたの?」
「うん。数年前に家族全員を」
「ごめん」
「いいよいいよ! 気にしないで」
「あれ? そういえば親から仕送りを貰って、引きこもりしているんじゃなかったっけ?」
「うん。貰っているよ。親は親だけど義理だけどね」
「そう……だよね」
「そういう君はどうなの?」
「どうとは?」
「誰か大切な人を亡くしたことあるの?」
「それ聞いちゃう?」
「うん」
「あんまり言いたくないけど……」
彼女をもったいぶらせるかのように間を作る。
まぁ、もったいぶるほどではないけどね。
「亡くしたよ。一杯。家族も失くしたし、幼馴染も失くしたよ。その他には親友を色々ね」
「ごめんなさい。聞いてはいけなかった」
「いいよ。気にしないで嘘だから」
「…………へっ?」
「大切な人は誰一人として失くしてないよ。ただ、両親の顔は知らない。どうやら僕は捨てられたようだから」
「あのアパートは身寄りがないもの達を集めているのはわかっているけど、まさか君は生まれつきなんて」
「生まれつきではない気がするけど、まぁいっか。そんなことよりも一つ質問があるんだ」
「なによ」
「どうして僕のことを彦星と呼ぶの?」
「えっ? 君が彦星だから」
「わけがわからない」
「ねぇ。このあと直接あたしの部屋に来ない?」
「どうして?」
「なんとなく」
「な、なんとなくって。まぁ、別に構わないけど」
僕らは他愛のない会話をしながら、アパートへと向かう。
数分後にアパートに着いた。それまでの間は僕らはお互い話さなかった。話すネタがないから仕方のないことだけど。僕は荷物も置かずに隣の部屋の彼女の部屋へと案内される。
「そこに座ってて」
そう言って彼女に座らされたのはベッド。僕の部屋のベッドよりも断然、ふかふかして気持ちいい。彼女は棚をガサガサしている。目的のものを見つけたのか「あっ」と言うと背後に何かを隠しながら近づいてくる。
僕の前に立つと彼女は何を思ったのか本気で肩を押してきた。そのせいで僕はベッドに倒れてしまう。
「ど」
どうしてと声をかけようとすると、僕の目の前に彼女の黒いパンツが現れた。
なんという絶景! じゃなくて!
「ど」
またどうしてと声をかけようとすると、僕の体の上に乗ってきた。
えっ? 待って。これどういう状況? 僕の知能の限界を超えているのだけど。
「うっ!?」
突然、右の足首とふくらはぎに痛みが訪れた。
「やっぱり」
彼女は呆れたように言う。
「足首は挫いて、ふくらはぎつったのね」
「そんなことな……いっ!!」
「いつまでそんなことを言えるのやら!」
「ごめんなさい! 許してください! 怪我をしました! 自白します!」
「諦めるのはやっ!?」
「痛みに慣れているわけではないし、当たり前だよね」
「なら、手当てをするからジッとしていてね」
「はい。でも、すでに手遅れだと思うよ」
「今の医学をナメて貰っては困るのよ」
「どうして君がそんなに誇らしげなの?」
「なんとなく?」
「またなんとなく。まるで感覚で生きているみたいだね」
「うるさいわねっ!」
「いっ!!」
また語尾のみを強めて言われて、痛めつけられた。その後も何度も痛めつけられた。別にマゾに目覚めることはなかった。
「…………」
「…………」
「ねぇ。手当て終わったなら早く退いてくれない?」
「休憩くらいさせてよ」
「休憩は別にいいんだ。でもね。なんで僕の上? 普通は退くよね?」
「どうしてそんなに抵抗するの?」
「どうしてって……当たり前だよ。このままだと僕の理性が保てないよ。僕は男で君は女。これだけで察してくれると嬉しいよ」
実際にすでに理性が危ういけど。
「なら一つお願い」
「何かな?」
「あたしと付き合って」
「別にいいけど、どこに行くの?」
「ううん。そういう意味じゃないよ。あの……その……こ、ここここ恋人になってということ……」
「いいよ。それくらい。お安い……って、えっ? こ、恋人? どうして? 僕は告白される要素なんてないと思うよ」
「前世から決まっているのよ」
「えっ? どういうこと?」
「なら、こうしたらわかるかもね」
そう言うと彼女は退いてくれたが、すぐに僕の上で馬乗りになり、必然的に目線が合わさった。そして、静かに唇を押し当ててきた。
「っ!?」
予想外すぎることに目を見開いたが、さらに予想外すぎる出来事が起きた。
