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出会い

ルミナは混乱している。

絶体絶命だったはずなのに、どうしてこうなったのだろう。


いきなり現れたドラゴンはブランシュタイナー軍を追い払っている。

ブレスを空中で吐いたり、地上すれすれまで降下して脅したり。

恐ろしい声を出しながら近づいたり。

時には、地面や木々を強力なブレスで溶かしたりしていた。


そんな事を繰り返すのだから、いくら精強な軍隊といえども敗走するほか無い。

万の軍勢が脱兎のごとく、ちりぢりに逃げ出した。


「ガオォオォォ!!」

その声は恐ろしくルミナも逃げ出したいが、足が言うことを聞かなかった。


「いったい…どういうこと?」

半裸でルミナは上を見上げ固まっている。


あらかた、ブランシュタイナー軍が敗走したとき、ドラゴンの背から一人の人間が降って来た。


「あ~ら、よっと!」

ものすごい高さだったはずだが、造作もない高さであるかのようにスッと降り立ち、ルミナの元へ歩いてきた。


「……!!」

ルミナは恐怖で後ろに後ずさるが、まだ体が言うことを聞かない。

その姿は子供の動きのようでぎこちなかった。


「あ~、えっと。言葉は分かるかな?敵じゃないんで心配しないで」

その男は両手で小さく手を挙げる不思議なポーズをして、ぎこちない笑いを浮かべ向かってくる。


「え…と、どちら様で?」

ルミナは勇気を振り絞り答えた。


「あ!通じた!!よかった…って、何で日本語が通じるの?…え、最適化!?うそー!!」


「……ぷっ!ふふ!あはは!!」

ルミナはおかしかった。

不思議な戦士は盾と会話していたのだ。

その姿は滑稽で一人芝居のようだった。


「なんで笑って…ああ、これ?実は俺の仲魔なんだ」

そういうと、盾が変化する。

そこには背の高い華奢な執事が一人立っていた。


その変化にルミナは目を丸くしてさらに混乱する。


「ごめんごめん、えっと、僕は佐藤 洋介って言います」


ルミナは不思議な格好でドラゴンを操る人間が居る、なんていう噂も聞いたことが無い。

いま現状で分かることは、サトウ ヨウスケという変な名前だと言うことだけだ。


「えっと、ルミナ・ウルム・ブルト。一応、伯爵です」

そして握手をしながら何とか立ち上がる。

その瞬間ルミナの纏う、最後の布きれが地面に落ちた。


「あっ!」

「えっ?」


ルミナは一瞬、洋介の反応が分からなかった。

顔を赤らめて急に反対方向を向いたのだ。

そして、自分の姿を見て、全てを悟った。


「…よかったらこれでも着てよ」

洋介は自分の着ている作業服の上着を脱いで、後ろに投げる。


「あ……ありがとう」

ルミナは顔を赤らめながら上着を受け取り、着てみる。

しかし、問題が発生した。


「えっと、これはどうやってつければ…」

ルミナはファスナーの止め方で戸惑っている。


「はぁ~、やはりな…ご主人様。私が教えてもよろしいですか?」

その様子にシャドウが痺れをきらす。その声は少々苛立っていた。


「ええ?えっと、ブルトさんはいいですか?この人は一応モンスターだから気にしなければいいんだけど…」

「あ…えっと」

ルミナは迷う。やはり恥ずかしい。

しかし、その間がシャドウの逆鱗に触れる。


「おい。人間。ご主人様が不憫に思ってお貸し下さったのに、自分の無知で迷惑をかけているのだろう。恥ずかしいとか私的な理由で拒否などしないよなぁ?あと、代行とはいえ伯爵であればそれ相応の言葉くらい知っているのだろう。私たちは部下では無いのだぞ?」


