アレキサンド兵捕虜の口述調書
つい先日、うちのご領主様がでっかい戦を始めたという話を聞いた。
俺はただの農民だからよく分からなかった。
毎月の年貢を出しに行ったとき、年貢の取り纏めの軍人が「戦に伴って強制的に兵隊を集める」って言い出した。
もちろん俺は嫌だった。
畑はこれから手入れしないと、来年作物が実らなくなるし、家にいるのは爺さんと嫁さんと小さい子供が3人だけだから、そんな余力は無い。
その場に居た全員が反対した。
そしたら突然、取り纏めがその中で一番声がデカかった奴の首を刎ねた。
そして、こう言ったんだ。
「今、死ぬのと、戦に行くのどっちがいいか?」
笑いながら言ったんだ。
それ以上、俺らは何も言えなくなった。
「ついでに、奥さんと子供も特別施設で預かる。村に残った者は来月より3倍の年貢を拠出するように伝えよ。お前たちは30フル後、ここに集合する様に」
取り纏めの軍人がそう言った。
ついに気でも狂ったかと、皆が顔を見合わせたよ。
俺らは急いで家に戻って、事情を説明して、爺さんと嫁と子供を隣のブルト伯爵様の所に行くように話して、逃がした。
俺も逃げたかったが、村の外には兵隊が俺たちを監視してた。
嫁たちは森に隠れながら逃げる様に言った。
嫁たちを逃がす為、しょうがなく俺は集合場所に行った。
集合場所に行くと、さっきの半分ぐらいしか集まってなかった。
別の場所では逃げ出した家族がいて、男は首を刎ねられて、女は無理やり馬車に入れられ、どこかに連れて行かれてた。
とても領主のする事じゃねぇ。
幸い俺の家族は見えなかったから、うまく逃げてくれたと思う。
そして、簡単な皮の胸当てを着させられたかと思うと、すぐに連れて行かされた。
それがこの砦だ。
すごい厚い岩をくり抜いたような、継ぎ目のない砦だった。
そこで、窓に立って、変な筒を持たされた。
聞けば、これで敵を殺すらしい。
下の引き金を引けば弾が出るみたいなこと言ってた。
その日から、日が出てる間、ずーっと筒を持って立つ日が続いた。
敵の砦は、すごい煙を出した馬車みたいなのが、日に何度も往復して人と物を運んでた。
何か、でっかい声で「投降しろ」とか言ってたが、出入り口が閉められているから無理に決まってる。
というか、足枷を付けられてて、この場から自由に動けないから無理な話だ。
唯一の楽しみが食事だったが、これがまた不味い。
水増しされたルル一杯に、水一杯。
一日これだけ。
この量は囚人より酷いと思う。
そして、数日したら攻撃しろ!って命令が来たんで、とりあえず引き金を引いたんだ。
そしたらすごい音と煙で俺は目を回した。
何とか、正気を保って周りを見渡すと、何人か死んでいた。
敵の攻撃かな?と思ったら、筒が吹っ飛んでた。
どうやら、弾を出す薬の量が多かったらしい。
俺は震えが止まらなかった。
あの筒を俺が持っていたら、俺が死んでたんだ。
ガタガタ震えてたら、兵士が来てぶん殴られた。
「早く次弾装填し、構えんか!!」
俺は震える手で弾を入れて、構えた。
そしたら、向こうの砦の奥から光が見えた。
何か、凄い速さで飛んできたんだ。
そいつが砦の壁にぶつかったら、すごい音をたてて爆発したんだ。
岩みたいな砦の壁が簡単にぶっ壊れた。
俺は腰を抜かして立てなかった。
窓の外を見ると、すごい勢いでさっきの何かがこっちに向かって飛んできてたんだ。
ブルト伯爵には竜を使役する戦士がいるって噂に聞く、たぶんその竜のブレスだと思う。
じゃなきゃ、こんなに簡単に岩が粉々になる訳がない。
一発が俺の近くに当たって、俺は気絶した。
気がついたら、青空が見えていた。
辺りを見回すと、砦がボロボロになってて、敵が占領していた。
「降伏するっすか?」
女の獣人が俺を見つけて、笑いながら言ったんだ。
俺には女神様の微笑みに見えた。
俺は何回も大きく頷いて、ついていった。
そして、窓から見えた煙が出る馬車に乗せられて、遠くに行った。
着いたらもう夕方になってたが、そこで俺は目を疑った。
そこには、俺の近所に住んでた人がいたからだ。
他の人たちも、侯爵領から逃げ出した人たちだろう。
見渡す限り人の波だった。
話を聞いたら、ブルト伯爵が可哀想な俺たちを、安全なココに連れてきたそうだ。
北の大森林の木を使って、簡単な家まで建ててくれてた。
色々聞いて回って、何とか逃げ出した家族が見つかった。
俺は感動で涙した。
そして、ブルト伯爵のご慈悲に感謝し、今も家族とここに暮らしている。
ああ、うちの領主は何でこんな事しでかしたんだろう?
俺にはよく分からなかった。
ただ、とんでもない事に巻き込まれたのは間違いないだろうと思う。
早く戦が終わって欲しい。
そう、願うばかりだ。
次回更新は11/15です。よろしくお願い致しますm(__)m