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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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凱旋

王都滞在最終日。

洋介は冒険者ギルドに赴いていた。

最後の仕事である、教師候補を募集する依頼をするためだ。

ルフトはブルト領に持って帰るお土産を買いに行った。

ルミナとミリムは洋介についてきた。


「しかし、冒険者ギルドでこんな依頼いいの?場違いじゃない」

洋介は思う。冒険者のイメージは魔物とかと戦うイメージしかないからだ。


「冒険者と言っても定義は広いですよ。魔物退治とか、護衛とか、時に剣の稽古相手とか魔法の稽古相手とかもあります。それ相応の教養を身に着けないと成立しない仕事もありますから、教師を依頼するには妥当なギルドだと思います」

ルミナは答える。


冒険者ギルドに着いて、受付の人に依頼を頼む。

手数料を払い、出来るだけ長期で張り出して貰うようにお願いした。

冒険者ギルドは依頼の難度と、張り出す期間で手数料が変わってくる。

難度は危険度でギルドが判定し、決定する。期間は月単位で最高2年まで設定できた。


今回の依頼は、ブルト領に住み込みで不特定多数の子供に読み書き数学と軍事教練、魔道教練を教えるという一風変わった依頼内容で、教える内容はどれか一つでも可と付け加える。

報酬は月に銀貨3枚。

教える内容が増えれば、報酬も増えると付け加えた。住居は、もちろんこちらで用意する。

ブルト領で面接し、問題なければ即採用という形を取る。

多くの人を集める必要があり、期間は1年張り出すことにした。


受付の人は怪訝な顔で依頼内容を見ていたが受理した。


その後、王都をブラブラ散策する。

主に書籍を見て回る。

参考になる本を数冊買うが1冊が恐ろしく高い。

『羊皮紙が1枚で銅貨100枚だからしょうがないか』

洋介は今後の為と思って買った。


お昼の鐘が鳴る。


「ヨウスケさ~ん。何か奢って!」

ミリムが上目づかいでお願いをする。


「ミリムさん!失礼ですよ」


「え~!だって、ブルト領で一番お金持ちだよ!ちょっとぐらい良いじゃん!」


「あれは、閣下から貰った大切な支度金です。無駄に使えません!」


「まあまあ、今日は僕の仕事に付き合って貰ったから、二人には奢るよ」


「ヨウスケさん!」


「まあまあ。たまにはいいんじゃないの?」


「も~」


「やった~♪ねえねえ、あのレストラン行こ!」

ルミナは少し怒ってるが、若干嬉しそうだった。

ミリムは全身を使って喜びを表現する。


王都最後の食事は少し値の張るレストランだった。

そこは武瑠肉のステーキ専門店で、味付けは果実のソースを使った酸味の効いた味でおいしかった。

『このソースはいけるな。今度試してみよう…というか、武瑠肉って高級品なんだ。1枚銅貨500枚ってパオ100食分じゃん!』


その後、チップで銅貨10枚支払い、合計銀貨1枚と銅貨510枚のお支払だった。

物価の違いに驚く洋介であった。


その後、パリスに戻り、荷物をまとめ、迎えの馬車に乗る。

森の城門まで来ると、そこには人だかりができていた。警備の兵がレオパルトを見学していたのだ。


「すごいドラゴンだ。大きさが3モルメルトは有るぞ!」

「鱗が綺麗だ。まるで炎のようだ」


その中をブルト領一行が荷物をまとめて通る。


「あれが新しいブルト伯爵か」

「あの後ろにいる人がサトウさんだ。ドラゴンの主人だ!」

人だかりが色々ざわつく。

洋介はあまり慣れてなくて、少し恥ずかしかった。


急いで荷物を入れて、騎乗する。

「みなさーん!危ないんで離れてくださーい!」

洋介は叫んだ。

