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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
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オクト草原の戦場

先のいくさでアレキサンドが本陣を構えたあたりに、今はブルト領の砦がある。

そこはアレキサンドリアから見れば少し高い所にある開けた場所だ。


この砦は、その昔は簡易的な木でできた関所のような物だったが、今は櫓も立ち、べトンを優先的に使って城壁を作った、ブルト唯一の大規模な砦だった。


「圧倒的な数だなぁ」

グルンは櫓から双眼鏡を覗いて呟く。


「ああ、ヨウスケさんの言った通り…いや、それ以上いるかもな」

ルフトも隣で双眼鏡を覗きながら呟いた。


双眼鏡の先には、地平線まで人がいるような錯覚に陥るほど人がいた。

もちろん、アレキサンド軍の軍勢だ。

しかし、ほとんどは武器しか持っていないような軽歩兵で、馬に乗っている人間は少数だった。


「グルン。本当に俺たちは、籠城戦でいいのか?」

心なしか震えた声でルフトはグルンに聞く。


「問題なかろう。あのレオパルトが上空から攻撃してくれる。それに新兵器の機関銃は恐ろしい。あれだけ高速で飛ぶ弾を受けたら、人間なんてすぐ死んでしまう。その弾が撃ち続けられるんだから、本当にアレキサンド軍じゃなくて良かったと思うぐらいだ」

グルンははっきりと言う。


洋介から伝えられた作戦は、この地に敵が集結していると思うから、この砦を強化し、籠城戦をおこない敵兵力の減らすことだった。

そして、その間にルミナ達の部隊がアレキサンドリアまで進軍し攻撃するので、戦線が縮小するタイミングで一斉に敵を撃つという物だった。


また、敵を誘い込むため、あえて堀のような目立つ物は作らず、草むらに巧妙に罠を配置し足止めをしつつ10ミリ機関銃の一斉照射で敵の漸減を目指すという水際防衛戦略を取るようにした。

その為に土塁で簡易的なトーチカを作り、塹壕を張り巡らせ、武器や弾薬の補給ができるようにした。


マリアンヌやミリも別途契約して来てもらい、負傷者の救援を頼んだ。


出来うる限り長くこの砦で籠城戦をおこなえるように配慮したのだ。


「しかし、前回の様な統率が取れていないなぁ。多くは強制徴用の兵士だろう。可哀想に」

グルンは前線の様子を見ながら呟く。


「ああ、しかも、大した装備もしていない。まさに捨て駒だな」

ルフトも呟いた。


「残念ながら数や、個の能力で正面から勝負する時代は終わったのだ。彼らの指揮官はそれをわかっていない」

グルンは胸の内に去来する複雑な心情を呟く。


「あの部隊のか?」


「アレキサンド軍全てだ。まあ、俺もあっち側だったら、わからないかもしれん。しかし、この戦がそれを証明するだろう」


「そうか…『青竜』と呼ばれたお前が、そこまで言うくらい時代が変わるか」

ルフトが複雑な顔で呟いた。


「さて、明日が期日だ。日の出1メモ前が総員起こしだから、そろそろ休憩しよう。ルフトもあまり考えすぎるな。目の前の敵を倒す。それだけに集中しろよ」

グルンはそう言うと櫓から降りて行った。



翌日。

雲一つない空に太陽が昇る。


日が昇り切り、あたりが明るくなると、アレキサンドの軍勢が前進を開始した。

10万人を超える軍勢の足音が戦場に響く。


しかし、部隊の統率感は皆無だった。


先頭の兵たちは震え、ゆっくり進むが、後方の部隊がそれを早くいけと言わんばかりに自らの武器でせっつく。

まるで、同じ軍隊では無いような異様な雰囲気であった。



「ガアァァオォォォオオオ!」

高空からレオパルトが飛来し、大きな声を叫ぶ。


ブルト領の砦からでもわかるような動揺が、アレキサンドの軍勢に起こる。


悲鳴や、矢や、魔法が散発的にレオパルトめがけて飛んだ。

しかし、矢や、魔法はレオパルトには届かなかった。

唯一届いたのは悲鳴だけだった。


レオパルトは上空からブレスを吐いた。


それは今まで見たこと無いような青白い輝きを放つレオパルトの本気のブレスであった。

非常に高温のブレスは縦一直線にアレキサンドの軍勢を焼いた。


戦場に悲鳴がこだました。


直撃を受けた兵は炭になり、鉄でできた鎧や楯も溶かした。

炎の後が地面に焼き付き、黒い線がアレキサンド軍の中央にひかれた。


アレキサンド軍の前線の一部兵は逃げ出したが、後方の部隊が無理やり前線に戻し、しばらくするとまた前進を始めた。


レオパルトは散発的にブレスを吐いて敵を漸減する。


そして、1メモたった頃にやっと一部部隊がブルト領の砦の罠が仕掛けられた場所まで到達した。


そして、罠にかかり、足止めをされる。

罠と言っても草を結んだ物であったり、鉄条網を張り巡らすだけも簡単なものだったが、敵は大いに焦る。


そこに、機関銃が火を噴いた。

敵部隊近くの銃座が一斉に火を噴き十字砲火を浴びせる。


敵部隊は瞬く間に死体の山を築いた。

何人かの馬に乗った指揮官は、果敢にも突撃を試みたが、機関銃の十字砲火になすすべなく倒れる。

口径の大きい10ミリ機関銃は敵のフルプレートの鎧を簡単に貫いた。


グルンとルフトはその光景を見て絶句した。


「……あんなにも簡単に鎧を貫いてしまうのか?」

ルフトは目を見開き呟く。


「これが新しい戦…………恐ろしい」

グルンは渋い顔で呟く。



アレキサンド軍は3メモ後、撤退した。


それから、アレキサンド軍が本陣から出てくることは無かった。


動きがあったのは1週間後。


夜陰に紛れて一部部隊が撤退しようとする動きをグルンが掴んだ。


「やはりな…ルフト!総員に起こし!打って出るぞ!」


グルンとルフトは待機させておいた部隊を編成し、夜襲を仕掛ける。


夜襲は成功し、アレキサンド軍の部隊は総崩れになった。


日が昇る前に、グルンとルフトは撤収した。

ブルト軍も犠牲は出たが、アレキサンド軍の犠牲は酷かった。


最終的に、アレキサンド軍がアレキサンドリアまで撤退できた数は当初の部隊の半数だった。



グルンは、砦をルフトに任せ7000騎の騎馬部隊を編成し、ルミナ達と合流するため砦を出た。

アレキサンド軍を迂回して、敵に気付かれないよう夜陰に紛れて急いで移動した。

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