6話 『三人の勇者』
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聡太と他の二人の少年はソフィアと名乗った赤髪の美少女の案内で一緒に食事をとり、そこでこれからのことを説明される事になった。
聡太は、今は言われた通りにするのが賢明だと考え、それよりも彼と共に召喚された勇者の事が気になった。
そもそも、自分の中では召喚される勇者は一人で、周りからチヤホヤされるものという認識があったためにいきなり理想が崩された形だ。
それでも自分が勇者の1人である事に変わりはないので、今はあまり考えない事にした。
(まあ俺が1番強ければ俺が本物の勇者って扱いになるだろうし、この二人は使えるようなら俺のパーティーメンバーにしてやるか)
どうやって他の勇者と差を付けるかを考えながらソフィアの後に続くのであった。
それから五分程歩くと、彼らは大きなドアのある部屋の前に着いた。
ソフィアがドアの前に立っていた金属の鎧に身を包んだ騎士のような二人に声をかけると、二人はドアを開いた。
ソフィアが最初に入り、その後を三人が追う。
すると中には、三十人は座れるだろう長テーブルがあった。
三人はそのあまりの迫力に一瞬たじろいでしまうが、気を取り直してソフィアが座った対面に座ると、奥から料理を持ったメイドが現れ配膳して行く。
(うおぉぉぉ、本物のメイドだ! やっぱりいるのか!! すげぇな!)
いきなりのメイド登場に興奮した聡太だが、暫くすると落ち着きを取り戻してソフィアの説明を聞いた。
そして説明を要約すると、この世界には魔法があり魔物などもいる。
そしてここはアトラート王国という国で、100年ぶりに勇者召喚を行った。
勇者を喚んだ理由は、勇者の存在を内外的に広めて他国を牽制したり、アトラート王国よりも北西にある魔族の国が攻めてきた時に迎え撃ったりしてほしいから、というものだ。
また、北にあるペルーシャ帝国は人族至上主義を掲げており他種族の迫害を行っている。この国を含めた他の三国も他種族と決して友好的というわけではなく、アトラート王国にも多くの亜人奴隷がいる。
これは、教会が『亜人は人に非ず』という教えを説いていることが大きく影響している。
ソフィアの説明を聞きながら、聡太は共に召喚された二人について違和感を覚える。
先程ソフィアから元の世界に戻る方法はないと言われた時、大した反応を見せなかったのだ。
普通の人なら二度と家族や友人に会えないとなれば、かなりパニックになってもおかしくはないはずだ。
聡太が聡太の未来のパーティーメンバー(聡太が勝手に決めている)について考察しているとソフィアから声をかけられた。
「次は勇者様方の事を教えてもらっても宜しいですか? いつまでも勇者様では不便ですわ」
三人は顔を見合わせると、右から順に自己紹介する事になった。
「僕の名前は鈴木明宏。あっちでは高校生だったよ。まあこれから大変そうだけどよろしく」
挨拶し終えるとそのまま食事に戻る鈴木は、眼鏡をかけた一見地味な少年だ。
体も小さく、とても戦えそうには見えない。
「次は俺だな。俺は高校三年の長谷川守ってんだ。三人で協力していこうぜ!」
そう言って笑う長谷川は180センチ、短髪で筋肉質な青年である。
聡太はいよいよ自分の番が来たが、普段人と話さないことからかなり緊張してした。
「俺は、香月聡太。俺も高校だった。よろしく」
第一印象が大事だと気丈に振る舞う。
しかし、言葉足らずで変な自己紹介になってしまう。聡太はやってしまったと思いつつも何もなかったかのように他の二人の顔を見る。
(よし、2人ともイケメンじゃなくて良かったぜ。1人でもイケメンがいたらそいつに全部持って行かれちまうからな…)
内心でそう思うと、安堵した。
その後、聡太は自分の能力について考えた。
召喚時に強大な力を授かっているはずだとソフィアに言われたのでその確認である。
そして意識してみると、なんだか体がかなり軽く動かせる事に気づく。
(す、すげぇ!! これならクラスメイト全員相手にしても余裕で勝てるぞ!)
聡太が一人興奮している間に説明は無事終わったようだ。
各自の寝室に案内された後、王城の大きな浴場に入ってそこからは自由時間となった。
♢♢
翌日、聡太たち三人は王城の一室で講義を受けていた。この世界の事についてだ。
この講義で新たに分かったのは、暦と金銭の価値、魔族との長い戦いの歴史だ。
暦は地球とさほど変わらず、硬貨のレートは、
・銅貨100枚=小銀貨1枚
・小銀貨10枚=大銀貨1枚
・大銀貨10枚=金貨1枚
・金貨100枚=白金貨1枚
銅貨1枚≒10円で、金貨1枚はおよそ10万円ほどだ。この世界の平民は金貨1枚で1ヶ月は暮らせる。
また、魔族と人族は何百年も前から敵対しているという。
講義を終えた聡太たちは、次に城の訓練場に来ていた。今の段階でどれだけの実力があるか試すと言われているのだ。
「なあ、召喚されてから体に異変とかあったか?」
聡太は隣にいた鈴木に話しかける。長谷川はガタイが大きくて顔もいかついため、話しかけづらいのだ。
「ん? …ああ、少しだけ体が動きやすくなったくらいかな。大した違いはなかったよ。香月君は何かあったの?」
「……俺もそのぐらいだな。体が前よりも動かしやすい」
鈴木の言葉に考え込む聡太。聡太は召喚前よりも身体能力が格段に上がっているのに、鈴木はさほど変わらないと言う。
――つまり、それが意味するのは……、
(俺だけが強大な力を持っているかもしれないということか、それは…ふふっ、素晴らしすぎるだろ)
そんなことを考えていると、三人は一人一本木剣を渡された。
そして鈴木、長谷川、聡太の順にこの国の騎士と模擬戦する事になった。
「よし、準備はいいか? では始めっ!」
審判役の掛け声とともに鈴木と騎士の二人が動き出す。
「やぁぁ!!」
鈴木がその声と共に騎士に向かって剣を振り下ろした。
しかし、騎士はそれを受け流すと、鈴木は剣を離してしまいそのまま降参した。
その次の長谷川は鈴木よりは善戦したが、惜しくも敗れてしまった。
そして、ついに聡太の番が来た。
「最後は君だね。準備はいいか?」
「ああ」
聡太は審判をしていた騎士にそう伝えると、剣を構えた。
剣など握ったこともないが、それっぽく構えて開始の時を待つ。
「それでは、始め!」
その言葉を聞いた瞬間、聡太の相手の騎士はいきなり吹き飛んで壁に激突した。
訓練場にいた人たちは鈴木や長谷川も含め皆唖然となり、その吹き飛ばした張本人を見る。
これは、聡太が新たに得たとてつもない身体能力を駆使して騎士との距離を一瞬で詰め、そのまま吹き飛ばしたのだ。
聡太は周りから驚嘆や畏怖の視線にさらされているのに気付くと、今まで味わったことがないような筆舌つくしがたい快感を感じた。
(ははは。これだ、これ。これが俺の求めてたもんだ。 …ここでは絶対に強者になってやるよ)
そして不敵に笑うのであった。