第三章
翌日、いつもの基礎練習を終えた俺たちは、幼稚園の倉庫に足を踏み入れた。
「いやぁ、あれ、どこいったかわからなくて」
田渕先生いわく、使っていない台本は、まとめて倉庫に置いていたらしいのだが、最近の劇で物が増え、どこに置いたのかわからなくなってしまったらしい。
「一回、倉庫の中身、整理したほうがいいな」
棟梁が頭を抱えつつそう言ったことをきっかけに、今日の演劇部の活動は、倉庫の整理と決まったのだ。
倉庫の中は、確かに雑然としていた。大道具や衣装はもちろん、それらを作るための工具や裁縫道具などもあった。俺は、足元に、プラグのついた黒い箱を見つける。
「なんですか、これ?」
俺が聞くと、高木先生は、
「ああ、それ? スモークマシン」
と、答えた。
「スモークマシンってあれですか? 演出なんかで使う煙たく」
「そうそう」
「なんでこんなものが」
「買った」
高木先生の言葉に、俺は目を見開いた。
「去年の夏講でどうしても使いたくて。今後も使えるかもなって思って買っちゃいました」
てへっ、と付け足す高木先生に、棟梁がピコピコハンマーを振り下ろした。
「買っちゃいました、じゃないですよ! これ、いくらすると思ってるんですか! 去年、会計のあいあい泣かせたの、忘れたとは言わせませんからね!」
棟梁の迫力に押され、高木先生は、すまん、と謝っている。
何故か工具箱には、有名な数学者の名前がついていたり、ツッコミどころも多かったが、少しずつ倉庫が綺麗になってきた。五箱目の衣装ケースを移動したとき、その影に、段ボール箱を見つけた。
「もしかして、台本ってこれですか?」
俺がそれを持ち出すと、コマッさんと、台本の管理をしているはるにゃ先輩が確認してくれる。
「ああ、これだこれだ」
箱を開けると、茶色っぽい藁半紙に印刷された台本がたくさん出てきた。
「ええっと、あ、これでしょ! ぶっさんがやりたかったの!」
コマッさんはそう言いながら、一冊の台本を取り出した。
その台本は、ルーズリーフに書いたものをコピーしただけのようで、ノートの罫線が残っている手書きの台本だった。
ある程度部数のあるそれを回してもらい、軽く流して読むと、とある財産家が亡くなり、そのお屋敷に、娘が住み込みの執事とたった二人で残され、その娘のために、メイド型ロボがやってくる、というストーリーだ。
台本の端には、恐らく書いた生徒の名前であろう、『小松崎晶』という名前が記されていた。
「小松崎……?」
俺が思わずそう口に出すと、コマッさんはあっけらかんと言った。
「ああ。伝説の男子部員って私の兄貴だから」
俺は、言われた言葉の意味を理解できず、しばし固まってしまった。
(兄貴? コマッさんの、兄……?)
ぐるぐるとそんな言葉が頭を巡った後、
「ええっ!?」
という、大きな声が口をついた。
「うおっ! どうした、ヒーロー」
コマッさんは、自分の爆弾発言を棚に上げ、俺の声に驚いたというように、きょとんとした顔をしている。
「お、お兄さん、なんですか? この、伝説の男子部員が、コマッさんの?」
「うん、そう」
あっさり頷かれ、俺は思わず頭を抱えた。
俺の混乱をよそに、コマッさんは不思議そうな顔をしている。
「うん、ヒーロー、混乱してるところ悪いけど、とりあえず、掃除終わらせちゃおうか」
そう俺に声をかけてきたのは棟梁だった。
「そ、そうですね」
俺は気を取り直すと、台本の入ったダンボールをとりやすい位置に移動し、倉庫の奥の整理に取り掛かった。
一通り倉庫の整理が終わると、俺たちは台本を持って活動場所であるホールへ向かった。
先生たちがやりたいといっていた台本を回すと、軽く流し読みする。
先ほどは、簡単に冒頭を読んだだけだったのだが、全体を読むと、先生たちがなぜこれをやりたがったのか、少しわかった。
話の舞台は少し未来。ロボット産業で一財を成した財産家が亡くなり、莫大な遺産を継いだ娘。母を早くに亡くした娘は、若くして父の会社を継ぎ、一人、大きな屋敷に取り残された。彼女の唯一の同居人は有能だが無口な執事だけ。そこへ、メイド形の人型ロボット、つまりヒューマノイドがやってくる。このメイドロボは、生前娘の父親が、娘のためにと贈ったのだという。娘は、話し相手ができたことをとても喜んでいた。
そこへ、娘が受け継いだ財産目当ての強盗団が押し入ってくる。執事が応戦し善戦するが、拘束されてしまい、絶体絶命のピンチになってしまう。その時、何者かが強盗を吹っ飛ばした。その何者かは、もちろんあのメイドロボである。
