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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
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王の視察 後編

じゃあ、さっきのは夢でいいのかい?兄さん。

『ああ、間違いない。ココが現実さ』


ココでは、俺は幸せになれるのか?

『ああ、お前の努力次第さ』


努力しだい?

『そうさ、悪夢を終わらせる努力をしないといけない』


悪夢はどうやって終わらせるんだい?

『簡単な事さ。弓で撃ってしまえば簡単に終わらせられるよ』


でも、いいのかい?

『逆になぜダメなんだ?アレは夢だぞ?現実には死にやしないさ。お前は思いっきり弓を引けばいい』


そうか…でも、なんだか悪い気が…

『お前は幸せになりたくないのか?』


でも…

『一生悪夢の中でいるのか?俺だったら嫌だけどな』


う~。わかった。俺やるよ。

『さすがは俺の弟だ。頼んだぞ』


ありがとう兄さん。

『…』


あれ…なんか、一瞬骨に見えたような?まあ、いいや。





リンデラン候はエルンに戻り、ルミナの屋敷の会議室でお茶を飲む。


「そういえば、妹は元気にしているか?」

リンデラン候はお茶を飲みながら洋介に聞いた。


「妹?どちら様ですか?」

洋介は見当がつかなかった。


「おぬしは知ってて手紙を寄越したんじゃないのか?はは!傑作だな」

リンデラン候は楽しそうに笑った。


「??」

ブルト家一同は顔を見合わせ不思議がった。


すると、会議室の扉が開く。


「お兄様!お久しぶりでございます!」

そこにはマリアンヌが居た。


ブルト家一同がその言動に驚く。


「久しぶりだな、マリアンヌ。どうじゃ?弟子の様子は」

リンデランは軽い口調で尋ねる。


「ミリという名前なのですが、素晴らしい才能を持ってますわ。若干6歳であれほどの力を蓄えられるなら、私なぞ引退しようかと思ったぐらいです」

マリアンヌは上品に受け答えをした。


「ああマリアンヌ、少し待ってくれ。…紹介しておこう、マリアンヌは余の腹違いの妹で、旧名はマリリン・フレーミング・ジェノブ・アテナと言う。今は修道名で生活しているし、姿もこんなじゃからわからんか」

