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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第4章 ブランシュタイナー侯爵の動乱
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ブランシュタイナーの要塞

「…というわけで、婚約しました!」

ルミナが会議の席でニコニコしながら言った。


「異議あり!異議あり!異議あーーーり!」

満場一致で拍手が鳴る中、いつもは冷静なミルトが叫びながら立ち上がる。


「何か?」

ルミナは非常に冷たい視線を送りながらミルトに答える。


「何故この時期なんですか?というか、まだまだ、ブランシュタイナー侯爵の脅威は去っていません!時期尚早かと思います!」

机をバンバン叩きながら反抗するミルト。

本心では違うのは、多くの人が知っている事であった。


この会議の席にいる大多数の参加者は思っていた。

『見苦しい…』と。

特に、ミリムとルフト、グルンの目が完全に切れていた。


オルファンはあまり事情がつかめずキョロキョロと顔を見合わせて慌てている。


参加者の中でノイアが一番冷静で、腕を組みながら目を瞑り微動だにしない。


「おい!ミルト。いい加減にしたらどうだ?見苦しいぞ」

皆の視線を代表してルフトが強い口調でいさめる。


「いや…しかし!ルフト兄さんも賛成なの?」

ミルトがなおも反抗する。


「お前がルミナお嬢様に惚れているのは、周知の事実だ。しかしな、お前は家臣としての立場があるだろう?ご領主さまの決定に異議を唱えるなら、それ相応の理由が必要であろう?」

グルンがはっきりと言った。


「!?…いやいや、しかしですね、時期が」

ミルトは、『バレてたの?』というような驚きの表情を浮かべ、顔を真っ赤にしながら、なおも反論する。


「だから式自体はブランシュタイナー侯爵の件が片付いた後だと言っておろうが!馬鹿者!!」

とうとう、ルフトが切れた。


ルフトの怒声はエルン全体に響き渡っているのではないかと思うぐらい大きな声で、洋介は耳が痛かった。

現に、オルファンを、ミリムは耳を塞ぎ、目を回している。


さすがのミルトもルフトの叫びには勝てず、シュンとなってうつむき、座る。


「では、よろしいですね?改めて、異議のある人は挙手をしてください」

ルミナはニコニコしながら言った。


無言の時が過ぎた。


「では、次の議題に移ります」

ルミナは冷静に言った。


洋介は『女性は怖い!』と思った。


「次に、領境にある、ブランシュタイナーの砦が完成したと報告が入りました。ルフト、概要を説明してください」

ルミナは先ほどまでと一変して、勤めて冷静に話す。


「は!街道沿いに建築された砦は、明らかに我々を意識して作られており、4重の堀で周りを囲み、街道を封鎖しています。堀は、空堀と川から引いた水堀を交互に設置しており、深さは約1モルメルト。幅は2モルメルトと非常に大きい堀です」

ルフトも先ほどと違い、冷静に答えた。


「4重の堀か…厄介だな。馬が使えん」

グルンが呟く。


「さらに、砦自体も大きく、高さ6モルメルトで壁の様にそびえています。また、多数の筒が前方と上空に準備され、レオパルト対策をしていると思います。筒は何を使うのか不明ですが100本以上あり、金属製で、おそらく矢を射るのではないかと思われます」

