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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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獣人襲撃事件

洋介は悩んでいる。

今まで、知識は平和利用の範疇で教えてきたが、これからはそうもいかなくなるだろう。

ブランシュタイナー侯爵との今後を考えれば、戦力の増強は必要だ。


間違っても、洋介は人を殺したいわけでは無い。

むしろ、話し合いで解決できるならそうするべきだと思っている。


しかし、相手は狂人のアレキサンドだ。

平気な顔をして関係ない人の首を刎ねる狂人だ。


転ばぬ先の杖はぜひ必要だ。


ダイナマイトを発明したノーベルも同じように悩んだんだろうか?



ルールント郊外でオルファンと洋介は1つの工場計画を打ち上げた。

ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成工場の建設だ。

洋介は、原理は知っているが、触媒に使う合金の生成や、高温高圧に耐えれる素材の生成に疎い。

そこで、錬金学の長けたオルファンを連れてきて、議論しながら進めている。

水素はコークス作成の副産物であるガスを使う。

後は、合金の開発だ。

オルファンには申し訳ないがルールントで合金開発を行ってもらうことにした。

製造工程や、詳しい設計書はオルファンに預けて現場を任すことにした。



細々としたことをガミルさんにお願いして、洋介はエルンに戻る。

エルンに戻ると、慌ただしく。ルフトが洋介の元にやってきた。


「ヨウスケさん!大変です。北の大森林に多数の獣人の群れが出ました!」


「獣人?」


「大森林の奥に集落があるのですが、人嫌いで滅多な事では出てこないはずなんです。ですが、現在カミント村付近の集落を襲い、立て籠もりました。盛んに『領主を出せ!』と言っています」


「なぜ急に?死傷者は?」


「理由は分かりません。死傷者は、幸いなことに死亡者は居ません。負傷者が35名でカミント村に退避しました。それで、ルミナ様が軍勢を引き連れて出陣されました」


「わかりました。急いでいきましょう!準備をして、すぐ行きます!」


「私はルミナ様に報告するため、すぐ行きます。本陣で落ち合いましょう」


「よろしくお願いします!」

洋介は急いで屋敷に戻った。


すぐに準備をしてレオパルトに乗り込み、カミント村へ発った。


「シャドウ。どう思う?やっぱりアレキサンドかな?」

レオパルトの騎乗で洋介は盾になったシャドウに聞く。


「わかりませんが、注意した方が良いかもしれませんねぇ。罠の様な気がします」


「そうだよね。でも獣人か…話し合いになればいいけど。はぁ~」

洋介はため息をついた。



カミント村の約3キロ西側に問題の集落があった。遠目で見ても人がうじゃうじゃいるのが分かる。

それを確認して、中間地点に集まっていた、ルミナの軍勢の近くに降りた。


「ヨウスケさん。わざわざすいません」

ルミナは先の戦と同じように白いフルプレートの鎧を着ていた。


「獣人はなぜ急に出てきたか、わかりましたか?」


「いま、斥候を出して、調べています。また、ミルトを交渉人にして村まで行かせてます」

ルミナがそう言い終わると同時に斥候が近くに来た。


「敵、獣人集団は、数約2000。武具は軽装、武器はこん棒や錆びた剣、大多数が家の外にいる模様。首領は中央広場で略奪した食料を食事中。ミルトさんが交渉を持ちかけるも反応なし。人質12名。全員中央広場で縛られています。以上報告終わり」

斥候は敬礼をする。


「ありがとう。しかし、何なんでしょう?来いと言われたから来たのに、無視するなんて!」

ルミナは頬を膨らませて怒る


「食事に夢中なんじゃないの?僕がレオパルトで脅かして来ようか?」


「う~ん。ミルトの帰還を待ちましょう。何かしらアクションがあるかも」

ルミナは悩みながら言った。


結局ミルトの交渉に獣人は無視を続け、30フルでミルト達は戻ってきた。


「本当に良く分かりません。ただ、外から眺めていると、盛んに略奪した肉を食べてます。よほどお腹がすいてると見えますね」

ミルトは腕を組み、眉をしかめ、少し怒りながら言った。


「森に何か異変が起こっているのかな?」

ミリムが腕を組み『むー』と唸りながら答える。


「やはり直接聞くしかありませんなぁ」

グルンがため息をつきながら答えた。


「私が魔法で花火をあげましょうか?そうすれば気づくでしょう?」

ノイアが手をあげて答えた。


「そうですね。ノイアが魔法で花火をあげつつ、私と、ヨウスケさんとグルンで交渉に出向きましょう。安全の為レオパルトは上空で待機してもらって、残りはこの場で臨戦待機。私たちが鏑矢を打ったら進軍開始。それ以外は交渉中ということで」

