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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
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王の視察 前編

「ああ、だるい」

弓部隊の訓練をしていたら急に熱が出てきた。


今日もベッドで寝ている。

そろそろ、風呂に入りたい。

髪の毛がベタベタだ。くそ。


「3日も熱が下がらないっておかしくないか?」

誰も返事が無い。

そりゃそうだ。俺は独身で、つい最近フラれたんだ。


思い出すだけでもイライラする。


あまつさえ仕事まで押しつけやがって、何が勇者だ!

「疫病神だよ…たく!」

つい口から悪態がでる。

これも俺の悪い癖だとルフト兄さんが言ってたっけ。


でも、モルト兄さんもかなりの毒舌家だったぜ?


『なんだ、そんな風に俺を見てたのか?』

あれ?…なんで?…ウソだろ!?


『何が嘘なんだ?』

いや…だって、兄さんはもう!


『そうなのか?それは夢じゃないのか。きっと』

いやいや、そりゃないって!だって俺の目の前で矢に撃たれたし。皆を逃がす為に囮になって…首が…


『おいおい、泣くなよ。俺はここに居るし、お前に話しているだろう?首はちゃんと有るぜ』

だって…


『お前こそ変な夢を見ていたんじゃないのか?』

夢?


『そうだよ。愛しのルミナちゃんを取られた夢だよ』

いや、夢じゃなくて、現実だよ。ルフト兄に怒られたし。


『だから、それは夢じゃないのか?ほらほら!そろそろ、起きろよ。愛しのお姫様がお待ちだぜ』




「ミルト…ミルト!大丈夫?」

ルミナはミルトを心配そうな顔で見る。


「あれ?…モルト兄は?」

ミルトの目は虚ろで声も小さく、錯乱しているようだった。


「本当に大丈夫か?…熱は……うわ!まだまだ熱い!」

ルフトは大柄な手で額を触る。非常に熱かった。


「本当に居たんだって…夢だったのかな?」

ミルトは完全に混乱していた。

熱のせいだろうとルミナとルフトは判断する。


「お嬢様。今日は私が食べさせます。明日は大事な閣下が来訪される日。ご準備をしておいてください」

ルフトは深く一礼する。


「本当は看病してあげたいんだけど…ごめんね。ミルト」

ルミナは心底申し訳なさそうに言った。


「いえ、昨日は三食食べさせていただきました。それだけでも十分なご慈悲をいただいております。ご病気がうつると明日に影響が出ますので」

ルフトはにこやかに答える。


「本当にごめんなさい。早く病気を治してね」

ルミナは手を掴み祈る。


ミルトは熱の為に、何かうわごとを言っているようだった。


「では、準備をしてきます。ルフト。よろしくね」

ルミナは小声で言った。


「は!お気を付けて」

ルフトは立ち上がり敬礼をした。



「ほら…やっぱりモルト兄さんは生きてるじゃないか…え?閣下を?なに?」

小声でぼそぼそ言うミルトの言葉は、二人には届かなかった。




王都への街道沿いに3台の馬車が通ってきた。

その馬車は大きく。一目で高貴な人が乗っているのだというのが分かった。

その、真ん中を通るひときわ豪華な馬車に、王は乗っていた。

今は極秘の為、リンデラン候と名乗っている。


その馬車が、ブルト伯爵の屋敷に入り、出入り口で止まった。


その出入り口にはブルト伯爵の臣下、手伝いが一堂にそろっていた。

服装も、最上級の人を迎える服装で統一しており、馬車が到着すると、全員が息を潜め微動だにしなくなった。


馬車の扉が開く。


全員が一斉に礼をして迎えた。


「苦しくない。表を上げよ」

リンデラン候が馬車から降り、澄み切った声で言った。


「リンデラン候におきましては、ご機嫌麗しゅう存じ上げます。本日は遠路はるばるようこそお越しくださいました。では、中へ」

ルミナが先導する。


「ブルト伯爵。わざわざ出迎えすまない。せっかくのおもてなし申し訳ないが、時間が限られておるいるので、さっそく蒸気機関車なる乗り物を見てみた。良いか?」

リンデラン候はルミナを制止して言った。


「もちろんでございます!では、我が臣下が馬で先導します。恐れ入りますが、馬車に乗り、ついてきていただければ幸いです」

ルミナが言った。


「よい。余も馬に乗ろう。ブルト伯爵領の馬は良い馬だからな。馬車より快適だ」


「御褒めにあずかり恐縮いたします。では、我らについてきてください」

ルミナは屋敷の近くにある馬小屋へ行った。



ブルト伯臣下一同は馬に跨り、王の護衛と共に駅に向かった。


駅には特別編成で停車していた蒸気機関車が止まっていた。


「おお!これが蒸気機関車という物か!!面白い!!すごい煙だ」

リンデラン候は機関車の周りを楽しそうに見ていた。


ぽー!と汽笛が鳴る。