実はこのメイドロボ、警備ロボットとしての一面をもっており、強盗相手に大立ち回りを演じ執事を解放する。二人で強盗を追い詰めるメイドと執事。しかし、娘が強盗に銃で狙われてしまう。そこで執事は、身を挺し娘を救出するが深手を負ってしまう。
彼は、意識を失う直前に、メイドロボを作ったのは自分であること、そして、メイドロボのモデルとなったのが、彼女の母親であることを告げる。亡くなったと思っていた彼女の母親は、ロボットの悪用を防ぐため、今も世界のどこかを旅しているはずだということも。そして、彼は、メイドロボに、全ての攻撃行動の許可を出し意識を失う。
メイドロボは、全ての力を持って強盗たちを制圧しようとするが、人間を攻撃したロボットは処分されることを知った娘は彼女を止める。そして、母譲りの戦闘能力で強盗たちを制圧。無口な執事も一命を取りとめ、娘は、母親の帰る家を守るため、戦闘能力を高める決意をする、というくだりで、台本は終わった。
確かに、台本として大会向きではない上に、後半は、アクションシーンが多く、演じる人間を選びそうだ。今まで上演できなかったのも納得できる。
「……面白いですけど、これ、やれます?」
思わず俺がそう言うと、田渕先生はニヤリと笑った。
「だから条件付なんだよ。ヒーロー、それから、カトちゃんが役者やってくれるならって」
「え? あたし!?」
突然名指しされ、カトちゃんが驚いたように顔を上げた。
「おう。メイドロボをカトちゃん、それから執事をヒーローで考えてるからな」
「はい!?」
俺も思わずそう声を上げた。
「ええっ!?」
カトちゃんも大げさなまでに驚いた。
「普段の筋トレ見てても、一年生の中では、二人の身体能力は頭ひとつ抜けてる。ダンスの覚えもいいしな。この台本、読んでもらってもわかるようにアクションシーンが多い。これを実行するためには、二人の力が不可欠なんだ」
高木先生の言葉に、俺とカトちゃんは思わず顔を見合わせる。
「俺、中学時代、裏方専門だったんですけど……」
俺は思わずそんなことを言ってしまう。
「芝居のほうは心配しなくてもいい。普段の読み合わせの様子見てたら、なんとでもなりそうだ」
田渕先生はニコリと笑う。
「大丈夫だよ! 私たちも、去年は演技なんてしたこと無かったんだから!」
そう声をかけてきたのはるりるり先輩だ。
「つまり、この台本の問題は、これからの短期間に筋力をつけて、殺陣をつけられるかってことなんだよ。そういう意味で言えば、もとの筋力があるに越したことは無い」
棟梁の言葉に俺は頷いた。
「確かにそうだとは思います。ただ、俺も舞台での殺陣は経験が無いので、ゼロからやらなくちゃなりませんし、演技経験のないカトちゃんにとってはかなり難しいんじゃ」
俺がそこまで言うと、カトちゃんは必死に首を横に振った。
「無理! 無理ッスよ! あたし、部活やめて五キロも太ったし、筋肉も落ちてるし!」
「じゃあ、これじゃないやつをやるか?」
田渕先生の問いに、カトちゃんは言葉に詰まった。
「皆、正直に答えてほしい。この台本、どう思った?」
高木先生の問いに俺は口を開いた。
「正直、すごく面白かったです。再現が難しいかも、と思うシーンもありますが、これを舞台でやれたら、きっと見てくれる人も楽しんでくれると思います」
俺の言葉に二年生たちが頷く。
「かなりぶっ飛んだ設定だけど、面白いと思います」
そう答えたのはメシアだ。
「これ、やってみたいです。いろいろ、難しいところもあるかもしれませんけど」
キアヌもそう言った。
「え、えっと……、私も、これ、すごくいいと思います」
あかりんの言葉に励まされるように、カトちゃんが口を開いた。
「……やってみたいって気持ちはあるんです。でも、荷が重い、というか」
カトちゃんの気持ちは、とてもよくわかる。俺だって正直自信は無い。だが、それ以上に、この台本を自分たちで演じたらどうなるのか、興味があった。
「よし、正直に言おう。多分、カトちゃんのほうは、そこまで大変じゃない」
そう宣言したのは、コマッさんだ。
「え? な、なんで」
「実を言うと、殺陣って、やられる役の方が大変なんだ。上手にやられてくれないと、やられてるように見えないからね」
コマッさんの言葉に、カトちゃんは困ったように俺を見る。そこへ棟梁が近づいてきた。
「コマッさんの言ってることは事実だよ」
そう言いながら、棟梁はコマッさんに片手をグーにして見せた。コマッさんも、心得たとばかりに、片手をグーにする。
