立った!フラグが立った
「あ、あの、サトウ様。質問よろしいですか?」
ルミナは本陣に向かいながら洋介に質問する。
「ああ、洋介でいいよ。なに?」
「ヨウスケさま?姓の方で呼ばれるのがよろしいので?」
「ああ、申し訳ない。僕の民族では、名は姓が先で、名前が後なんだ。だから佐藤が姓で洋介が名前なんだよ」
「そうだったのですか。不思議な民族なんですね」
「あと、様付けも無しでお願いできれば助かる。身分は高くない生まれだから慣れて無くて…」
「わかりました。ヨウスケさんでお呼びします。私もルミナとお呼び下さい」
ルミナは洋介に一礼する。
「で、話を元に戻すけど。質問ってなに?」
「ああ、ヨウスケさんはどちらから来られたのですか?不思議な格好といい、名前といい私たちでは聞いたことがない風習ですので。噂に聞く、東の大国ケーニヒス帝国なのでしょうか?」
「いや…何というか…」
洋介はこまる。
「どうしました?ヨウスケさん?もしかして、私はまた失礼なことを言いましたか?」
ルミナは少し涙目になっている。またミスをしたのではないか?そんな子犬のような顔だった。その顔は非常に可愛らしかった。
「ああ!いやいや。信じて貰えるかと思ってね…実は僕は、遠い星から来たんだ」
洋介は真顔で言った。しかし、かなり恥ずかしく。少し顔が赤くなる。
「ええ!!星ってあの星ですか?いったいどういう……からかってます?」
ルミナは少し混乱したが冗談と思ったようで少しふくれている。ぷんぷん!という擬音が似合いそうな顔つきで、その顔もまた可愛らしかった。
「いや、冗談ではなくて…本当に違う星から来たんだよ。まあ、信じられないよねぇ。僕自身もまだよく分かってないし」
洋介は苦笑いを浮かべる。
「う~ん。では、何という星の、何という国から来たのですか?」
「えっと、地球っていう星の日本という国から来たんだ」
「そこはどんな所ですか?」
「まあ、平和な国だね。あと科学技術がすごく発達していて、一応ほかの星までいける技術はある。まあ、僕は違う方法でこの星に来たけどね」
「すごい…この服も不思議で一瞬にして前が塞がれてビックリしました」
「一応その技術は僕らの星では200年ぐらい前の技術なんだけどね…」
「200年前!!へ~そんなに前の技術なんですね」
ルミナは目を丸くして答える。
「だから、すごいドラゴンとかを使役しているのですね!?すごい国なんですね!!」
「えっと…その辺はそういうことにしておくか、ハハハ…」
「??」
洋介は説明が若干疲れたので、嘘をつくことにした。
「僕からも質問いいかな?」
「はい。何でしょう?」
「この国は何という国なのかな?そして君たちを襲っていた人たちとの関係性を教えてくれる?」
「はい、ここはジェノブ王国の西側にあるブルト伯爵領中央のオクト草原です。そして、先ほどの軍隊は隣の領土である、ブランシュタイナー侯爵軍で同じジェノブ王国に属している貴族です」
「同じ国の貴族なのに争っているの?」
「貴族と言っても独立国のような物ですから、よくあることです。私たちの領土は鉱物資源と広い平野が多く、貧しくはありましたけど、美しい平和な領土でした」
ルミナの瞳に涙がたまる。
「しかし、ブランシュタイナー侯爵から、末娘である私の婚約者が来てから、全ては変わりました。私たちの政に口を出してきたのです。挙げ句の果てにブランシュタイナー侯爵が、兄を差し置いて婚約者を次期領主にしろと圧力をかけてきました。たぶん、領土の併合を目論んでいたのでしょう」
ルミナの目から涙がこぼれる。
「そして、そいつらのせいで両親は毒殺されました。婚約者は、その混乱に乗じて次期ブルト伯を宣言しようとしたので、兄たちと共に処刑しました」
「それで、ブランシュタイナー侯爵軍から攻撃されたと?」
「はい。表向きは無実の罪で婚約者が殺された事への報復でした。しかし、処刑の数日後には数万の軍勢がブルト領になだれ込んで来たので、全ては計算されていた物だと思います」
「まさしく、そうだろうね」
「はい。ブランシュタイナーの精強な軍隊を前に我々の力は弱く。1ヶ月ほどでわがブルト領は約半分を彼らに奪われました。…その…途中で……あ…兄も…優しかった兄達も……全員…戦死しました。…………あっ!」
