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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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蒸気機関車、発進!

教科書が出来上がる少し前。

ブルト領に重大出来事が起きた。

いや、ブルト領のみならず、この後世世界に革命的な事が起きた。


ルールント-エルン間に鉄道網が敷かれたのだ。


当初ガミルの予想では、半年は掛かるという話であったが、洋介が教えた、ブロック工法を十二分に利用して工期の大幅な短縮が出来た。


本当は高架にして、専用軌道を敷きたかったが、コンクリートの生成に難があり諦めた。

ルールント-エルン間を30フルで結ぶ単線鉄道なので、渋滞などが起きたら高架などの対策を考えることにする。


「これが、噂の蒸気機関車ですか!なんというか…武骨な感じですね」

ルミナが1番列車に乗るために、ルールントの駅ではじめて蒸気機関車を見る。

その顔は驚きと期待に満ち溢れていた。


1番列車は試作品と違い、工作精度を上げて出力が格段に上がっている。

その為、風防や車輪カバーなど様々な装備を付けていた。

全てリベットで留められている為、ごつごつとしていて武骨な面持ちだ。


車輪の横から蒸気が出て、プシュー!と盛大な音が鳴る。

「うわ!びっくりした!」

機関車を眺めていたミルトが驚く。


本日の一番列車に乗り込むため、ブルト領の主要メンバーである全てがルールントに集まった。

もちろん、オルファンやミカ、イリ、ロロ、ミリも一緒だ。

子供たちは新しい乗り物に興味津々で、さっきからキャッキャと駅を走り回っている。


「熱機関の応用でこのような物が出来てしまうんですね…興味深い」

オルファンが動輪部分を見つめながら考えている。


「さあ!そろそろ夜明けよ!1時課の鐘と共に出発よ!」

ガミルさんが運転席で叫ぶ。


各駅には時計を準備して、時刻表を張り出してある。

とりあえず、単線の往復運転なので3時間に1本の割合で出すことにした。

1日2往復の運航を予定している。


ポー!と汽笛が鳴る。

その合図で、駅に居たブルト領の主要メンバー全員が客車に乗り込む。


ポーポー!と汽笛が二度鳴る。

発射の合図だ。


「おーーー!!動き出したー!」

ミカとイリとロロとミリが窓を外を見ながら叫んだ。


ガタンと振動が伝わり、動輪の回る金属が擦れる音がする。

やがて、シュッ!シュッ!と規則正しい蒸気の音がだんだんと早くなる。


「景色を見ながら飲むお酒は乙な物ねぇ」

「うむ。馬車とは違う、何か旅情的な物を感じる。面白い」

ミリムとグルンはもうグラスを傾け、酒を酌み交わしている。


「モルト兄さんだったら喜ぶだろうなぁ。あの人は旅が好きだったから」

「そうだな」

ミルトとルフトが物思いにふけながら窓の外の景色を見る。


「すごーい!まるで部屋が動いてるようですわ!」

ルミナが興奮する。

「どう?楽しい?」

洋介は微笑ましく楽しそうなルミナを見る。

「とっても楽しいです!!ヨウスケさんは本当に凄いです!このブルト領がどんどん変わっていく!素敵です!」

ルミナはキラキラした目で洋介を見つめる。


窓の外の景色が、徐々に変わり、町の景色から長閑な田園風景に変わって行った。


外から入ってくる風がすごく心地いい。


今後、鉄道はエルンからカミント村を結ぶ予定で工事の真っ最中だ。

複線化の工事も並行して行い、ブルト領の輸送能力は大幅に増える予定だ。


カミント村の製紙工場計画も、順調に進み、今月終わりには第1期工事が終わる。

現在、月産最大3万枚製造できる能力があるが、工事後は5万枚まで増える予定だ。

最終的には10万枚まで増産する予定だ。


しかし、それでも生産能力が足りない。


いま、王都周辺では空前の手紙ブームと出版ブームが起こっており、紙が飛ぶように売れているのだ。

安価な紙が出回ることで、新たな需要が掘り起こされたのだ。


紙は今では、ブルト領の稼ぎ頭になっていた。


ここ数ヶ月でカミント村への移住者が非常に増えた。

販売される紙の名前が『カミント村の紙』という販売名で売り出している為、職を求めて領外からも人が集まっているのだ。

ブランド化の成功と共にカミント村は嬉しい悲鳴を上げている。


今では、ルールントに次ぐブルト領第3の都市に成長していた。

人口は1万人を超えて、全住民が紙の製造に関わっていた。



楽しい旅もすぐに終わりを告げる。

1番列車がエルンに着いたのだ。


ブルト領の都であるエルンも、新たな移住者が増えた。

中心になっているのだが元ワルミド男爵領の住民たち。

ワルミドの娘がブルト伯爵の傘下に入ったという情報を聞きつけ、領地を捨てて移住してきたのだ。

他にも、ブランシュタイナー侯爵領で不当な扱いを受けていた、併合された領民たちも加わり、人口が急増していた。

ルミナやルフト達は戸籍の作成などで大忙しだった。