リンデラン候は笑顔で紹介した。


「こ…これは知らなかったとはいえ、失礼をいたしました。そのような方がミリの為に来ていただいたとは…」

洋介は驚きながらも何とか言葉を紡ぎ出してリンデラン候に謝罪する。


「よい。マリアンヌはすでに成人したので、王家から独立しクリン教に席を置いておる。契約をしたのであれば存分に鍛えてやってくれ」

リンデラン候はあっさりと言った。


「私は王の妹として扱われるのは嫌ですので、今まで通りよろしくお願い致します」

マリアンヌは上品に一礼した。


マリアンヌも交えて、しばらく談話していると、外が妙に慌ただしくなる。

そして、ギギが唸りだした。


「ご主人様。殺気を感じます。気を付けてください」

ギギは唸りながら言う。


突然、会議室の扉が開く。


そこには王の家臣が3人いた。

しかし、全員が剣を抜き、目が赤く、まるで誰かを殺しに来たように殺気を放っていた。

皆が急いで席を立ち、部屋の奥に移動した。

シャドウも洋介と融合し、盾となる。


「愚か者!!錯乱したか!!」

リンデラン候は叫ぶ。


「サクラン?コレハ天誅!」

「ソウダ!世直シ!」

「リヒト王デハ、世ガ腐ル!」

男たちは口からは家臣とは思えない言葉を吐く。


「リンデラン候!彼らは操られています!」

洋介は叫ぶ。


「とにかく!外へ!グルン!突破口を開けるぞ!」

ルフトも叫ぶ。


「おう!」

グルンは、素手で家臣に襲い掛かる。


「「グウゥゥ!ガゥ!」」

ギギとララも毛を逆立て、家臣たちに襲い掛かった。


3人が家臣たちの動きを止めている間に、洋介達に守られて、リンデラン候達は外に出た。


「シャドウ!魂の会話か!」

洋介は周囲を警戒しつつ、シャドウに尋ねる。


「間違いありませんが、今回は会話を切断できません!たぶん近くにリッチが居ます!」

シャドウが叫んだ。



全員が外に退避した。

後を追うように、グルンやギギとララも出てくる。


「奴ら!強いっす!人間の力じゃないっす!」

ララが叫んだ。

腕には若干の傷跡があり、血を流していた。


「ああ、間違いないな。俺の拳を顔で受けて、気絶しない奴を初めて見た」

グルンが冷静に語った。


「ララ!大丈夫!」

ルミナが傷を見つけ、叫んだ。


「大丈夫っす!かすっただけっす!」

ララは腕を動かし、ニカッ!っと笑った。


「ウォール!」

マリアンヌの足元に居たミリが叫ぶ。

洋介達の周りに光の壁が展開された。


その、光の壁に跳ね返されるように矢が弾かれる。


矢はルミナの屋敷の屋根の付近から放たれた。

そこには、鬼のような形相のミルトが居た。


「ミルト!」

ルミナが叫ぶ。


「あいつもか~。こりゃ厄介だ!」

洋介が頭を抱える。


「ご主人様。ミルトの隣、リッチです!」

シャドウが盾のまま叫んだ。


皆が屋根を見る。


「ウソだろ!」

ルフトが恐怖した。


「そんな馬鹿な!」

グルンが驚き目を見開く。


「モ…モルト…さん」

ルミナが驚き口を手で押さえた。


「騙されてはいけません!アレは幻影!正体はリッチです!」

ノイアが叫んだ。


「姿を現しなさい!神の威光!」

マリアンヌはご神体をモルトらしき人物に向ける。

ご神体から強烈な光が放たれた。


その光はモルトらしき人物を包み、真の姿を見せた。

そこには、骸骨の魔導師が居た。


「さすがはクリン教の聖女ですな。しかし、それでは、私には勝てんぞ!」

リッチは顎をカタカタ鳴らしながら言った。

物理的な距離に関わらず、すぐ近くで聞こえた。


上空から矢が飛ぶ、そして、男たちの斬撃が始まる。

グルンやギギ、ララが矢をよけながら殺さないように男たちと戦う。


「クソ!屋根の上では手も足も出ん!」

グルンが渋い表情で叫ぶ。


洋介達が武器を取ろうと少し動くと、リッチからファイヤーボールやアイスボールなどの魔法が飛ぶ。

魔法は正確で、洋介達はウォール内から身動きが取れなかった。


「くそ~、これじゃ千日手だぞ」

洋介が苦々しく語る。


「ご主人様。致し方ありません。ヤツを呼びましょう」

シャドウが洋介に言う。


「ヤツって?ビースト?」

洋介はすっかり残りの3体のビーストが居る事を忘れていた。


「そうです。ヤツは融通が利かないバカですが、ああいう死霊系にはめっぽう強いので最適だと思います」

シャドウがため息をつきながら言う。


「番犬?」


「そうです。めんどくさがりで餌が無いと何もしませんが致し方ありません」

シャドウのため息が深くなった。


「そんな、設定だったっけ?まあいいや、じゃあ、呼ぶよ」


ヤツの設定はこうだった、『3つの首を持つ冥府の番犬。その姿は虎の様に大きく、主人には忠義を尽くし、炎を吐き、24時間眠ることなくその地を守る。ペナルティとして、頭が良くなく、あまり働かない。甘いものが好き』だった。


