1部-1 「異変との出会い」
「ねぇ、そういえばあの子どうなったんだろうね。」
私は友達の葵と日の大分傾き西日が痛い校舎の中で話をしていた。
あの子というのは名前は美月という2つか3つ離れたクラスの生徒の事だった。
何でも2週間位前に少しおかしくなって、1週間たった後から学校に来なくなったというのだ。
「うーん、私はあの子よく知らないからねぇ」
私は率直に答えた。若干冷たいかな、とも思ったが実際そうなのだから仕方ない。
「咲夜さぁ、ちょっとは配慮って事を考えなよー。今のは流石に冷たすぎるよ。」
「ごめん葵。そうは言っても分からないんだよ、葵は何か知ってるの?」
「私は部活で一緒だったからさ、まあ結構心配なわけ。」
そうだったのか、それは悪いことをしてしまった
この話題はこれから避けた方がいいかもしれない。
「そういえばさぁ」
葵は心配そうな顔から不思議そうな顔をして切り出してきた。
「何か、あの子丁度2週間前位からいろんな人にお姉ちゃん知らない?って聞いて回ってたみたい。」
お姉ちゃんを知らない?って誘拐でもされたのだろうか。
私は腕を組んで右手を顎のあたりに当てて考え込んだ。
「誘拐か何かあったのかな?いや、それなら警察とかに届け出るのが普通だよね…」
取り敢えず一般的に考えられる事を話してみた、しかし葵から帰ってきた言葉は私の予想をはるかに超えたものだった。
「それがね、あの子にお姉ちゃんなんていないんだよ。」
「はい?いない?」
思わずそのまま声に出てしまった。
にしても訳が分からなかった、いない人間を探す?そんなこと普通ならあり得ないだろ。多重人格とかそういう理由でもない限りまずないでしょ。
そんなことを考えていると、葵は
「普通そうなるよね…」
と呟いた。それにしても分からなかった、あの子はそこまで病んでいたりするのだろうか。仮にそうだとしても、いない人間を創造して作り上げるとは斬新な病気だな。
そんなある意味自暴自棄のような考えを張り巡らせていると、ふと思った。
葵は何でこんなことを私に聞くのだろうか?
確かに葵と私は中学校以来の親友だし、そのことは結構知られている。だからといって、その子を知らない私に聞く理由があるのか?
取り敢えずそこに探りを入れることにしよう。
そう決めた私は、西日が差し込む窓側に髪をいじりながら立っている葵に言葉を投げ掛ける
「そういえば、何で葵は私にこの事を話したの?」
若干緊張した面持ちで話しかけた私を見つめて彼女は言葉を返す
「うーん、まあ何となくかなぁ。一応いろんな人に話を聞いてみたいと思ったの」
そういって微笑んだ彼女の影が揺れる。こんなに葵は微笑が似合う人だっただろうか、私のイメージでは微笑よりは大きく笑うような姿があったが人は分からないものだ。
「ごめんねー。突然こんなこと聞いちゃって、変な気分にさせちゃったかな?」
そういった葵は自分の鞄に手をかける。そのままバレー部とは一見して分からないような小柄な体にかけて、教室を去ろうとする。
「じゃ、また明日に会おうね。今度意見を聞かしてくれると有難いかも。」
そう言い残して葵は教室を去っていった。時刻はおおよそ5時。5月の初旬、そろそろ暗くなってくる。そろそろ姉の図書委員の仕事も終わるだろう、呼びに行くかな。
そう思い、ようやく慣れてきた2階の3年教室を出て別棟への渡り廊下を進む。すると階段の方へ人影が見えた、先生に用事でもあるのだろうか。
気にせずに別棟の3階へと向かう、階段を上り廊下を少し進むと丁度姉が出てきた所だった。
「あっ咲夜~、今私も帰るところなの~」
こんな聞いているこっちの力が抜けてきそうな喋りをするのは私の双子の姉である美夜だった。
口を閉じていれば圧倒的にクールビューティーなタイプなのだが、上手く噛み合ってはくれないもので性格はいたってゆるいのだった。しかし、基本的に真面目で優しいので男女問わず人気がある。怒ったときにやることはえげつなかったりするが、それはよほどのときだけだ。
「咲夜~、この本お薦めだよー。」
そういって取り出してきた本は「クォーツ時計の仕組み」だった。
クォーツってあれか?確か石英のことだったかな?
