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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
56/56

終わり

更新が遅くなってすいません。

神聖魔法皇国の首都は元ケーニヒス帝国とジェノブ王国の境界線にある。

そこは、元ワルミド男爵領から真東に行ったところだ。


元ワルミド男爵領の東の領土は順番に元オルガ―男爵領、元ゴルム子爵領。元バハルム男爵領となっており、その隣が元ケーニヒス帝国要塞都市ズデーテンだった。


ズデーテンは400年前にあった、ジェノブ王国との戦争時の最前線で、その名残で巨大な城壁で街のすべてを取り囲み、衣食住すべてを城壁内で行えるように計算されて作られた巨大要塞都市であった。

400年後の現在では、人口も増え、畑などの食糧生産の大部分は城壁外で行うようになったが、基本的なコンセプトは失われてなかった。


神聖魔法皇国はまず、このズデーテンを占領し、国を建国し、そこから進軍した。

ワルミド、オルガ―、ゴルム、バハルムの諸貴族領はブランシュタイナー侯爵が併合していたため、後方の憂いは無く、敵の混乱に乗じて一気に東進し、アレキサンドが国を立ち上げるときにはケーニヒス帝国の領土の半分を占領していた。


強さの秘密は兵にある。


神聖魔法皇国の兵士は全て魔導師で構成されている。

また、ワイバーンを使い、陸と空の両方から同時に攻める立体戦術によって敵を翻弄し、大規模な魔法の集中攻撃によって敵を駆逐していた。


ケーニヒス帝国は勇壮な重歩兵による突撃で有名な国だったが、魔法の集中攻撃によって壊滅的な打撃を受ける。

時には1万人の帝国の重歩兵が、わずか1000人の皇国魔導師軍に敗走するという事もあった。


それほど、皇国の魔導師の質は高く、非常に訓練され精強だった。


この世界では、魔法は一種の才能で、扱える人は非常に少ない。


しかし、神聖魔法皇国は魔導師養成機関を作り、高い確率で魔導師を発見し、訓練していた。

そのため、全国民は8歳から1年間魔導師養成機関に入ることを強制されていた。

一種の学校の様な物で、非常に合理的なシステムで運用されていた。


そんな、神聖魔法皇国の首都ズデーテンの居城に王が居る。

若干6歳の王、アルフ・マジュニ・アーモニクス。旧名をコルト・ブランシュタイナーという。

国を立ち上げるにあたって、身元を隠すために名前を変えたエレナの息子コルトその人だ。


その隣には漆黒のローブをまとった黒髪の少女が丸い透明な水晶を片手に立っていた。

姿は、12~3歳ぐらいの腰まで伸ばしたツインテールの黒髪の少女で鼻筋の通っており、あどけなさが残っていながらも大人びた感じの美少女で身長は150㎝ぐらいだった。

しかし、顔は常に無表情で、どこか老齢な雰囲気を漂わせていた。


「アルフ様。父上であるアレキサンド様が討たれたようです」

漆黒の少女が水晶を眺めながら言う。


「興味ない。でも、後ろからジェノブ王国から攻め込まれたらまずいし、そろそろ和睦でもしようか」

アルフは玉座にもたれながら言った。


「さすがは、聡明なアルフ様。では、そのように手配しましょう」

漆黒の少女は胸に手を当て服従の姿勢を取る。


「ところで、メルトーチカ。今更なんだけど、なんでリッチなんかに師事してたの?」

アルフは天井をつまらなそうに見ながら言った。


「師匠の魂の会話は非常に役に立つ魔法です。魂の会話は精神負荷が高く、通常は1~2人が限度。しかし、アンデット化することで同時に20人以上操る事が出来ていました。その技を習うために師事したのです」

漆黒の少女はメルトーチカという名前で呼ばれた。


「ふ~ん、だから君もアンデットなんだ」


「左様です。しかし、私は様々な秘術を体得し、師匠の様な朽ちた姿で無く、生前の体のままアンデット化することに成功しました。今日がちょうど誕生日で318歳になります」