洋介は、ウォールの前にでて叫ぶ。


「いでよ!冥府の番犬!ポチ!」

洋介は、やっぱり適当に名前を付けるのは良くないなぁと思った。

名前の由来は昔飼っていた柴犬の名前で、中学1年生の時に亡くなったので代わりにつけたのだ。


洋介の近くの空間が歪む。

穴のような空間から、虎のような大きさの3つ首の動物が現れた。


「ゴシュジンサマ。ハラヘッタ」

片言の日本語で最初に発したセリフがそれだった。


「やはり、お前は空気と言うのが読めないのか?」

シャドウは深い嫌悪感を言葉に宿して語る。


「シラン」

ポチはそっけなく言った。


洋介が召喚した魔獣に皆が驚き、固まった。


「とりあえず、食べ物は後であげるから、アイツ倒せる?」

洋介は苦笑いを浮かべポチに言った。


「ラクショウ。シリョウ、ヨワイ」

ポチは口から炎を見せつつ唸り声を上げた。


リッチは明らかに動揺し、驚く。


「そそそ!それは、まさか…冥府の」

リッチは明らかに逃げ腰だった。


「ホットケーキ10枚。ゴシュジンサマヨロシク」

ポチは言った。


「ホントに…ご主人様に代償を要求するとわ…ビーストとしての誇りは無いのか?」

シャドウの深いため息が聞こえた。


「わかったわかった。じゃあ、よろしく」

洋介は、シャドウをなだめ、ポチに言った。


「リョウカイ」

その言葉を最後に、ポチは駆ける。


まるで大地を走るように、凄い速さで空を駆け、逃げるリッチに覆いかぶさる。

ミルトがポチに向かって矢を放とうとするが、三つあるうちの1つの顔が、今にも襲い掛かるように吠え、威嚇する。

操られているミルトはその迫力に負け、腰を抜かした。


リッチの最後の時が来る。

「やめろーー!!ファイヤー…!」


リッチが魔法を唱える瞬間。喉から上をポチが噛み千切った。

一瞬のうちに骸骨の顔をバリバリと噛み砕き、飲み込む。


ポチは腕や3つの顔を器用に使い、リッチを屠る。


ポチが駆け、リッチを屠るまでの時間はわずか2フル。


リッチは死んだ。


「神への対話!」

マリアンヌはすかさず操られていた者に神聖力を放つ。


「かみへのたいわ!」

ミリもミルトに神聖力を放った。


しばらくすると、4人は倒れた。




「この度の視察は誠に為になった」

リンデラン候は馬車の前で洋介とルミナに握手をしていた。


「本当に家臣がご迷惑をおかけしました。本当は打ち首でもおかしくないのに、ご慈悲をいただけるなんて」

ルミナがリンデラン候をまっすぐ見つめ感謝する。


「よい。我が家臣も操られていたのだ。しかし、リッチは死んだ。全てが終わったのだ」

リンデラン候もルミナをまっすぐ見つめ言った。



「しかし、洋介が召喚まで出来るとは思わなかった。しかも、消えずに存在してるとは、余の軍に居る召喚力の持ち主とは少し違う力のようじゃの?」

リンデラン候は洋介に言った。


「シャドウも含めて、レオパルトやポチは僕の仲魔ビーストです。家臣みたいな物だと思っておいてください」

洋介ははっきりと答える。


「その仲魔ビーストが、ホットケーキを貪り食うとは…情けない」

シャドウは頭を抱え、ポチを見る。


ポチは先ほど、ルミナの給仕に作ってもらったホットケーキらしき物を満足そうに食べている。


「ウマイ、ウマイ」

3つの頭にそれぞれ10枚づつ。器用に一枚一枚食べていた。

全てにたっぷりと蜂蜜を付けた檄甘のパンケーキだった。


「なんにせよまた、借りが出来た。アカデミアの連中を派遣するときに、インフラ整備の支度金と、この度の褒美を持っていくようにする。ぜひ受け取ってくれ」

リンデラン候は握手を求める。


「はい。ありがたく頂き、備えておきます」

洋介はまっすぐリンデラン候を見て握手をした。


「おぬしは話が早くて本当に助かる。余の家臣に迎えたいぐらいだ」

リンデラン候は嬉しそうに言った。