彼女はまるで求めるかのように強く抱きしめてきて、舌を執拗に絡ませてきた。そんな時に脳裏に恐ろしい量の白黒の映像が流れ込んでくる。
全ての映像がほぼ同じだ。何千、何万、何億と繰り返してきたこと。そして、その全ての時間でできなかったこと。したかったこと。色々と悔いを残したまま、彼──彦星は亡くなった。それが百年も前の話。そして、十七年前の七夕に僕──星天夕彦が産み落とされた。どうやら、その時の同じ病院で彼女──織姫は……織姫たちは産み落とされたようだ。
不幸なことに織姫は三つに分裂してしまったようだ。
お淑やかさとほとんどの恋心を持ち合わせた織川七姫。無邪気さと強さと微かな恋心とその他全ての感情を持ち合わせた羽織沙姫。そして、優しさと寛大さと記憶を持ち合わせた姫野沙織。
僕は知らないけど、お淑やかさと恋心を持ち合わせた織川七姫は一応は幸せにしたらしい。中東の傭兵家業という厳しい仕事で一年に一回しか会えないという制約を受けながらも。
そして、今回は優しさと寛大さと記憶を持ち合わせた姫野沙織を幸せにする番らしい。幸い、今のところは特に制約はなさそうなので気楽だ。
白黒の映像が途切れて、目の前には姫野さんがいた。彼女は目を閉じている。それがまた可愛い。だから、僕も彼女の舌を受け入れて、絡めていく。さすがにそのことは予想外だったのか、ビクッと体を震わせる。だから、できる限り優しく抱きしめると次第に震えが消えていく。
「ん…………はっ」
「んっ……んっ……」
深いキスを交わしたので、二人のヨダレが絡み合って一本の線が僕らの間に作られる。
「受け入れてくれるの?」
「うん。さっきまではごめんね。君のことを忘れていた」
「ううん。仕方ないよ。思い出してくれたから。でも、シよっ?」
「避妊器具さえ使わせてもらえるなら」
「どうして?」
「どうしてって。当たり前だよね。僕らはまだ高校生だよ。お互いに責任が取れない」
「大丈夫だよ。育児できるお金さえあったらいいんだよね?」
「その言い草。もしかして、お金持ち?」
「うん。神様の子供ではないのだけどね」
「そうなんだ。でも、ナマはマズイよ」
「そこまで言うなら仕方ないな」
彼女はそう言うとまたガサゴソと棚を漁り始める。その間に僕は今、どっちの人格なのかを考えるが、答えは一瞬にして出た。彦星としての僕も星天夕彦としての僕も両方人格は一緒みたいだ。
彼女はこちらに向かってくる。そんな彼女は制服を脱ぎ捨てて、黒い下着姿になっていた。それだけでも興奮してしまうが、彼女の口には男の逸物に装着する避妊器具が加えられていた。四角い小袋に入っていて、真ん中は少し凹んでいる。
「どうして持っているの?」
僕の質問に答えるために彼女は口から避妊器具を取った。
「いつかこのようなことになると思ってたから」
「そうなんだ。ありがとう」
お礼を言ったので受け取ろうとしたが、首を横に振る。
「どうして?」
「あたしに着けさせて?」
「わかったよ」
「ねぇ」
「どうしたの?」
「早く君……夕彦くんも服を脱いでよ」
「わかったよ」
素直に従い、僕も制服を脱ぎ捨てた。
「下着も」
「お互いに脱がし合いっこしようよ」
「うん。わかった」
「まずは量的にも多いし、僕から脱がすけどいい?」
「うん。いいよ」
「君は……沙織は上か下どっちから脱がしてほしい?」
「下」
「即答だね。でも、わかったよ」
ゆっくりと下を脱がしたので、僕たちはアイコンタクトでお互いの下着を脱がし始めた。
そこから先は童貞の僕と処女であろう彼女にしたら、未知の領域だから、僕が大人なビデオで学んだ通りにした。もちろん、僕の指示でだ。
数時間後に目が覚めた。周りの静けさから真夜中だということがわかる。彼女のベッドはシングルベッドだけど、二人で眠っていた。もちろん、全裸でだ。そんな格好で僕は後悔した。
あの後、一回では足りなかったので何度もシた。でも、途中で避妊器具が切れた。そこで止めればよかったが、それでも続けてしまう。つまり、ナマだ。今、彼女の膣内には僕の白濁とした液体が入っている。しかも、よく見ると溢れ出している。
妊娠させて可能性は比較的に高い。うちは知らないが普通の学校だと、確実に退学になる。ということは僕と彼女の人生が狂った可能性が比較的に高い。それに本当に彼女がお金持ちかはわからない。僕にヤらせるための嘘という可能性がある。でも、僕はお金などを確認せずにシてしまった。