「そうなんだ。でも不死も大変じゃない?」


「そうでもございません。維持は難しいですが、無限に研究できる喜びは苦労を凌駕します」


「そう。僕は知恵の実を食べただけでもうウンザリだよ。何でも見えちゃうから世の中すべてが面白くないよ」


「知恵の実は魔道の水晶に並ぶ秘宝中の秘宝。父上から良い物をいただきましたね」

メルトーチカはニタリと嗤う。


「本物の父親じゃないし、いろいろ裏があるみたいだから素直に喜べないけどね。まあ、いいけど」

アルフは「ふぅ」とため息をついて答えた。


「では、和睦を各国に通達します」

メルトーチカはかしずく。


「よろしく」

アルフは手をひらひらと振った。






場所は変わって、ジェノブ王国王宮。

会議室にはブルト家首脳陣と、王家や元老院など様々な人が50人近く居た。


リヒト王が立ち上がり、会議が始まる。


「この度の動乱に際し、ブルト伯爵は非常に活躍した。まずもって礼を言う。さて、戦後処理について皆の意見を聞きたい」

リヒト王は皆に聞こえるようハッキリと言った。


ルミナは立ちあがり礼をする。


「王より勿体無きお言葉ありがたく思います。朝敵であるブランシュタイナーをこの手で討つことができ、亡くなった両親や兄弟、家臣や領民達の仇が取れました。それも全て王様のご援助があったからこそです。心よりお礼を申し上げます」


「いや、ブルト伯爵の機転が無ければここまで犠牲は抑えられなかった。そして、ドラゴンの主人である勇者ヨウスケがいなければここまでうまくいかなかったであろう。ヨウスケにも感謝する」


洋介が立ち上がり礼をする。


「陰日向となり援助をしていただいた王のおかげで、ここまで準備が出来ました。本当にありがとうございます。そして、ブランシュタイナーを、身を挺して討ったビーストである仲間のオロチ。彼が本当の勇者です。どうか彼の事は忘れないであげてください」


「そうか…記念にアレキサンドリアに銅像を建てよう。それでどうだ?」


「はい。僕もそれは考えてました。戦後処理とはあまり関係はありませんが作ってよろしいでしょうか?」


「異議なし」

参加者一同は声を揃えて言った。


「ありがとうございます」

洋介は深々と礼をして座った。


「さて、今後の元ブランシュタイナー侯爵領だが…どうするか?」

リヒト王が難しそうな顔で言った。


「ブルト伯爵が占領したのだからブルト伯爵領に併合すべきだと思いますが…」

王の側近の一人が答える。


「それでは広すぎる。全てをブルト伯爵領にしてしまうと、ゆうにこの王領の3倍の面積は有るぞ」

違う側近が答えた。


「まさに国の様な広さですなぁ…」

別の側近が壁に貼られた地図を見ながら一人ごとのように呟いた。


「あの…差し出がましいようですが、提案が」

洋介が手をあげる。


「どうぞ」


「僕はここに中立国を作りたいと思っています。国同士の戦争における泥沼の戦いを回避するための第3国が必要になると思います。それに、難民の受け入れなどの人道支援も行える。だからぜひお願いしたいです」

洋介はハッキリと言った。


会場は非常にざわめいた。

そのような国を見たことも聞いたことも無いからだ。


「それは王国に弓を引くという事か!」

家臣の一人が立ち上がり洋介に怒声を浴びせる。


「そういう意味ではありません。ただ、ブルト伯爵領はドラゴンを始め強力な武装を保持しています。今後その力が暴走しないためにも相互に侵略しない中立的な領土を確立しないといけないと思い提案しました。国という名称がお気に召されなければ中立領土でも構いません。どうかお願いします」