ルフトが語る。


「それって銃じゃないの?」

洋介は言った。

金属製の筒なんて武器は1つしか思い浮かばない。

『この世界でもあったんだ』と驚いた。


「ジュウとは何ですの?」

ルミナが不思議そうに答える。


「僕の知っている『銃』は、金属製の筒から火薬の力を使って、高速で金属の弾を打ち出す武器の事だよ。弾は小さくて、早いから殺傷能力が高いんだ」

洋介は立ち上がり答える。


「ああ!知ってます。たしか、元アカデミアのマルト主任研究員が王都で公開実験したアレでしょ!」

オルファンが手をポンと叩き、思い出したように言った。

「マルト主任研究員?」


「はい。化け学の権威で、色々な物を発明して、すごい勢いで主任研究員まで上り詰めた人です。ただ…」

オルファンは困ったように答える。


「ただ?」


「主に兵器の研究開発が得意だったんですけど、かなり際どい研究をしてて、罪人を使った人体実験までしていました」

オルファンは答える。


「狂気の科学者という事か…ブランシュタイナーにはうってつけだな」

ルフトが呟いた。


「その公開実験の時、私も見ていたんですが、まさしく、金属の筒でバーン!という音と共に、何か飛んで行って、木の板に穴が開いたんです。驚きました。ただ、最後の人が火薬の分量を間違えて金属の筒が吹っ飛んだんです。それで、守備隊の何人かに死傷者が出ました」

オルファンが悲しそうな顔で言う。


「それで?」


「その責任を取らされて、マルト主任研究員はアカデミアを辞めさせられたらしいです。もともと、過激な思想で疎まれてましたから、丁度いい厄介払いができたらしいですよ、教授からの噂でしかないですが」

オルファンは苦笑いを浮かべて語った。


「その科学者がブランシュタイナー侯爵領に流れ着いて兵器開発をしていると…大いに可能性はありますね」

ミルトも立ち直り、語る。


「オルファン。その火薬の原料とか知ってる?」

洋介は手をあげて質問する。


「火薬ですか?たしか…火山とか、トイレとかから取れるって言ってました。ホントかどうかは知りませんけど」

オルファンが『うーん』と上を見つめて、考えながら答えた。


「間違いないね。煙がすごかっただろ?」

洋介は不敵な笑いを浮かべながら答える。


「はい!音が鳴ったら、すっごい煙が出てました。それが何か?」


「ヨウスケさん。何か知ってるのですか?」

ルミナが答える。


「ああ。それは、黒色火薬って言って、火山の硫黄とか、し尿が化学変化起こしてできた硝石を混ぜて作られる火薬だよ。すっごく煙が出るんだよ」

洋介は説明した。


洋介の質問には別の意図があったが、皆は気付かなかった。


「とりあえず、見に行ってみたらどうですか?常備軍の事も考えないといけませんし」

グルンが立ち上がり答える。


アレキサンドの動きに警戒感を持ったルミナは、ブルト領初の1500人の常備軍を整備して、砦を急造し、領境付近の防備にあたらせていた。


「そうですね。場合によっては常備軍の拡張も視野に入れて考えないといけない事ですから、明日の朝から偵察しましょう。偵察には、私とヨウスケさんとルフトとグルンとオルファンで行きます。残りは待機でお願いします。なにか質問は?」