ルミナははっきりと言った。


「「「「「「はっ!」」」」」」


レオパルトが飛び立ち、上空で円周軌道を取る。

それを確認して、ルミナと、洋介とグルンが村に近づく。


村の近くまで来ると後ろから、ノイアの魔法が飛んだ。

魔法は村の上空で四散し、ドーン!と言う大きな音が出た。


「おーーい!ブルト伯爵が交渉に来たーー!出てこーーい!」

グルンが声を張り上げて叫ぶ。


しばらくすると、5人の若い男女の獣人と、3人の中年の様な獣人が村から現れた。


『ほんとにケモミミっ娘だ。すげー。尻尾もまるで犬みたいだ。八重歯も見えて可愛い~』

洋介は目を見開き驚く。


獣人は洋介の知識通りの姿をしていた。

人間の姿で、頭に犬の様な耳があり、腕の一部や頭の後ろが毛深く、お尻には犬の様な尻尾が生えていて、パタパタと振っている。

服装は軽装で皮の胸当てはしているが、大部分は色々なところが破けている普通の服を着ていた。

手にはこん棒や、奪い取ったであろう錆びた剣を持っていた。

顔立ちは全員端正で、身長も高かった。


そして、代表であろう一番大きな中年の獣人が前に出て叫んだ。


「お前が領主か!?」

獣人はグルンを指さし叫んだ。

口元を大きく開けて鋭い牙が見える。


グルンは鋭い目つきで獣人を見据える。

「違う!まずはお前の名前を教えたらどうだ?それとも獣人には礼節も無いのか?」

グルンは黒いオーラの様な殺気を放ち、皮肉を込めて言い放つ。


その言葉に若い獣人が唸り声をあげて襲い掛かろうとする。

「ガアァァオォォ!」

その瞬間、上空からレオパルトの大きな鳴き声が響く。

獣人たちは全員上を見上げ驚いた。


「ドラゴン!神々の王が味方という事なのか!!」

若い獣人は腰を抜かし、倒れた。


「今はこちらが聞いておる!答えよ!」

グルンは叫び、畳み掛けた。


「私は、ルック族のおさ、パロロ。隣はミミ族のおさリリ、隣がモモ族のおさムム。領主と話をさせて欲しい」

パロロは残り二人の中年獣人の紹介をして、話す。


「こちらの女性が、この地を治めているブルト伯爵だ」

グルンがルミナを紹介して、一礼をする。


「ルミナ・ウルム・ブルトです。あなたたちは私が治めている村を襲撃しました。人質まで取って、何をするためにここまで来たのですか?」

ルミナが厳しい口調で言った。


「私たちは人間に襲われた!5部族あるうちの2部族。ラール族とホホ族が全滅した。人間が憎い!お前がやったのか?」

パロロは唸り声をあげて、叫ぶ。


「違う。私たちは、この20年大森林の奥には入っていない。どのような人間が襲ったのか?」

ルミナも負けじと強い口調で語る。


「恐ろしい人間だ。死霊の軍隊を操り、襲撃してきた。そして、各部族に降伏しろと言ってきた」

パロロは叫ぶ。


「はぁ~、間違いなく、アレキサンドだね」

洋介は呆れた。


「貴方たちを襲ったのは隣の領主である、ブランシュタイナー侯爵だ。私ではない」

ルミナははっきりと言った。


「すまなかった。我々は早とちりしたようだ。ではさらば」

獣人は一礼し、去ろうとする。


「待って!!これからどうするの!!」

ルミナは慌てて、呼びとめる。


「決まっている。ブランシュタイナーとやらを殺しに行く」

パロロははっきりと言った。


「おぬしたちはブルト伯爵の民を襲った。その賠償が済んでおらぬぞ」

グルンははっきりと言った。


「それは、すまなかった。どのように詫びれば許す?」

パロロは振り向き、ルミナを見て言った。


ルミナは少し考え。パロロを見つめて言った。

「私たちもブランシュタイナー侯爵と争っている。いわば同志。私たちと共に戦ってほしい」


「わかった。しかし、同志の村を襲ったとなると神々に申し訳が立たない。生贄を出す。それで許してほしい」

パロロが言った。


「「生贄!」」

ルミナと洋介が驚く。


「ギギ!ララ!こっちへ来なさい」

パロロはそう叫ぶと、二人の若い獣人の男女が来た。


「男がギギ。女がララ。この二人を生贄に捧げる。この二人は私の息子と娘だ」

二人の若い獣人はルミナの前に跪いた。


「生贄って…どうすれば?」