「働かないと……」
僕は服を着て、スマホとパソコンを酷使しながら、必死に高収入の仕事を探す。時間はどうだっていい。もし妊娠していたのなら、どうせ学校を辞めるしかない。大家さんにはかなりの迷惑をかけるけど、なんとかこの一生でお世話になった分をお金で返すことができるだろう。
「んん……?」
「ごめん。起こしちゃったかな?」
「何……しているの?」
「仕事を探しているんだ。君とずっと一緒にいたいけど、お金がないと困るからね」
「そんなのいいよ。あたしが全て払う」
「僕は君のヒモにはなりたくないからね。だから、僕は働くよ」
「そう……。それにしても聞かないんだ」
「何を?」
「本当に産む気かどうかを聞かないんだ」
「君の答えは大方の予想がついているからね」
「さすがは夕彦くん。やっぱり、運命を感じちゃうな。あたしはもちろん産む気だよ」
「やっぱりね」
「当たり前だよ。夕彦くんとあたしの愛の結晶だもん。それに今までできなかったことだから、絶対に産みたい。どんなことがあっても」
「念のため聞くけど高校は中退になり、中卒になるよ」
「そんなのどうだっていい。夕彦くんと一緒にいられるのなら」
「……ありがとう」
僕としては中卒は少し問題だけど、彼女が別にいいのなら僕だって別にいい。
そう思っていると彼女は布団を軽く羽織りながら僕の膝の上に座ってくる。
「見えないよ」
「ねぇ……もう一回シよ?」
「ごめん。そんな気力はないよ」
「嘘。ここは元気だよ」
そう言って彼女は僕の逸物をズボンの上から撫でるように触る。そして、ズボンのチャックを開けられた。
また僕たちはヤッた。
早朝、僕は沙織の家から学校に向かった。もちろん、沙織は引きこもったままだ。
今日は休日なので人はほぼいない。だけど、事務室は開いているので、僕と沙織が学校を辞める旨を伝えた。すると当たり前だが、驚いた顔をしている。でも、僕は辞めるの一点張りだ。
数十分の静かな激闘の末に僕は二人分の退学届を貰った。そこに書くのは退学者の名前と連帯保証人の名前とハンコ。
僕らの連帯保証人は大家さんになっている。でも、あの人なら僕たちのことを理解してくれるはずだ。
「ただいま」
僕は沙織の部屋に帰るとすぐに退学届と大家さんの許可を得ないと退学できないことと本人が校長に提出しないといけないことを伝えた。そのことを聞き、彼女は不安そうな顔をしたが「二人なら」と呟くと意を決したかのような表情になる。今の僕もそんな表情になっていたら嬉しい。
その日の晩に大家さんに二人して会いに行く。
「どうしたの?」
「突然ですが、学校を辞めさせてもらいます」
当たり前だが大家さんは驚いた表情をしていた。
「とりあえず中に入って」
「「お邪魔します」」
大家さんの指示に従い、中へと入った。
大家さんの部屋は本当に同じ型の部屋かと思うほど、広く感じた。
「部屋のサイズは一緒よ。ただ、ちょっとした目の錯覚で大きく見せているだけ」
「へぇー」
僕の疑問を察してくれたのか、広く感じる仕組みを教えてくれた。それに沙織が関心した声で言う。
「そこに座って」
「「失礼します」」
キッチンにある椅子に座るよう促されたので、座らせてもらう。どういう仕組みか沙織の部屋にあるベッドと変わらないふかふかさがあった。
「それで、どうして二人して急に退学するなんてことになったの?」
「それ」
「僕の方からお話しします」
沙織が言おうとしたので、男のケジメとして僕から伝えさせてもらう。
僕はあったことを全て話した。織姫や彦星という確実に妄言に値することも含めて全て。
話すのには10分もかからなかった。それほど薄っぺらいことだとわかった。
話を聞き終えた大家さんは真剣そのものという表情をしていたが、満面の笑みになる。
「よかったね。お互いがお互いのことを思い出して」
「「えっ?」」
大家さんの言葉にさすがの僕たちでも目が点になる。
「自分で言っといてなんですが、あんな妄言みたいなものを信じてくれるのですか?」
「当たり前よ。あたしはあなたたちをずっと見ていたのだから。ちなみにあたしのことは村人Aとでも思っておいて」
「は……はぁ」
「二人とも書類を貸しなさい。書いてあげるから」
