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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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ルールントの新兵器と新たな事実

ルールントに着いて、鍛冶ギルドでガミルさんを呼ぶ。


「あ~ら、久しぶり~。お元気?マスクマンも相変わらず、す・て・き」

いつものオネエ言葉に洋介は寒気が走った。


「お久しぶりです。ガミルさん。仕事の調子はどうですか?」

洋介は寒気を抑えて、答える。


「順調!順調!やっぱり設計図がいいから最高だわ~。で、今日は何のお・ね・が・い?」

洋介は心を見透かされているようで、余計に寒気が出た。


「きょ、今日は鍋の追加注文と、蒸気機関の進行状況を見に来ました」

洋介は寒気を我慢して答える。


「あら~!ちょうど良かった!まずは試作品を見て頂戴!いま、工場で走らせるところなの」


「え!もうそんなところまで出来てるんですか?」

ガミルの言葉に洋介は驚く。まだ一ヶ月しか経っていないからだ。


「ちょっち、不格好だけどね。まあ、いらっしゃい」


「はい!よろしくお願いします」

洋介とシャドウはガミルについて行った。


町はずれの工場に向かうと、そこにはもうレールが敷設されていた。

洋介の要望通り、幅0.75モルメルトのレールが直径200モルメルトぐらいの円周で敷かれていた。

工場内からは黙々と煙が上がっている。

洋介はワクワクしていた。

『一番大変だった計器がちゃんと作動するかだよね。それさえできれば、後は単純だから大丈夫だろう』


工場の奥からポー!と汽笛が鳴る。

「おお!汽笛が鳴った!」

洋介は興奮する。


蒸気の逃げる音がシュッ!シュッ!と聞こえ、次第に早くなる。

そして、ついにその姿を現した。

まだ、風防などが付いていないが紛れもなくそれは蒸気機関車で、前世でいうD51のような武骨な感じがあった。

全身リベットでつなぎ合わせてあり、武骨さがより鮮明に映る。

溶接技術が無いため、洋介が論議し、教えた技術だ。

馬が駆けるより少し遅いがそれでも力強く走る。

規則正しいリズムで黒煙を吐き、レールの上を疾走した。


「一応、これはレール点検用で使うつもり。精度を高めた本格的な奴はあと1か月もあれば完成するわ」

ガミルは胸を張り、腰に手を当てて答える。


洋介はガミルさんの手を取り、硬い握手をする。

「ガミルさん!すごいです!本当にありがとうございます!!」

洋介は興奮を隠せなかった。


「いいのよ~。久しぶりにおとこの魂が揺さぶられたわ。あとは、ルミナちゃんに言ってレールの敷設許可を貰うだけよ」

ガミルはウィンクをして、洋介に答える。


洋介は不思議とその仕草には寒気が無かった。

オネエのガミルから男のオーラを感じていたからだ。


その後、ギルドに戻り、鍋を注文する。

今回は報酬も含めて議論し、無事に5個注文できた。

構造が単純なため1週間もあれば出来るそうだ。


そして、夜になり、再び技術論議に花が咲いた。

今度は、燃える水である石油精製技術と利用法、設置型の蒸気機関の施策の方法など、多岐に渡った。

そして、カミント村に蒸気機関式の製紙工場の第一号を作ることが決定する。


朝日が昇る。

そこに二人の男と一人の魔族が居た。

二人の男は固い握手を交わす。

「貴方の知識は恐ろしいわ。無限の知恵が湧いて出てくるもの」

「いえ、前世のおかげです。よろしくお願いします」

熱い抱擁を交わし、二人は分かれた。


「ご主人様。そういう趣味ですか?」

宿屋への帰り道シャドウが呟く。

「そんなのじゃないよ。工業人として感動を分かち合っただけさ」

洋介は不敵に笑いながら宿屋に向かった。


洋介は満足し。泥のように寝た。


翌日の昼ごろに目が覚める。

そして、いつものように『パオ』に行く。

シャドウはいつの間にか消えていた。


「本当に嫌いなんだね。まあいいや」

洋介は少し残念だが、気にせず店に入る。


「いらっしゃいませー!あっ!伯爵の使いの人!」

この間の元気っ娘がまた迎えてくれた。

「また来たよ。いつもの二人前で!」

「わっかりましたー!!」

元気っ娘は走って厨房に入った。


しばらくして、ニンニクの良い匂いが漂い、食欲がそそる。

「お待たせしましたー!いつものパオでーす!」

洋介はその言葉に、口から涎が出てくる。

「いただきます」

日本式の作法をして、一気に箸を進めた。


『うまい。やはり、この味だ』

一気にパオ一人前を胃袋に叩き込む。


『至福だ…うおォン!』

洋介はまた、関係ない事を思った。


「ご馳走様!また来るよ」

洋介は御代の革袋を置いて立つ。


「御代はよかったのに…でも毎度ありー!!」

元気っ娘が革袋受け取り、大きく手を振る。

洋介は手だけを振り、店を後にした。


後に、シャドウから二馬身ほど離れて移動する羽目になったのは言うまでもない。


次にカミント村へ向かう。

そこにはカミルとルミナとルフトが広場で色々と話していた。

洋介が近づくと、ルミナが鼻を押さえる。


「ヨウスケさん…なに食べてきたんですか?」

ルミナは変な声で質問する。


「ほら、見たことか。パオなんか食べるからです」

シャドウが得意げに言った。


「パオ?ああ、ルールントのアレですね。匂いの強烈なアレ」

ルフトさんが思い出したように叫んだ。


「俺は後悔しない。うまいは正義だ!」

洋介は空を見つめ、拳を突き上げる。