洋介は立ち上がり深々と礼をする。


「ふむ…たしかに、ブルトがケーニヒス帝国や神聖魔法皇国と組する事態は避けなければならんな」

リヒト王は聞こえる様に呟いた。


「しかし、リヒト王。あの広大な領土からの税収が無くなると我が国も弱体化してしまいます」

家臣は小さな声でリヒト王に呟く。


会議は紛糾する。


そして、30フルほど話し合いが続いた後、リヒト王が決断する。


「なかなか難しい判断だが、ここはヨウスケの提案も受け入れ、新たに大公爵の爵位を新設し、王に準ずるものとする。そして、旧大アレキサンドリア皇国とブルト伯爵領の領土を併合し、大公爵領とし、国に準ずる自治領とする。そしてケーニヒス帝国と神聖魔法皇国にも提案し、中立領として宣言することを提案しよう。ただし、いままで通り税金は納める事。それどうか?」

リヒト王は立ち上がり大きな声で言った。


会場はざわめいたが反論は無かった。


「では、異議無しと認め、爵位授与の後、そのように扱う。あと、ブルト伯爵の夫であるサトウ ヨウスケに大公爵の爵位を授与し、大公爵領の自治の権利を授ける。領土の名前は、ヨウスケの姓をとってサトウ大公爵領とする。異議はあるか?」


「一つ質問していいですか?」

ルミナが手をあげる。


「なにか?」

王の隣に座る家臣が答える。


「我がブルト伯爵領や元ワルミド男爵領などはどのように扱えばよろしいのでしょうか?」

ルミナが立ち上がり答える。


「サトウ大公爵領は先ほど言った通り、国に準ずる領地。大公爵領の中でブルト伯爵領や、必要であればワルミド男爵領の復権など行えばよい。爵位を増やすことも可能だ。その際は余に報告してくれれば爵位を認めよう。税金などは大公爵領名義でまとめて王国に納めれば問題は無い」

リヒト王は冷静に答える。


「わかりました。ありがとうございます」

ルミナは礼をして座る。


「では、他に異議のある者は?」

王の隣の家臣は大きな声で言う。


「異議なし」

参加者一同は声を揃えて答えた。


その他、細々とした決め事を話し合い、3メモほどして会議は終わった。


「旦那様!おめでとうございます!」

ルミナは洋介に抱き着き嬉しそうに答えた。


「なかなか大変そうだけど、頑張らないとね」

洋介は複雑な顔をしながら、ルミナの頭を撫でる。


「えへへ~」

ルミナはすぐに変な声を出した。


そんなことをしていると、リヒト王が洋介に近づく。


「ヨウスケ。余からお願いがある」


リヒト王の言葉に洋介はすぐに立ち上がり、胸に手を当て、服従の姿勢を取る。


「ああ、かしこまらなくても良い。何せ大公爵だ。ほぼ余と同じ立場だからな」

リヒト王はにこやかな顔で言う。


「それでも、敬わせてください。リヒト王がいなければ今の僕は有りません。こんな荒唐無稽な提案も受け入れてもらえるなんて…」

洋介は言った。


「いや、それほど荒唐無稽でもないぞ。先の動乱での噂を耳にした家臣の中には、いつ牙がこちらに向かうかを恐れている者もいたからな…相互の不可侵、王国とは独立した中立領。泥沼の戦争を止める保険という意味でも良い考えじゃ。それでな、余のお願いなんだが…」

リヒト王が困った顔で言う。


「あ…申し訳ありません。なんでしょうか?」

洋介は慌てて謝る。


「これはブルト伯爵にも関係あってな……余はヨウスケともっと親密な関係を作りたい。そこで、余の妹であるマリアンヌと結婚してほしい。」

リヒト王はハッキリと言った。


ヨウスケとルミナは顔を合わせ驚く。


「父上の後妻の娘だから2番目でも大丈夫だろう。ブルト伯爵、いかがか?」

リヒト王は言った。


「えっと……もちろん…大…丈夫で…す」

ルミナはシドロモドロに答える。

明らかに動揺していた。


「クリン教の方は大丈夫なのですか?聖女と呼ばれている有名人なんでしょう?」

洋介は言う。


「クリン教は問題無い。帝国のガイノス教の様な結婚禁止の宗教ではないからのう。むしろ釣り合う相手がおらんかったから婚期が遅れて大変だったのじゃ。王の妹が20歳をすぎて独身のままじゃ体裁が悪い。」