その言葉を聞いて、僕たちは素直に自分の欄にはすでに名前を書いている書類を彼女に渡した。それを見ると大家さんは微笑んでから、自分の名前を書きハンコを押した。
「はい。高校を中退しても二人で幸せでいてね」
「当たり前です。なぁ、沙織」
「は、はい! 絶対に幸せにしてみます!」
「いや、それ僕のセリフだから」
「幸せは心配なさそうね」
「「本当にありがとうございました!」」
「あっ! 一つ言い忘れてたけど、どちらも働かないとか言わないでよね」
「それは問題ないです。僕が働きますからね」
「おっ? その言い草だと目星がついているようだね」
「はい。十社ほど」
「十社か。一応はもう十社くらい増やしておいた方がいいよ。中卒は中々働かせてくれないから」
「わかりました。助言ありがとうございます。それではお邪魔しました」
僕がお礼を言うと隣で沙織がお辞儀をしていた。そうして僕たちは大家さんの部屋を出て、沙織の部屋に戻った。少し雑談をした後に明日の話をした。
「明日に校長に提出しに行くから」
「日曜日にいるの?」
「いて欲しい」
「ふふ。そう。わかったよ。一緒に行きましょう。それと今夜も一緒に寝よ?」
「いいよ。ただし、今日はシないから」
「うん。さすがのあたしでも二夜連続は厳しいから」
そんな会話を交わしてから狭いけど一緒にお風呂に入り、お互いに洗いあった。そして、お互いに抱き合って眠った。しかし、今回はちゃんと服を着てだ。
翌朝、どういうわけか早く目が覚めたので大家さんの助言通りにあと十社の目星をつける。すると、そこで一つおかしな仕事を見つけた。日本の会社しか探していなかったのに突然、よくわからない文字で書かれた求人募集があった。単語の意味などを調べてみると中東の傭兵をしてみませんか? という求人募集だった。そして、報酬はなぜかドルで表されていた。
これが他世界で僕がすることになった仕事かな? まぁ、一応は候補に入れておこう。
その後に他にも九つ候補を増やした。
「ん……んん?」
沙織が起きてきたのは十時くらいだった。
「さぁ、行こう」
「えっ? 身支度しなくていいの?」
「いいよ。どうせ、すぐだし」
「なら、別にいいけど」
僕らは制服に着替えて学校へ向かった。案の定、校長は僕らが退学届を提出してきたことに驚いた。校長には正直に話すつもりはないので、軽く嘘をついた。その嘘に納得して、校長は渋々承諾した。クラスメイトへの挨拶をどうするかと聞かれたが、別にする必要ないのでいらないと素直に答えた。もちろん、敬語を使ってだが。
そして、帰り道。妙に隣から視線を感じる。
「どうしたの?」
「いや、家族になるからってあながち嘘じゃないなと思って」
「確かに。年齢的には籍は入れられないけど、条件を満たしたらすぐに籍を入れるつもりだしね」
「あっ。そういえば就活っていつから始まるの?」
「わからない。今日にまず候補の一つ目に電話をかけてみるよ」
「なら今、かけてみれば?」
「それもそうだね。少し待っていて」
僕はポケットからメモを取り出して、そこに書いてある電話番号の一番上にあるところへ電話をする。
すると、すぐに出てくれた。そして、親切に受け答えしてくれた。
「はい。はい。わかりました。失礼します」
「いつって?」
「明日」
「そう。なら、今日はあたしが腕によりをかけて夕飯を作らせてもらうよ」
「おっ! 本当!? 楽しんで待っているよ!」
「なら、今から夕飯の材料を買い、家に帰ってから作り始めるよ!」
「わかったよ。なら、デパートに行こうか」
「うん!」
僕らは自然に指を絡ませる恋人繋ぎというものをして、デパートに向かった。
そして、色々買った。家に帰ると本当にすぐに料理を始めた。僕も手伝うよと言ったが丁重に断られたので、僕は二日ぶりの自分の部屋で待つことにした。
気がつくと寝ていたらしく、夕陽が差し込んでいた。すると、右腕に重みを感じたのでそちらを見ると沙織が可愛い寝顔でこちらに向けていた。あまりの可愛さに襲いたくなったが、なんとか抑えてキスで済ました。
すると、彼女は目を開けた。そして、すぐさま立ち上がりこちらを見る。
「夕飯できたよ」
「うん。わかったよ」
彼女の後ろについて彼女の部屋に入るとなぜかパーティー会場っぽい雰囲気になっていた。中央に料理が色々と置いてある。その中にも一つ独特な雰囲気を醸し出している料理がある。