ルミナは困惑する。


「好きにしていい。この場で首を刎ねてもいい」

パロロは静かに言った。


よく見ると二人の獣人は小刻みに震えている。


「私は、殺生は好まない。二人は私のお供として仕えよ。それでよろしいか?」

ルミナは強い口調で叫ぶ。


「結構だ。では、どうすればいい?すぐに攻め入るか?」

パロロはルミナに聞く。


「ブランシュタイナー侯爵は強大な力を持っている。それでは無駄死にだ!」

グルンは強い口調で言う。


「我々は死を恐れない!一人でも多く敵を殺し、神々への貢物とする!」

パロロは唸り声をあげて語る。


「今は、お互いに力を蓄えるときです。攻め入る時はこちらから連絡します。それまで、貴方たちには北の大森林を守っていただきたい」

ルミナはパロロを見つめ、はっきり言った。


「そうか…早くラール族とホホ族の仇を取りたいが、仕方ない。我々3部族はブルトに協力する。大森林を守る。それでいいか、リリ?ムム?」


「「異存はない」」

二人の長はパロロを見て言った。


「わかった。では、何かあれば連絡する。さらば」

パロロはそういうと立てこもっていた村に帰った。


そして、地響きをあげながら森の中へ帰って行った。


「では、ギギ。ララ。私についてきなさい。」

ルミナはそういうと二人は立ち上がり、ルミナについて行った。


そうして、獣人襲撃事件が終わった。



「いやーヤバかったっす!チョー怖かったっす!マジヤバって感じ!」

獣人ララの口調はこんな感じだ。

ルミナの屋敷に戻ると、緊張の糸が途切れたのか、ララはまくしたてる様に喋り出した。


ララは、スレンダーな獣人で身長が170㎝ぐらい。顔立ちは目がはっきりした二重で、愛嬌のある顔つきをしていた。

赤い髪を腰まで無造作に伸ばしていて、頭の耳はピンと立ち。尻尾も赤くパタパタと揺らしていた。


「ララ!貴様は少し口を閉じろ。ご主人様の前だぞ」

ギギの口調は対照的で知的な感じだ。

常にかしずき、ルミナの命令を待っているその姿は、まるで、上野駅で待っている忠犬ハチ公みたいな雰囲気を醸し出していた。


ギギは背が180㎝近いが比較的痩せていて、モデルの様な体系をしていた。赤い髪も肩までしか伸びておらず、尻尾もだらんとしていた。

顔立ちは目が二重で鋭く、端正な顔立ちでカッコ良かった。しかし、兄妹なので、どことなくララと似て愛嬌のある顔つきをしていた。

そして、耳はピンと立っていたが、常に周りを警戒しているように動かしていた。


「しかし、兄貴~。あの凄い殺気のおっさんに首を刎ねられるんじゃないかってヒヤヒヤだったんっすよ!後ろに下がれば親父に殺されそうだし、逃げればドラゴンに殺されそうだし、死にまくりって感じ!」

大げさなジェスチャーでララは喋る。


「ご主人様のお供に失礼だ。馬鹿者!」

ギギは静かに立って、ララの頭に拳を放つ。

ゴン!と、凄く痛そうな音が部屋に響いた。


「ぎゃーーー!痛いっす!超痛いっす!ご主人様!頭撫でて欲しいっす!」

部屋をドタバタ走り回った挙句、ルミナの元に走り込み、膝枕をしてもらった。

ルミナはそんなララの頭を優しく撫でた。


「あらあら。大きなタンコブ。これは痛いわね~」

ルミナは笑いを堪えつつ、優しく撫でた。


「はぁ~、ご主人様、超優しいっす。至福っす」

ララは目を閉じ、ルミナに身を委ねる。

その姿は完全にデカい犬だった。


「な!貴様!!なんて羨ましい事を!!ご主人様。私にも…ご慈悲を」

ギギもルミナの前に行き、かしずく。


「はいはい。二人ともケンカしちゃダメよ!」

ルミナはギギの頭も撫でた。


「なんたる至福…ご主人様に一生の忠義を捧げます」

ギギは涙を流しながら語った。


「あ!私も誓うっす!ご主人様サイコー!」

ララも同意した。


「ララ!貴様は~!」

ギギの目に怒りがにじむ。


「こら!怒らないの!」

ルミナはたしなめるように言った。


「は!」

ギギはすぐに怒りを収めた。



「何のコントだ?」

洋介はその光景を見ながら呆れていた。

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