レオパルトが翼をバサッ!と音を立てて広げる。

驚いた人だかりが離れた。

その隙をついて、レオパルトが飛び上がった。


一気に上空まで到着し、ブルト領に向けて飛んだ。

『やっぱり、目立つよなぁ。噂になんなきゃいいけど』

洋介は少し不安に思った。


その日の夕方になる前にブルト領に到着した。


「おかえりなさいませ。ブルト伯爵様」

ミルトが深々と礼をする。


「も~、いつも通りルミナでいいよ」

ルミナは頬を膨らませて抗議した。


「そうはいきません。爵位を授与されたのですから、今後はそれ相応の振る舞いを家臣一同願っております。ブルト伯爵様」

グルンも屋敷から出てきてルミナに言った。


「え~!そんな~」

ルミナは涙目で抗議したが、誰も賛同しなかった。


すぐに、荷物を片付けて、会議室に全員が集まる。

円卓に全員が座り、会議が始まった。


「これより、ブルト伯爵継承及び、王都の状況報告を行います」

ルフトが立ち上がり言った。


「この度はブルト伯爵継承おめでとうございます。ルミナお嬢様。このブルト領でミルトと共に凱旋を待ちわびておりました」

グルンが立ち上がり賛辞を言った。

会議室に一斉に拍手が巻き起こる。

ルミナは最初は戸惑っていたが、涙を浮かべ笑顔を見せた。


「皆さん!ありがとうございます。皆様の不断の努力おかげで何とかこのブルト領も安定してきました。私自身、慣れない領主という仕事を出来るのは皆様のご助力あっての物で感謝してもしきれません。また、先の戦で親族を一気に亡くし、私自身、死にかけました。その状況を救ってくださっただけでなく、現在のブルト領まで回復できたのは勇者であるヨウスケさんやシャドウさん、レオパルトさんの力が大きいと思います。改めて感謝いたします。どうか、未来永劫このブルト領で共に生活していただければと思います」

ルミナは涙を流しながらはっきりと喋る。


会議室は割れんばかりの拍手に包まれた。


洋介は思う。あの時の決断は正しかった、と。

洋介は立ち上がり、一礼する。

そうすると拍手が鳴りやんだ。


「え~、このような席に同席できたことを嬉しく思います。これから先、困難や苦難が待ち受けていると思いますが、信念をもって、ブルト領発展の為に頑張りたいと思います。僕個人の見解ですが、まずは学校を早期に立ち上げ、次代のブルト領を担う人材を育てようと思います。生徒も4人すでに入学待機し、後は開校を待つのみとなりました。皆さんの益々のご協力をお願いします」

その言葉を聞くと会場が少しざわめく。


4人?いつの間に?


そんな声があちこちから漏れた。


ルフトがその声を遮って続ける。

「では王都よりの報告に入ります」


「王都ではすでに、ブランシュタイナーの侯爵の流言が幅を利かせておりました。しかし、閣下の方は私たちの味方に付いていただけるとおっしゃられました」

ルミナが立ち上がり答える。


「それは、信用できる情報ですか?」

グルンが立ち上がり、答える。


「閣下御本人よりお聞きしました。『ブランシュタイナー侯爵の行動を許したわけではない、共に行動してほしい』と」

ルミナが答える。


「ただ、閣下本人も敵対勢力があるようで、表立っては行動できないようでした」

ルフトが答えた。


「なるほど…」


「閣下は僕に褒美として金貨500枚をいただきました。その時『この金で備えよ』と申されてたんで、この金貨を基金にして防備を備えたらどうでしょう?」

洋介が立ち上がり答える。


「それは…いいのですか?そんな大金を!」

グルンが答える。


「僕としては、教育の為にも使わせていただけたら良いです。閣下の真意はブルト領の防備の強化だと思いますので」


「でも、出来るだけ使わない方向で頑張りましょう。無駄な出費を増やすとブルト領が崩壊します。あくまで自給自足。これが原則で。もし必要なら会議を開くということでどうですか?異議のある方は?」