「最初はグー! じゃんけんぽい!」
二人の気合の入ったじゃんけんの掛け声が響いた。出した手は、コマッさんがチョキで、棟梁がグーだ。
「あー、負けた!」
コマッさんが悔しそうにそう言いながら、棟梁の目の前に立つ。
「見てて?」
棟梁は、そう言って平手を振りかぶる。
「えっ!?」
カトちゃんは慌てたように声を上げたが、棟梁のその手は、コマッさんの顔の前をすばやく通り過ぎただけだ。
「これだと、ぜんぜん殴られたように見えないでしょ?」
コマッさんがそう言った。
「は、はい」
そう問われたカトちゃんは、かくかく頷きながらそう言った。
「じゃあ、もう一回いくよ」
棟梁はそう言って、再び平手を振りかぶった。
ひゅっと描かれた軌道は、同じようにコマッさんに当たってはいない。しかし、コマッさんは、その手が当たったかのように倒れこんだ。
「えっ!?」
「うわっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
カトちゃんやメシア、あかりんは、思わずそう声を上げた。
「だーいじょうぶ、全然当たってないから」
起き上がりながらコマッさんはけろっとして笑う。
「ね! 同じようにまったく当ててないのに、やられる側が動くことで、殴られたように見えたでしょ?」
コマッさんの言葉に、カトちゃんは大きく頷いた。
「この台本でいくと、カトちゃんがやるメイドのほうは、やられる動きはないし、攻撃するほうの動きだって、不安ならやり方も工夫できる。問題は、ヒーローのほうだね」
棟梁はそう言いながら俺を見る。
「あー、中学のときに少し習ったので、練習すればなんとかなると思います」
俺の答えに、コマッさんが首をかしげる。
「習った?」
「地元の劇団の方が、『走れメロス』をもとに、ワークショップをやってくれたんです。うちの演劇部は、部員、全員強制参加だったんで、せっかくだからめったに習えないものを習っておこうかと思って」
俺の答えに、コマッさんはなるほど、と小さくつぶやいた。
「ただ、この執事、俺がやるにはちょっと」
「うん、かっこよすぎるよね」
コマッさんが容赦なく言う。
「えー、いいと思うんだけどな。かっこいいヒーロー」
そう田渕先生が言うが、俺は首を横に振る。
「メイド役をカトちゃんがやってくれるにしても、俺のほうが身長低いんですよ」
俺の言葉に田渕先生は腕を組んだ。
「じゃあ、こう変えるか」
そう言い出したのは高木先生だ。
「ここ。最初の戦闘シーンな」
高木先生が、台本を指差し説明する。
「この『お嬢様、下がっていてください』のあと、上着を投げ捨てる、までは一緒、で、台本だとこのまま乱闘に突入するんだけど、こっちでは、乱闘に突入する直前に、床に落ちてる何かに気が付いて拾い上げる」
その高木先生の言葉にコマッさんが噴き出した。
「で、それに気をとられてたら強盗団にタコ殴りにされる、と」
「だったら、私、強盗団のリーダーやりたい」
コマッさんがぴっと手を挙げそう言い出す。
「うわ、ヒーロー、かわいそう」
そう言ったのは棟梁だ。
「実力はあるんだけど、ちょっと間抜けというか、マイペースというか。普段は穏やかな好青年で、その実は、みたいな設定にすれば、ヒーローでも無理なく演じられるんじゃないか?」
俺は、その問いに、少し考えた後頷いた。
「そういう設定にできるんであればなんとか……。あとは、カトちゃんがなんていうか」
俺がそうカトちゃんに振ると、カトちゃんはこくりと頷いた。
「あ、あたしも、やってみます!」
カトちゃんの言葉に、先輩たちも先生たちも、嬉しそうに拍手をした。
「よし! じゃあ、台本はこれで。多少改変したほうが良さそうだから、コマッさんは兄貴に連絡頼むな」
高木先生の言葉に、了解です、と、コマッさんが返す。
「ついでに殺陣の指導も頼んでおいてくれ。簡単なのは俺でもできるけど、複雑なのは頼みたいからな」
「はーい」
コマッさんの返事に、俺は思わず二人を見た。
「え? コマッさんのお兄さんって、殺陣の指導つけられるんですか?」
俺の問いに、コマッさんは頷く。
「うちの兄貴、一応プロだから」
その答えに、俺はまた言葉を失った。
五月も後半に入ると暑い日が増えてきて、制服も夏服への移行期間に入る。俺も、気温が高い予報の日は、夏服のほうを着るようになってきた。
紺のチェックのパンツに、薄い水色のシャツ。学年ごとに色の違うネクタイは、一年生は赤で、二年生は緑、三年生は青だ。