「どーでもいいですけど、ルールントの方はどうでしたか?」

ルミナは鼻を押さえたまま喋る。


「無事注文したよ。同じ鍋を5個。」


「ありがとうございます。しかも、こんなに沢山のお金を貰えるなんて。夢のようです」

カミルさんは洋介に握手をする。


「いえ。順調に話し合いが進んで良かったです。月1万枚はいけそうですか?」

「乾燥がもう少し早ければ余裕なんですけど…」

ガミルさんは少し困った顔をした。


「任せてください。ルールントで解決策を話し合ってきました」

洋介は胸を張る。


「そのような魔法があるのですか?」

カミルは驚く。


「魔法ではありません。知恵を使うのです。数日中にルールントの職人が鍋を持ってくるついでに行動を起こすでしょう」

洋介は不敵に笑う。


「何をするのですか?」

ルミナは鼻を押さえたまま聞く。


「ここを工場に作り替えるのです。機械の力を導入し、より大量に作りましょう!」


「よろしくお願いします。我々の村がどんどん発展していく。本当に夢のようです」

カミルと洋介は固い握手をした。


4人はエルンに戻る。

「ヨウスケさん。まだ臭います」

ルミナはシャドウと共に、洋介とは一馬身ほど離れて進む。


「まったく、アレを食べる気がしれない。ご主人様の味覚は間違っている」

シャドウはぶつぶつ呟いた。


「うまいは正義だよ。二人とも気にしすぎだって!」

洋介は馬上で反論した。


夕暮れに差し掛かる中、4人は足早にエルンに向かった。


屋敷に戻ると、ミルトが洋介を見て鼻を押さえる。

洋介は『こいつもか!』と思った。


夕食をとり、グルンの屋敷に向かう。


「こんばんは」

「おお、ヨウスケさん。あの子たちを見に来たんですか?」

グルンが出てきて優しい顔で話す。


「はい。どうですか?歩けましたか?」

洋介は少し心配だった。最後に見たのが寝たきりの様な状態だったからだ。


「もうすっかり、元気ですよ。どうぞ」

グルンが部屋に招き入れる。


そこは騒々しくなっていた。

3人の子供が走り回って歓声を上げていたからだ。

その中で一人、机に座って必死にスペラント語を読む女の子。

洋介は見覚えがあるような無いような不思議な感覚を覚えた。


「シャドウ。あの子見たことあるか?」

「ミカではないですか?人数的に」

「おいおい、あの時のミカは男の子だったはずだぞ!」

「確認しましたか?」

「いや、でも、服装も男の子の服装だったし、口調も僕とか言ってたし」

「それだけでは不十分ですよ。いわゆる『僕っこ』かもしれませんよ」

シャドウの言葉は的を得ていた。

そうじゃないと数が合わない。


洋介が勇気を出して読んでみた。

「ミカ!元気か!」


その声に女の子は振り返る。

そこにはたしかにミカが居た。


「ヨウスケ!おかえり!」

ミカは走ってきて抱き着く。


「お前…女の子だったの?」

「そうだけど。知らなかったの?」

ミカは不思議そうな顔をする。


「そうか。俺はてっきり、男の子だと思ってた」

洋介は正直に言った。


「まあ、あの服装と口調じゃ間違えますわな。この子も含めてみんな栄養状態が悪かったのでしょう。同年代の子より体つきが幼いです。加えて、服は捨てられてた物を見繕って着てましたからね。無理もありません」

グルンは苦笑いを浮かべて答える。

「正直、私も風呂に入れるまでは、男だと思ってましたからね。娘のお下がりが残ってて良かったですよ」


「そうですか…本当にすいません。何から何まで」

洋介は申し訳な気持ちになる。


「いいんですよ。娘が出来たみたいで結構、気に入ってるんです。ヨウスケさんのおかげで心を入れ替えて勉強に励みますから。うちの娘より優秀ですよ」

グルンはにこやかに笑う。


「そうだよ!僕!頑張る!一生懸命、勉強する!!」

ミカは洋介を見つめてニカっと笑う。

その顔は晴れやかで暗い影など無い。

王都の時とは大違いだった。


「そうだ!人間やろうと思えば何でもできる!頑張るんダー!」

「だーー!あっははは!」

洋介とミカは拳を高く振り上げて笑った。

洋介の目元には少しうれし涙が溜まっていた。


明日も朝から校舎の改装の為、グルンさんにミカ達を預けて屋敷に戻る。


洋介はベッドの中で考えていた。

「なあシャドウ。なぜ、女の子ばかり捨てられてたんだと思う?」

「この世界も特権階級を除いて、いまだに女性蔑視の雰囲気が色濃く残っています。男の子だと、兵隊など生きていける道はありますが、女性の場合はあまりありません。加えて、王都は奴隷売買禁止都市でした。必然的に口減らしで捨てられる女性が増えるのでしょう。悲しい事ですが」

シャドウが静かに語る。


「そうか。可哀想だな」


「それも、この世界に産まれた運命です。あ…そういえばご主人様に朗報です」


「なんだ?」


「たぶん3人の妹の内2人に魔力の反応があります。今の内から伸ばせばブランシュタイナーに居た魔導師なんかより、はるかに強い魔導師になるでしょう」


「本当か?そういえば、この世界の魔導師ってどういう基準で産まれるんだろう?」


「書庫の本で見かけたのですが、基本的には運だと書いてありました。竜の血を飲むと魔力を授かるとも書いてありました」


「レオパルトでもか?」


「わかりませんが可能性はありますな。今度試してみては?」


「まあ、修行とかしてみて少し様子を見てからだな。じゃあお休み」


「お休みなさいませ。いい夢を」

洋介は色々な事実を知って少し頭が混乱して疲れた。

目を瞑るとすぐに寝てしまった。

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