「も、申し訳…ございませ…ん。どうか…教えて…くだ…さい」

ルミナはシャドウの恫喝に一気に態度を硬化させた。

蚊の鳴くような声で、言葉をひねり出すのが精一杯だった。


「ああ?聞こえんなぁ?」

シャドウが低い声で脅す。


「おい、シャドウ。言い過ぎだ。やめないか」

さすがに洋介は止めた。


「申し訳ございません。少々度が過ぎました」

そういうと、深々と洋介に向かって頭を下げる。


「仲間が失礼なこと言って申し訳ない。許してくれ」


「いえ、シャドウさんの言ってることはもっともです。本当にすみません。あと、できれば恥ずかしいので、この服を閉じて貰えませんか?」

ルミナは顔を真っ赤にしながらお願いをする。


そこで洋介は気がついてしまった。

現状のルミナを真正面から見ていることを。


ルミナは、一生懸命、前を閉じようとしてもじもじしている。上着の隙間からのぞく胸や、反則的なまでにきれいな足がくねくねと恥ずかしそうに動いている。

その姿は全裸でいるよりいやらしく。洋介のリビドーを大いに刺激した。

鼻血が出そうになるのを堪え、洋介は素早くファスナーを閉じる。


「おお!!そういう風に閉めるんですね!!すごーい!!」

ルミナは初めて見るようでかなり驚いていた。その目は輝いていた。


『そりゃそうだ。ファスナーは19世紀に発明された物だから、中世じゃ有るわけ無いよな』

洋介はそう思った。


「本当に隙間無く閉まってる!!すごーい!!」

ルミナはクルクル回って喜んでいた。

洋介は上着から出る生足に興奮していた。


「おい!その辺で冷静になったらどうだ?一応戦闘は終わったが作業があるだろう?」

シャドウの指摘は容赦ない。


『そういえば設定で他者には冷たいってあったよな。それか?』

洋介は考えていた。


「は、はい!誰か!誰かおらぬか!?」

シャドウの言葉に冷静になったルミナはあたりを見回し叫ぶ。

そして程なくして後方から一人の巨大な武将がドシドシと音を立てて走ってきた。


「お嬢様!!ご無事ですか!!……む!何やつ!まさかブランシュタイナーの!」


「そんなわけ無かろう!!人間!!いい加減にしないと殺すぞ!!」

武将の言葉を遮りシャドウが叫ぶ。場が一気に凍り付いた。


「申し訳ございません。部下の失態…お許し下さい」

「お嬢様?」

「ルフト!この方はドラゴンで私たちを救ってくれた勇者様である。いい加減気付かんか!バカ者!!」

「は!!申し訳ありません。無知とはいえ失礼しました」

「この者は家臣でルフト・ベリーゼ・オルメイヤーと言います。大変失礼をしました。」

二人して深々と頭を下げて謝る。


「いや、もういいよ。さあ、頭を上げて。仕事があるでしょう?」


「はい。ありがとうございます。」

ルミナの顔はいつの間にか凛々しい物へ変わっていた。


「ルフト!残存者を引き連れ、本陣へ戻る。生存者を再編成し敵に備えよ。あと数を報告しろ」


「は!了解しました」

そういうと、ルフトは巨体をどしどしと揺らし、下がっていった。


「サトウ様。ご足労させて申し訳ありませんが後方の本陣まで来ていただけないでしょうか?」


「ええ。いいですよ。少しお腹がすきました。食事をいただけませんか?」


「もちろんです。では、本陣まで行きましょう」

洋介たちは後方へ歩き出した。


『ご主人様。お心に直接お話しすること申し訳ありません。なにぶん秘匿することなので』

シャドウの声が頭に響く。

『なんだ?シャドウ。さっきの対応のことか?』

『はい。さすがご主人様。察しがつきましたか?』

『ああ、他人には冷たいっていう設定にしては少々度が過ぎていたからね。わざと?』

『もちろんでございます。私は執事でもありますので礼節は人並みに持ち合わせております。まあ、多少苛ついたのは本当ですが…』


『で、その真意は?まさか当てろとは言わないよな?』

『はい。これは、交渉の布石でございます。好意もよろしいですが、余り甘やかすと相手は図に乗りますので…圧倒的な強さの相手が怒っていたら怖いでしょう?』

『確かにな。その点、俺は美人と話ができて冷静ではいられなかったよ。申し訳ない。ここは日本じゃ無いんだよな。気を付けないと』

『はい。聡明なご主人様で本当に感激いたします。でも、ご主人様も適齢期の人間で有りますので、裸の女性を見ながら冷静になれというのが難しいと想像はつきます。はい。しかし、嘘は無いようですが一応用心はしませんと…女性を使った知略は古今東西多く事例がありますからね。それに今後生活するために、まずはあのブルト家を足がかりに動くことが一番動きやすいかと。何せ伯爵家らしいですからね。』

シャドウの知略の高さに改めて洋介は舌を巻く。


『そうだな。まあ、今はゆっくり食事でも御馳走になるか。まあ、あの感じから見て期待はできなさそうだけどね』

『いたしかないでしょう。でも、一番恩を着せるのには良い相手です。純朴そうですし、御しやすい』

シャドウの笑い声が聞こえてきそうだった。

『まあ、この世界がどんな世界なのか知るにはいい相手だな。だめなら三十六計逃げるにしかずだ』

『皆殺しにしてもいいんですよ?』

シャドウが恐ろしいことを言う。

『いや、俺は悟ったよ。人が死ぬところなんか見るもんじゃない』

洋介はしみじみ思う。あの可憐で気高いルミナが犯され殺されるなんて想像するだけでも寒気がする。

『わかりました。あと、何かありましたら私の名前を思えば直接回線が開きますのでお話しできます。どうぞ、お呼び下さい』

『わかった。なにかあったらよろしく頼む』

『御心のままに』

心の会話はそれで終わった。


レオパルトはいままでずっと周囲を警戒しつつ、高空を飛んでいた。

初めての空を満喫するように、その顔は若干の嬉しさをたたえていた。

※10/25大幅改稿

※11/11さらに改稿

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