また、ブランシュタイナー侯爵の迫害を受けてきた同志ということで、ルミナは耕作地を与え、作物が出来るまでの支度金も準備し、彼らを受け入れた。

支度金の原資は、もちろん王様からの褒美で、485枚残っていた金貨が、一気に250枚まで減った。

その分効果は絶大で、ルミナが街を歩けば、神の様に崇められて人だかりができるようになっていた。


エルンの人口も、戦前の状態を大きく超えて30万人に迫ろうとしていた。

エルンに着くと、それぞれが仕事に戻る。


ルミナの屋敷に戻ると、玄関前で人が立っていた。

ローブを全身すっぽりとかぶっている人は、木でできた杖を持ち、こちらを振り向く。


「ヴェルナ様!よくぞ御無事で!」

ローブの人はミリムを見て叫んだ。


ローブの人はフードを外してミリムに抱き着く。

その人は女性であった。

真っ赤な髪をベリーショートにバッサリと切って、襟足を少しだけ伸ばして小さく三つ編みにしている。顔立ちは端正だが、目がきつく、一目見て勝気な印象を持った。

身長は150㎝ぐらいで低く、ローブで隠れているが体つきも幼い。


「ノイア!生きていたのね!」

ミリムも嬉しそうに笑った。


「ミリムさん。そちらの方は?」

ルミナが聞く。


「ノイア・ジールです。ワルミド領で魔導師をしていました。ほら、ノイア。ブルト伯爵よ」

ミリムはルミナに紹介する。


ノイアはいそいで、ルミナの前に立ち、自己紹介を始める。

「ノイア・ジールです。ヴェルナ様とはお師匠様と一緒に魔法の修練をしていました。今は冒険者をしています」

ノイアが深々と礼をする。


「ルミナ・ウルム・ブルトです。よろしくお願いします」

ルミナも深々と礼をする。


「ノイアと私は同い年で、この子の師匠はワルミド領で魔導師の養成をしていました。それで、私は一緒に修練を積ませてもらいました。…あと、ノイア!今はミリム・リリーナっていう名前だからよろしく」


「わかりました。…それで、ブルト伯爵お願いがあって」

ノイアが改めてルミナを見る。


「なんでしょう?」


「私をブルト家の家臣にしてもらえないでしょうか?ヴェルナ…ミリムと一緒にワルミド領を取り戻したいんです!」


「私からもお願いします。ノイアは師匠が手塩にかけた優秀な魔導師ですからきっと役に立つはずです」

ミリムも懇願する。


「もちろんです!私たちはブランシュタイナー侯爵と戦う同志。受け入れない訳がありません」

ルミナは快諾する。


「ありがとうございます!」

ノイアが深々と礼をする。


「良ければ、しばらくは私の屋敷に泊まってください。魔導師部隊を新設してその指揮を執ってもらえれば助かります。あと、できれば、魔導師の卵たちを育ててもらえませんか?」

ルミナがにっこりとほほ笑む。


「わかりました。お任せください!」

ノイアが胸を叩き得意げに言う。



「シャドウ。あの子の魔力はどんな感じ?」

3人の会話をよそに、洋介がシャドウに聞く。


「ほほ~、結構な物ですよ。まあ、イリやロロが成長すれば大したことありませんが。それでも今まで見た中でも、いちばん魔力総量が多いですね」

シャドウは仮面の目を広げたり、狭めたりしながら答える。


「そうか。イリやロロって才能持ってるんだな。いい子に育つといいなぁ」

洋介はまるで父親の様に腕を組み、うんうんと首を動かす。


「最初は王都から連れてくるのは、非常に反対でしたが、こうなってみると連れてきて良かったですね」

シャドウが語る。


「だろ?これも運命だよ。運命。ミカも頭が良いし、俺の目に狂いは無かったて感じだな」

洋介は腰に手を当てて、胸を張る。


「まあ、そういう事にしておきましょう。…そういえば、ご主人様。そろそろ、アレキサンドが動きだしそうだと思いませんか?」

シャドウが冷静に言う。


「え~!もうすぐで学校が開校になる重要な時期に?やめてほしいなぁ」

洋介は眉をしかめ残念がる。


「もし私がアレキサンドなら、現状のブルト領の勢いは気に食わないですね。何か事を起こすでしょう。凡人なら見過ごすでしょうが、あのアレキサンドが見過ごすことは無いと思います」

シャドウが淡々と答える。


「シャドウがそういうなら間違いないだろう。何をするかなぁ。工作員を送り込むとか」


「どうでしょう?そんなに単純ではないと思いますが…何かしらの威圧はしてくるでしょうね。私だったらもっと意表を突く方法をすると思います」


「例えば?」


「ご主人様を引き抜くとか」


「あはは!どうやって?」

洋介はおかしかった。現状で引き抜かれる要素が何もなかったからだ。


「それは、わかりませんが何かしら、情に訴えてくるかもしれませんよ。エレナさんを使ったりして」


「げ!それは恐ろしい」


「なにぶん人を殺すことに躊躇ないですからね、何でもしますよ。気を付けてください」

シャドウは恭しく一礼した。


「本音を言えば、もう少し何事もない日々を過ごさせて欲しいよね。この日常系は結構好きなんだ」


「まったくそう思います」

シャドウはため息を一息吐いて言った。


洋介は何事も無いように祈りつつ、屋敷に戻った。

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