殺陣をつけてくれるという、伝説の男子部員こと、小松崎晶さんによると、大道具が決まっているほうが殺陣をつけやすいということで、舞台上になにを置くかが先に決められた。
舞台は資産家の屋敷の大広間。大きなテーブルはあったほうがいいだろう、ということで、予備の机を集め、そこにテーブルクロスを掛けることにした。
「あとは暖炉?」
「あ、暖炉の中に、クッションとか仕込んどけば、いろいろ使えそうじゃない?」
そんな意見が出たこともあり、壁用のパネルに付け足す形で暖炉を作ることになった。
その他にも、軽い花瓶なども用意されることになり、俺とカトちゃん以外の配役も決まった。
資産家の娘はメシア、資産家はキアヌ、強盗団のリーダーはコマッさん、その部下に、裏方志望から兼任の役者に転身したあかりん、そしてるりるり先輩とあいあい先輩、母親に棟梁と言った具合だ。
はるにゃ先輩が役に入らなかったので、なぜか聞いてみると、
「ほら、この舞台、いっぱいアクションがあるでしょ? 私、めちゃくちゃ運動神経悪いんだよねぇ」
と、笑顔で答えられてしまった。
「いや、こいつの運動神経の悪さ、洒落にならないからね!」
棟梁が熱弁する。
「はるにゃのスキップ見てみるか? 笑えるぞー」
そう言ったのは田渕先生だ。
そういえば、新入生歓迎公演でやっていたオクラホマミキサーもだいぶぎこちなかったな、と、俺は思い出した。どうやらあれは、演技ではなかったらしい。
役が決まったところで、役者陣に履歴書のような用紙が配られた。演劇部の経験者である俺やキアヌはすぐにピンときたが、他の一年生は首をかしげた。
「これは、自分の役の生い立ちを考えるための用紙だよ」
棟梁が説明してくれる。
「私達が舞台で演じるのはほんの短い時間だけど、その舞台上の出来事にたどり着くまでに、その役にもいろいろあったはずでしょ? 例えば……」
棟梁はコマッさんに視線を向けた。
「コマッさんは、なんで強盗団のリーダーがあんな感じになったんだと思う?」
棟梁に振られ、コマッさんは少し考えてから答えた。
「そうだな……。多分、貧しいところの生まれで、生活は苦しかった。幼い頃から生き抜くための術として盗みを覚え、十代の半ばくらいに、力にものを言わせるほうが楽だって気が付いた。その頃から、ただのコソ泥から強盗に変わった。性格はやや短絡的。勉強は苦手で、文字の読み書きも苦手。と、こんな感じ?」
コマッさんの答えに、一年生達は目を丸くする。台本から得られる情報から、その役の人生を想像するのは、初めて経験する人にはなかなか大変だろう。
「例えば、おおらかな性格だとすれば、育った家は豊かだったんだろう、とか、田舎ののんびりした環境で育ったのかな、とか、ちょっとずるいヤツは、もしかしたら、昔はまじめにやってたのに、それで馬鹿を見たのかもしれない、とか、一応、典型的な考え方はあるけど、それ以外にも、色々考えられるよ?」
俺が言うと、カトちゃんやあかりんはそれをメモする。
「ちなみにカトちゃんは、作られてからこれまで、だからね!」
コマッさんに言われ、カトちゃんはますます頭を抱えた。
小松崎晶さんから、受身だけは取れるようにしておいてほしい、との連絡があり、一年生は高木先生に受身の徹底指導を受けた。
「カトちゃん、そこの台詞力入りすぎ。もう少し自然に」
田渕先生から、立ち稽古に入ったカトちゃんに指導が入る。
「え? えーと、『お嬢様は、このステラがお守りします!』」
「うーん、まだ強いかな……」
田渕先生のそばで見ていたるりるり先輩がつぶやいた。
メイドロボの名前を、ステラにしようと提案したのはるりるり先輩だ。台本上は、もっと堅い名前がついていたのだが、俺の役の設定の変更で、もう少し可愛らしい名前のほうがいいのでは、という話になったのだ。
「だったら、星をイタリア語でステラ、とかどうかな?」
そうるりるり先輩が言い出し、皆が賛成したのだが、その由来を聞けば、
「だって、このメイドロボのモデルになったお母様って、どう贔屓目に見ても覇王なんでしょ?だから、悪人にとっての死兆星ってことで」
と、言って、全部員をドン引きさせた。
「カトちゃん、おなかから声出てるし、よく響いてるから、そこまで大声出そうと思わなくて大丈夫だよ」
そうアドバイスしたのは、園庭で大道具を作っていた棟梁だ。窓が開いているため、話が聞こえていたらしい。
夏講の公演を行う市民ホールの舞台は、当然幼稚園の舞台より大きいので、感覚を掴むためにホールの床にビニールテープを貼って、仮の舞台にしてある。今は、カトちゃんとメシアの二人のシーンの稽古中だ。