「なにこれ?」
シュークリームの生地から、トンカツらしいものがはみ出ている。
「あぁ、それ。それはあたしのオリジナル料理のシューカツ。口に合うと嬉しいな」
そう言われたら食べるしかないよね。
「うん。なら、まずはこれからいただくよ」
「どうぞ。召し上がれ」
得体の知れない食べ物に心臓がうるさいくらい音を鳴らしている。でも、食べるしかないな。
トンカツ入りのシュー生地を恐る恐る口に運ぶ。
「うまい!」
「よかった!」
「なにこの味は?」
「あたしオリジナルの調味料。作り方や材料は秘密ね」
その後に僕らは楽しい二人っきりのパーティーをした。
翌朝、昨日と同じようになぜか目が覚めた。でも、よく考えたら面接は朝早いので問題はない。僕は軽く朝食を摂ってから、眠っている彼女の額にキスをしてから部屋を出た。
それから数時間後に面接が終わった。どういうわけか面接官は女性しかいなかった。そして、その面接で一週間後の七月七日の夜から働くことになった。
まさか一つ目から受かるとは。これは辞めさせられないように気をつけないと。
その会社からバスで三十分くらいの距離に家がある。しかし、バスなんてもったいないので徒歩で通うことにする。歩きだと倍以上かかるが、お金と比べたらそれくらいどうってことはない。
「ただいま」
僕は自分の部屋ではなく沙織の部屋に帰ると玄関で彼女が腕を組み仁王立ちしていた。
「ど、どうしたの?」
「どうして起こしてくれなかったの?」
「気持ちよさそうに寝てたから」
「そう。なら、罰としてこれから毎日出勤するときはキスをして」
「わかったよ」
「それと一つ聞かせて」
「受かったよ。一週間後の七月七日から始まるよ。仕事はアプリのサポートセンターの夜勤組」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、どうして聞きたいことがわかったのだろうと思って」
「さぁ? 考えてみて。きっと答えは出るから」
「そう?」
それで会話は終わった。その日はずっと僕が出した質問の答えを探していたのか、会話が少なかった。
そして、一週間はイチャイチャしなかった。ただ、ずっと他愛もない会話をしていただけだ。
「それじゃあ行ってくるね」
「行ってくるって……あぁ! そういえば今日から出勤だったね。それと一週間前に与えた罰を覚えている?」
「うん」
頷いて僕は彼女の唇に僕の唇を軽く押し当てる。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
僕は部屋を出て会社へ向かう。時間的には余裕を持っていけるだろう。
そうして、一時間くらい経ったところで僕が通る道で唯一の信号がある場所に来た。赤だった。ここはさほど交通量が多くないので信号はすぐに変わる。横断歩道を渡っていると物凄い爆音が聞こえてきたので走る。しかし、車は制限速度を大幅に超える速度で進んできていた。さらに何を思ったのか、こちらへ向かってきた。さすがに時速100km越えの速度には勝てずに僕は轢かれた。
吹き飛ばされただけなら軽傷で済んだのだか、あろうことかタイヤに服が絡まり引きずられていく。時速100km越えだ。もう、痛みすら感じない。まさかこんなにも早く死を身を以て体験することなろうとは予想外すぎた。ようやく車が止まった。そして、中から出てきたのは何時ぞやの動物を物としか思っていない、おじさんだった。
おじさんは僕を見ると慌てた様子で逃げていった。
いや、電話かけないんだ。轢き逃げ及び信号無視及び居眠り運転って、もう免許停止にするしかないね。
体勢的に空を見る形になっていたので、キレイな天の川が目に入った。
あぁ、今日は七夕か。確か僕と彼女が一年で一度会える日だったね。そして、僕の誕生日。沙織は絶対僕の誕生日を仕事から帰ってきてから祝おうとしていただろうな。だから、ここ一週間、イチャイチャしなかったのか。これで納得できた。
沙織。まだ見ぬ僕たちの子供。知り合いのみんな。ごめんね。僕はここで終わるみたいだよ。できることならば、僕のことを覚えていて欲しい。でも、忘れて幸せになれるのだったら忘れて。僕はあの憎き川と一緒にみんなを見守っているから。僕は転生できて幸せだったよ。やりたかったことができた。
どうかみんな幸せに。




