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再臨の継承者~二度目の生―異世界での歩み~  作者: 霧矢凛
第一章 芽出
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5話 『勇者召喚(アトラート王国)』



 この世界には1つの大きな大陸がある。

 そこには人族の他にも獣人、エルフ、ドワーフ、魔族などが主に暮らしている。


 四つある人族の国はそのすべてが大陸の南方にあり、西から順にアトラート王国、ミセスト王国、スカージ皇国となっている。そしてその3国の北の国境の先にペルーシャ帝国が東西に広く分布している。



 アトラート王国の王都。

その中心にある王城の中の一室では、国の重鎮たちが集まっていた。


「ふむ、100年かけてやっと魔力が溜まった勇者召喚の魔法陣だが…あれについて皆に意見を聞いておきたい」


 顎の髭をさすりながら話を切り出したのは、五十代半ばであろう男。その年を感じさせないほどの威厳がある。

 この男の正体は、ここアトラート王国の国王、アトラート三十四世だ。


 周りの重鎮達よりも一段高い場所に座っている彼は、周りにいた臣下達に意見を求めた。


 すると国王の近くにいた宰相が立ち上がり、口を開いた。


「私は召喚する事自体は賛成です。恐らくですが、他国も近いうちに召喚する筈です。周りへの牽制にもなりますし」


「やはり問題は召喚後どう飼い慣らすか、ということか」


 宰相の言葉に対し、国王は深刻そうに呟く。


「魔道具で隷属させるのはどうでしょう?」


 重鎮の1人がおそるおそるといった感じで進言する。


「それはならん。まず勇者に効果があるかも疑わしい上、もしも事を行う前に露見したらどうするのだ? 100年前に隣国で召喚された“隻腕の悪魔”の話はお主も知っておろう」


 国王がその名前を出した途端、皆が下を向く。今回、召喚前にこうやって話し合っているのは100年前にその人物が起こした悲劇故であるのだ。


「まあ、今考えても仕方がない事でもあるな。勇者の人柄を見てから決める事にする。場合によっては処分する可能性もありうるが…」


 有無を言わせない感じで国王は締めくくった。



 その後も勇者召喚について話し合っていたが、ここで軍部の重鎮が発言した。


「他国はいつ頃召喚するのでしょうか? まだ時間がかかるようであるならば、戦争を仕掛けて勝利する事も可能なのでは?」


 軍部の人間は戦争に勝つ事が昇進への近道のため、ミセスト王国あたりに戦争を仕掛けたいのだろう。

 国王は少し考えてからそれに答えた。


「他国にも我が国の斥候を潜り込ませておるが……さすがに勇者召喚程の機密までは分かっておらん。だが英雄フロスキールが残した四つの魔法陣はそれぞれ違う性質を持っていることはわかっておる。このアトラート王国にある召喚陣は“この世界寄りの魂に呼びかけ召喚する”そうだ。詳しくは分かっておらんが、恐らくはこの世界に喚ばれたがっておる人間を召喚するのであろう。こちら寄りの魂を呼び出すのは、他の召喚方法よりも必要な魔力が少なくて済むという事や召喚前の世界に戻りたいと思う者が少ないという利点があるな」


 一通り話し終えた後再び考え始め、やがて口を開いた。


「他国の召喚陣にも同じように利点があるとすれば、召喚前とはいえ安易に攻めるのは得策ではない。それに召喚されたばかりの勇者はさほど強力ではないと聞く。暫くは勇者の育成に時間をかけることとする」


 その言葉に軍部の重鎮たちは納得できないのか苦虫を噛み潰したような表情になるが、国王の言葉に逆らえるはずもなく、渋々了承した。



 その後、幾つか確認事項を終えると、その集まりは解散となった。



 最後の一人が退室したのを確認したアトラート三十四世は、部屋の外に控えていた侍女を呼ぶ。



「御呼びでしょうか、国王様?」


「ああ、ソフィアを呼んできてくれ。話があるからと」


 部屋に入るなり跪いた侍女にそう頼むと、畏まりましたと言って退室して行った。



 そして少し待つと、誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえて来た。意外と早かったなと思いつつも入室を許可した。



「お父様、どうなされたのですか?」


 ややあって部屋に入ってきたのは、一五、六歳ほどの少女であった。

 ストレートで綺麗な赤い髪は背中まで伸ばされ、可愛さと綺麗さの両方を兼ね備えている。町を歩けば、十人中十人とも振り返ると言わんばかりの美貌だ。

また、線は細いがしっかりと女性らしい体つきをしていて、それも彼女の魅力に拍車をかける。

 彼女は、国王アトラート三十四世の娘にしてアトラート王国第二王女、ソフィア=アトラートである。


「ああ、少し話があってな、今度召喚する勇者のことだ。…歴史的に見ると男が召喚される事が多い…一応、覚悟だけはしておいてくれ」


 少し申し訳なさそうに伝える。


「大丈夫ですわお父様。(わたくし)も王族として生まれた身。とっくに覚悟はできております」


 それに対し、自分は全く気にしていないという風にソフィアが振る舞う。


 自分の娘の成長に、彼は嬉しさと寂しさの両方を感じた。


「話は以上だ。もう行ってよいぞ」


その言葉に頷くと、ソフィアは部屋を後にした。



部屋に残されたアトラート三十四世は、娘が出て行った方を見ながらポツリと呟く。


「勇者召喚など本当はしたくないのだがな。……だが、うちだけしなかった場合は他国に呑まれてしまう。まったく、かつての英雄は一体何のためにこんな厄介な代物を残したのだろうな…」