「あ、ぶっさん! 兄貴、明日オフだから来るって!」
外で大道具作りの手伝いをしていたコマッさんが、窓からそう田渕先生に話しかけてきた。明日は土曜日で、幸い、部活動の時間は十分に取れる。
「じゃあ、明日は一日コースだな」
そう言ったのは、俺に軽い殺陣の指導をしていた高木先生だ。俺はと言えば、先ほどからの話を、床に仰向けに倒れたまま聞いていた。
床に引き倒される動き一つとっても、上手に受身をとらないと怪我をしてしまうし、かといって慎重になりすぎればダメージを受けたようにみえないため、高木先生を相手に練習していたのだ。ちなみに、高木先生のジャージは、黒地に金色で文字の書かれた、微妙に派手なものだった。
俺は、腹筋を使って起き上がる。
(いよいよ明日、伝説の男子部員と直接顔を合わせることになるのか)
俺は思わずつばを飲み込む。
「……ヒーロー、そんな怖い顔しなくても。ただOBが遊びにくるんだと思ってよ」
外から俺の様子を見ていたコマッさんが、そう声を掛けてくる。
「えっ!? 俺、今、そんな怖い顔してました?」
俺が慌ててそう言うと、プッ、と、棟梁が噴出す。
「大丈夫、大丈夫。なんか深刻そうな顔してただけだから」
その笑いは徐々に他の人にも伝染したらしく、俺の表情を見ていた人たちが、クスクスと笑いをこらえる結果になり、俺は顔が熱くなるのを感じるのだった。
翌日、いつもより早く目が覚めてしまった俺は、いつも使っている電車より一本早い電車に乗った。いつもより早いせいか、それとも土曜日であるせいか、電車は空いていて、俺は部活用の鞄を抱えたままゆうゆうと座ることができた。
いつもなら、電車の中の三十分は読書にあてるのだが、今日はそんな気にもならず、ふと、いつもは気にしない電車の中吊り広告に目が行く。たまたま目に入ったのは女性誌の広告だ。
『人気ミュージカル俳優M、女子高生と密会の現場撮った!』
なんとも下世話な見出しだが、そのミュージカル俳優Mが気にかかり、スマホで検索すると、出てきた名前は、規模、知名度とも、日本で一、二を争うミュージカル劇団、『劇団奏』のトップ俳優の名前。
「やっぱり松崎吉良か……」
俺は思わず独り言をもらす。
松崎吉良は、最近、テレビのバラエティー番組などにも出ており、ミュージカルファンの中ではずいぶん人気がある。
俺は、三年ほど前に彼が主役をしていた舞台を観に行っていて、彼の迫力ある歌と芝居のファンになってしまった。以来、ミュージカルのチケットを取るときも、彼が主役級にキャスティングされているのを確認してしまうほどだ。
電車の中でスマホを見るのが得意ではないので、ざっと内容を確認しただけだが、いわゆるスキャンダル記事のようだ。
それだけ確認したところで、電車は北原高校の最寄り駅に着いた。俺が乗る路線では終着駅になることが多い。
そこからバスに乗り、「北原高校前」のバス停で降りれば校門の目の前だ。
部室に向かうと、案の定まだ誰も来ておらず、俺はスマホで松崎吉良のスキャンダル記事をネットニュースで読むことにした。
記事の中では、松崎吉良の名前は伏せられており、Mという表記で統一されていた。
記事を読み進めると、ゴールデンウィーク中のある日に、彼と女子高生が非常に親密な様子で歩いていた、という目撃談が乗せられていた。
いわゆるゴシップ誌の記事だけに、どこまで信用したものかはわからないが、松崎吉良にとっては初めてのスキャンダルだ。
(確か、松崎吉良は二十八歳だったかな。高校生なら十歳以上年下か)
まあ、高校生に手を出したらアウトだけど、などと思いながらスマホを眺めていた。
「あれ? ヒーロー?」
そう声を掛けられ顔を上げれば、そこにいたのはカトちゃんだった。
「あ、おはよう」
俺がそう言うと、カトちゃんも、おはようと返してくれた。
「やっぱり、ヒーローも早く目が覚めちゃった?」
「ああ。なんか落ち着かなくて、いつもより一本早い電車に乗れちゃったよ」
俺がそう言うと、カトちゃんはクスクスと笑った。
「つーか、なに見てんの?」
カトちゃんの問いに、俺はネットニュースの記事を見せる。
「え? ヒーロー、いつもこんなニュース読んでんの?」
「違うよ。今日見た電車の中吊り広告に、ちょっと気になる見出しがあったから読んでおきたくて」
俺は開いていた記事をカトちゃんに見せる。
「ふーん。ミュージカル俳優Mって誰?」
カトちゃんは、大して興味もなさそうに言った。
「松崎吉良って知ってる? 最近バラエティーとかにもたまに出てるけど」
