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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
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難民

ブルト領が最前線の砦の強化を初めて2週間。

ある事件が起きた。

ブランシュタイナー領から大量の難民が砦に殺到したのだ。


各砦は混乱し、新兵器の一つである有線電話でルミナに連絡した。


「代表者を募り、エルンまで来てもらいなさい。それまで、安全な所で待機させておき、食事をこちら側で出しなさい」

ルミナは電話で指示した。


数時間すると、各砦から代表者と思われる人が10人ぐらい、兵士に連れだってルミナの屋敷に来た。


ルミナとルフトとグルンと洋介とシャドウは会議室に集まり、代表者を座らせて話を聞く。


「ブルト伯爵様。我らは皆、ブランシュタイナー侯爵の考えについていけなくなった哀れな領民です。どうか、ご慈悲をいただきたく参りました」

代表者の中で一番年寄の髭の長い老人が答える。


「一体どうなさったのですか?報告ではゆうに4万人を超える人数が来ていると受けてますが?」

ルフトが言った。


「現在ブランシュタイナー侯爵領では、総動員法なるお触れが出され、12歳以上50歳未満の男子かつ、15歳以上35歳未満の女子は全員、軍に入隊するよう強制されました。それ以外は食糧や兵器増産に勤め、年貢を3倍納めよという無茶苦茶なお触れです」

老人は泣きながら答える。


「愚かな…」

グルンは思わず呟いた。

その言葉に同意する様に洋介は深いため息をする。


「その上、子供まで強制的に育成施設に預けろというお触れまで出たので、耐えきれず、住み慣れた故郷を後にしました。男子は無理やり徴用されたため、ほとんどが女子供です。どうか、お慈悲を…」