ルミナの目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
洋介はポケットからハンカチを取り出し、涙を拭く。
ルミナは驚き戸惑ったが、心が折れて洋介に抱きついた。
「うぐっ!!ぐすっ!ぅわぁぁぁん!!うぐっ!うぐ!」
嗚咽を押し殺すように、鳴き声を殺すように洋介の体に顔を押し込め、周りに聞こえないように泣いた。
洋介は、立ち止まり、優しく頭をなで、腰に手を回し体を支える。
『細い』
こんな細い体で先頭に立ち、戦っていたのだ。気丈に。弱音を見せず。両親や兄を殺されても前に立ち続けた。
洋介が教えていた女子高校生にはこんなに強い子はいなかった。それだけ、日本は平和なのだ。もちろんいい意味でだ。
「うぐっ!や…優しいんですね。えへへ!ありがとうございます。元気が出ました!」
ルミナは少し顔を上げ、涙目のまま洋介に笑顔を作る。その顔は可憐で非常に美しかった。
『いかんいかん!何を考えてるんだ俺は!!冷静に…冷静に…』
洋介は深く深呼吸をする。
しかし、その判断は間違っていた。ルミナが密着しているため、美女特有のすばらしい香りが胸一杯に入ってきてしまった。
『うう!!ミスった!!冷静に…冷静に…』
洋介はリビドーに大量の血の流れを感じながら理性で耐えた。
高校時代の鬼のような部活の顧問の顔を思い出して、浅く早く息をした。
「??どうしました。ヨウスケさん?」
ルミナはキョトンとなる。涙目にこの顔は反則だ。抱きしめたくなりそうだった。
「いやあ!何でもないよ。ごめんね!汗臭いでしょ?ハハハ…」
洋介はすこし残念な気分だったが、ルミナを少し離した。
「いえ…その、あの、」
ルミナも抱きついたことを思い出して、顔を赤らめる。
洋介の心臓は早鐘のようにドキドキしていた。
『なんだこの恋愛フラグは!破壊力が強すぎる!!』
洋介は少し心を落ち着かせるため話題を変えた。
「それで、これからどうするの?」
「できれば、停戦に持ち込みたいのですが…戦力差がありすぎて、いままで全て断られていました」
「ふむ、では、ご主人様が協力しましょうか?」
「ええ!!」
「ほ、本当ですか!?」
突然のシャドウの提案に、洋介は驚き、ルミナは喜んだ。
「ええ。ただし、本陣での会議など出席させていただき、皆さんの意見を聞いてから、こちら側で協議をして協力するかしないかを決定させていただきます。いいですか?」
「はい!!是非参加して下さい。よろしくお願いします」
ルミナは深々と一礼して歩き出した。
それに、つられて洋介とシャドウが歩き出す。
『シャドウ!どういうつもりだ!!』
『簡単な事です。とりあえず停戦させ、情報を得ようと思いまして。また恩を売りつつ、ブランシュタイナーの様子を見て、次の手を考えようと思います』
『次の手とは?』
『色々有りますが…そうですね、ルミナとご結婚とかいかがでしょうか?』
洋介の顔が瞬時に赤くなる。
『冗談が過ぎるぞ!』
『冗談ではございません。ご主人様。この地で伯爵の地位を得るのもよろしいかと思われます。足場には丁度良いかと。それに、まんざらでも無いでしょう?』
『おいおい、ルミナさんの気持ちも考えてやれよ』
『伯爵令嬢といえども所詮、他人なので私の知りうることではありません。ご主人様の御心一つで結婚してもよいかと思います。それに、先ほどの様子では、あちらもそんな雰囲気のように見られますが?』
シャドウは鋭い。洋介も何となくそんな感じがした。
『まあ、これぐらいの軍勢どうとでもなります。いざとなれば皆殺しにしてしまえば良いのです』
『おいおい』
洋介はシャドウの考えにあきれる。
『まあ、停戦には賛成だな。結婚の事は置いておいて、相手の顔も見てみたいし。判断はそれからでもいいだろう。そのように動くぞ』
『御心のままに』
心の作戦会議が終わると、本陣が見えてきた。
「ここです。ようこそブルト家本陣へお越し下さいました。勇者様!」
ルミナは洋介に向かって一礼し笑顔を向けた。
10/25大幅改稿