リヒト王はため息を出しながら答える。


「わかりました。爵位を授与されたのち、合同で式を挙げましょう」

洋介は毅然と答える。


「旦那様…鼻の下が伸びてますよ」

ルミナはジト目で抗議する。


「これは王様の頼みだよ?嫉妬してたら子供に悪影響だよ」

洋介はいさめた。


「ほう、もう子供が出来たか。それはめでたい。楽しみじゃのう。マリアンヌもよろしくな」

リヒト王は笑いながら答えた。





ブルト家一同はエルンに帰る。


そして、洋介とシャドウはひそかにルールントに行った

鍛冶ギルドの個室でガミルと会う。


「ガミルさん。色々とありがとうございました。ルールントの工業力が無ければここまで出来なかったと思います」

洋介はガミルに深々と礼をする。


「いいのよ。で、今日は何用?」

ガミルはいつものように聞く。


「今後の話なんですが、砲車や機関銃などの武器についての事です」

洋介は真剣な目で言う。


「単刀直入に言いますと、ガミルさんの指揮で秘匿し、今後も研究施設で細々と開発してほしいという事をお願いしに参りました」

シャドウがはっきりという。


「なぜ?」

ガミルが怪訝な顔で聞く。


「中立を維持するには攻め込まれない武力が必要なのです。レオパルトは公然の存在なので仕方がないですが、レオパルトだけで防ぎきれない事態が無いとも言い切れません。しかも、砲車のような技術は知識があれば真似できますので、今後の為にも常に先を読み、極秘裏に自衛力を維持しないといけません」

シャドウが答える。


「そうね……本当はそんな世の中じゃない方がいいんだけど、そうもいかないわね。わかったわ。私の管轄下で研究はしてあげる」

ガミルは腕を組みながら答えた。


「ありがとうございます。それで、ガミルさんに日頃のご苦労を感謝して子爵の位を授けたいと思っています。受け取っていただけますか?」

洋介が言う。


「私はそんな物より、シャドウさんと一晩共に過ごせる権利の方がいいけど、無理だろうから貰っとくわ。でも、なんだか寂しいわね。裏取引みたい。そうやって権力でごまかして、工科学校の生徒をほったらかしにする気ね!」

ガミルは笑いながら言う。


「もちろんそんなつもりじゃありません。仕事を早く片付けて、工科学校の教鞭に立ちたいです。実際大公爵だなんて言われても実感わかないんですよ。身の丈に合ってません」

洋介は笑いながら言う。


「それでこそヨウスケちゃんだわ。待ってるわよ」

ガミルはヨウスケに抱き着いた。


普段だったら鳥肌物だが、今日に限っては嬉しかった。

ガミルから、自分を信頼する気持ちを感じたからだ。





ガミルと別れ、一路エルンに戻る。


今後の旧アレキサンドリアの改革や、ワルミド領の件について会議を行い、まとめた。

それから一か月間、洋介は多忙な日々を過ごした。


その間に、神聖魔法皇国から提案があり、中立宣言会議と和睦会議が同時に開かれることになった。


第三国という事で、ジェノブ王国の会議室で和睦会議が開かれた。

会議は紛糾し、3日かかり、神聖魔法皇国がケーニヒス帝国側から奪った領土の3分の1を返還する事で合意した。

その席で旧大アレキサンドリア皇国の領土とブルト伯爵領の領土は1つになり、サトウ大公爵領という領地になった事、そして、そこは一種の国に準じた領地であり、サトウ ヨウスケ大公爵が治める事、最後に、その領地は中立領地で、ジェノブ王国、ケーニヒス帝国、神聖魔法皇国の3か国は相互に不可侵条約を締結して欲しいという事を伝えた。