「んー、ごめん、わかんない」
カトちゃんの返答は想定内だったので、俺は彼の所属する劇団の名前を口にした。
「『劇団奏』は知ってる?」
「あ、そっちは知ってる」
さすがのカトちゃんも、日本で一番くらいに有名なミュージカル劇団の名前は知っていたらしく、そこの所属俳優なんだ、と説明すれば、納得いったかのように頷いた。
「もしかしてヒーロー、その人のファンなの?」
「まあね。もっと熱心なファンの人もいるだろうけど、今、一番好きな役者って言ったら、彼の名前を挙げるだろうから」
俺の答えに、カトちゃんは、へぇ、と答えながら、今度見てみようかな、と、つぶやくように言った。
「そういえばヒーロー、舞台見るの趣味だって言ってたもんね」
「まあ、最近は年に三回観に行ければいいほうだけどね」
俺の答えに、カトちゃんは驚いたような顔をする。
「年に三回って結構行ってるほうじゃないの?」
「普通に月一くらいで見てる人もいるからね」
はぁ、と、カトちゃんは感嘆の声を上げる。
「今まで見た中で、一番感動した舞台ってなに?」
「そうだな……。やっぱり、初めて見た舞台はすごく感動したけど」
「へぇ。ちなみに、初めて舞台観たのって何歳の時なの?」
「年中組の時だから、四、五歳かな?」
俺の言葉に、カトちゃんは驚いたような表情をする。
「五歳!? よく覚えてるね!」
俺はカトちゃんの声の大きさに驚きながら、小さく答えた。
「まあ、衝撃的だったからね」
「じゃあ、最近良かった舞台は?」
カトちゃんの問いに、俺は少し考えてから答えた。
「『キャットプリンス』って知ってる?」
「あ、『劇団奏』のCMのやつ? ミュージカル自体は見たことないけど、元になったアニメなら見たよ。お笑いでものまねしてる人もいたし」
俺はカトちゃんのその言葉に頷いた。
『キャットプリンス』は、もとは外国のアニメ映画で、アメリカでミュージカル化され、それを日本語に訳したものを、日本国内では『劇団奏』がロングランで上演している。
「その舞台の主演が、松崎吉良だったんだ」
俺の言葉に、カトちゃんはうんうんと頷いてくれた。
「最近ではそれが一番良かったなぁ」
俺がそう感慨深く言うと、カトちゃんが意外そうに俺を見ている。
「ヒーローって、そういう子供っぽいのも結構好きなんだね」
「え?」
俺がぽかんとしていると、足音が近づいてきた。
「お、おはよー、ふたりとも早いね」
足音の主はコマッさんだった。
「今、部室鍵開けるから」
そう言いながら、門の南京錠を外す。
「コマッさん、今日、お兄さんと一緒じゃないんですか?」
「ああ、基礎練終わる頃に来るってさ」
コマッさんは答えながら、ガラガラと門を開ける。
「ん? ヒーロー、なんか見てたの?」
俺が手にスマホを持っていることに気がついたコマッさんが、そう声を掛けてくる。
「え? ええ、まあ」
「なんだぁ? 歯切れ悪いなぁ。もしかしてエロいやつ?」
「違います!」
俺は思わず悲鳴に近い声で、コマッさんに抗議してしまった。
ゴールデンウィーク中に、ひとつの教室を整理して男子更衣室として使わせてもらえるようになった。先に着替え終えた俺は、ホールでストレッチなど、軽い準備運動をしておく。先輩や他の一年生たちが来るのを窓から見ていると、先輩たちが軽く挨拶をしながら幼稚園の中に入っていく。
と、一台のマウンテンバイクが門からすごいスピードで走りこんできた。思わず目を見開くと、サングラス姿の高木先生が颯爽とマウンテンバイクを降りた。
「お、おはようございます」
俺が言葉に詰まりつつなんとか挨拶すると、高木先生はサングラスを外し片手を挙げて、
「おう、おはよう」
と、こともなげに返した。
「開いてるってことは、コマッさんはもう来てるんだな」
「はい。でも、お兄さんのほうはまだだって言ってました」
俺の言葉に、高木先生は、はぁ、とため息をついた。
「あいつ、相変わらず朝弱いのか」
高木先生のつぶやきに、俺は首をかしげた。
「高木さん、コマッさんのお兄さんのこと、知ってるんですか?」
「ああ。俺が前にここに勤務してたとき、最後の年に入学してきたのが小松崎晶なんだ」
えらい遅刻魔でな、と付け足された言葉に俺は苦笑した。
「あ、高木さん、おはようございます!」
コマッさんがそう高木先生に声を掛けた。
ちなみに、先輩方になぜ先生方まで気軽な呼び方なのかたずねると、舞台を作るうえで、いろいろなことを遠慮なく言えるように、と、先生方のほうから部活中は先生と付かない呼び方を提案されたのだという。
