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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
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アレキサンド軍将校の日記

俺は先代のブランシュタイナー侯爵様から常備軍で仕えている。

しかし、最近この代々続く、誇り高い仕事を辞めようか迷っていた。


原因は現ブランシュタイナー侯爵だった坊ちゃんのせいだ。

今は神聖アレキサンド大王に名前を変えている。


今までの周辺貴族への対応も、かなりウンザリしていたが、ついに王にまで弓をひいてしまった。


ついこの間3人目の子供が生まれたばかりなのに…

転戦、転戦でまだ子供の顔も見ていない。


「日頃の働きの褒美として、貴公を100人長から500人長に任命する」

新しく参謀についた、いけ好かない帝国人からそう言われた。


正直、気が重い。


噂は聞いている。

俺の親友も、先日同じ理由で500人長になった。

しかし、内容は素人の御守で、とても戦力になるような物では無いらしい。

訓練された100人を動かすのと、素人を500人動かすのでは状況がまるで違う。


親友は非常に苦労していた。


今度は俺の番なのだ。


「なお、7日後オクト草原に出陣する。武器や防具は支給するので準備をするように」


顔や態度には極力出さないようにしたが、心の中で俺は呆れて物が言えなかった。


支給された武器や防具を見てさらに驚く。


そこには、訓練で使うような芯が曲がった剣や、不揃いの槍、防具に至っては訓練用の皮の胸当てぐらいしかなかったのだ。


本気で逃げようかと思った。


翌日、新たに部隊に入隊する人たちを見た。


年齢構成もバラバラで、大多数の人間が俺より年上だった。

俺は涙が出た。


ここまで領民に無理強いをさせる坊ちゃんは正気なのかと思った。

まるで、自ら滅亡を助長しているような……日記だから書けるが、外で言ったら軍法会議ものだ。


かくして、ロクに訓練できないまま、オクト草原に向かった。



5日かかって、オクト草原の本陣に着くと、人、人、人でごった返していた。

色々な噂を聞くと、ココには総勢13万人いるらしい。


よくもまあ、これだけ集めたもんだ。

まあ、その内10万人ぐらいは素人集団だからほとんど戦力にならない。


しかも、経験がある従来の常備軍のほとんどが、俺みたいに無理やり500人長や1000人長をしてるから、まともな攻撃ができない。


まったくもって最悪だ。


夜に500人長会議があった。


従来の常備軍の面々が久々に揃った。

皆、一様に疲労困憊だった。


話を聞くと、部隊運用と物資不足で苦労してるようだ。

素人集団の士気は低いし、物資が不足してるから食事は1日1回だからだろう。

まあ、当然だ。


会議で俺の部隊は最右翼から砦を攻めこくことが決まった。


しかし、ブルト領の砦も異様な雰囲気がする。

たしか、ブルトは騎馬での戦いが得意なはずだ。


先の戦でも最後の突撃は見事だった。


部隊中央まで肉薄された事なんて無かったから正直肝が冷えた。

人数がもう少しいたら危なかった。


そんな時に現れた、あの伝説のドラゴン。

死ぬかと思った。


そんなブルト軍がべトンまで使った砦を作っている。

周りには土塁が築かれて、うちの「鉄玉てつたま」のような物まで見えている。


凄い煙を吐く馬車が毎日来るし。

あれが、噂に聞く機関車という物だろうと思う。


不気味だ。

相手の出方が見えない。


会議で意見を求められたが、喉元まで「この戦を今すぐ中止するべきだ!」の言葉が出そうになったが必死に飲み込んだ。




作戦開始日。

快晴。


日の出と共に進軍を開始する。


しかし、前の方が全然動かない。

半歩づつしか進まないのだ。


隣の同僚は後ろから槍と剣を突き立てて、まるで追い立てるように進軍していた。


その光景を見て、俺は呆れた。

俺はどうでもよくなって、半歩づつ進むことにした。


「ガアァァオォォォオオオ!」

上空からあのドラゴンの声が響いた。


俺は進軍しながら横目で見てると、見たことも無い青白いブレスを吐いてた。

熱風がここまで届いた。


あのブレスを受けた友軍はタダでは済まないだろう。


俺はドラゴンがこちらに来ないように、初めて神様にお願いをした。


そのお願いが通じたのか何とかブルト軍の砦近くまで行けた。


そこでまた信じられない光景を見た。


ダダダダ!と音がしたかと思ったら、何かが飛んできて人を殺しているのだ。

鉄玉みたいな物だとは想像がついていたが、あれだけ連射されたら近づけるわけがない。


俺はもうだめだと思った。


何とか伝令を飛ばして、本陣に引き返した。

あんなのを進軍するなんて無駄死もいい所だ。


本陣に戻ると撤退した理由を聞かれた。

俺は正直に言った。


上官は怒り、俺を降格した。


普通だったら怒るところだが、俺はどうでもよかった。

ここ1年はいろんなことがありすぎて忠誠心という言葉をどこかに置いてきたらしい。

安堵感さえあった。


ただ一つ、降格で最前線行きを心配したが、わが軍はその日以降、ブルト軍の砦へ進軍することは無かった。


そりゃそうだ。

1日で3万人が死んだんだ。

ブルト軍にダメージを与えた形跡はない。


完敗だった。


それから1週間。本陣でのにらみ合いが続く。

幸いにもドラゴンの来襲は無かった。


そうしたら、アレキサンドリアから救援の伝令が来た。

上層部は大慌てで撤退を決定した。

しかし、わが軍は疲労困憊でとてもすぐには動けなかった。


しかも、ブルト軍の騎馬隊に夜襲され、さらに多くの死者が出た。

本当に相手の軍勢は優秀だった。


翌朝、何とか撤退を開始して、俺たちはアレキサンドリアを目指した。


敗戦での撤退は歩みが重く、アレキサンドリアに着いたのはそれから1週間を要した。


着いた頃には、大アレキサンドリア皇国なんて国は無くなっていた。


懸案だった常備軍を辞めることが期せずして叶ったが、それと同時に、俺たちはこれからどうすればいいのだろうか?という不安感も抱く。


そんなことを考えながら家に帰ると、家族全員が俺を出迎えてくれた。

俺と嫁は再開を喜び、長い口づけを交わす。

そうして、やっと3人目の子供の顔を見た。


子供は満面の笑みを浮かべて笑っていた。

その微笑みは、俺の唯一の救いだった。

次回は11/17に更新です。

よろしくお願い致しますm(__)m

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