ケーニヒス帝国や神聖魔法皇国からは少なからず異議は出たが、戦争終結における交渉役としての重要性と、先の動乱で証明されたドラゴンを有する強大な武力が中立の立場になるという保証を天秤にかけて、最終的には承認され、中立宣言は採択された。


会議後、すぐに爵位授与式が3か国使節団の前で執り行われ、洋介は新しく作られた地位である大公爵の爵位を授与される。

通常、王の前にかしづき、服従の姿勢を取るが、ほぼ対等な立場の為、起立したまま執り行われた。

そして、3か国すべての代表者と握手し、国に準じた大公爵領という不思議な領地が誕生した。



サトウ大公爵領の首都はエルンと定め、旧ワルミド領などを復権し、それぞれ統治を任せた。

ブランシュタイナー侯爵領はサトウ大公爵直轄領と定め、アレキサンドリアはユリシールに名前を戻した。


ユリシールは闘技場や娼館など治安の悪化につながる施設は厳しく改革し、市街地の再開発を行い、各領地の特産品をまとめて卸す商業の街になるように計画した。


もちろん鉄道網の整備も急ぎ、一時復員者が治安を悪化させていたが、インフラ作業で雇用を創出し、急速に元の状況に戻ろうとしていた。



そんな、ユリシールの元アレキサンド居城の地下牢にある男が入っていた。

その男はマルト元主任研究員だ。

マルトは牢屋の中で必死に何かを書いていた。


そんなマルトに洋介とシャドウが話しかける。


「マルトさん。もういくさは終わりました。何を一生懸命研究しているんですか?」

洋介が牢屋越しに尋ねる。


「ああ。お前が噂のドラゴン使いであ~るか?」

マルトは背中を向けて何かを書きながら言う。


「そうです。サトウ ヨウスケと言います。今はこの領地を統治する大公爵らしいです」


「い~つ聞いても不思議な名前であ~る。私の開発した鉄玉てつたまを凌駕する兵器と言い、あなたは何者?も~しかして魔族?」

マルトが振り向き、洋介を見る。


「只の人間ですよ」

洋介が笑う。


「しか~し、あの戦車いくさぐるまは洗練されている~な。私~が10年前に書いたデッサンより洗練されてい~る」

マルトは古い羊皮紙を洋介に見せた。


洋介は驚く。

そこには前世イギリスのマークⅠ型戦車そっくりの絵が描いてあり、砲塔の位置も寸分たがわない場所に書いてあったからだ。キャタピラの構造もそっくりであった。


「私~は、内燃機関が苦手であ~る。あ~の蒸気機関が10年前にあれば、これも出来ていたであろ~う。しかしアレは何で動いているの~だ?」

マルトは洋介に近づく。

その顔は好奇心に満ち溢れていた。


「あれは、ルールントの奥で採れる、燃える水を利用して動かしています」

洋介はあっさりと言う。


それはマルトには推測できないであろうという洋介の考えがあった。

しかし、マルトの思考能力は洋介の想像をはるかに超えていた。


「ふ~む。確かにアレは昔調べたとき、温度によってさまざまな状態変化を起こしていた~な……私~は綿にしみこませて火薬の代わりになるか調べていたから気が付かなかった~が……そうか!あの小規模な爆発を起こす状態な~ら、ピストンを動かして内燃機関に転用できるという事~か!?これは盲点、盲点。さすが~わヨウスケ大公爵様。素晴らしい発想力!」