「申し訳ありません。僕はルミナの旦那様ですので、その話はご遠慮いたします」

洋介は笑いながら言う。


その言葉を聞いて、ルミナは顔を真っ赤にした。


「ははは!本当に仲が良いのう。羨ましい限りじゃ。結婚式はぜひ呼んでくれ。必ず出席しよう」

リンデラン候は楽しそうに笑った。


「ありがとうございます。ブランシュタイナー侯爵との件が済み次第、挙げようと思いますので是非お願いします」


「楽しみじゃな。では、皆の者。大儀であった」

リンデラン候は別れを惜しむようにゆっくりと手を振りながら馬車に乗り込んだ。


ブルト家一行は馬車が見えなくなるまで見送った。



「この、大馬鹿者!!」

ミルトはルフトの鉄拳制裁を頭上にくらった。


「申し訳ありません。本当に申し訳ありません」

大きなタンコブが出来ているのが見えるが、それよりもミルトは全力で謝罪していた。


ほどなくして起きたミルトは、熱も下がり、会議室に連れてこられた。

事の顛末をルミナから聞くとミルトの顔はみるみる青くなり、耐えきれず土下座した。

そして、この騒ぎである。


ブルト家の面々が会議室で、ミルトを囲む。


「閣下に弓を引くとはオルメイヤー家の恥だ!」

「貴様の精神が愚劣だからこのような事態になったのだ!」

「見損ないました!」

「ば~か」

「馬鹿っすか?私より馬鹿っすか?」


それぞれがミルトに罵詈雑言を投げかける。


そんな姿を見た洋介は、可哀想になってきた。


「まあまあ、リッチの仕業だったんだし、その辺で矛を収めませんか?」

洋介が皆に投げかける。


「しかし!それではこいつの為になりません!」

ルフトが血管を浮かび上がらせながら言う。


「では、しばらく僕の配下になって働いてもらうという事で許してくれませんか?」

洋介が言った。


「ヨウスケさんがそこまで言うならしょうがない。ミルト!ヨウスケさんに感謝するんだぞ!」

ルフトが折れた。


その言葉を皮切りに、皆が口々に「しょうがない」と言ってルミナ以外は部屋に戻った。


「ほら、ミルトさん。顔を上げて」

洋介はミルトに語りかける。


「はい…すいません」

ミルトは顔を真っ赤にして顔を上げた。


「旦那様。ミルトをどうなさいますの?」

ルミナが洋介に質問する。


「ちょっ!そんな風に呼ぶ仲なの!?」

ミルトが驚く。


「そうです!バカミルトには現実を知ってもらいます!ねー旦那様?」

ルミナは洋介に抱き着いた。


ミルトは口を開けて固まった。


「まあまあ、僕はミルトさんに砲車の指揮を任せたいと思ってるんだ」

洋介はコントの流れを断ち切るため、本題を切り出した。


「砲車の指揮ですか?何を指揮するんです?」

ルミナは不思議な顔をする。


「重要な仕事だよ。アレは射程が長いから正確な軌道計算が必要なんだ。今の測定器は簡易的な物だから誤差が大きくて危ないからね」

洋介は語る。


「そんな計算は、僕は知らないよ」

ミルトは何とか復活し答えた。


「もちろん勉強してもらう。明日からオルファンに頼んで勉強だ。弓部隊の中から30人ぐらい頭の良い人を厳選して勉強してもらいたい。算術が得意だから大丈夫だよ」

洋介は笑いながら握手を求める。


ミルトは考える。


そして、洋介の手を握り返した。


しかし、握手する手とは反対方向に顔をそむけ、不貞腐れていた。


「僕はお前を認めてないからな!この仕事は皆を見返すチャンスだと思ったから受けるだけで、他意はないからな!」

ミルトは吐き捨てる様に言った


『おおー。デレた。ツンデレだよ、ツンデレ。ミルトが女だったら3人目のフラグだよ!』

洋介は頭の中では不謹慎な事を思いながら笑う。


「よろしくね!」

洋介は満面の笑みをミルトに返した。


こうして、王の視察の1日が幕を閉じた。

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