 疲れたような表情をした彼のそんな独白を、聞いた者はいなかった。



♢♢


 

 香月(かつき)聡太(そうた)は日本に住む男子高校生である。

 背は平均よりやや高く、その他の顔、運動神経、勉強はどれも普通。つまりスペック的には何処にでもいる高校生なのだ。

 


 そんな彼は朝、通っている学校に着くと、自分の教室である二年一組に入る。

 教室に入った聡太に一時的に視線が集まるが、皆すぐに興味をなくしたかのように視線をそらす。


 いつも通りの反応に特に何も思うことなく自分の席へと向かう。


 そして自席の椅子に座ると、ここで横から声を掛けられた。


「香月君おはよう。結構時間ギリギリだけど大丈夫だった?」


 そう言って話しかけてきたのは、クラスメイトである古川翔太だ。


 彼は容姿端麗、成績優秀、さらにはサッカー部のキャプテンであり、聡太のようにあまり人と話さない人を見るとほっておけないほど優しい心根の持ち主だ。

そんな彼は勿論学校の人気者である。


 聡太は内心かなり苛立っているが、そんなことはおくびにも出さずに笑顔で答える。


「あー、おはよう。昨日はちょっと夜更かししちゃって。…心配してくれてありがとう」


 すると、挨拶を返された翔太は満足そうに自分の席へと戻って行った。

 翔太の浮いているクラスメイトへの気遣いに、周りの女子の翔太への好感度がまた上がったようだ。


(ったく性格いいアピールに俺を使ってんじゃねーよ! あーいう、何もかも待ってる奴を見てるとマジでイラつくんだよ)


 内心でこのように思いながらも口には出せず、そして持参した本を読み始める。主人公が勇者として召喚され活躍した後にハーレムを築く話だ。

 聡太は所謂隠れオタクで、周りに気持ち悪がられないように隠しているのだ。


(俺も勇者として召喚されないかな〜〜。そしたら与えられた力で好き勝手して……フフフ)


 そんな事を考えながら必死に笑いを堪える。

 しかし、周りの人達からしたら聡太がニヤニヤしているのがバレバレで、それ見た人は視線をそらす。


 クラスメイトたちにとっては、たまにいきなり笑い出す聡太は気味が悪く思えて、なるべく関わらないようにしている人もいる。



♢♢



 学校が終わると、聡太は急いで帰宅の準備を始め、登校時と比べるとありえないぐらいのスピードで走っていく。

 それを見ていたクラスメイトたちからは、聡太のさらなる奇妙な行動にさらに一線を引かれるのであった。


 急いで駅へと向かい、いつもより1つ早い時間の電車に乗ることができた聡太は携帯でゲームを始めた。


 そして暫く電車に揺れていると、自分の家の最寄駅に着いた。


 聡太は駅から出るとすぐ隣にある本屋へ駆け込み、新刊のコーナーを物色し始める。



「え〜っと、あった、あった。これだ。 久しぶりに新しいのが出たんだよな〜」


 そしてお目当ての本を見つけると、それを購入した後、帰り道でいつものようにコンビニ弁当を買って帰る。


 聡太は母親との二人暮らしで、両親は聡太が生まれてすぐに離婚している。母親は家にはあまり帰ってこず、仕事をしているのか遊んでいるのかすらわからない。

 しかし、そんなことはどうでもいい。聡太は昔から小遣いだけもらってあとは放置されている。昔は寂しい時もあったが、今はどうってことない。むしろ干渉してこなくて良かったとさえ思っている。



「よ〜し、早く家に帰って読むか」


 コンビニで買い物を済ませた後、歩いて家まで向かう。


 家に帰れば今日買った新しい本を読めるとあっていつもよりも軽い足取りで進んでいく。



 そして自宅のアパートが見え始めたそんな時、



「……え?」


 突然視界が歪み、その後足元がおぼつかなくなった。

その反動で思わずして歩道から車道へと出てしまった。


 いきなり車道に飛び出してきた聡太に驚いた車の運転手は急いでブレーキをかけクラクションを鳴らす。

 だが車は止まりきれず、聡太は死を覚悟した。


(はぁ俺こんなところで死ぬのかよ。死ぬなら次は異世界に転生して―― )


 目を瞑り、こんな時までいつものように妄想しながら車の衝撃を待っていた聡太。



 しかし、いつまで経ってもそんな気配はなく、おそるおそるといった感じで目を開けてみると……、




「…どうなってるの、これ」


 隣からそんな声が聞こえてきたが、聡太もまったくもって同じ気持ちであった。

 死を覚悟して目を瞑っていたのに、いざ目を開けるとそこにはよく読んでいた本に出てくるような王宮があったからだ。

 聡太はこの時、ハッとなって何となく状況を理解したが、何かしらの説明があるだろうと黙って待つ事にした。


 すると、前方からよく透き通る声が聞こえた。


「ようこそおいで下さいました、勇者様()


 前方にいた赤髪のかなりの美少女に声をかけられる。

 聡太はその美貌に思わず数秒の間見惚れてしまったが、我に返ると先ほどの美少女の言葉に違和感を覚える。


「勇者様、()?」


少女の言葉を復唱し、周りを確認する。


「え…」


するとそこには、聡太と同じように学校の制服であろうものを着た二人の少年がいた。




 



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