そんな事を考えつつ姉にきいてみる
「美夜姉、これ中身ちゃんと読んだの?」
「いや?全然。」
即答だった。
「じゃあ、クォーツって何か知ってる?」
「えーっとー、最近何か進歩があった素粒子のことだったかなあ~」
それはクォークだ。実際凄い発見なのだろうけど、どんなことを発見したのかは全く分からない。
「美夜姉、それはクォークだよ。確かに結構にてるけどさ、素粒子をどうやって時計にするのさ。」
「えっ?でも確か1秒の定義ってセシウムがどうたらこうたらする時間ってきいたことあるし、出来るんじゃない?」
「セシウムは元素だよ…」
「あっ、そうだったね~。そりゃ無理だね‼」
何がそんなに楽しいのだろうか。笑顔でそんな事を話す姉を私は好きだし、半分呆れてもいた。
これでも姉は、文系では結構な好成績を維持している生徒だった。私は理系だから全然関係ないのだが。
「ほら、この本早く図書室に返してきなよ。」
そういって本を姉に手渡すと、姉は「そうだね~」何て言いながらパタパタ~と軽いんだか重いんだかよく分からない足取りで、図書室に入っていった。
すぐに出てきた姉は「じゃあ帰ろうか」と言って階段に向かう。
その後ろ姿はいつもと変わらない整ったものだった。
私たちの家は学校から4駅行った先にある。
住宅街の一部で、夜中に騒いだりすると近所から一瞬で苦情が来たりしてしまう。しかし、このご時世にしては近所付き合いもよくあるところで大体の人は顔見知りだった。
私は駅を出て歩いている間にも姉と今日の学校の事だとか、明日の授業がしんどいとか、そんな当たり障りの無いことを話して家に帰ってきた。時刻は5時40分頃、いつも通りの時間だった。
そのまま私はいつもと変わらないように、食事やお風呂等を済ませて11時頃に眠った。
翌日、6時半に起きた私は寝起きの悪い姉をたたき起こしながら学校への支度を整えていた。
朝のニュースでは、昨日とそこまで大差無いような内容のニュースがやっていた。変わったことはといえばその中に著名人の訃報が入った位だろうか。
「おはよぉ~咲夜~」
寝ぼけた声が聞こえた。ここまでくればもう5分もたたないうちにテンションが普段に戻ることを経験上知っていた私は、軽く「おはよう」とだけ言っておいた。というか、今日の姉はいつも以上に寝癖がひどいことになっていた。長い黒髪の姉は手入れに元々ある程度時間がかかるのに、今日は更にかかりそうだった。
そんな事を考えながらトーストを食べていると、姉が洗面台から戻って来た。顔を洗うついでに髪に水をつけてきたようで、ましにはなったがまだ普段よりも落ち着いてはいなかった。
「美夜姉、今日学校の間に合うのそれ?」
「間に合わなかったら先に行っちゃっていいよ~」
軽い返事だった。
「はいはい、ちゃんと学校は来るんだよー」
サボったりしないように一応釘は刺しておいたが、姉にそんなことは関係なくサボるときは結局サボってしまうので、意味の無いことは分かっていた。
結局というか、案の定というか、姉は間に合わず1限の始まる寸前に教室に飛び込んだという。
そして、当たり障りもない1日は過ぎ、放課後姉は友達と遊びに行くんだ~なんて言って学校を出ていった。
姉は友達は多いが、平日に遊ぶのは珍しかった。大抵部活のある人が多かったからだ。
だからといって、止めるはずもなく自分だけ帰った。夕食の時間になっても帰って来なかった。母に聞いてみると7時過ぎに帰ると連絡があったらしい。
しかし、8時を過ぎても姉は帰って来なかった。これは何かあったのかもと思った私は姉に電話をかける
「ただいまお掛けになった電話番号は、現在使われておりません」
「使われていない?」
どういうことだ?「電波が~」ではなく?
普通に考えればあり得ないことだ、姉が唐突に番号ごと携帯を変えるなど考えられない。
たまらず私はうっすらと月の写る空の中いそうな場所を走った。しかし見つからない。時刻は9時を回った、流石に戻らなくては。
そう思い家へと帰ったが、やっぱり心配だった。そこでふと考えた、母が気にもとめていないということは姉が今は家へ帰っていない理由を知っているのではないか?
そうか、それならば納得も出来なくはない。
なら確認しておくか、そう思い母に話しかける。
「お姉ちゃん今日帰らないの?」
母は不思議な顔をして答えた
「何言ってるの?お姉ちゃんって誰?従姉妹のこと?」
時が止まった感覚がした。これが、これから始まる私のおそらく人生で一番考え、苦悩した時間の始まりだった。
お読み下さり有り難うございました。
非常に短いものとなっておりますが、一応書いてはいると見せるために載せたのでご了承下さい
結局全編書いたとしてもあまり長くはならないかなと思います。
ただでさえ今後の展開をどうするか見切り発車しすぎて決めきれてないので、まずはそこをやってからになります。
改行の仕方など、至らない部分のほうが多いと思いますのでご指摘宜しくお願い致します。