老人はそこまで言うと、机に突っ伏して嗚咽と共に泣き始めた。


「わかりました。受け入れましょう」

ルミナは強い意志を瞳に宿し、言った。


「しかし、ブルト伯爵。この中にスパイが紛れ込んでいる可能性もあるのですよ?」

ルフトはミルトの事を思い出し、焦りながら言う。


「それでも、受け入れなければ道徳に反します。我々は正義なのです。カミント村付近に専用の集落を作り住んでもらいましょう」

ルミナははっきりと言う。


「ブルト伯爵。砦付近はいつ戦闘があるか分からないから、列車で急いで移動してもらおう」

洋介が言った。


「そうですね、電話でカミント村に連絡しましょう。ホント電話って便利ですね!」

ルミナは笑いながら言った。


「おお…ブルト伯爵のご慈悲に感謝いたします。間者なぞは我々でも警戒し、ご迷惑にならないようお約束します!!」

老人はとめどない涙を流しながら語った。


結局、4万人弱の人数と移動するのに2日を要した。


「しかし、食糧計画を修正しないといけませんなぁ」

ルフトは書類とにらめっこしながら言う。


「仕方ありません。彼らも好きで住み慣れた場所を捨てたわけでは無いのですから。憎むべきはアレキサンドなのです」

ルミナも雑務に追われ、忙しそうだった。


その頃、洋介はルールントにシャドウと共にいた。

隣には厳しい顔をさらに怖くしたガミルさんもいた。

3人は工場の奥に進む。


「ヨウスケちゃん。本当はもっと違う形で使いたかったわ」

ガミルは険しい顔でいう。


「本当に申し訳ありません。こんなことで、使うことなく平和利用できれば良かったんですが…」

洋介はガミルに謝罪した。


「憎むべきはブランシュタイナーよ。ホント許せない!!」

ガミルは腕を組み、顔を真っ赤にして怒る。


工場の奥に進むと洋介が何かを見つけた。


「よくできてます。まさしく僕が設計した通りの物だ」

洋介は目を輝かせた。


「本当はこれで空を遊覧飛行するつもりだったのに…」

ガミルは悔しそうに語る。


「今は戦時下です。仕方ないでしょう」

シャドウも苦々しく語った。


3人の先には大きめの複葉機があった。


鉄でできた複葉機は、エンテ型で翼の上に2台の推進式エンジンを付けていた。

まさに、鉄でできた、ライトフライヤー号のようであった。

しかし、エンジン出力はライトフライヤー号の20倍で、1台につき240馬力。

それが2台、機体中央よりの翼に着いていた。


着陸用の車輪もついており、機体が破損しないようにサスペンションが付けられていた。


機首には新兵器である10ミリ機関銃がむき出しで着いており。

弾が回収できるようにカゴまでついていた。

下の翼には爆弾が左右5個、計10個取り付けられるようになっており、合計100㎏までの重さまで耐えられるようになっていた。

乗員は2人乗り。


「機体が重くてあんまり運動性能が良くないの、高度も400モルメルトぐらいしか飛べないわ。やっぱりヨウスケが言ってた『アルミ』を見つけないと、これ以上の機体性能の向上は無理ね」

ガミルがため息をつきながら言った。


「十分ですよ。僕の世界の最初の飛行機は木と布で出来ていましたからね。初の飛行機が金属製で、400モルメルトの高さまで飛べるのですから」

洋介が機体を触りながら言った。


「かなり薄い鋼板だから攻撃されるとすぐに落ちちゃうわよ?」


「十分です。とりあえずは、レオパルトみたいに領内の哨戒をしていただくだけですから。まあ、相手が居なければですけど」

洋介が苦笑いを浮かべる。


「その、『飛行船』とかいうやつ?本当に船が空を飛べるの?」

ガミルが怪訝な顔で質問する。


「間違いなく飛びますよ。でも、原動機が無いから、アレキサンドが持ってるのは『気球』ぐらいかもしれません。しかし、備えは重要です」

洋介がガミルと見つめ言った。


「そうね。備えあれば憂いなし。本当に戦になっちゃいそうなんだもん。頭を使わないとね」

ガミルが笑いながら答えた。


「そうですね。本当は旅客目的に使いたいんだけどな~」

洋介は複葉機を見ながら呟いた。



洋介の計画していた全ての兵器が何とか間に合った。

後は、戦火の火ぶたが切って落とさるまでの間にどれだけ生産できるかにかかっていた。


「ガミルさん。辛いでしょうが、ブルト領を…いえ、世界をブランシュタイナー侯爵から守るため、製造の方をよろしくお願い致します」

洋介はガミルに深く礼をする。


「水臭いわよ。前にも言ったでしょ?あなた達と私たちはブルト領の為に働く同志なの。同志の契りは金剛石より硬いわよ」

ガミルは洋介とシャドウにウィンクをする。


普段は寒気を伴うガミルのウィンクだったが、今日は非常に頼もしく思えた。



それから、3日後。

ブランシュタイナー侯爵領からジェノブ王国のみならずケーニヒス帝国のすべての貴族に手紙が届いた。


『我は、決起する。この乱れきった世の中に新たな秩序をもたらす為に。ブランシュタイナー侯爵は死に、神聖アレキサンド大王に生まれ変わった。ここに大アレキサンドリア皇国を建国し、神聖魔法皇国と共に枢軸同盟を結び進軍する。我が同盟に組する者には永遠の繁栄を約束する。我が同盟に弓を引く者には永久の破滅を約束する。期間は7日。連絡なき場合は駆逐する』


最後に神聖アレキサンド大王のサインがあった。


ブルト領には特別にもう1通あり、


『ブルト伯爵、遅ればせながら爵位授与おめでとう。そして、ヨウスケとの婚約おめでとう。本当は周辺貴族として結婚式には参加したかったが、状況が変わったため、手紙のみで失礼する。停戦期間にはあと4年ぐらい残しているが残念ながら条約は破棄させてもらう。俺にここまで譲歩させたのはこのブルト領だけだ。褒めてやろう。様々な兵器を開発しているらしいが私に勝てるか?まあ、せいぜい頑張ってくれ。あと、婚約祝いに一つだけ褒美をやろう。お前の姉であるエレナは神聖アレキサンドリア城の地下3階の特別牢で幽閉されている。殺しはしない。特別に生かしといてやるから、早く救出に来てみろ。早くしないと精神がおかしくなるかもな』