「お、ぶっさん、おはよう」
「高木さん、おはようございます」
そこへやってきたのは田渕先生だ。
「おはようございます」
俺がそう挨拶をすると、田渕先生も挨拶を返してくれた。
「コマッさん、もう兄貴来てる?」
「あ、基礎練終わる頃来るそうです」
コマッさんの言葉に田渕先生は頷いた。
「ぶっさんも、コマッさんのお兄さんのこと、ご存知なんですね」
俺がそう言うと田渕先生がもちろん、と笑った。
「俺、教師になってから、ずっと演劇部の顧問してるから。県の大会とか行くと、めちゃくちゃ目立ってたし、去年も、OBとして指導に来てもらったしな」
田渕先生の言葉に、俺はなるほど、と、頷いた。
「そろそろ全員揃いそうか? なら、基礎練始めててくれや」
そう田渕先生は言い残し、幼稚園の入り口のほうへ歩いていった。田渕先生は、大道具の監督をしているので、今日の作業の準備に向かったのだろう。
ホールには、着替えを終えた先輩方や一年生も大方揃っていた。
「じゃあ、部員揃ったら基礎練始めるよ!」
そうコマッさんが声をかけ、俺も一年生たちが集まっているところへ向かった。
ストレッチと筋トレ、ダンスが終わり、腹式呼吸による呼吸法の練習が終わった頃、幼稚園の入り口から車が入ってくるのが見えた。
どうやらあれが、コマッさんのお兄さんのようだ。
「お! 兄貴来たっぽい。ちょっと行ってくるから、発声練習しておいて!」
そう言ってコマッさんはホールを出る。
「じゃあ、うちらは発声続けるよ!」
棟梁がそう指示を出し、基礎練が再開される。
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
独特の順番で五十音を発声するこの発声練習は、ほぼどの演劇部でも採用している。俺も、小、中の演劇部でも経験があった。初めて演劇部に所属する一年生は、最初はこれに慣れなくて付いてくるのもやっとだったが、今では、これぐらいは全員そらで言えるようになっている。
最後のぱ行まで終わると、滑舌の練習として、北原白秋の「五十音」という詩を朗読する。これも、多くの演劇部で採用している練習法だ。出だしの「あめんぼあかいな」から、うちではこの練習を「あめんぼ」と呼んでいる。これも、中学校から演劇の経験がある人たちは覚えていたが、初めて演劇部に入った人たちはまだ覚えられずに、手元に紙を置いて確認している。
それが終わると、さらに滑舌の練習として、「外郎売」という歌舞伎の長台詞を練習する。これは、一年生の全員が初体験で、俺も未だに覚え切れず、手元にプリントしてもらった台詞を置いて確認している。
なんとか全員が外郎売を終える頃、コマッさんと高木先生がホールに入ってきた。
「終わった?」
コマッさんの確認に全員が頷いた。
「じゃあ、今日はOBに指導してもらうので、一応全員で挨拶しよう。といっても、うちの兄貴だからそんな固くならないでね!」
コマッさんがそう軽く言うので、特に今日重点的に指導されるであろう、俺とカトちゃんは、少し肩から力が抜けた。
「んじゃ、入っていいよ!」
コマッさんの呼びかけに、ホールの扉が開く。
「はーい、おはようございまーす! OBの小松崎晶でーす!」
その明るい声に聞き覚えがあり、俺は固まってしまった。
おはようございます、と先輩方や、他の一年生が挨拶をする中、俺は、手元にあった外郎売のプリントを取り落とす。
「ま、松崎、吉良……!?」
ホールに入ってきた長身の男性は、見間違いようもなく、あの人気ミュージカル俳優、松崎吉良だったのだ。
俺のほぼ無意識に近いつぶやきを、そのOBはきちんと聞き取ったらしい。
「あれ? 僕のこと知ってるの?」
当の本人は暢気にそんなことを言いながら、俺の方を見る。
「あ、そういえば、ヒーローは演劇鑑賞趣味って言ってたもんな」
隣のコマッさんは、そんなことを言いながら俺のほうに歩み寄ってきた。
「あ、兄貴、紹介しておくね。彼が兄貴以来の北原の男子演劇部員、滝内浩人君。通称はヒーローね」
そうコマッさんに紹介され、俺はぎょっとしてコマッさんを見る。
「あら! 君が噂の? 僕は小松崎晶。もしかしたら、松崎吉良のほうが、馴染みはあるかしら? よろしくね」
彼は俺の前までやってくると、右手を差し出してきた。
「へ? あ、あの……」
俺はまだ思考回路が追いつかず、何を求められているのか理解できずにいると、コマッさんが俺の右手をとった。
「ほら! 握手!」