ルミナは言った。


「あ!ちょっと関係ない話ですけど、偵察の間、ミルトを学校の臨時責任者ってことで学校に派遣したいのですが良いですか?」

洋介は手をあげて答えた。


「なぜ私なのです?」

突然振られたミルトは不貞腐れながら言った。


「明日は数学の授業があるからね。僕も、オルファンも居ないから、いざというとき数学に長けた人が居た方が心強いからね」

洋介は当然の様に言った。


「いやです!」

ミルトははっきりと言った。


「ダメです!」

ルミナがはっきりと言った。


「何故です?」

ミルトは怪訝な顔で言う。


「ヨウスケさんのいう事に合理性があるからです。それでも、嫌というなら、領主命令で行きなさい」

ルミナはミルトを指さして堂々と言った。


「酷い!」

ミルトは驚き叫んだ。


「ミルト…無駄な足掻きはよせ。そんな根性だから好いた者に相手をされないのだ」

グルンは静かに言った。


「はいはい…わかりましたよ。領主命令、領主命令」

ミルトは諦めて返事をした。その姿は肘を机につき、明らかに不貞腐れていた。


「では、明朝偵察に行ってきます。他の方々も万事準備だけはよろしくお願いします。何か、質問は?」

ルミナは投げかける。


無言の時が過ぎた。


「では、以上で終わります。今後ともよろしくお願いします」

ルミナは立ちあがり、一礼した。


「俺は認めないぞー!」

会議が終了すると、すぐにミルトは叫びながら部屋を出て行った。


ルフトはその姿に、口を大きく開けて固まってしまった。


洋介はルフトの肩を叩いた。

「若気の至りですよ。僕は気にしてませんから」

苦笑いを浮かべて語った。


「ヨウスケさん…愚弟が失礼をしました。なにとぞ、平にお許しを」

立ち直ったルフトさんは立ち上がり、深々と謝罪した。


「ルフトさんが謝る事ではないです。本当に気にしないで下さい」

洋介はルフトの肩を持ち起こしてあげた。


「本当に愚かだな。最近の若い奴は。しかし、ヨウスケさん。おめでとうございます。これで、ブルト領は安泰です」

グルンはぶつぶつと苦言を呟いたあと、洋介に祝辞を述べた。


「ありがとうございます。これからも微力ながら支えていければと思っています」

洋介はグルンに深々と礼をした。


ルミナの元にはミリムとオルファンとノイアが駆けより、祝福を言った。

「…ありがとう!本当にありがとう!」

ルミナは涙を流して喜んでいた。


その姿を見て洋介は嬉しかった。




領境付近のブランシュタイナー侯爵の砦。

そこは、この世界でべトンと呼ばれるコンクリートで作られた最新式の要塞だった。

石の間に継ぎ目は無く、厚さもあり難攻不落の雰囲気を醸し出していた。


武装も、窓という窓にマルトが開発した最新式の鉄玉てつたまと呼ばれる銃を150門配置した。

レオパルト対策に、口径を大きくした鉄玉を50門上空にも配置した。これは、前世でいう大砲である。


一番高い所に指令所が設けられており、窓から要塞全体が見渡せた。


そこに、アレキサンドが居た。

窓からブルト領の簡易的な関所兼砦を見ている。


ブルト領の砦は、ブランシュタイナー側から見ればチャチな物で平屋造りの木造砦だった。

兵士も千人ぐらいしか確認できない。

ブルト領にしてみれば最大級の備えだが、ブランシュタイナーにしてみれば鼻で笑う程度の物だった。


現に、アレキサンドはニヤニヤしながら眺めている。

アレキサンドの後ろには、リッチと一人の武骨な将校らしき男が居た。

将校は、ルフトより大柄で190㎝ぐらいある。

肩幅も広く、腹も出ていた。その体型は大きな樽の様だった。

顔は小さく、黒い髪や髭は無造作に伸び放題で、胸のあたりまで伸びていた。

しかし、目は虚ろで血走っており、何事かうわごとでブツブツ言っている。


「ブルト伯爵は来るかな?リッチよ」

アレキサンドは木造の砦を見ながら呟いた。


「必ず来ます。これほどの要塞を前にして来ないようでは領主失格ですね」

リッチは饒舌に語った。


「その男はうまかったか?」

アレキサンドはニヤニヤしながら男を見る。


「ええ。十分に油がのって美味しゅうございました。お腹の中にはマルト特製のお弁当も入れてゾンビ化しております。本当に閣下も人が悪い」

リッチは顎をカタカタ鳴らして嗤う。


「ふん!使えるものは死体も使う。それが俺の流儀だ」

アレキサンドははっきり言った。


「こやつは閣下に殺されたではありませんか?死体ではありませんでしたよ?」

リッチはおかしそうに言った。


「馬鹿みたいに挑戦してきたから屠ったまでだ。俺に挑戦した時点で、こいつは死んだと同じだ」

アレキサンドはニヤニヤしながら言った。



「しかし、楽しみだ。どんな顔をするかなぁ?そのまま、攻めてきてくれれば楽なんだが、そうはいくまい。なかなか頭が良いからな。末娘は」

アレキサンドは外を眺めながら呟いた。

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