「この音は?」

リンデラン候はルミナに尋ねる。


「発射2フル前の合図です。さあ、乗ってください」

ルミナは先導する。


「そうか!なるほど…」

リンデラン候はウンウンと頷きながら客車に乗り込んだ。



全員が乗り込んだ頃合いを見て、ぽー!ぽー!と二回汽笛が鳴る。

そして、蒸気機関車は走り始めた。

蒸気が抜ける音が規則正しく鳴り、段々と早くなっていった。


「おおー!動いておる!部屋ごと全部動いておるぞ!!素晴らしい」

リンデラン候は目を輝かせてキョロキョロと落ち着きなく見ていた。


「閣下。突然揺れる場合もございますので、できれば、椅子に座ってくださいませんか?」

洋介が見かねて進言する。


「おお。ヨウスケ。悪かった。すぐ座ろう」

リンデラン候はすぐに座った。


「ありがとうございます。閣下」

洋介は座りながら一礼する。


「よいよい。当たり前の事じゃ。…色々話は聞いたぞ。おぬし、相当できるの」

リンデラン候はニヤニヤしながら小声で洋介に話した。


「何のことでしょう?」

洋介も笑いながら答える。


「はは!さすがは伝説の竜の主人。冗談も心得ているようだ」

リンデラン候は面白そうに言う。


「この蒸気機関車といい、カミント村の紙といい、学校といい、ことごとく良い政策じゃ。褒美を授けたかいがあったぞ」

リンデラン候はニカッ!と笑いながら言う。


『なんというか、本当に話しやすい王様だな』

洋介は思う。


「ぜひ、この蒸気機関車を王都まで延伸してほしい。費用は全てこちらが持つ。できるか?」

リンデラン候は手を差し出した。


「もちろんです!ルールントの鍛冶ギルド長のガミルも喜ぶでしょう」

洋介はその手を掴み、握手をした。


その姿にルミナはにっこりとほほ笑んだ。



外を見ると、木々が勢いよく流れていた。丁度ルールントまで10フルといった所だ。


「…ところでのう、ヨウスケ。こんな噂を聞いておるか?」

窓の外の風景を楽しんでいたリンデラン候が不意に洋介に話しかける。


「何でしょう?」


「東の大国ケーニヒス帝国に弓を引いた国がおる。名を神聖魔法皇国という。ブルト伯爵は聞いたことは?」

リンデラン候は無表情で車窓を眺めていた。


「いえ…残念ながら。それがどうしたのですか?」

ルミナは真面目な顔になる。


「うむ。この皇国は全て魔導師の軍団を率い、帝国に宣戦布告をした。『失われた約束の大地を取り戻す為の自衛の戦争』と各国には文章を出してきた」


「『失われた約束の大地』?それはどういう…」


「よくは分からん。ケーニヒス帝国も混乱しとるようだ」


「それは、不可解ですね」


「じゃろう。しかも、魔導師軍団が強く。現在、ケーニヒス帝国も連戦連敗らしい」

リンデラン候は苦笑いを浮かべる。


「東の大国ともあろう大帝国が連戦連敗とは穏やかな話で無いですね」

洋介が驚いた。


「余も不思議でな。ケーニヒス帝国といえば皇帝が全てを支配し、強大な常備軍で他国に睨みを利かせる国だ。少々の軍では歯が立たんはずだ。しかしな…」


「しかし?」


「どうも、裏でブランシュタイナー侯爵が技術供与している節がある。奴は、帝国近くの貴族領を脅し、従わせ、侯爵領から地続きで帝国領まで行けるようになった。そして、数か月後。神聖魔法皇国なる国が、帝国領の末端に出来た」

リンデラン候は苦々しく語った。


「実に怪しいですね」

洋介がため息を漏らし語る。


「とにかく、領境の警備を注意するのだ。確か、すごい要塞を作っただろう?アレは恐ろしいぞ」


「リンデラン候に届け出は?」


「無い。本来は無許可で砦を作ることも、街道を封鎖することもご法度なんだが…元老院がな」

リンデラン候は苦笑いを浮かべる。


「そうですか…」

ルミナはうつむいた。


「力のない王で迷惑をかける」

リンデラン候は謝罪した。


「とんでもございません!お顔を上げてください!リンデラン候の、そのお言葉だけでも我らの励みになります」

ルミナは驚き、まくしたてる様に話した。


「すまない…そして、十二分に警戒してくれ。極秘裏だがすでに動きがあった。数ヶ月以内にアレキサンドは動くであろう」

リンデラン候はルミナと洋介に近づき小声で言った。


「「!!」」

二人は驚き、口を押える。


「はは!さすがは婚約を交わした夫婦。反応がそっくりだ!」

リンデラン候は先ほどの言葉を隠すように大げさに笑った。


「ご、御冗談を…」

ルミナは苦笑いを浮かべる。


機関車は駅に近づき、ぽー!と汽笛を鳴らした。


「そろそろ着くかな?案内役頼むぞ、ヨウスケ」

リンデラン候は立ち上がり洋介に言った。


「お任せください。ここがルールントです。」

洋介も立ち上がる。


列車はルールントに着いた。

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