ルミナは決断した。


「「「「「異議なし」」」」」


「あと、報告ですが、この度ヨウスケさんのおかげで、新たな輸出品が出来ました。カミント村で生産される紙が定期的に王都に輸出されます。1枚銅貨6枚の価格で買い取ってもらえ、来月より月1万枚。週2千5百枚出荷します」


「月銅貨6万枚…銀貨60枚の儲けか…すごいな」

ミルトが唸る。


「カミント村にも労を報いねばいけません。儲けの内、6割を払うことで交渉してきます。いかがですか?異議のある方は?」


「「「「「異議なし」」」」」


「そのために王都への定期便を出します。その経費は儲けの銀貨24枚の内から出します」


「「「「「異議なし」」」」」


「以上で会議を終わりますが、何か質問は?」

ルフトはキョロキョロと見回す。


「あ!ちょっとお願いが」


「なんでしょう?ヨウスケさん」


「カミント村の紙の製造設備を増強する許可をお願いしたい。できれば今の4~5倍ぐらいは増やしたいです」


「それは何故です?」


「余力はあった方が良いと思います。あと、製紙ギルドの感触ではのちのち、枚数の増加や値下げ交渉が無いとも限りません。大量生産で原価を下げる。これは経済の常識です。後々、機械化なんかも考えてます」


「機械化?それは何ですの?」


「人の手では限界があるので機械を使って楽にしようっていう考えです。ルールントの職人がいま試作品を作っているので、後々解ります」

洋介は不敵に笑い答えた。


「わかりました。許可します」

「ありがとうございます」


「ほかに意見は?」

ルフトが見回し、言った。


無言の時が過ぎる。


「では、会議を終わります。これからもよろしくお願いします」

一同が立ち上がり、深く礼をした。


皆が会議室の外に出る。


「ヨウスケさん、生徒というのは誰なんです?」

ルミナが質問する。洋介は少し焦る。


「いや~、王都で可哀想な子供がいてね、引き取ろうと思ったんだ」

洋介は軽く答える。


「もしかして、あの盗みを働いた子供ですか?」

ルミナはジト目で洋介を見る。


「あれ?バレた?シャドウにも反対されたんだけど、どうしてもね。気になってさ」

洋介は悪びれる様子も無く答えた。


「ヨウスケさん。悪さを働く子には罰を与えないと悪人に育ちます。もう連れてきたなら我慢しますが、今後は控えてください」

ルミナは冷たい口調で答える。


「まあまあ、それを言ったら私の立場がありません。私も元咎人。この私の顔に免じて許して貰えませんか?」

グルンが横から割って入ってきた。


「グルンがそういうなら…でも、今後は相談してください!」

ルミナははっきり言った。


「グルンさん…すいません。無理ばっかり言って」

洋介は申し訳なく思う。


「いえ、ヨウスケさんの強い意志を感じました。あの子たちは大丈夫でしょう。お仕事が忙しいでしょうから、当分はうちに住まわせます。嫁さんも久しぶりの子供だから張り切って離さんのですよ。いいですか?」

グルンはにこやかに笑う。


「すみません。ご迷惑をおかけします」

洋介は頭を下げた。


「気にしないでください。学校開校、楽しみにしていますよ」

グルンはそう言い残して去って行った。


洋介は感謝しつつ、馬に乗りルールントに向かう。

『鍋を注文しなきゃなぁ。蒸気機関の試作品できてたらいいなぁ』

そんなことを思いながら馬を駆けていると、後ろからついてくるシャドウが叫んだ。

「ご主人様!もうパオは食べないで下さいよ!!」


「嫌だよ!俺はあの味が好きなんだ!」

洋介は意地悪く答えた。


「そんな~。では別々の部屋で泊まらせて貰います!別居です!」

シャドウが錯乱して変な言葉で言い返してきた。


「りょーかい、りょーかい!あはは」

洋介は馬で駆けながら手をピラピラと振りながら答えた。

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