マルトは一人で納得し高笑いを浮かべながら机に向かい、何かを書き始めた。


洋介は驚く。

マルトは確かに天才だった。

彼がもう少し研究以外に頭を使い、アカデミアでもうまく立ち回れていたら、戦争の形は変わっていただろう。

洋介は寒気がした。


「ご主人様。彼はルールントで大好きな兵器開発をしながら座敷牢生活をしてもらおうと思うのですがいかがですか?」

シャドウが言う。


「大丈夫?かなりマッドサイエンティストだよ」

洋介は正直怖かった。


「彼の知識は役に立ちます。研究材料を与えればいくらでも働きますから問題はありません」


「そう。じゃあ頼む」


洋介とシャドウは何かを書いているマルトをよそに座敷牢をでる。




洋介は玉座の間に移動し、アレキサンドが座っていた玉座に座る。

そこで天井を眺めながらため息をついた。


「どうされましたか?」

シャドウが洋介に声をかける。


「どうしてアレキサンドはあんなことしたのかなって思ってね。ここに座れば何か見えるかなって思ったんだけどわからないや」

洋介はシャドウを見ながら言う。


「彼は世界に絶望したんじゃないですか?なぜ、自分についてこられないのか?常にそう思っていたような感じはありますね」

シャドウは思い出しながら言う。


「でも、それなら誰か言ってあげれば良かったのに…」

洋介は思う。


「それが彼の不幸な所だったのでしょう。誰も彼を止めなかった。だから暴走し、あのような事態になったのでしょう。もし、最初の戦の時、ご主人様がアレキサンドに付いていたら、今頃は本当に世界征服を成し遂げてたかも知れせんねぇ。」

シャドウが洋介を見ながら言う。


「僕は嫌だね。世界征服なんて興味ないもん。ルミナ達とも結婚できなかっただろうし」


「そう思うのでしたら、最初の判断は正解だったという事です。彼はきっと、ここにエレナさんと理想郷を作ろうとしたんでしょう。…さて、そんな夢の場所も明日には解体します。めぼしい物を引き上げたら出ましょう。ここは人が死に過ぎて悪霊がうじゃうじゃいます。日が落ちると、ご主人様にも見えますよ…太った男や豊満な娼婦の幽霊が」