されるがまま握手を交わしたものの、俺はまだ呆然としている。
「……舞ちゃん、この子、ちょー可愛い」
松崎吉良は、俺の隣に立つコマッさんに、真顔でそんなことを言う。
「でしょ? 超可愛いでしょ!?」
コマッさんがそんなことを言いながら、俺の背をバンバン叩く。その痛みで、俺はようやく正気に戻った。
「えぇっ!? こ、コマッさんのお兄さんが、松崎吉良ぁ!?」
「おぉ、ヒーロー復活」
そう冷静に突っ込んでくれたのははるにゃ先輩だ。
「え? なに、有名なの?」
そう近くにいたカトちゃんに聞いているのは、キアヌとあかりんだ。
「ほら、CMでやってるミュージカルあるじゃん。『劇団奏』の。あれの主役やった人なんだって」
カトちゃんは、今朝俺から聞いた情報をそのまま話している。
一年生が戸惑っている気配を感じて、彼は、んん、と、軽く咳払いをする。
それから、大きく息を吸い込み、お笑い芸人がモノマネをしたことで一躍有名になった、『キャットプリンス』で最も有名な曲の一節を歌いだした。
かなり軽く歌っているであろうその声は、ホール中に響いた。
全身が震える。歌い始めた瞬間から、俺の目には、松崎吉良が「キラキラ」に包まれているように見えた。
「て、やったほうがわかる?」
歌い終わったあと、そう付け足した彼に、全員が拍手を送る。
ミュージカル自体は見たことが無くても、この曲は全員が知っていたらしい。皆、驚いたように目を輝かせている。元コーラス部のあかりんなどは、その声に誰よりも感動したらしく、誰よりも長く拍手をしていた。
目の前で歌われた俺は、再び呆然としてしまった。
「で、ヒーロー、大丈夫?」
コマッさんにそう声をかけられ、俺は、
「は、はい……」
と、かろうじて返事をするぐらいしか出来なかった。
「ヒーロー、ファンだって言ってたじゃん」
カトちゃんがそう言うと、目の前の彼の表情がみるみる嬉しそうに崩れる。
「ファン!? 僕のファンなの!?」
その迫力に押され、俺はこくこくと頷く。
「うわー! ちょー嬉しい!」
感極まったとばかりに、松崎吉良が抱きついてくる。
「え、ちょ!?」
「うれしー! ちょーうれしー!」
かなり強く抱きしめられ、俺は固まってしまう。身長差が二十センチ近いため、俺はすっぽり松崎吉良の腕の中に抱き込まれてしまうかたちになった。
「ちょ!? 兄貴、ヒーロー放したげて! 混乱して固まっちゃってるから!」
コマッさんがそう言いながら彼をバシバシ叩いている。
「あーん、舞ちゃんひーどーいー!」
そう言いながら、彼はようやく俺を解放してくれた。彼は、俺に視線を向けると、にっこりと笑う。
「やーだー、まだぼーっとしちゃってる。ごめんねー?」
「は、はい! だ、だいじょうぶ、です」
俺がなんとかそう返すと、彼は途端に真顔になった。
「……ねぇ、舞ちゃん。この子、持って帰っちゃダメ?」
「ダメに決まってるでしょ!?」
コマッさんが珍しく鋭いツッコミを見せる。
「僕、ちゃんと世話するからぁ!」
「そういう問題じゃない!」
そんな兄妹のやり取りを見ながら、まだ少し呆然としている俺に、あいあい先輩とるりるり先輩が声をかけてきた。
「ヒーロー、大丈夫?」
「あの人、スキンシップが激しいんだよね」
二人の声に俺は床に座り込んだ。
「あー……、びっくりしました……」
俺がそう言うと、近くに棟梁もやってきた。
「だろうね。私も去年、びっくりしたんだよ」
そう言いながら、棟梁は俺の隣にしゃがんだ。
「私もあのミュージカル好きで、何回も観にいってたし、直前の春休みに観にいったとき、丁度、吉良さんが主演の公演だったから。で、コマッさんのお兄さんって言うから油断してたのに、来たのは松崎吉良だし、舞台と違ってこんなキャラだしさ」
「どっちかといえばこっちが素なのー。それに、棟梁ちゃんはすぐ復活したじゃない」
松崎吉良は少し拗ねたような表情で言った。
「そりゃ、私、あのミュージカルのファンで、吉良さん個人のファンとは少し違いますもん」
「まあそうだけどー。で、ヒーロー君は、僕個人のファンなの?」
彼は俺を見下ろしながら聞いてきた。俺は、少し迷ってから頷いた。
「え、えっと……、お、お会いできて、光栄です。ま、松崎さんの舞台は、いろいろ……」
俺が立ち上がりつつなんとかそう言うと、彼はにっこりと笑った。
「吉良、でいいわよ。改めてよろしくね、ヒーローちゃん」
「ちゃん!? ええと……。ご指導よろしくお願いします!」
俺がそう言うと、他の一年生も、よろしくお願いします、と続いた。