最後にアレキサンドのサインがあった。

皮肉を込めているのだろう。

わざわざカミント村の紙で書かれて同封してあった。


ルミナは手紙を握りしめ、ワナワナと震えた。

「やはりアレキサンド…神聖アレキサンド大王ですか?こやつは本当に巧みに人の心理をついてくる。本当に人間か?」

シャドウが唸る。


「確かに、エレナさんを人質にとられてるから、うかつに本拠地攻撃できないよね」

洋介が困った顔をする。


「はい。しかも、それをわかっておきながら早く来いと挑発する。非常に卑怯な言い回しですな」

シャドウが顎に手を当て腕を組む。


「今は、エレナ姉さんの事より、目前の要塞です。ルフト!全軍に伝令。2日後、出陣する。各員準備を!」

ルミナは立ちあがり、凛とした声で言い放った。


「は!」

ルフトは敬礼をしてすぐに部屋を出た。



その日の夜。


洋介は部屋で準備をしていた。

服や作業着や防具など長期戦を考えて色々箱に詰め込んでいた。


やっと準備ができたのは夜遅くだった。



そして、ベッドで寝ようとしたとき、ドアが小さくノックされた。



洋介がドアを開けると、そこにはルミナが立っていた。


しかし、様子がおかしい。

暗くてよく分からなかったが、顔は赤く、モジモジと何かを考える様にしていた。

何より、体の大部分が透けて見えている薄いネグリジェを着ていた。


洋介は驚き、急いで部屋に入れる。


「何やってんの!こんなカッコで!!」

洋介はルミナの姿に驚いた。

そして、少し興奮していた。


「この度の戦は総力戦です。いつ旦那様が怪我をするか気が気ではありません」

ルミナは顔を赤らめながらも凛とした声で静かに語る。


「私は、この身に旦那様の魂が入れられないまま、戦に赴くのが非常に怖いのです。なので、式も挙げてないのに不謹慎かと思われますが…その…ごじゅひぁ…ご慈悲…を」


最後の最後で噛んでしまったルミナは手で顔を覆い、ブンブンと頭を振り、恥ずかしがった。

洋介はそんな光景に笑いを堪えていた。


そして、そんな、ルミナを愛おしく思った。


「…誰に入れ知恵されたの?」

洋介は優しく聞く。


「ミリムです。そういえば旦那様は分かるからって…」

ルミナは素直に言った。


「その服も?」


「そうです。次は私が使うからって……というか酷いです。私の知らない間に2人目を作って!」

ルミナは頬をフグの様に膨らませ、怒る。


洋介にしてみれば、その姿も非常に可愛らしく、心地よい反応だった。


ルミナは洋介のそんな顔を見つめ、さらに問い詰める。


「何とか言ったらどうなんですか?」


「好きだよ。ルミナ」


「にゃにゃ!にゃにいってるんデスか?」

ルミナは耳まで真っ赤にして壊れた。


洋介は有無を言わさず引き寄せ、抱きしめた。


そして、唇を奪う。


長い長い口づけに、ルミナの瞳は次第に欲情を宿していった。


静かに唇を離すと、洋介はシャドウに言った。


「できれば、出ていって貰うと助かるんだけど…やっぱり恥ずかしい」

洋介は照れる。


「私はいません。何も見ていません。記憶にもございません。どうぞごゆっくり」

シャドウは壁の中に消えた。


洋介がランプを消そうとすると、ルミナがお返しとばかりに洋介に襲い掛かる。


ランプを付けたまま、時間が惜しいとばかりに2人は絡み合い、ルミナ主導の長い口づけを始める。


絡み合う二人のベッドは音を立てる。


2人はついに、結ばれた。

※11/11題名変更しました。

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