シャドウが洋介に顔を近づけて言う。


「ええ!?そんな恐ろしい所なの!!早く出よう!!やることはいっぱいあるんだから!!」

洋介は内心ビビり、シャドウより先に早足でドアに向かう。


「ご主人様も幽霊は苦手ですか?食べるとおいしいですよ?」

シャドウがおかしそうに言う。


「普通の人間は食べません。シャドウは魔族だからできる芸当だよ。まったく」

洋介は少し怒り部屋を出る。


「冗談ですよ。まあ、食べたらおいしい事は本当ですが」

シャドウも洋介の後を追って部屋をでる。


2人はユリシールの進捗状況を確認し、首都のエルンに戻った。


その後、鉄道網の整備に伴い、サトウ大公爵領は発展し、ユリシールは世界有数の商業都市へと変貌した。





爵位授与から2か月後、首都エルンの中央広場で盛大な結婚式が開かれた。

もちろん、ルミナとマリアンヌとミリムが洋介と結婚するための式だ。


王も参列するためエルンに到着し、各都市からも大勢に人が祝いに来た。

全ての人を収容するような会場が無く、急遽広場ですることになった。


朝から始まっているが、3メモたった今でも洋介のあいさつ回りは終わらない。

新郎新婦は非常に忙しそうだった。


そんな中、不貞腐れている人が一人。

他ならぬミルトだ。


「あ~あ。つまんねぇ」

チビチビお酒を飲んでいた。


「ミ!ミルトさん!!」


ミルトは振り返ると、そこにはオルファンが立っていた。


「ああ、オルファンさん。砲術の勉強の時はお世話になりました。マンツーマンで指導してくれたおかげで活躍できましたよ」

ミルトは立ち上がり礼を言う。


「あ!いえ、どういたしまして。その……」

オルファンは歯切れが悪い。

心なしか顔を赤らめ、何か迷っているようだ。


「何でしょう?どうしました?」

ミルトは不思議に思う。


「その…一緒に勉強してて、その…聡明な知識に…心惹かれました。私でよければ結婚を前提にお付き合いしていただけないでしょうか?」

オルファンは耳まで真っ赤にしながらミルトを見る。


ミルトは驚いた。

予想外の展開に固まった。


そこに、グルンが来る。


「おお!それはありがたい。しかし、こいつは未練がましい偏屈な男ですよ?大丈夫ですか?」

グルンは肩を組み、にこやかに言う。


「そのひた向きな所も好きです」

オルファンはモジモジしながら言った。


「素晴らしい!!ぜひお願いします!!」

グルンは喜んだ。


「ちょっと!僕、抜きで話を進めないでよ!!」

ミルトはやっと回復し、怒る。


「なに?オルファン嬢の何処が不満なのだ?」

グルンが鋭い目線でミルトを見る。


オルファンを見ると、おどおどしていた。


「いや…不満なんて無いけど」

ミルト少し顔が赤くなる。


「なら、良いではないか。いや~めでたい!今日は最高だ!」

グルンは上機嫌で叫んだ。


「…よろしく」

ミルトはオルファンに手を差し出す。


「よろしくお願いします!!!」

オルファンは手を握り、勢い余って抱き着いた。


ミルトの周りから歓声が上がる。





その夜。


洋介はベッドに倒れた。


「つ……疲れた」

朝からずっと挨拶をして回った洋介は疲労困憊だった。


「お疲れ様です。おっと…私はこの辺で失礼させていただきます。良い夜を」

シャドウは足早に消える。


「え?シャドウ?」

洋介は起き上がると、突然ドアが開いた。


そこにはミリム、マリアンヌの2人が派手なネグリジェで立っていた。


「さあ!今夜は寝かさないわよ!!」

ミリムが仁王立ちで洋介を指しながら言う。


「まあ。激しいですわねぇ。ヨウスケさんはこういう風に迫られるのがいいのかしら?」

マリアンヌは上品に言った。


「ルミナはどうしたの?」

洋介はミリムに言った。


「妊娠してるんだから来れるわけないでしょ!!まだ安定期にもなってないのにバカな事、言ってるんじゃないの」

ミリムが強い口調で言う。


「でも、名残惜しそうに悲しんでいらしたわ」

マリアンヌは思い出しながら言った。


「で、何するの?ゲームでもするの?」

洋介は言った。


「その白々しい冗談は飽きたわ」

ミリムはジト目で洋介に抗議する。


「私初めてですので少し緊張していますの。優しくお願いしますね」

マリアンヌは上品にお願いする。


その姿に洋介のリビドーが反応した。


「初夜だもんね。こちらこそお手柔らかにお願いします。」

洋介は2人に言う。


「白々しい…あれだけ激しく攻めてくるくせに」

ミリムは思い出し、少し顔が赤くなる。


「では、どうぞ。こちらが僕のベッドです。よろしくお願いします」


洋介は2人をエスコートする。


長い長い夜が始まった。







洋介はその後、3人の間に3人ずつ子供をもうけて、にぎやかに過ごした。


学校制度も6歳から12歳まで全国民が入学する初等学校を大公爵領すべてに作り、領民の識字率向上に大きく貢献した。

また、洋介は大公爵の仕事の傍ら教鞭にも立ち続け、予告も無しに行われる大公爵の授業は、いつしか各学校の名物になっていた。


洋介が天寿を全うするころには、大公爵領の識字率は80%を超え、異世界において、教育システムを確立した、教育界の父として語り継がれる存在になっていた。


大公爵領で昔のカミント村のような、文字が読めず困惑することが起こる事はもう無かった。

洋介はその事に安堵し、その生涯を閉じた。

稚拙な文章を最後まで見ていただき、ありがとうございましたm(__)m

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